河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(二)昆布の說(その7)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回は、ここから。]
前條各種の昆布も、其繁殖を妨(さまた)ぐる憂(うれい[やぶちゃん注:ママ。])ありて、之れを防除(ぼうじよ)し、亦、移植するの法あり。昆布に濕生(しつせい)せる「ごも」と稱するものヽ如きは、之を刈除(かりのぞ)かざれば、蕃生(はんせい)[やぶちゃん注:ここは、コンブが問題なく成長することを指す。]を妨ぐるも、刈除くときは、生長、よろしく、翌年の收獲を多量ならしむるのみならず、此(この)刈たる「ごも」は漁蓑((りやうしのみの)其他(そのた)の用に供すべし。又、昆布は適應の地には、移植するを得(う)べく、從來(じうらい)、其(その)効(こう[やぶちゃん注:ママ。])を見し例(ためし)、少(すくな)しとせず。卽ち、日高國(にだかのくに)沙流郡(さるごほり)に山田某《それがし[やぶちゃん注:少し後で、かく、ルビを振っているので、それとした。]》の移すもの、膽振國(いぶりのくに)白老郡(しらをひ《ごほり》に野口某の移すもの、陸奧(むつおく)西津輕郡(にしつがるごほり)鰺澤村(あぢがさわ《むら》)に戸澤某の移すもの等(とう)なり。
[やぶちゃん注:「ごも」ネット検索では不明なので、国立国会図書館デジタルコレクションで検索したが、「ごも」なるものを具体に記載したものが見当たらなかった。当てずっぽで、ネットで「昆布 附着 雑海藻」で調べたところ、『北海道立釧路水産試験場1995』とする『共同研究成果資料 `92~‘94』とある、『雑海藻駆除技術によるコンブ漁場の回復 釧路・根室地方の昆布漁業発展のために』という一般読者への公式リーフレット(PDF)の中に(ベタで示した。原本には、雑海藻の各個画像もある)、
《引用開始》
〇漁場を荒すのは大型雑海藻だ
■なぜ雑海藻は有害か?
◎ナガコンブなどの有用コンブにとつて有害な大型雑海藻は,漁場に大量に繁茂して游面まで(海底や海中も)占有してしまうため|に,本来コンブが着生する場所を狭くするばかりでなく,コンブの生活に必要な光や栄養塩などの供給を減らし,コンブの発生・生育を妨げるのです。
◎また,ナガコンブはガッガラコンブ(アツバコンブ)などのコンブ類とも競合関係にあります。ガッガラコンブなどの多い地域では,これらの挙動に注意することが必要です。
■有害な雑海藻の名前は?
◎ナガコンブ漁場に出現する主な雑海藻には,全長2~lmのスジメ,アイヌワカメや直立して生育し全長7~8mにも達するウガノモク,ネブトモクなどの大型褐藻類があります。また,体こそ小さい(数十㎝)が大量に生育するカタワベニヒバ,クシベニヒバなどの紅藻類, さらには大型で大量に繁茂するスガモがあります。
◎なかでもウガノモクなどのホンダワラ類は非常に大きくなり,直立して海面まで覆うので,コンブの発生・生育の邪魔をします。また, スガモで覆われている場所では海底に砂が堆積するなど,底質環境の悪化が懸念さねるので注意が必要です。
《引用終了》
が、この「ごも」であろうと推定した。引用に出る問題を引き起こす種は、
★スジメ=オクロ植物 Heterokontophyta 褐藻綱 Phaeophyceae コンブ目アナメ科スジメ(筋布)属スジメ Costaria costata(スジメの属名と種小名は、孰れも「筋がある」の意)
★アイヌワカメ=コンブ目アイヌワカメ(アイヌ若布(ワカメは他に「和布」・「若和布」・「稚海藻」・「裙蔕菜」とも漢字表記する)科アイヌワカメ属アイヌワカメAlaria praelonga
★ウガノモク=褐藻綱ヒバマタ(檜葉股)亜綱ヒバマタ目ホンダワラ(穂俵・馬尾藻・神馬藻)科ウガノモク(宇賀の藻屑)属ウガノモクStephanocystis hakodatensis
★ネブトモク=ウガノモク属ネブトモクStephanocystis crassipes (漢字表記は恐らく「根太藻屑」)
★カタワベニヒバ=カタバベニヒバ(※片葉紅檜葉:「カタワ」は「片輪」で差別表現であるため、二〇一五年に改称された)=紅藻綱 Florideophyceaeマサゴシバリ(真砂縛り)亜綱 Rhodymeniophycidae イギス目 Ceramiales ランゲリア科 Wrangeliaceae クシベニヒバ連 Ptiloteae クシベニヒバ属カタバベニヒバ Ptilota asplenioides
★クシベニヒバ=クシベニヒバ属クシベニヒバ Ptilota filicina
★スガモ=種子植物亜門トクサ綱 Equisetopsida モクレン亜綱 Magnoliidae ユリ上目オモダカ目ベニアマモ/シオニラ科スガモ(菅藻)属スガモ/ハイスガモ Phyllospadix iwatensis
である(各種の詳細は、私は各個について確認をしたが、それぞれを解説し始めると、えらく時間がかかってしまうので、和名・学名で各自で検索されたい。そこまで、私は面倒は見られない。悪しからず)。しかし、「ごも」は、昆布収穫地の地方名と思われ、漢字もよく判らない。一つ考えたのは、「茣」蓙(ござ)のようにコンブ類の着底する海底に、蔓延る海「藻」で、「茣藻」かとも思ったが、漁師たちが呼称するものであろうからして、単に「ゴ」ミの「藻」の意が至当であろうとは思うのだが、一つ、大きな問題がある。それは、本文で、
★『昆布に』(☜「に」に着目!)『濕生(しつせい)せる』と言っている点
である。「濕生」とは、「湿ったところで、動・植物が生活すること。」を指す語であるからして、この言い方を狭義に読み取るなら
★「コンブそれ自体に着底して繁茂する藻」という意味に限定されてしまうから
である。しかし、
✕以上に掲げた七種は、調べる限り、コンブ類への着生寄生することを主とする種ではないと私は判断する
からである。但し、
著者の河原田氏は、海藻の専門家でもなければ、コンブの実際のエキスパートでもないから、そうした厳密性を持って、この表現を用いたとは、私には思われない
のである。識者の御判断を、是非、お教え下されば、幸いである。特に、「此(この)刈たる「ごも」は漁蓑((りやうしのみの)其他(そのた)の用に供すべし。」と河原田氏は仰っているのは、相応に当該海藻の葉体が細く、しかも、強靭であるからであろうと思われることから、種を幾つかの上記の種に限定出来るものと私は考えているので、その辺りの候補種を、推定で結構であるから、お教え下さると、恩幸、これに過ぎるものは無い。よろしく、おんがい申し上げるものである。]
採收の季節は、各地、幾分の遲速ありと雖ども、槪(ほむ)ね、夏、土用(どよう)に初まり、秋、彼岸に終(おわ[やぶちゃん注:ママ。])るものとす。三陸地方の如き、昔時(せきじ)は、官(くわん)の制令によりて土用入前(どよういりぜん)は鎌入(かまいり)を許さざりしなり。
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