河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(三)煎海鼠の說(その7)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回は、ここから。]
今時(こんじ)、改良せし良法を擧くれ[やぶちゃん注:ママ。]ば、先づ、海鼠を捕獲し、淸水(せいすい)に浸すこと、一夜(いちや)、腹中に存せる砂を、噴(は)き出(いだ)させしめ、若し出(だ)さ〻る[やぶちゃん注:ママ。]ときは、胴の後端(しり[やぶちゃん注:二字へのルビ。])を三、四分、下(さ)け[やぶちゃん注:ママ。]て、少しく、切り、內部の臟腑を除き、能く洗ひ、沸湯(にへる[やぶちゃん注:ママ。])に艾葉(よもぎのは)を、少し、入れ、此れにて煑ること、小(せう)なるもの、一時間より、大なるもの、二時間にして、銅製(あかヾねせい)の箸を以て、輙(たやす)く、狹[やぶちゃん注:ママ。「挾」の誤植。]〕み得らる〻を、度(ど)として、取揚(とりあ)げ、壹個づヽ、曲らぬよふ[やぶちゃん注:ママ。]、簀筐(すばこ)に幷(なら)べ、藁灰(わらばい)を撒布(ちらし[やぶちゃん注:「し」は衍字。])し、兩手にて、揉み、黑色(こくしよく)を表(あらわ[やぶちゃん注:ママ。])す。之れを焙爐(ほいろ)に上(の)せ、火力を以て、一晝夜の間(あひ)た[やぶちゃん注:ママ。]、乾(かは)かし、後(の)ち、大陽にて乾すこと、兩三目、全く、乾くを認め、箱、或は、樽に詰め、之を密閉するものとす。然(しか)るに、從前の製法の如く、單に大陽の力を以て乾(かはか)すときは、陰晴(いんせい)、常(つね)なきを以て、徒(いたづ)らに多日(たじつ)を費さ〻[やぶちゃん注:ママ。「〻」に濁点だが、当時も今も、そうした活字はないと思う。私は見たことがない。]るを得ず。加之(しかのみならず)、品位も亦、火力製に劣る[やぶちゃん注:「こと」が欲しい。]、數等(すうとう)なり。蓋し、北海道製の諸國に冠(くわん)たるは、夙(つと)に、火力法を用ひたるが故なり。
海鼠腸(このわた)に鹽を混和(まぜ)し[やぶちゃん注:ママ。十全に「まぜ」ることを「したる」のニュアンスならば、誤りではなかろうが、「こんわ」の音の方が躓かない。]たるものを、「このわた」と稱す。是亦、「延喜式」に、能登國より貢獻のことを載せ、近世は尾張、參河等(とう)の產、著名にして、『海醬(しほから)』中(ちう)の絕品、高價なるものなれども、熬海鼠を、盛(さかん)に製する地方にては、形狀を損傷するを以て、之を作ること、稀なり。
[やぶちゃん注:「海鼠腸(このわた)」私の好物でもあり、ナマコを買った時には、即席に、取り出して、大切に、切らないように柔らかに押しつつ洗浄して、薄い食塩水と日本酒を混ぜたものに寝かせた後、食するのを常としているいるので、注を附す必然性を感じずにいた。全く知らない、或いは、名前ばかりで食したことのない読者のために、取り敢えず、私の、博物学古記録翻刻訳注 ■11 「尾張名所図会 附録巻四」に現われたる海鼠腸(このわた)の記載(これは「このわた」に特化していて、なかなか興味深い)をリンクさせておく。]
« 河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(三)煎海鼠の說(その6) | トップページ | 河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(三)煎海鼠の說(その8) »

