阿部正信編揖「駿國雜志」(内/怪奇談)正規表現版・オリジナル注附 「卷之二十四下」「鯨か池龍」
[やぶちゃん注:底本はここ。段落を成形し、句読点・記号を変更・追加した。以下の、標題(「か」はママ)の推定訓読では、「か」に濁点を打ち、助詞「の」を添えた。]
「鯨か池龍《くじらがいけ の りゆう》」 安倍郡《あべのこほり》下村、「鯨か池」にあり。「駿河誌」云《いはく》、
『鯨か池に、九尺の靑龍《せいりゆう》あり。一夏九旬《いちげくじゆん》には、龍燈《りゆうとう》を現《あらは》す。云云《うんぬん》。』。
今は絕《たえ》たるか、見る者、あるを、聞かず。
[やぶちゃん注:「鯨か池」既に「神木鳴動」で既出既注なので、そちらを見られたい。なお、関連して、私自身が古くの池沼の遷移に拘っているので、「桃澤池奇怪」と、最近の「椎田池の怪」も合わせてお読み頂ければ、幸いである。
「九尺」約二・七三メートル。
「一夏九旬」本来は、仏教用語である。「(一)旬」は「十日間」の義。「一夏九十日」の意で、その間の「安居(あんご)」を指す。元来は、インドの僧伽(そうが)に於いて、雨季の間は、行脚托鉢を休んで、専ら、阿蘭若(あらんにゃ:寺院)の内に籠って、座禅修学することを言った。本邦では、雨季の有無に拘わらず、専ら、本邦の暑い時期にプラグマティクな理由で行われ、多くは四月十五日から七月十五日までの九十日を当てる。これを「一夏九旬」と称して、各教団や大寺院では、種々の安居行事がある。安居の開始は「結夏」(けつげ)といい、終了は「解夏」(げげ)というが、解夏の日は多くの供養が行われて、僧侶は満腹するまで食べることが出来る。雨安居(うあんご)・夏安居(げあんご)ともいう(所持する平凡社「世界大百科事典」等の記載を参考にした)。龍と仏教の連環を象徴していて、興味深い。「龍燈」の博物誌は、私のサイト版の、南方熊楠「龍燈に就て」(「南方隨筆」底本正規表現版・全オリジナル注附・一括縦書ルビ化PDF版・2.9MB・51頁)がよい。三分割のブログ版(私のブログ・カテゴリ「南方熊楠」から、どうぞ!)もある。]
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