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2025/10/23

河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(三)煎海鼠の說(その5)

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回は、ここから。]

 

海鼠は、本邦の沿海中、淡水の注入せざる所は、槪ね、產せざるはなしと雖も、「本朝食鑑」に載する所、煎海鼠(いりこ)、及び、海鼠腸(このわた)を製して、世に賞賛せらるヽは、尾張の和田、參河(みかは)の栅島(さくじま)、相摸(さがみ)の三浦、武藏の金澤、本牧(ほんもく)、讃岐小豆島等(とう)なり。陸前の金華山(きんくわざん)に產する所の金海鼠(きんこ)ハ、其類(るゐ)、異(ことな)れども、其名、著(いいじる)しきより、世人(せじん)は、渾(すべ)て、「いりこ」を「きんこ」と唱(となふ)るものあり。凡そ、海鼠を串に貫き乾したるものを、「くしこ」、又、「からこ」と唱(とな)ひ、山陽道にて、簀乾(すぼし)したるを、「とうじんこ」、又は、「ほしこ」と稱し、「いりこ」を、筑前にて「いるこ」、東北地方にて「ゑるこ」と轉訛(てんくわ/なまり)して唱ふるあり。

[やぶちゃん注:「淡水の注入せざる所は、槪ね、產せざるはなし」現生のナマコは、成長した個体は浸透圧調節の機能を持っていないため、淡水では死に、淡水域・汽水域には棲息しないことになっている。ネットでは、池・沼等の淡水に棲息する外肛動物門掩喉綱掩喉目(えんこうもく)オオマリコケムシ(大毱苔虫)科オオマリコケムシ属オオマリコケムシ Pectinatella magnifica の小型個体をナマコと誤認した例が見受けられる(見た目から、誤認は納得は出来る。学名の画像をリンクしておく。御存知ない方のために当該ウィキもリンクさせておく)。しかし、私は、何回か、淡水が流入する河口、及び、岩場・砂浜の箇所に、いるのを見かけたことは、ある。但し、有意にそこから遡上するところは、未見ではある。

 しかし、今回、部署を『山形県水産試験場・浅海増殖部』と記した情報名「マナマコ種苗生産における地下淡水を利用した水温管理」と標題し、「要約」に『マナマコの種苗生産において、夏期でも低温の地下淡水を利用して飼育水温を25℃以下に維持することで高水温による成長停滞が回避され、秋期において全長20mm以上に成長した29百個体を吹浦漁港内に放流した。』とあり、『採苗後は高水温期の飼育となるため、成長停滞を防止する目的で注水の20%を水温約15℃の地下淡水とし、飼育水温を25℃以下に維持し』て、実験に成功したとする記事(論文ではない。PDF)を見出した(『研究担当者』は『野口大悟、角地祥哉(山形県水産振興協会)』とし、『研究期間:平成28年』(二〇一六年)『度(平成2731年度)』とクレジットされてある)。則ち、

マナマコの幼体は純淡水の地下水中で、問題なく生育することが立証されている

のであった。従って、伝家の宝刀のように言われている、

★「ナマコは淡水では生息出来ない」というのは、少なくともライフ・サイクル上は、誤りである

ことが判明しているのである。

『「本朝食鑑」に載する所、……』私の、膨大な作業と追加データを附した『博物学古記録翻刻訳注■12「本朝食鑑第十二巻」に現われたる海鼠の記載』を見られたい(九年前の仕儀で、Unicode仕様以前のものであるので正字不全ではある。修正するには、膨大であるので、未だ直していないのはお許しあれ)。地名等の注も完備させてある。但し、当時はグーグル・マップを使って示す仕儀を行なっていないので、それぞれの私の解説(一部の地名に疑問があるので、推定したものもある)に従って、各自で地図を見られたい。悪しからず。

『「からこ」と唱(とな)ひ、山陽道にて、簀乾(すぼし)したるを、「とうじんこ」、又は、「ほしこ」と稱し、「いりこ」を、筑前にて「いるこ」、東北地方にて「ゑるこ」と轉訛(てんくわ/なまり)して唱ふるあり』「からこ」は、後の「とうじんこ」から推理すると後者が「唐人海鼠」で、前者は「唐海鼠」であろう。「いるこ」「ゑるこ」も「轉訛」とする河原田氏のそれに従えば、「熬(煎)海鼠」の方言名である。なお、先の記事の注で述べているが、串海鼠には、トンデモない贋物がある! 「牛の革」或いは「驢馬の陰莖」(!)で作るんだぜ!!!

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