河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(二)昆布の說(その2)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回は、ここから。]
抑(そもそも)昆布ハ北緯三十八度以北の海(かい)に產するものにして、東南の方(はう)に多く、西北の方に少(すくな)し。其產地によりて種類一《いつ》ならず。隨(したがつ)て、形狀、長短、厚薄(かうはく、濃淡[やぶちゃん注:このルビの下には、明らかに文字と見えるものが、確認出来る。私は「など」と判読した。異常な打ち方乍ら、文脈からも、極めて自然ではある。])、性質ともに同からず。又、その名稱も頗る多く、今、
其種類を左(さ)に擧(あ)ぐ。
[やぶちゃん注:「北緯三十八度」ウィキの「北緯38度線」によれば、「通過する地域一覧」の「日本」は、『佐渡島』『— 新潟県』及び『— 新潟県』・『— 山形県』・『— 宮城県』とする。附属する「geohack - 日本」の「ウィキメディア地図」を見られたい。言わずもがなであるが、朝鮮の軍事境界線と一致する。中国は、黄海の湾奥部が含まれるだけである。なお、コンブ属マコンブ(真昆布) Saccharina japonica (synonym: Laminaria saccharina )に限った論文であるが、神谷徳成・和田明・長谷川一幸氏らによる論文「マコンブの生息域と水温変動との関係について」(PDF・調べたが、どうしても掲載誌が確認出来なかった)には、『分布域は北海道の室蘭から東北地方三陸沿岸までの太平洋および津軽海峡一帯に広く分布する。北海道では室蘭地球岬付近から噴火湾、渡島半島東部沿岸を経て津軽海峡西口の白神岬付近、および松前小島まで分布し、青森県では日本海沿岸小泊下前から、陸奥湾内を除く津軽、下北両半島および太平洋沿岸八戸地方までの各地まで分布し、岩手県では宮古湾以北沿岸に多く、なお宮城県女川まで点在する。またどの地帯も入り江や湾入した比較的波の穏やかな場所で透明度の高い海域の低潮線付近から水深20~30m付近までの岩盤、転石上に生育する。浅所に生育するものは体長1.5~3m、深所のものは時には10mにも達する。』とあり、而して、『マコンブは10℃以下の低水温には強く、20℃以上の高水温には弱いという性質があるということがわかった。また、マコンブの生息限界水温は23℃以下であると言えることから、水温からマコンブの生息域を推測できるのではないかと考えられた。』とする。そして、末尾に『マコンブは10℃以下の低水温には強く、20℃以上の高水温には弱いという性質があるということがわかった。また、マコンブの生息限界水温は23℃以下であると言えることから、水温からマコンブの生息域を推測できるのではないかと考えられた。』とある。最後の「まとめ」を引く、『本研究では、マコンブの生息域と水温との関係について調査した。マコンブの生息域は主に北海道南部・津軽海峡・太平洋沿岸北部であり、この生息海域の最高水温は8月でも23℃以下であることがわかった。この水温分布は胞子体世代の文献から得た生息可能水温範囲内に含まれていることと一致した。また1~3月の日本沿岸域の海水温より、マコンブ生息域では10℃以下になっていることが明らかになり、この水温分布は配偶体世代の最適水温内であった。このように、マコンブ生息域は胞子体世代では生息可能水温範囲内であること、配偶体世代では最適水温内であることが必要条件であることが確認された』。『また太平洋側沿岸には生息しているが日本海側沿岸にはコンブは生息していない要因としては日本海側の8月の水温が23℃以上となっていることから、これは水温の影響を受け』、『生息していないものと推察された。』とある。
なお、一言、言っておくと、他のコンブ類には、日本海側に分布する、マコンブ変種リシリコンブ(利尻昆布) Saccharina japonica var. ochotensis・マコンブ変種ホソメコンブ(細目昆布) Saccharina japonica var. religiosa 等がある。
さても……しかし……以上を読みながら、危急的問題が感じられた。昨今の地球温暖化に伴う日本近海の海水温の有意な上昇である。二〇二〇年三月のものだが、「日本經濟新聞社」公式サイト内の記事「温暖化で近海コンブ消滅も 2090年代、主要な11種」には、
《引用開始》
北海道大の研究グループが、地球温暖化に伴う海水温上昇のため、ナガコンブやマコンブなど日本近海の天然コンブのうち主要な11種が2090年代までに消滅する可能性があると発表した。コンブは日本人の食生活に欠かせない食材で、関係する生物も多く、影響が懸念される。
北大北方生物圏フィールド科学センターの仲岡雅裕教授らのグループが、40年代と90年代のそれぞれの生息分布を予測。コンブは水温が上がると枯れるため、海水温の変化に応じて想定した。
温暖化が現状のまま進めば北海道周辺の海水温は1980年代と比較して2090年代には最大10度ほど上昇。90年代までにコンブの分布域が0~25%にまで減少する見通しを示した。
また、温暖化が緩やかに進行する場合でも、40年代までにナガコンブ[やぶちゃん注:ナガコンブ(長昆布=「浜中昆布」) Saccharina longissima ]など4種が日本の海域から消失する恐れがあるとはじき出した。
日本昆布協会(大阪市)によると、すでに市場供給量は年々減少傾向で、19年度の推計値は約1万3千トン。同協会が記録を取りまとめ始めた1989年度がピークの約3万8千トンで、30年で3分の1程度に減少したとみられる。国内で食用にされるコンブの大部分が北海道産とされる。
コンブ加工販売業「こんぶ土居」(大阪市)によると、同社は良質のだしが取れる函館市白口浜の天然マコンブを料亭などに卸しているが、5年前から仕入れ価格は約2倍に上昇した。土居純一社長は「天然だけでは成り立たなくなってきているので養殖も扱っているが、質が落ちる」と嘆く。
北大研究グループによると、つくだ煮に利用されるなど日本の食文化に重要な役割を果たしているナガコンブへの影響が早々に懸念される。須藤健二学術研究員は「ナガコンブは柔らかくて食べやすいため、おでんにも広く利用される。コンビニのおでんのコンブが値上がりしたり、場合によっては消えたりするかもしれない」と指摘する。
コンブが生い茂る藻場はウニやエゾアワビなど魚介類の宝庫で、それを目当てにラッコなど海洋動物も集まる。沿岸や岩礁の生態系に詳しい東北大の吾妻行雄教授によると、コンブに依存して生活するエゾバフンウニやキタムラサキウニも沿岸海域から消滅する可能性がある。
現在は比較的水温が高い場所を好み、本州や九州に多く生息する海藻のホンダワラが分布域を拡大させるとみられる。吾妻教授は「高価なウニの漁獲が減り、漁業者は大きな打撃を受ける」と話した
《引用終了》
この記事を読んで、暗澹たる鬱に落ちた……。]
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