阿部正信編揖「駿國雜志」(内/怪奇談)正規表現版・オリジナル注附 「卷之二十四下」「肥付石」
[やぶちゃん注:底本はここ。句読点・記号を変更・追加した。]
「肥付石」 安倍郡淺畑東村にあり。其形《かたち》、洪鏡《こうきやう》[やぶちゃん注:大きな鏡。]に似て、色、黑く、光、あり、油を洒《そそぐ》が如し。號《なづけ》て「肥付石(こえつきいし)」と云《いふ》。『人、此石にふるれば、必《かならず》、足の太く成《なる》病を受く。云云。』。毒石《どくいし》の類《るゐ》にや。
[やぶちゃん注:この石は、現在の静岡県静岡市葵区東の、ここ(グーグル・マップ・データ航空写真)のカーブの四角な屋根の延命地蔵堂の脇に、現存する。ストリートビューのこの、上部が丸くなった石が、それである。これは、個人ブログ「神が宿るところ」の「肥付石」で確認出来た。そこでブログ主は、
《引用開始》
「肥付石」は、上部が丸くなった、特に変哲もないような石だが、説明板によれば、「罪深い人が触ると、足や身体が腫れる」というもの。「肥付」という名前からすると、単なる「腫れ」ではなく、かなり膨らんでしまうというイメージだろう。それで連想されるのが象皮病。象皮病は、フィラリアという寄生虫によってリンパ管に炎症が起きて浮腫(むくみ)ができ、皮膚が象のようになってしまう病気で、特に陰嚢に発症すると、陰嚢が腫れて人頭大まで巨大化することもある。この例で有名なのが西郷隆盛で、西郷が西南戦争で敗れて自害した際、首のない死体(首は政府軍に取られるのを恐れて隠された。)を識別したのは、巨大な陰嚢であったという。それはさておき、フィラリアは蚊によって媒介されるので、かつては広大な麻機沼を含む湿地帯だった、この地区に象皮病が蔓延していてもおかしくはない(わが国では、現在では根絶されている。)。
なお、この石は、かつては山の中腹にあったものが、下ろされて現在の場所に置かれたともいい、また、一説には、舟の舫い綱を結びつける石だったともいわれている。「罪深い・・・」はともかく、触ると病気になる、祟られる、というのは、その石が神聖なものだったのかもしれない(因みに、病を治すには、針金で造った鳥居を供えて祈るしかないとされる。)。ひょっとすると、行政的な権威の象徴として尊重されるべきもの、例えば、古代官道には標識として「立石」が建てられたケースが多い。この場合、石自体は特に変哲もないが、政権の権威を示すものとしてアンタッチャブルだったかもしれない。この辺りも、安倍郡家の何らかの施設があった可能性がある場所である。
《引用終了》
と述べておられる。他から援用された、より、明確な写真もあるので、見られたい。なお、「ひなたGIS」の戦前の地図で、「賤機村」(歴史的仮名遣で「しづはたむら」)が確認出来る。私も、本篇を一読した際、この「祟り」の病態「足の太く成病」とは、線形動物門 Nematoda 双腺綱 Secernentea 旋尾線虫亜綱 Spiruria 旋尾線虫目(センビセンチュウ目) Spirurida 旋尾線虫亜目 Spiruromorpha 糸状虫上科 Filarioidea に属するフィラリア(filaria)に違いないと思った。中でも、その病態から、人体寄生性で、感染後遺症として象皮症を引き起こすバンクロフト糸状虫 Wuchereria bancrofti だろう。発症機序等、詳しくは、当該ウィキを見られたい(但し、感染患者の凄絶な写真が載るので、閲覧は注意が必要)。]
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