[やぶちゃん注:漢方名を、逐一、附した結果、膨大な時間がかかり、容量もトンデモないものになってしまった。]
藥品(やくひん)
凡諸藥多用草故字从艸今金石木土之劑皆爲藥而
[やぶちゃん注:原本では、「今」は「グリフウィキ」の、この異体字だが、表示出来ないので「今」とした。今までは、あまり、見たことがない。]
草木根梢收採惟宜秋末春初春初則津潤始萠未𠑽
[やぶちゃん字注:「𠑽」は「充」の異体字。]
枝葉秋末則氣汁下降悉歸本根諺曰賣藥者兩眼用
藥者一眼服藥者無眼非虛語也毉不能識藥惟聽市
人市人又不辨究皆委採送之家傳習造作眞僞好惡
[やぶちゃん字注:「究」の字は、原本では、最終画の縦部分に「﹅」が交わっているが、このような異体字はない。恐らく、「究」の異体字「䆒」を誤ったものと思われる。]
並皆莫測
鍾乳醋煑令白 細辛水漬使直 黃茋𮔉蒸爲甜
當歸酒洒取潤 蜈蚣朱足令赤 古壙灰云死龍骨
以齋苨亂人參 用木通混防已 苜蓿根謂土黃耆
螵蛸膠于桑枝 藿香采茄葉襍 麝香搗茘枝核攙
[やぶちゃん字注:「攙」の原本の、この漢字は、(つくり)の上下ともに、上から、〔「ク」+「『口』の二個の結合」+「比」〕を重ねたものとなっているが、こんな漢字は存在しない。東洋文庫訳では、この字を「まぜる」と訳していることから、その意を持つ、この字に確定した。]
研石膏和輕粉 以薑黃言鬱金 嫩松梢爲肉蓯蓉
枇杷蘃代欵冬 草仁𠑽草豆蔲 松脂混騏麟竭
[やぶちゃん字注:「蘃」は「蘂」(しべ)の異体字。]
西呆代南木香 驢脚脛作虎骨 畨硝和龍腦香
或半夏煑黃爲玄胡索 或熬廣膠入蕎麵【炒黒】作阿膠
[やぶちゃん注:「麵」は「グリフウィキ」のこの異体字だが、表示出来ないので、かく、した。]
或煑雞子及鯖魚枕爲琥珀之類巧詐百般爲忌畏毒
甚致殺人歸咎用藥【本草綱目本草必讀之說拾要記之】
△按百草黒燒用鍋底墨陳倉米用三年米者雖不中不
遠以猿尾贋鹿茸以膠飴襍蜂𮔉以黃獨爲何首烏者
其用藥有何益耶
凡藥品來於中𬜻者 大君命遣識藥人于長崎悉辨正
[やぶちゃん注:「大君」の前の字空けは、尊敬のそれである。訓読では、カットした。]
之以聽交昜出於日本藥品贋僞者嚴所禁止
藿香 黃茋 白歛 白芷 白鮮皮 桑寄生
常山 辰砂 滑石 阿膠 代赭石 爐眼石
右件倭藥不佳所以禁交易
官桂 大戟 茵陳 續斷 牛黃 白丁香
熊膽 虎膽 麝香 琥珀 阿仙藥【俗云斧割】 五加皮
右件藥贋僞多有所以禁賣僞藥
熟地黃 麹半夏 神麯 乾薑
右件藥修製宜隨古法如省略者禁賣
川烏頭僞名新附子 大風子油僞名雷丸油
倭當藥僞名胡黃蓮
右件藥自今以後用本名須賣買之
重目輕粉 平戸人參 熊野小人参
右件藥性功不佳所以禁賣買
明暦四年法令詳審如之然恐詐送者嘗綿宻之擇求
者毎等閑也蓋藥店肆有言不欲價賤輒可得眞者
*
藥品(やくひん)
凡《およそ》、諸藥、多くは、草を用ふ。故に、字、「艸」に从《したがふ》。今、金・石・木・土の劑、皆、藥と爲《な》して、草木根梢《さうもくこんしやう》を收-採《をさめと》るに、惟《ただ》、秋の末《すゑ》、春の初に、宜《よろ》し。春の初めには、則《すなはち》、津(しる)[やぶちゃん注:「汁」に同じ。植物体の体液。]、潤《うるほひ》て、始《はじめ》て萠《もえ》、未だ、枝葉に𠑽(み)たらず、秋の末には、則《すなはち》、氣汁《きじる》[やぶちゃん注:全体の体液から生み出されるからこその、全体の「氣汁」なのである。]下降≪し≫、悉《ことごと》く、本《もと》≪の≫根へ歸《き》す。諺《ことわざ》に曰《いふ》、「藥を賣る者は兩眼《ふたつめ》、藥を用《もちふ》る者は一眼《ひとつめ》、藥を服する者≪は≫眼無《めな》し。」と。虛語《きよご》に非《あら》ず。毉《い》、能≪くは≫藥を識《し》らずして、惟《ただ》、市(う)る人に聽(まか)す。市る人も又、辨究《べんきゆう》せずして、皆、採-送《とりおく》るの家に委(まか)す。傳習《でんしふ》・造作《ざうさ》・眞僞・好惡(よしあし)、並《ならび》に、皆、測(はか)ること、莫《な》し[やぶちゃん注:医師寺島良安自身、自戒の意味を込めつつ、ズバリと、述べている。「和漢三才圖會」の電子化を永くやっているが、ここで初めて等身大の良安を感じ、心から尊敬した。]。
[やぶちゃん注:以下、訓読では、一項目を独立させて示し、各個に後注を附す。]
「鍾乳《しようにゆう》」は、醋《す》にて煑て、白《しろ》からしむ。
[やぶちゃん注:これは所謂、鍾乳石を指す。「地層科学研究所」公式サイト内の「地層と健康いろいろ(前編)」に、「鍾乳床(しょうにゅうしょう)」とし、『正倉院に現存する』とあり、『鍾乳石の破片であり、鉱物としては方解石(CaCO3)』(=炭酸カルシウム)『です。用途は止渇薬、利尿薬などです』とある。食酢のような弱酸の薄い溶液でも、表面を溶かすことが出来る。]
「細辛《さいしん》」は、水に漬《つけ》して、直《なほ》からしむ。
[やぶちゃん注:「細辛」は、双子葉植物綱コショウ目ウマノスズクサ(馬の鈴草)科カンアオイ(寒葵)属ウスバサイシン(薄葉細辛)Asarum sieboldii 、又は、オクエゾサイシン(奥蝦夷細辛)変種ケイリンサイシン(鶏林細辛)Asarum heterotropoides var. mandshuricum (後者は中国には分布しない)の根及び根茎を基原とするもので、漢方薬品メーカー「つむら」の公式サイト「Kampo View」の「細辛」に拠れば、『主として、胸部、横隔膜のあたりに病邪のとどまっているもの、水毒(水分の偏在)を治す』とある。]
「黃茋《わうぎ》」は、𮔉にて蒸(む)し、甜(あま)みを爲《な》≪す≫。
[やぶちゃん注:は「黄耆」「黄蓍」とも書く、双子葉植物綱マメ目マメ科ゲンゲ(紫雲英・翹揺)属キバナオウギ(黄花黄耆) Astragalus membranaceus 、及び、ゲンゲ属ナイモウオウギ(黄花黄耆:別名モウコオウギ(蒙古黄耆))Astragalus mongholicus の根から精製される漢方薬。同種は本邦の本州中部以北・北海道・中国・朝鮮半島の亜高山帯から高山帯にかけての草地・砂礫地に分布する。花期は七~八月頃に淡黄色の蝶形花を咲かせ、その根茎から製剤され、「日本薬局方」にも載る。有効成分はフラボノイド・サポニン・γ-アミノ酪酸(ギャバ・GABA)などで、利尿・血圧下降・血管拡張・発汗抑制作用を示し、強壮剤とされる。]
「當歸《たうき》」は、酒にて洒《ひた》して、潤《うるほひ》を取る。
[やぶちゃん注:知られた生薬名。被子植物門双子葉植物綱セリ目セリ科シシウド(猪独活)属トウキ Angelica acutiloba の根。]
「蜈蚣《むかで》」は、足を朱《しゆ》にして、赤《あか》からしむ。
[やぶちゃん注:博物誌は、私の「和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 蜈蚣(むかで)」を参照。漢方に就いては、「金澤 中屋彦十郎薬局」の「●百足(ひゃくそく、ムカデ)」に、『健康食品』としつつ、「神農本草經」『の下品に収載され、古来害虫の毒、悪血を去り、小児ひきつけ、蛇傷に用いられたりした』。『蜈蚣(ごこう)、天龍、百足虫と呼ばれたりしている。足の赤いムカデを良品とする』。『タイワンオオムカデ、アカズムカデなどがある。現在市場で良品とされるものは、体が長く、よく乾燥し、頭が赤く、背面は黒褐色、腹部が黄色で歩脚は脱落せず、乾いていても靭性に富み、折れがたいものとされている』。『一般には冬至から立春までに捉えたものが良品とされている』。『秋分後』十五『日以降のものは肉質が薄く、乾燥すれば腹面が黒くなり、破損しやすく、品質が劣る』。『「基源」』は『オオムカデ科』(=多足亜門唇脚(ムカデ)綱Chilopoda側気門亜綱 Pleurostigmophoraオオムカデ目 Scolopendromorpha オオムカデ科Scolopendridae『のタイワンムカデ』(タイワンオオムカデ Scolopendra morsitans のことと思われる)『およびアカズムカデ』( Scolopendra multidens )『の乾燥虫体である』。『「産地」』は『殆ど中国全土に産するが』、『主産地は浙江省、河南省、湖北省、安徽省、江蘇省などである』とある。『「成分」』は『蜂毒に似た』二『種の有毒成分が含まれる。その他ヒスタミン様物質と溶血蛋白質とである』とある。しかし、この記載では、「朱」、則ち、赤色の硫化水銀(HgS)で赤く着色しているのだから、以上の引用から見ても、以下に出る、似非物の製造法の記載と考えるべきである。]
「古壙灰《こかうばひ》」を「死龍骨《しりゆうこつ》」と云ふ。
[やぶちゃん注:ここは「偽って言う」の意。以下、この特殊な言い方は、しばしば用いられる。
「古壙灰」東洋文庫訳では、『古壙(ふるつか)の灰』とある。
「死龍骨」は「龍骨」そのものが、漢方で、古くからある文字通り、伝説上の「龍の骨」として信じられてあったものであり、大杉製薬株式会社の公式サイトの「竜骨(リュウコツ)」に拠れば、『大型ほ乳動物の化石化した骨で、主として炭酸カルシウムからなる』もので、『鎮静・収斂・止瀉作用などがあり、動悸・不眠・健忘などに用いられる。漢方処方の柴胡加竜骨牡蛎湯・桂枝加竜骨牡蛎湯に配合されている』とあり、その物の写真もあり、「竜骨(リュウコツ)採掘地、陝西省延安市」の記事が続き、『採掘直後の竜骨は水気を含んで重く、土も付着していますが、この後、村の加工場へ搬送され、水洗、天日乾燥された後に出荷されます』。『実際に輸入した品では、表面の土は殆ど除かれており、乾燥も充分。金属の沈着に依るとされる様々な色紋が確認出来ます』。『日本国内で刻加工の後、製造に供します』とある通り、★現役の漢方品なのである。私の小学生時代、歴史図鑑だったか、中国の巨大な墳墓の断面図が描かれてあり、その形に龍の絵をダブらせてあったのをはっきりと覚えている。されば、この「古壙灰」の「死龍骨」というのは、古くは、発掘する採集者も、それを売る薬肆者も、騙すつもりというよりは、確信犯的にやっていたものとも思われてくるのである。「死龍骨」というのは、私は当初、「龍骨」の偽物の後ろめたさから「死」を被せたものと思っていたが、今は、その見解を正しいとは思ってない。]。
「齋苨(せいねい)」を以《もつ》て「人參《にんじん》」と亂《みだ》し、
[やぶちゃん注:「齋苨(せいねい)」は、「維基百科」の「薺苨」にある、
キク亜綱キキョウ目キキョウ科ツリガネニンジン(釣鐘人参)属アツバソバナ(厚葉岨菜)Adenophora trachelioides
である。そこには、『中国本土の安徽省・浙江省・山東省・遼寧省・河北省・江蘇省に分布している。標高千メートルまでの高山帯の、主に丘陵地の草原や林縁に生育する。栽培は未だ行われていない』とある。当初、「園遊舎主人のブログ」の「茶花と花材の植物名その10」に、『ソバナ(キキョウ科)・・・種名』として、『齋苨=ソバナ』とされ、「生花百競」『明和五』(一七六八)『年』『に記される』とあったのだが、このソバナというのは、
ツリガネニンジン属ソバナ Adenophora remotiflora
であり、同属ではあるが、異種である。そこで、さらに調べたところ、何時もお世話になるKatou氏のサイト「三河の植物観察」の「ツリガネニンジン 釣鐘人参」のページで、氷解した。そこのメインは、よく知られる、
ツリガネニンジン属サイヨウシャジン(細葉沙参)変種ツリガネニンジン Adenophora triphylla var. japonica
であるが、後にある「ツリガネニンジン属の主な種と園芸品種」の「20」番目に、あった! 冒頭に、Adenophora trachelioides『Maxim. アツバソバナ 厚葉岨菜』とされ、『中国(安徽省、河北省、江蘇省、遼寧省、内モンゴル、山東省、浙江省)原産。中国名は荠苨 ji ni。標高』二千四百メートル『以下の山や丘の斜面、草原、森林の縁に生える。』とあるのが、それである。しかし、漢方でどのように使用される(された?)かは、検索では全く出てこないので、ここまで、である。因みに、ウィキの「ツリガネニンジン」には、『日本では沙参というとツリガネニンジンを指すが、中国ではハマボウフウ』(セリ目セリ科ハマボウフウ属ハマボウフウ Glehnia littoralis )『のことをいう』。『これを区別するため、ツリガネニンジンを南沙参、ハマボウフウを北沙参(ほくしゃじん)と呼ぶ』。『昔は朝鮮人参の偽物に用いたといわれるが、朝鮮人参とは薬効は異なり代用にはならない』とはあった。参考までに。ともかくも、識者の御教授を乞うものである。]
「木通《もくつう/あけび》」を用ひて、「防已《ばうい》」を混(ま)ぜ、
[やぶちゃん注:「木通」日中ともに、双子葉植物綱キンポウゲ目アケビ科Lardizabaloideae亜科Lardizabaleae連アケビ属アケビ Akebia quinata 。
「防已」これは、大いに問題がある。本邦では、この漢方薬の基原は、
キンポウゲ目ツヅラフジ科ツヅラフジ属オオツヅラフジ(大葛藤)Sinomenium acutum の蔓性の茎と根茎
である。当該ウィキによれば、『鎮痛作用や利尿作用などを持』ち、『有効成分としてアルカロイドのシノメニン』『などを含む。しかし、作用が強力なので、用法を間違えると』、『中枢神経麻痺などの中毒を起こす』とあるのだが、その後に、『中国では、防已をオオツヅラフジではなくウマノスズクサ科』(コショウ目ウマノスズクサ科 Aristolochiaceae)『の植物としていることがある。このウマノスズクサ科の植物の防已はアリストロキア酸という物質を含み、これが重大な腎障害を引き起こすことがある。このため、中国の健康食品や漢方薬には十分注意する必要がある』とあった。そこで、まず、「維基百科」の Sinomenium acutum 相当を見ると、標題は(以下、「臺灣正體」にしても、漢字の「已」は「己」になっているので、書き変えておいた)
『漢防已』
とあるが、本文は、
『風龍(學名:Sinomenium acutum)也稱漢防已、青風藤、青藤、大青藤、毛青藤,為防已科風龍屬下的一個種。』
で――漢方生薬関連の記載が全くなく、以上で――終わり――なのである。辛うじて、「外部連結」の『青風藤 Qing Feng Teng』『(頁面存檔備份,存於網際網路檔案館) 中藥標本資料庫 (香港浸會大學中醫藥學院)』のリンク先(これは、直後に記されてある通り、私の御用達である“Internet archive”のストックである)で、Sinomenium acutum の簡素な漢方データが見られるばかりである。
されば、「維基百科」の検索ウィンドウで「防已」(ここは「已」にしないとダメ!)を調べると、『中草藥防巳』と『關木通屬植物廣防己( Isotrema fangchi )』の二つの候補が示される。
前者は、中医学の漢方としての立項であるが、その「基原」植物には(ここでは「己」ではなく「巳」なので「已」に代え、学名を斜体にした)
『粉防已 Stephania tetrandra Moore』
とあるのである。而して、この「Stephania tetrandra」を「維基百科」で調べると(「己」を「已」に代えた)、
「廣防己」
に突き当たる。そこには、『廣防己(學名: Isotrema fangchi )又名防已、藤防已,』(表字はママ)とあり、機械翻訳を参考にすると、『ウマノスズクサ』(馬の鈴草)『科(Aristolochiaceae)の植物である。中国本土では、貴州省・雲南省・広東省・広西チワン族自治区、及び、ベトナムに分布している。標高五百~千メートルの地域に自生し、主に丘陵地の密林や低木に生育する。人工栽培は、未だ、行われていない。葉は片長楕円形から長楕円形を成し、基部は丸みを帯びているが、稀に浅い心形の基部を持つ。正面から見ると、葉の檐(ひさし)が管状部分を完全に覆い、喉部は白色である』。アリストロキア酸』(Aristolochic acids:芳香族カルボン酸の一つ)『は、もともと、中国漢方草薬として使われており、その成分であるアリストロキア酸には利尿作用があり、減量、肺の浄化、咳止め、産後の強壮剤として使われている。しかし、アリストロキア酸は腎臓への毒性があり、尿路感染症や移行上皮癌』(主に膀胱の尿路粘膜の細胞が癌化するもの)『を引き起こす可能性がある。また、百万核酸塩基当たり百五十の核酸塩基に変異を有する。アリストロキア酸の遺伝子変異能は、知られている発癌性物質の中で最も強力である。少量の摂取でも、将来の癌リスクが大幅に高まるため、中国を含む多くの国で禁止されている』とあった(因みに、日本語の当該種のウィキは存在せず、和名や漢字名を記す記事のネットには見出せなかった)。
*
以上から、この一文の「防已」は、オオツヅラフジ Sinomenium acutum ではなく、この全くの別種で、和名のない、Isotrema fangchi であることが判明した。
而して、これも、本来の生薬である「防已」の根に、「木通」の蔓性の蔓を混ぜて不法に量を増やすことを指している。]
「苜蓿《もくしゆく/うまごやし》」≪の≫根を「土黃耆《どわうぎ》」と謂《いふ》。
[やぶちゃん注:「苜蓿」は日中共に、マメ目マメ科マメ亜科ウマゴヤシ(馬肥・苜蓿)属ウマゴヤシ Medicago polymorpha 若しくは、ウマゴヤシ属 Medicago の種名。ヨーロッパ(地中海周辺)原産の牧草。本邦では、江戸時代頃、国外の荷物に挟み込む緩衝材として本邦に渡来した帰化植物である。葉の形はシロツメクサ(クローバー:マメ科シャジクソウ(車軸草)属 Trifolium 亜属 Trifoliastrum 節シロツメクサ Trifolium repens )に似ている。但し、ウマゴヤシ属は中国語で「苜蓿屬」であるが、種は「南苜蓿」である。その根は、中医学では「苜蓿根」と言うが、中文サイト「中醫世家」の「苜蓿根」のページで、別名を「土黃耆」とすることが確認出来る。その「功能主治」には、『清湿热,利尿。治黄疸,尿路结石,夜盲』とあった。]
「螵蛸」(をうふぢがふぐり[やぶちゃん注:ママ。])を桑の枝に膠(つ)け、
[やぶちゃん注:「螵蛸(をうふがふぐり)」歴史的仮名遣は「おほぢがふぐり」が正しい。小学館「日本国語大辞典」に、『(「老人の陰嚢」の意)カマキリの卵のかたまり。秋に木の枝や家の壁などに生みつけられた泡状の分泌物がかたまって黒褐色になったもの。おおじのふぐり。おおじふぐり。』とある。東洋文庫訳では、『螵蛸(おおじがふぐり[やぶちゃん注:ママ。])を桑の枝に膠(にかわ)でつける。』とある。これも、やはり、今までに出ている――贋造――である。私の「和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 桑螵蛸」を見られたい。そこで、良安は「本草綱目」を引き(そちらの訓読文を示す)、
*
「本綱」、桑螵蛸は蟷蜋の子房、桑樹〔の〕枝に生ずる者、藥に入れ用ふ。味、甘・平にして、肝腎命門の藥なり。襍樹〔(ざふき)〕の上に生ずる者を用ふること勿れ。惟だ枝を連ね、斷〔(き)〕り取る者を眞と爲す。僞は亦、膠〔(にかは)〕を以て桑の枝の上に着くるなり。村人、毎〔(つね)〕に灸焦〔(いりこが)し〕、小兒に飼〔(あたへ)〕て云く、「夜尿(よばり)を止む。」と。蓋し、能く五淋を通じ、小便を利す。又、能く遺尿・遺精を治す、と。
△按ずるに、桑螵蛸、山人、之れを取り、熱湯を灌〔(そそぎ)〕て之れを貨〔(う)〕る。藥肆(くすりや)に紙袋の中に収む。温に乘ずれば、蟷蜋の子、孚(かへ)り出ずる者も亦、有り。
*
とある通りで、私は、
*
・「襍樹〔(ざふき)〕」雑木。桑の枝のカマキリの卵塊でないと薬方としては、だめ、という辺り、拘りがあって面白い。
*
と注した。]
「藿香《かくかう》」に、茄(なす)の葉を采(とり)て、襍(ま)ぜ、
[やぶちゃん注:「藿香」は、シソ目シソ科ミズトラノオ(水虎の尾)属パチョリ(英語:patchouli)Pogostemon cablin の地上部を基原とするもの。「日本薬学会」公式サイト内の「薬学コラム」の「生薬の花」の「パチョリ」「 Pogostemon cablin (Blanco) Benth. (シソ科)」に拠れば、『漢方医学や中医学では,パチョリの地上部を生薬藿香(カッコウ)として使用し,解熱・鎮吐・健胃作用を目的に藿香正気散(かっこうしょうきさん)や香砂平胃散(こうしゃへいいさん),香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)などの処方に配合しています。成分としてはパチョリアルコールやメチルチャビコール,シンナムアルデヒド,オイゲノール等を含みます。藿香の基原植物として,パチョリ以外にシソ科のカワミドリ( Agastache rugosa (Fisch. et C.A.Mey.) Kuntze )が使用されることがあります。カワミドリに由来するものを土藿香,川藿香と呼ぶのに対し,パチョリに由来するものは広藿香と呼びますが,これは東南アジアから導入されたパチョリが中国の広州で栽培されてきたためです。中国の本草書や植物誌の藿香に関する記述の中にはパチョリについて記載したものとカワミドリについて記載したものが両方存在し,古くから基原植物が混乱していたようです。一般に市場に流通するものの多くはパチョリに由来する広藿香であり,第十八改正日本薬局方でも基原植物は Pogostemon cablin の1種のみとなっています』とある。因みに、「維基百科」のパチョリは「廣藿香」となっている。「茄(なす)」は、日中ともに、ナス目ナス科ナス属ナス Solanum melongena 。言わずもがなだが、続いて、贋造膨らましである。]
「麝香《じやかう》」に、茘枝《れいし》の核《さね》を搗《つき》て、攙《まぜ》、
[やぶちゃん注:「攙《まぜ》」には送り仮名がない(私の所収本では、潰れて、見えないので、早稲田大学図書館「古典総合データベース」の当該画像(左丁一行目最下部)を見たが、明らかになかった)の訓は、私の推定。連用形にしたのは、前後に合わせたもの。これも贋造増量。
「麝香」私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 麝(じやかう) (ジャコウジカ)」を参照されたい。
「茘枝」私の「和漢三才圖會卷第八十八 夷果類 (序)・目録・荔枝」を、どうぞ。]
「石膏」を研(をろ)し[やぶちゃん注:ママ。]て、「輕粉《けいふん》」に和(ま)ぜ、
[やぶちゃん注:「石膏」は漢方では、天然の含水硫酸カルシウムで、組成は、ほぼCaSO₄・2H₂Oである。先の「Kampo View」の「石膏」の「薬能」に拠れば、『主として激しい口渇を治す。また、うわごと、苦しみもだえるもの、体全体に熱感のあるものを治す。(薬徴)』とある。
「硏(をろ)し」「をろす」は「下ろす」で、切ったり擦ったりして「削り落とす」の意であるから、歴史的仮名遣は「おろす」でよい。
「輕粉」小学館「日本国語大辞典」に、『水銀、食塩、にがり、赤土をこね合わせ、加熱して得られた昇華物で、本質は塩化第一水銀(甘汞』(かんこう)『)』。本邦では『伊勢地方で』十三『世紀頃から製造された。駆梅、利尿、抗菌作用がある。はらや』・「伊勢おしろい」とも言う(実際に「おしろい」の原料とした。但し、そのために水銀中毒をも起こた)。やはり、増倍贋造である。]
「薑黃《きやうわう》」を以《もつて》、「鬱金《うこん》」と言《いふ》。
[やぶちゃん注:ここでは、「薑黃」と「鬱金」を異なる種として扱っているのであるが、なかなかに悩ましい。何故かと言えば、ネット上でも、また、辞書類でも、「薑黄」を「鬱金」とイコールであとする記載が、有意に見られるからである。それどころか、東洋文庫版でも、後の「巻第九十三」の「芳草類」に、「薑黄」の項が先に、次に「鬱金」の項が出現するのであるが、竹島淳夫氏は、「薑黄」の本文の「本草綱目」引用部の最初に出現する「薑黄」の部分で『薑黄(きょうおう)』の下に割注して、『(ショウガ科ウコン)』とし、次の「鬱金」の項でも、全く同様に、『「鬱金(うこん)」』の下に割注して、『(ショウガ科)』として、両項には、一切の後注もない状態で、放置プレイになっているのである。
そこで、本邦のウィキで「薑黄」を探ってみると、「キョウオウ」が存在し、そこには、漢字表記を『姜黄、薑黄』としてあるのである。而して、この「薑黃」は、
単子葉植物綱ショウガ目ショウガ科ウコン属キョウオウ Curcuma aromatica
なのである。一方、「ウコン」のウィキを見ると、漢字表記「鬱金」とあり、
ウコン属ウコン Curcuma longa
なのである。
されば、それぞれの「維基百科」を見たところが、驚くべきことに、
!★前者の「キョウオウ」相当のそれは――★「鬱金」★の標題!!!
であり、
!◎後者の「ウコン」相当のそれは――――◎「薑黃」◎の標題!!!
であり、『又稱』は『寶鼎香』とあるだけで、「鬱金」は前注と後注のリンクの二箇所を除いて、本文部分には――どこにも――ない――のである。何? 「ウコン属の部分は?」と聴かれるであろうが、
!そのウコン属の箇所には「薑黃屬」とある!
のである! さても、ここまでの確認と、記載をするだけで、昼飯を作って食った前後、実に、延べ一時間半を費やしてしまった。中国語での、この錯綜に就いては、凡そ、解説し得ない。何処かに書かれている人がいるであろうとは思うが、これ以上、私は疲弊し、調べる気にならないのである。悪しからず。
「言」言うまでもないが、これは「偽(いつは)る」の意である。]
嫩(わか)き松の梢《こづえ》を「肉蓯蓉《にくじゆよう》」と爲《なす》。
[やぶちゃん注:「肉蓯蓉」シソ目ハマウツボ(浜靫)科ホンオニク(本御肉)属ホンオニク Cistanche salsa の肉質茎を乾燥した生薬。中国内陸部から内蒙古・中央アジアの乾燥地に分布する。本邦には植生しない。当該ウィキによれば、『滋養強壮作用を有する生薬として用いられる。ニクジュヨウは黒褐色で甘い香りがする。ニクジュヨウの主な有効成分はフェニルプロパノイド配糖体やモノテルペンである』とある。多分、知らないというお方が多いだろうが、結構、それを用いたものを日本人は飲んでいる。『ニクジュヨウは、薬用酒である養命酒(養命酒製造)、遼伝来福酒(薩州濵田屋』・『プラントテクノロジー』『)、生薬配合の滋養強壮剤であるゼナ(大正製薬)、ナンパオ(田辺三菱製薬)、ユンケル黄帝ゴールド(佐藤製薬)、ユースゲンキング(エスエス製薬)などに配合されている』とあるからである。]
「枇杷《びは》」の蘃《しべ》、「欵冬《かんとう》」に代へ、
[やぶちゃん注:「枇杷」お馴染みの、双子葉植物綱バラ目バラ科ナシ亜科シャリンバイ(車輪梅)属ビワ Rhaphiolepis bibas 。「和漢三才圖會卷第八十七 山果類 枇杷」を見よ。
「欵冬」キク亜綱キク目キク科キク亜科フキ属フキ Petasites japonicus のこと。小学館「日本大百科全書」に、『雌雄異株。本州、四国、九州、沖縄、および朝鮮半島から中国にかけて分布する』。『数少ない日本原産の野菜の一つで、栽培は』十『世紀以前から始まった』とある。基原は、その花蕾を乾燥したもので、一般的に「咳」に使われる漢方薬「麦門冬湯」(ばくもんどうとう)に含まれていることで知られる。
但し、この代用にするという記載は、ネットで調べて見たが、見当たらなかった。識者の御教授を乞うものである。]
草《くさ》の仁《さね》」を「草豆蔲《さうづく》」に𠑽《あ》つ。
[やぶちゃん注:「草仁」東洋文庫訳では『そうにん』とルビするのだが、漢方生剤として見当たらず、原文漢字列を以って検索しても、本草書には見当たらないことから、「ただの何でもない、草豆蔲の種子の塊りに似た、あれこれの雑草の実を偽って使用する」の意で採った。万一、「草仁」を限定することが出来る識者がおられれば、是非、御教授を乞うものである。
「草豆蔲」サイト「伝統医薬データベース」の「草豆蔲(そうずく)」のページその他を参考にすると、基原は、
単子葉植物綱ショウガ目ショウガ科Alpinioideae亜科Alpinieae連ハナミョウガ属アルピニア・カツマダイ(和名なし)Alpiniae katsumadai の種子の塊
とある。リンク先には、「臨床応用」の項に、『芳香性健胃,駆風薬として,消化不良,胃腸の痛み,嘔吐などに応用する.』とあり、「頻用疾患」の項に、『食欲不振, 嘔吐, 下腹痛, 冷え, 悪心, 消化不良』とする。しかし、「備考」の欄に(学名部は斜体になっていないので、私が斜体化した)『Amomum globosum Lour. = Alpinia globosa Horan. とする説もあるが,このものはベトナム産で,中国では近年雲南省に分布がみられている.現在の市場品はこのものではない.しかし,古来本草の草豆蔲の基源の詳細は不明である.』とあった。従って、現行では、この良安の引用(本パート最後を参照)の「草豆蔲」の実態は――不詳――と言わざるを得ない。]
松脂《まつやに》≪を≫、「騏麟竭《きりんけつ》」に混(ま)ぜ、
[やぶちゃん注:「騏麟竭」先行する「卷第八十二 木部 香木類 麒麟竭」の、私の迂遠にして迷走的注を見られたい。現行の信頼出来る漢方記載でも、基原植物が異なる痙攣的記載になっており、最早、過去に遡って、基原植物を特定することは不可能(というより、甚だ異なった複数の対象物を基原としていた、或いは、今も、している)もののようである。]
「西呆(《せい/さい》はい)」を「南木香《なんぼくかう》」に代へ、
[やぶちゃん注:これは、何をやってもお手上げに近い。まず、躓くのは、「西呆」だ。草類の名称としては、おかしい。東洋文庫訳では、この「西呆」自体に右で『ママ』を打っているのだが、では、ママにした理由を何処にも注していない。国立国会図書館デジタルコレクションの「國譯本草綱目」第一冊の当該部(右の「七八」ページの八行目)を見ても、『西呆(せいばい)を南木香(なんちくかう)に代へ、』とあって、頭注も何も、ない。そもそも「呆」には「ホウ・ガイ(漢音)/ホ・ガイ(呉音)/ボウ・タイ(慣用音)」しかないのだから、そもそもの良安の振ったルビがおかしいのである。引用元を探そうと思っても、「西呆」が話にならず、先ず、「本草綱目」では見当たらない。
ただ、いろいろと検索を掛けている中で、ヒントらしきものが、かの「跡見群芳譜」の「外来植物譜」の「もっこう (木香)」の解説の中に見出せた気がしている。以下である。
《引用開始》
李時珍『本草綱目』木香に〔以下、{}内は嶋田〕、「木香{モッコウ}は、{木の香とはいうが}草類なり。本との名は蜜香、其の香気 蜜の如きに因む。{ところで、木本である}沈香{ジンコウ}の中に蜜香有るに縁り、遂に訛って{ジンコウを木香}と為すのみ。昔人 之{モッコウ}を靑木香と謂う。後人 馬兜鈴{ウマノスズクサ}の根を呼びて靑木香と為すに因り、乃ち此{モッコウ}を呼びて南木香・廣木香と為し、以て之を別つ。今人 又た一種の薔薇{モッコウバラ}を呼びて木香と為す。愈々真を乱せり」と。
今日の漢名を雲木香というのは、雲南で栽培されることから。廣木香は、昔インドから廣東経由で輸入したことから。
《引用終了》
即ち、時珍の時代にあっても、既に、木香はニセ物に関わらず、種を正確に断定出来ない状態にあったことを感じさせるのである。ここまでにして、解明出来るかどうかは判らぬが、後の「卷第九十三」に出る「木香」で考証してみることを約束しておく。]
驢《うさぎむま》の脚《あし》≪の≫脛《はぎ》を、「虎骨《ここつ》」に作り、
[やぶちゃん注:「驢」読みは、私の「和漢三才圖會卷第三十七 畜類 驢(うさぎむま) (ロバ)」の良安の和訓に従った。
「虎骨」私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 虎(とら) (トラ)」には、『虎骨〔(ここつ)〕【辛、微熱。】 頭及び頸骨を用ふ。色、黃なる者、佳なり【〔毒〕藥の箭〔(や)にて〕射殺すは、藥に入るるべからず。能く人を傷つくる。】初生の小兒、煎〔じて〕湯にして之れに浴すれば、惡鬼を辟(さ)く。瘡疥・驚癇を去り、溫瘧〔(うんぎやく)〕及び犬の咬(か)みたる毒を治す。枕に作すれば、惡夢に魘(をそ[やぶちゃん注:ママ。])はるゝを辟く【又、云ふ、「虎の一身〔の〕筋節〔の〕氣力〔は〕、皆、前足に出づ。故に脛骨を以つて勝れりと爲す」〔と〕。】。』とある。]
「畨硝《ばんしやう》」を、「龍腦香《りゆうなうかう》」に和(ま)ぜ、
[やぶちゃん注:「畨硝」「畨」は「蠻」であるから、「南蛮の硝石」の意。硝酸塩鉱物の一種である硝酸カリウム(KNO3)。サイト「イアトリズム」の「知っておきたい『漢方生薬』」の「硝石」のページによれば、「適応疾患および対象症状」に、『嘔吐、腹痛、下痢、手足の冷え、高熱、便秘、意識障害、筋肉の痙攣、尿路結石、排尿障害、ノドの腫れ、ノドの痛み、むくみ、皮膚化膿症、結膜炎、角膜の混濁、落ち着かないなど』とあり、漢方では立派な薬物ではある。
「龍腦香」双子葉植物綱アオイ目フタバガキ(双葉柿)科リュウノウジュ(龍脳樹)属リュウノウジュ Dryobalanops aromatica の樹幹の空隙に析出される、ボルネオール(borneol:ボルネオショウノウとも呼ばれる二環式モノテルペンで、化学式は C10H18O)を指す。先行する「卷第八十二 木部 香木類 龍腦香」を見られたい。]
或《あるい》は、「半夏《はんげ》」≪を≫煑て、黃《き》にして、「玄胡索《げんごさく》」と爲《なし》、
[やぶちゃん注:「半夏」単子葉植物綱ヤシ亜綱サトイモ目サトイモ科ハンゲ属カラスビシャク(烏柄杓)Pinellia ternata のコルク層を除いた塊茎。嘔気や嘔吐によく使われる生薬である。私の「耳囊 卷之七 咳の藥の事」も参照されたい。
「玄胡索」キンポウゲ目ケシ科ケマンソウ(華鬘草)亜科キケマン(黄華鬘)属エンゴサク(延胡索) Corydalis yanhusuo 、及び、東北延胡索 Corydalis ambigua の塊茎を基原とする漢方生薬。日本語のウィキもあるが、対象種の学名(しかも品種である)が不審なので、中文の「維基百科」の「延胡索」に基づいた。そこに異名として「玄胡索」もあるのである。そこに『中国本土の安徽省・山東省・浙江省・江蘇省・湖北省・河北省・河南省桔河市及び信陽市に分布し、主に丘陵地帯の草原で見られ、模式種の原産地は浙江省杭州』とあり、『辛味、苦味、温感を持つ様々なアルカロイドが含まれており、主に血液循環の促進・気の促進・鎮痛・鎮静・催眠効果がある』といったことが書かれてある。
言うまでもないが、やはり贋物製造である。]
或は、「廣膠《くわうかう》」を熬《い》りて、「蕎麵《きやうめん》」【炒りて黒≪くせしもの≫。】を入《いれ》、「阿膠《あけう》」に作り、
[やぶちゃん注:贋造物。
「廣膠」現代仮名遣「こうきょう」。書道具店「文房四寶 鑑璞斎」の主人であられる龍尾山人氏のブログ「断箋残墨記」の「膠の試作」の記事に、『上海墨廠の時代まで製墨に使われた「廣膠」は、すなわち黄明膠の異称であり、牛皮を原料とする膠である。』とある。東洋文庫訳では『すきにかわ』とルビする。
「蕎麵」蕎麦、或いは、蕎麦粉。後者であろう。
「阿膠」山東省東阿県で作られる上質の膠(にかわ)を指し、接合剤のほか、漢方薬などにも用いる。東洋文庫訳には割注して『(第一級のにかわ)』とある。本項は漢方薬物であるから、薬物としてのそれであろうとしておく。]
或は、雞子《けいらん》、及《および》、鯖《さば》の魚枕《うをまくら》を煑《に》て、「琥珀」と爲《する》の類《たぐひ》、巧(たく)み、詐(いつは)ること、百般《ひやくぱん》、忌畏《きい》の毒を爲《な》し、甚《はなはだし》きは、人を殺すに致り、咎《とが》を用藥に歸す【「本草綱目」・「本草必讀」の說、拾《ひろひ》要《えう》して、之《ここ》に記す。】
[やぶちゃん注:やっと、この部分を終わる。この最後は「琥珀」の贋物作りであるが、「人を殺すに致り、咎を用藥に歸す」とあることから、宝石の捏造ではなく、やはり、薬である。ウィキの「琥珀」の「薬用」に、『その他の利用法として、漢方医学で用いられることがあったという』。『南北朝時代の医学者陶弘景は、著書』「名醫別錄」『の中で、琥珀の効能について』「一に去驚定神、二に活血散淤、三に利尿通淋」『(精神を安定させ、滞る血液を流し、排尿障害を改善するとの意)と著している』。また、現在でも『ポーランドのグダンスク地方では琥珀を酒に浸し、琥珀を取り出して飲んでいる』とある。
「鯖の魚枕」東洋文庫訳では、「魚枕」に『かしらぼね』とルビする。暫く、これに従う。
「本草必讀」東洋文庫の巻末の「書名注」に、『「本草綱目必読」か。清の林起竜撰』とある。なお、別に「本草綱目類纂必讀」という同じく清の何鎮撰のものもある。この二種の本は中文でもネット上には見当たらないので、確認出来ない。]
△按ずるに、「百草の黒燒《くろやき》」に、鍋の底の墨を用ひ、「陳倉米《ちんさうべい》」を、「三年米」に用ひるは、中(《あ》た)らずと雖も、遠からず。「猿の尾」を以《もつ》て、「鹿茸《ろくじよう》」に贋(に)せ、「膠飴(ぢわうせん)」を以《もつて》、「蜂𮔉」に襍(ま)ぜ、「黃獨(けいも)」を以て、「何首烏《かしゆう》」と爲《す》るは、其《その》用藥、何の益、有らんや。
[やぶちゃん注:「陳倉米」これは、読者の大方は、読み間違える人が多いと思われるので、特に詳しく示す。後の「卷第百三」の「穀類」の筆頭にある「粳(うるのこめ)」の「陳倉米(ちんさうべい)」を、国立国会図書館デジタルコレクションの中近堂版で当該部を見られたい。そちらで訓読して示す。歴史的仮名遣の誤りはママ。一部をブラウザの不具合を考えて改行してある。
*
陳倉米(しんさうべい)
陣廩米
老米《らうまい》
火米《くわまい》
俗、云《いふ》、
「大比禰古女(をほ《ひねこめ》)」。
[やぶちゃん注:「陣廩米」は「陳廩米《ちんりんまい》」の良安の誤字。]
「本綱」曰はく、『久しく倉に入れて、陳(ふる)く、赤き者、「陳倉米」と名《なづ》く。火≪に≫蒸(む)して治成《をさめな》す者、有り、火に燒き治成≪す≫者、有り、故に「火米《くわまい》」と名く。北人《ほくじん》は、多《おほく》、粟を用ふ。南人は、多≪く≫、粳《うるち》、及《および》、秈《とうぼし》[やぶちゃん注:インディカ米の中で粘り気の少ない米を指す。「占城米(チャンパまい)」と呼ばれ、宋代に盛んに栽培された。]を用ふ。年、久《ひさし》き者は、性、凉《りやう》にして、氣《き》を下《くだ》し、煩渇《はんかつ》[やぶちゃん注:激しく口の渇く症状。]を除き、胃を調へ、洩《えい》[やぶちゃん注:下痢。]を止め、霍亂《かくらん》・大≪なる≫渇(かわき)を治す。』≪と≫。
△按ずるに、陳倉米は、十年以上の者を用ふ。疫痢・禁口痢、及《おいび》、嘔吐を止むる。薬中に入れ、用ふ。然《しかれ》ども、倉米は、四、五月の濕熱に値《あひ》て、多くは、蛀-蠹(むしい)りて、孔《あな》を穿《うが》つ。俗、「宇登(うと)」と稱す。凡そ、陳-臭(ふるくさ)き米を、「䉺《こう》」【「粠《こう》」に同じ。】と曰《いふ》。官庫に貯《たくは》へて兵粮の爲(ため)とする者は、黄柏汁《わうばくじる》に浸《ひた》して、蒸して、之≪を≫治《をさ》む。數百年を經ても亦、新《しん》なるがごとし。凡《およそ》、新米は、飯と爲《なす》≪とも≫殖(ふ)へず、其《その》味、厚美《かうび》なり。病人、之を食《くひ》て、消化、遲し。惟《ただ》、粥《かゆ》に爲《なす》に堪《たへ》たり。陳米(ひね《まい》)の飯は、多《おほく》、殖《ふへ》≪れども≫、味、淡《あは》し。病人、食《くひ》ても亦、化《くわ》し易し。
*
而して、お判り戴けるだろう、「陳倉米」は「三年」ぽっちでは、「陳倉米」ではないのである。]
凡《およそ》、藥品、中𬜻より來《きた》る者、大君《たいくん》[やぶちゃん注:ここは、徳川家将軍を指す。]、命じて、藥を識《し》る人を長崎に遣《つかは》して、悉《ことごと》く、之を、辨正《べんせい》して[やぶちゃん注:分別・検査をし。]、以《もつて》、交昜《かうえき》を聽《ちやう》し玉《たま》ふ[やぶちゃん注:「玉」は送り仮名にある。]。日本より出《いづ》る藥品、贋僞(にせ、いつは)る者、嚴しく、禁止せらる。[やぶちゃん注:ここに、東洋文庫訳では、割注で、『(次は幕府より出された禁令である。)』とある。
以下、ブラウザの不具合を考えて、一行字数を減らした。]
藿香《かくかう》 黃茋《わうし》 白歛《びやくれん》
白芷《びやくし》 白鮮皮《はくせんぴ》
桑寄生《さうきせい》 常山《じやうざん》
辰砂《しんしや》 滑石《かつせき》 阿膠《あきやう》
代赭石《たいしやせき》 爐眼石《ろがんせき》
右、件《くだん》の倭藥、佳ならず、所-以(ことゆへに[やぶちゃん注:「へ」はママ。])交易を禁ず。
[やぶちゃん注:「藿香」シソ目シソ科ミズトラノオ属パチョリ Pogostemon cablin の地上部を基原とするもの。「日本薬学会」公式サイト内の「薬学コラム」の「生薬の花」の「パチョリ」「 Pogostemon cablin (Blanco) Benth. (シソ科)」に拠れば、『漢方医学や中医学では,パチョリの地上部を生薬藿香(カッコウ)として使用し,解熱・鎮吐・健胃作用を目的に藿香正気散(かっこうしょうきさん)や香砂平胃散(こうしゃへいいさん),香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)などの処方に配合しています。成分としてはパチョリアルコールやメチルチャビコール,シンナムアルデヒド,オイゲノール等を含みます。藿香の基原植物として,パチョリ以外にシソ科のカワミドリ( Agastache rugosa (Fisch. et C.A.Mey.) Kuntze )が使用されることがあります。カワミドリに由来するものを土藿香,川藿香と呼ぶのに対し,パチョリに由来するものは広藿香と呼びますが,これは東南アジアから導入されたパチョリが中国の広州で栽培されてきたためです。中国の本草書や植物誌の藿香に関する記述の中にはパチョリについて記載したものと』、『カワミドリについて記載したものが両方存在し,古くから基原植物が混乱していたようです。一般に市場に流通するものの多くはパチョリに由来する広藿香であり,第十八改正日本薬局方でも基原植物は Pogostemon cablin の1種のみとなっています』とある。仮に「かはみどり」と読んでいるとすれば、薄荷の匂いのするシソ目シソ科カワミドリ属カワミドリAgastache rugosa がある。当該ウィキによれば、『葉や茎は漢方に用いられる』。『乾燥した葉に芳香があり、生薬名に藿香(かっこう)を当てているが、これは誤りで、日本では排香草ともいう』。『かぜ薬などの漢方薬として、茎、葉、根を乾燥させたものを用いる』。『民間では』、六~七月に、『茎の上部だけを切り取り、水洗いしたあとに吊るして陰干ししたものを、解熱薬として、また健胃薬として用いられる』とある。
「黃茋」これは、「黃芪(わうぎ)」とも書く。マメ目マメ科ゲンゲ属キバナオウギ Astragalus membranaceus の根を基原とする生薬。当該ウィキによれば、『止汗、強壮、利尿作用、血圧降下等の作用がある』とある。
「白歛」双子葉植物綱ブドウ目ブドウ科ノブドウ属カガミグサ Ampelopsis japonica の根。漢方では解熱作用があり、腫瘍・子供の癲癇・月経痛に効果があるとする。
「白芷」セリ目セリ科シシウド属ヨロイグサ(漢名:ビャクシ) Angelica dahurica の根。当該ウィキ(漢名「ビャクシ」を標題としている)によれば、『薬効成分はフロクマリン誘導体及び精油。消炎・鎮痛・排膿・肉芽形成作用がある。皮膚の痒みをとる。日本薬局方にも記載』。『血管拡張と消炎の作用から、肌を潤しむくみを取るとして、古来中国の宮廷の女性達により美容用とされていた。また鎮痛、鎮静の効果のため、五積散などの漢方処方に配合される』とある。なお、『中国産は』、『その変種のカラビャクシの根』とあった。そちらの学名は、Angelica dahurica var. pai-chi である。
「白鮮皮」ムクロジ目ミカン科ハクセン属ハクセン Dictamnus albus の根皮を基原とする生薬で、当該ウィキによれば、『唐以降の書物に見られ』、『解毒や痒み止めなどに用いられていたが、現在は』殆んど『用いられない。ヨーロッパでは、皮膚病の薬や堕胎薬として用いられていた』とある。
「桑寄生」先行する「卷第八十五 寓木類 桑寄生」を見られたい。多数の基原植物がある。そちらの注で詳細に掲げてある。
「常山」「山科植物資料館」公式サイト内の「ジョウザン」によれば、ユキノシタ科ジョウザン属ジョウザン Dichroa febrifuga の根を基原とする。そこに、『ジョウザンは中国、ヒマラヤから東南アジアにかけて広く分布する落葉低木です。和名は中国名「常山 chang shan」の音読みです。「常山アジサイ」という流通名でも知られています。かつての学名はジョウザン属』Dichroa febrifuga 『Lour.で、アジサイ属とは区別されていました。従来のアジサイ属の果実が蒴果(果実が乾燥し、熟すと袋が裂けて中の種子が飛び出すタイプの果実)であるところ、ジョウザン属の果実は液果(果肉の細胞が水分を含み液質になる果実)であることが大きな違いでした。しかし』、二〇一五『年にDe Smetらによってアジサイ科の系統関係が遺伝情報に基づいて整理され、アジサイ属に含まれることになりました』とある(他の漢方記事では、ジョウザン属の旧学名で出ているものがあるので、注意されたい)。『断面が黄色で、中国では薬用とされます。マラリアの治療に使われ、特に解熱に効果があるとされます。学名の種形容語、febrifugaも「解熱」という意味です』とあった。
「辰砂」水銀と硫黄とからなる鉱物。深紅色又は褐赤色で、塊状・粒状で産出する。水銀製造の原料、また、赤色顔料の主要材料とされる。漢方では、消炎・鎮静薬などに用いる。「丹砂」「朱砂」とも呼ぶ。
「滑石」珪酸塩鉱物の一種で、フィロケイ酸塩鉱物(Phyllosilicates)に分類される鉱物、或いは、この鉱物を主成分とする岩石の名称。世界的には「タルク(talc:英語)」のほか、「ステアタイト」(Steatite:凍石)・「ソープストーン」(Soapstone:石鹸石)・「フレンチ・チョーク」(French chalk)・「ラバ」(Lava:原義は「溶岩」。本鉱石は変成岩である)とも呼ばれる。Mg3Si4O10(OH)2。水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる鉱物で、粘土鉱物の一種(当該ウィキ他に拠った)。利尿・清熱・消炎作用を持ち、むくみ・排尿困難・膀胱炎・夏の口渇・下痢・皮膚の湿疹などに用いられる。
「阿膠」(あきょう)は、本来は、山東省東阿県で作られる上質の膠(にかわ)を指し、接合剤のほか、漢方薬などにも用いる。
「代赭石」酸化鉄(Ⅲ)(酸化第二鉄,Fe2O3)を主成分とする赤鉄鉱Hematiteの塊り。「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | タイシャセキ(代赭石)」に拠れば、『代赭石には補血,止血,収斂の効があるとされます.配合される代表的な処方として,代赭石とともに旋覆花(センプクカ,オグルマの小頭花),大棗,甘草,人参,半夏,および生姜が加えられる旋覆花代赭石湯が知られています.虚証で胃のあたりがつかえて下らない状態が慢性化したものに用いられ,多くは胃に関連する疾患(胃酸過多,胃拡張など)に応用されます.代赭石は日本薬局方に収載されておらず,また,国内年間消費量も800 kg程度と決して多くはありませんが,鉱物性生薬は植物に由来する生薬とは異なり栽培などの手段が取れない有限資源であり,将来にわたり資源を安定して供給する方法を検討する必要があります』。『代赭石は』「神農本草經」『の下品に収載されており,その後,数々の本草書に名を連ね,当然ながら日本の本草書にも散見されます』。「本草正譌」(ほんぞうせいか:山岡君山著・安永五(一七七六)年刊)の代赭石の項には』、「濃州赤坂山ニ出ルハ漢渡(かんわたり)ト同ジ」『との記載があります.濃州赤坂山とは現在の岐阜県大垣市金生山のことで,江戸時代から良質な石灰岩の産地として知られています.掘り出した石灰岩は,東海道本線支線(美濃赤坂―大垣)を経由して運びだし,セメント等に加工されているようです.一方で,古くは金生山において赤鉄鉱を産出していたことも知られています.金生山赤鉄鉱研究会によると,国内で製鉄が行われるようになったとされる6世紀以前から,金生山において製鉄が行われていたとのことです.薬用利用のきっかけが何であったにせよ,鉄の原料さえも薬として利用してしまう先人の知恵には,頭が下がる思いです.』とある。
「爐眼石」サイト「イアトリズム」の「知っておきたい『漢方生薬』」の「炉眼石」のページによれば、「基原炮製(この生薬の原材料と加工法)」に『水亜鉛土』とし、「適応疾患および対象症状」に、『眼瞼炎、翼状片、結膜炎、角膜の混濁、眼の充血、眼の痛み、慢性皮膚潰瘍、湿疹など』とあった。
以下も、ブラウザの不具合を考えて、一行字数を減らした。]
官桂《くわんけい》 大戟《たいげき》
茵陳《いんちん》 續斷《ぞくだん》
菊花《きくか》 牛黃《ごわう》
白丁香《はくちやうか》 熊膽《くまのい》
虎膽《とらのい》 麝香
琥珀
阿仙藥【俗、云ふ、「斧割《よきわり》」。】
五加皮《ごかひ》
[やぶちゃん注:「官桂」ここでは、本邦産なので、双子葉植物綱クスノキ目クスノキ科ニッケイ属ニッケイ Cinnamomum sieboldii の樹皮を指す。「卷第八十二 木部 香木類 肉桂」の本「本草綱目」引用本文に『「官桂《くわんけい》」と稱する者は、乃《すなはち》、上等≪にして≫、官に供≪する≫の「桂」なり。』以下で、詳しく書かれているので、見られたい。
「大戟」本邦では、キントラノオ目トウダイグサ科トウダイグサ属タカトウダイ(高燈台) Euphorbia lasiocaula の根を指す。但し、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 大戟(タイゲキ)」に拠れば、基原は『紅大戟はアカネ科(Rubiaceae)の Knoxia valerianoides Thorel ex Pit. の根を乾燥したもの。京大戟はトウダイグサ科(Euphorbiaceae)の Euphorbia pekinensis Rupr. の根を乾燥したもの』とあり、『イワタイゲキやセンダイタイゲキなどトウダイグサ科の植物には「タイゲキ」と名づけられた種が多くあります。これはトウダイグサ科に由来する生薬「大戟(タイゲキ)」に由来していますが、「大戟」の原植物はトウダイグサ科だけではありません。現在、中国には複数の科の植物に由来する「大戟」が流通しています。主なものに「紅大戟」と称されるアカネ科植物に由来する生薬と、「京大戟」と称されるトウダイグサ科植物に由来する生薬が挙げられます。前者は「紅芽大戟」や「紅牙大戟」などとも称されています。中華人民共和国薬典では両生薬をそれぞれ別項目として収載しています』。『大戟は』「神農本草經」『の下品に収載され』、「本草綱目」『には「その根が辛く苦く、人の咽喉を鋭く刺戟するから名付けたものだ」と記載されています。さらに『大戟は平澤に甚だ多く生える。直径で高さ二〜三尺、中が空で折れば白漿が出る。葉は細く狭く、柳葉のようで円くはない。その梢には葉が密に集って上に着く』とあります』。』(十世紀後半の宋の「日華子本草」『には「苗は甘遂に似て高く大きく、葉に白汁があり、花は黄色だ」とあります。甘遂もトウダイグサ科に由来する生薬ですが、大戟の原植物に関する記載もトウダイグサ科植物の特徴を示しています。効能面からも』「本草綱目」『に「甚だ峻烈に下痢をするもので、よく人体を傷う。弱い患者が服すれば吐血することがあるから注意を要する」と記載があります。これらの記載からも大戟の正品はトウダイグサ科植物に由来することが示唆されます。これが現在の「京大戟」に対応すると考えられます』。『他の一種の「紅大戟」は、中国南部の福建、広東、広西、雲南などで生産されています。原植物のアカネ科』シソノミグサ連シソノミグサ属『Knoxia valerianoidesは低山の斜面の草原で半日陰の場所に生育しています。多年生の草本で高さ0.3〜1.0メートル、葉は長さ2〜10センチ、幅0.5〜3.0センチで対生しています。夏に淡紫紅色の花をつけ、花冠は筒状漏斗型で長さ2.0〜3.0センチ、先端は4裂します。花後、種子を2個結実させます。秋に収穫した根は沸騰水に通したのち乾燥させます。形状はやや紡錘形で希に分枝があり、やや湾曲しています。長さは3〜10センチ、直径は0.6〜1.2センチです。外面は赤褐色を呈し、断面は周囲が赤褐色で内部は黄褐色です。質は堅く、匂いは薄く、味は甘くやや辛いとされています』とあり、さらに、『「京大戟」は中国の江蘇、湖北、山西などで生産されています。原植物の』『 Euphorbia pekinensis は道端や山の斜面、荒れ地や比較的日が当たらない湿った樹林に生育しています。多年生の草本で高さ 30〜80 センチ、全草に白色の乳液を含みます。ほぼ無柄の葉が互生して付きます。葉は長さ3〜6センチ、幅6〜312ミリで全縁、下面は白い粉で覆われています。4月から5月にかけてトウダイグサ科に特徴的である杯状の集散花序の花をつけます。雌花、雄花には花被がなく、腎臓形の包葉がつきます。6月から7月に三稜状の球形のさく果を結実させ、卵円形の種子をつけます。秋に収穫した根は洗浄後、日干し乾燥させます。形状は不揃いな長い円錐形で時々分枝があり、やや湾曲しています。長さは10〜20センチ、直径は1.5〜4.0センチです。外面は灰褐色を呈し、断面は類白色から淡黄色で繊維性を呈します。質は堅く、匂いは薄く、味はやや苦くて渋いとされています』。『「大戟」の効能に、水腫実証の腹水、浮腫、尿量減少、便秘、脈が実などの症候に甘遂、芫花、牽牛子などと使用すると記載されています。大戟は臓腑の水湿を泄し、甘遂は経隧の水湿を行かせ、うまく用いると奇効を収めることができるとされています。しかし前述のとおり「大戟」には少なくとも2種類以上の異物同名生薬が存在しています。アカネ科とトウダイグサ科のように明らかに含有成分が異なる分類群ですから、使用時は原植物に充分注意しなければなりません』とあった。
「茵陳」ネット検索では、「茵陳蒿」(いんちんこう)で掛かる。「大峰堂薬品工業株式会社」公式サイトの「生薬辞典」の「茵蔯蒿(いんちんこう)」では、基原をキク亜綱キク目キク科ヨモギ属カワラヨモギ(河原蓬・河原艾)Artemisia capillaris 『の頭花。地上部を乾燥させてから花穂と茎を分離させる』とし、「主な薬効」に『消炎、利胆、解熱、利尿作用』とある。
「續斷」「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 続断(ゾクダン)」では、「基原」として『中国産は』 Dipsacus asperoides 『C.Y Cheng et T.M.Ai(マツムシソウ科 Dipsacaceae)の根を乾燥したもの』としており、最後に『続断の原植物は未だに混乱し,明らかにはされていません。一般に,本生薬のように,薬効が生薬名となったものには異物同名品が多いようです』と記されてある。
「菊花」漢方薬品メーカー「つむら」の公式サイト「Kampo View」の「菊花」に拠れば、「基原」で、キク目キク科『シマカンギク』(島寒菊) Chrysanthemum indicum 『Linné 又はキク』 Chrysanthemum morifolium 『Ramatuelle(Compositae)の頭花』とし、「薬能」には、『眼疾患を治す。目のカスミを取り去り、洗眼にも用いる。(一本堂薬選)』とある。
「牛黃」牛の体内結石、及び、悪性・良性の腫瘍や変性物質等である。私の「和漢三才圖會卷第三十七 畜類 牛黃(ごわう・うしのたま) (ウシの結石など)」の私の注を参照されたい。
「白丁香」「雀白屎(じやくはくし:「雀の白い糞」のこと)」とも呼ぶ。腹部の腫瘤・虫歯・目の混濁などの治療に用いられる。漢方では鳥の糞が、しばしば登場する。例えば鶏の白い糞は「鶏屎白」と称し、糞の白い部分を日干しした後、白酒(パイチュウ)を加えながらとろ火であぶって乾燥し、それをすって粉末にする(一般に雄鶏のものがよいとされる)。これは「黃帝內經素門」にも「鶏矢」として出る古方で、鼓脹積聚・黄疸・淋病をし、利水・泄熱・去風・解毒作用を持つとされる。本邦で「鶯の糞」が美顔料として親しまれていることを考えれば、奇異でも何でもない。
「熊膽」或いは「くまのい」。「熊の胆」。ツキノワグマの胆嚢。私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 熊(くま) (ツキノワグマ・ヒグマ)」を参照されたい。
「虎膽」私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 虎(とら) (トラ)」を見よ。
「麝香」既出既注。
「琥珀」既出既注。
「阿仙藥【俗、云ふ、「斧割《よきわり》」。】」「和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 阿仙藥」私の注を見られたい。一言では、言い難いものなればこそ。
「五加皮」]私の『「和漢三才圖會」植物部 卷第八十四 灌木類 五加』を見られたい。同前なれば。]
右の件の藥、贋《にせ》・僞り多《おほく》有り。所以《ゆゑ》に、僞藥《ぎやく》を賣《うる》ことを禁ず。
[やぶちゃん注:以下、やはり、ブラウザの不具合を考えて、一行字数を減らした。]
熟地黃《じゆくじわう》 麹半夏《きくはんげ》
神麯《しんきく/しんぎく》 乾薑《かんきやう》
[やぶちゃん注:「熟地黃」キク亜綱ゴマノハグサ目ゴマノハグサ科アカヤジオウ(赤矢地黄)属アカヤジオウ Rehmannia glutinosa の根を陰干しした生薬を「生地黃(しやうぢわう)」と称するのに対して、この「熟地黃」は、生地黄を酒と一緒に蒸して作った生薬。但し、酒が含まれるため、性は、寒が殺がれて、温に近くなる。
「麹半夏」ネットでは「半夏麹」(はんげきく)なら、ある。サイト「イアトリズム」の「知っておきたい『漢方生薬』」の「半夏麹」のページによれば、「基原」は、『外皮を除いたサトイモ科ハンゲ属カラスビシャク』(単子葉植物綱オモダカ目サトイモ科ハンゲ属カラスビシャク Pinellia ternata )『の塊茎粉・小麦粉・生姜汁の発酵塊』とあり、「適応疾患および対象症状」は『せき、多痰、呼吸困難、胸苦しさ、めまい、動悸、不眠、悪心、嘔吐、頭痛、身体のしびれ、顔面神経麻痺、半身不随、心窩部のつかえ、便秘など』とある。
「神麯」サイト「漢方薬のきぐすり.com」の「神麴」が、それ(「麴」は「こうじ」を表わし、「麹」とは異なる同義の漢字である)。『シンギク(神麴)は、小麦粉または米の麩(ふすま)にセキショウズ(アズキ)、キョウニン(アンズまたはホンアンズの果実の仁)、セイコウ(カワラニンジン』(キク科ヨモギ属 Artemisia carvifolia )『の全草)』、キク亜科オナモミ属『ソウジシ(オナモミ』 Xanthium strumarium subsp. sibiricum『の果実)、タデ(ヤナギタデ』(ナデシコ目タデ科 Polygonoideae亜科Persicarieae連Persicariinae亜連イヌタデ属ヤナギタデ Persicaria hydropiper )『の全草)などを混合し、発酵させたものです』とあり、『漢方的には、健脾、消化、止瀉の効能があり、消化不良や食欲不振、腹部膨満感、下痢などの症状に用いられます』とあった。
「乾薑」単子葉植物綱ショウガ目ショウガ科ショウガ属ショウガ Zingiber officinale の根。
最後に。東洋文庫訳では、後注があり、以上の「熟地黃」から「乾薑」のそれぞれを、以下のように簡便に注してある。
《引用開始》
熟地黄は補腎・補血薬。地黄と酒と縮砂仁の粉末をよくまぜ、こしきに入れ、これを瓦鍋で蒸す。それを晒(さら)し乾す。九度、蒸しと晒しを繰り返して作る。麹半夏は嗽痰薬。半夏を粉末にし、薑汁・白礬(ばん)湯で餅にし、楮(こうぞ)の葉に包み、黄衣が生えるのを待って日に乾したもの。神麯は消化薬。白麪[やぶちゃん注:「はくめん」。精製された小麦粉。]・赤小豆・杏仁などに青蒿(こう)・蒼耳[やぶちゃん注:「おもなみ」。キク目キク科キク亜科オナモミ(葈耳・巻耳)属オナモミ亜種オナモミ Xanthium strumarium subsp. sibiricum 。再来月の同窓会に呼ばれた柏陽の、私が始めて持った担任の子らよ! 君らが、校庭の掃除の時、みんなで、みっちり、私の背中にその実をつけた、あの「ひっつき虫」の草体名だよ!♡!]の汁を加えて作る。乾薑は胃腸冷痛の薬。良い薑を採り、流水でよく洗い、皮を刮(は)ぎ日に晒して作る。白浄結実のものが良く、それで白薑ともいう。
《引用終了》
以下、各項、独立させた。]
右、件の藥、修製、宜しく古法に隨ふべし。如《も》し、省略する者、賣《うる》を禁ず。
「川烏頭《せんうづ》」を、僞《いつはり》て、「新附子《しんぶし》」と名《なづ》け、
「大風子」の油《あぶら》を、僞て、「雷丸《らいぎわん》の油」と名け、
倭の「當藥《たうやく》」を、僞て、「胡黃蓮《こわうれん》」と名く。
[やぶちゃん注:「川烏頭」「烏頭」は猛毒で知られるモクレン亜綱キンポウゲ(金鳳花)目キンポウゲ科トリカブト(鳥兜・草鳥頭)属 Aconitum を指す。種にもよるが、致命的な毒性を持ち、狩猟や薬用に利用されてきた歴史がある。この「川烏頭」は四川省の栽培品名とされる。
「「鳥頭《うず》」前掲のトリカブト属 Aconitum のトリカブト類の若い根。猛毒で、殺虫・鎮痛・麻酔などの薬用に用いられる。「そううず」「いぶす」とも言う。
「新附子」の「附子」は「烏頭」に同じ。
「大風子」大風子油(だいふうしゆ)のこと。当該ウィキによれば、キントラノオ目『アカリア科(旧イイギリ科)ダイフウシノキ属』 Hydnocarpus 『の植物の種子から作った油脂』で、『古くからハンセン病の治療に使われたが、グルコスルホンナトリウムなどスルフォン剤系のハンセン病に対する有効性が発見されてから、使われなくなった』とあり、『日本においては江戸時代以降』、「本草綱目」『などに書かれていたので、使用されていた。エルヴィン・フォン・ベルツ、土肥慶蔵、遠山郁三、中條資俊などは』、『ある程度の』ハンセン病への『効果を認めていた』とある。]
右、件の藥、自今《じこん》[やぶちゃん注:これより。]以後、本名《ほんみやう》を用《もちひ》て、須らく、之≪れを≫賣買すべし。
[やぶちゃん注:以下、三つとも独立させる。]
重目《おもめ》の輕粉《けいふん/おしろひ》
平戸の人參《にんじん》
熊野の小人参《せうにんじん》
[やぶちゃん注:「重目の輕粉」「輕粉」は既注。ここは、正規の「輕粉」に比して、異様に重さがあるものを(水銀は本来、重い物であるが、それが、度を越している状態を指す)水銀ではない別なものを混入していることが疑われるのである。
「平戸の人參」不詳。識者の御教示を乞う。
「熊野の小人参」同前。]
右、件の藥、性・功、佳《か》ならず。所以《ゆ》へに[やぶちゃん注:ママ。]、賣買を禁ず。
明暦四年の法令、詳-審(つまびら)かなること、之(かく)のごとし。然《しかれども》、恐らくは、詐《いつは》り送る者は、嘗(もと)より、之を、綿宻《めんみつ》に擇-求《えらみもとむ》る者は、毎《つね》に等閑(なをざり[やぶちゃん注:ママ。])なることを。蓋し、藥-店-肆(くすりや)に言へること、有り。「不欲價(あたい[やぶちゃん注:ママ。])賤(やす)からんことを欲《ほつ》せざれば、輒《すなは》ち、眞《まこと》なる者を得《う》べし。」と。
[やぶちゃん注:「明暦四年」一六五八年。徳川家綱の治世。
以上の最終段落の東洋文庫訳を、以下に引用して、おしまいとする。
《引用開始》
明暦四年(一六五八)の法令はこのように詳審[やぶちゃん注:「しょうしん」。くわしいこと。細かいところにまでゆきとどくこと。また、そのさま。]をきわめている。けれども恐らく詐(いつわ)るのは綿密に作っているであろうし、買い求める側はあまり厳重に弁別しようとはしないであろう。ところで薬店では次のようにいう。値の賤(やす)いものを求めようとさえしなければ真物[やぶちゃん注:「まもの」。「本物」に同じ。]を手に入れるごとができる、と。
《引用終了》]