河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(三)煎海鼠の說(その6)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回は、ここから。]
製法も古來より時勢によりて變遷、或は、改良し、或は濫造に流れたること、あり。古(いにしへ)にありて、精良品を出(いだ)せしは、延喜(えんぎ)年間とす。其後(そのご)、兵亂、打續きしより、粗製、或は、廢業し、足利時代に、少しく囘復し、德川時代に至りて、幕府へ獻上と淸國貿易との爲めに、一層、改良したりしなり。
[やぶちゃん注:「延喜(えんぎ)年間」平安中期の九〇一年から九二三年まで。醍醐天皇の治世。]
煎海鼠を製するの法、數多(あまた)あり。腸(わた)を去るあり、去らざるあり。水を加へず、煑るあり。水を以て煮るあり。煮るに、潮水(まみづ)を用ふるあり、淡水を用ふるあり。胴を割(わ)るあり、割らざるあり。中部(ちうぶ)を切るあり、頭(かしら)を割るあり、尾(を)を割るあり、頭部より、三、四分、下(さけ[やぶちゃん注:ママ。])て、切るあり。乾かすに、火力、大陽力(たいようりよく[やぶちゃん注:ママ。])の二樣(にやう)あり。絲吊乾(いとつりほし)、藤吊乾(ふじつるほし[やぶちゃん注:ママ。以下、総て誤っている。「藤」の歴史的仮名遣は「ふぢ」である。])、串乾(くしほし)、簀乾(すほし)、筵乾(むしろほし)等(とう)あり。色を着(つ)くるあり、着けざるあり。着色にも、種々の法あれども、皆、不良にして、獨り、艾葉(よもぎは)を以て、色をそゆるを、善良とす。舊時の製法たる竹串(たけくし)を貫く【串海鼠《くしこ》といふ。】あり、藤蔓(ふじづる)を貫(つらぬ)く【藤海鼠《ふぢこ》といふ。】)あり。腹中(ふくちう)の砂を除かさる[やぶちゃん注:ママ。「ざる」。]、あり。乾燥、足らざるもの。あり。截割(さいかつ)の惡しきものあり。然(しか)るに、串乾(くしほし)、藤蔓乾(ふじづるほし)の如きは、漸次、廢(すた)れたりと雖ども、筵乾を止(や)めて簀乾に改(あらたむ)るが如きは、未だ。一般に行はれさる[やぶちゃん注:ママ。「ざる」の誤植。]なり。
[やぶちゃん注:以上は、私のサイト版『「和漢三才圖會」卷第五十一 魚類 江海無鱗魚』の「とらご 海鼠」の項の本文と私の注で十分である。当該項は、同巻の中でも、長く、良安が、かなりリキを入れて書いているもので、正直、この本文と私の注を見て戴ければ、今までの注の幾つかも、省略出来たのである。未見の方は、是非、読まれたい。]
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