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2025/10/04

和漢三才圖會卷第九十二之本 目録 草類 藥品(5) 藥七情

 

  藥七情

 

○單行 ○相須 ○相使 ○相畏 ○相悪 ○相反 ○相殺

 

單行者  單方不用輔也

相須者  同類不可離也【如人參與甘草知母與黃栢類】

相使者  我之佐使也【半夏使柴胡黃芪使茯苓】

相悪者  奪我之能也【黃芪悪龜甲白鮮皮人參悪皀莢黒豆】

相畏者  受彼之制也【附子畏人參甘草半夏畏生薑得之則不爲毒】

相反者  彼我交讎必不和合【人参反藜蘆半夏反烏頭】

相殺者  制彼之毒也

 相反者爲害㴱于相惡者【今畫家用雌黃胡粉相近便自黯妬可證矣】

[やぶちゃん字注:「黯」は、原本では、「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、これにした。「㴱」は「深」の異体字。]

 然古方多有用相悪相反者【仙方甘草丸有防已細辛玉石散有括樓乾薑交泰

[やぶちゃん字注:「丸」は原本では、「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、これにした。]

 丸用人參皂莢之類】此皆精微妙奧非達權衡者不能知

 

   *

 

  《やく》に七情《しちじやう》あり

 

○單行(たんかう) ○相須(さうしゆ) ○相使(さうし) ○相畏(さうい) ○相悪(さうを) ○相反(さうはん) ○相殺(さうせつ)

 

「單行」とは、 單方《たんはう》にして、輔(ほ)を用《もちひ》ざるなり。

「相須」とは、 同類、離《はな》るべからざるなり【人參と甘草《かんざう》と、知母《ちも》と黃栢《わうばく》と≪の≫類《るゐ》のごとし。】

「相使」とは、 我《あ》がの「佐使《さし》」なり【半夏《はんげ》は、柴胡《しこ》を使とし、黃芪《わうぎ》は、茯苓《ぶくりやう》を使≪とす≫。】。

「相悪(《さう》を)」は、 我《あ》が能(のう)を奪ふなり【黃芪《わうぎ》、龜甲《きつかう》・白鮮皮《はくせんぴ》を悪《い》み[やぶちゃん注:「忌み」に同じ。]、人參、皀莢《きやうきやう》・黒豆《くろまめ》を悪む。】。

「相畏《さうい》」は、 彼《か》れが制を受くなり【附子《ぶし》は、人參・甘草《かんざう》を畏《おそ》れ、半夏は、生薑《しやうきやう》を畏《おそれ》て、之れを得《う》。則ち、毒と爲《な》らず。】。

「相反《さうはん》」は、 彼我《ひが》、交(こもごも)、讎(あだ)とし、必ず、和合せず。【人参、藜蘆《りろ》に反《はん》し、半夏、烏頭《うづ》に反す。】

「相殺《さうさい》」は、 彼が毒を制すなり。

「相反」の者、害を爲すこと、「相惡(さうを)」の者より㴱《ふか》し【今、畫家《ぐわか》に、雌黃《しわう》を用《もちひ》て、胡粉《ごふん》、相《あひ》近《ちかけ》れば、便《すなは》ち、自《おのづから》、黯《くら》き妬《ねたみ》≪の≫、證とすべし。】

 然《さ》る古方、多《おほく》、用《もちひ》ること、「相悪」・「相反」の者を用ること、有り【仙方の「甘草丸《かんさうぐわん》」、防已《ばうい》・細辛《さいしん》、有り。「玉石散《ぎよくせきさん》」、括樓《からう》・乾薑《かんきやう》、有り。「泰交丸《たいかうぐわん》」、人參・皂莢《さうきやう》を用《もちひ》るの類《たぐひ》。】此れ、皆、精微・妙奧《めうわう》、權衡《ごんしやう》に達する者に非ざれば、知ること、能はず。

 

[やぶちゃん注:この部分、全体に、訓読だけでは、意味を採り難い感があるので、特異的に東洋文庫訳を、まず、総て引用することとする。ルビ(活版時代のものであるため、ルビは小書き表記がないのは、私が補正している)は、私には承服出来ない、おかしなところがあるが、そのまま示す。

   《引用開始》

  薬に七情がある

○単行(たんこう) ○相須(そうしよ) ○相使(そうし) ○相畏(そうい) ○相悪(そうあく) ○相反(そうはん) ○相殺(そうせつ)

 単行とは単一の処方で抽萌薬を用いないことである。

 相須とは同類のもので離すことのできないものである〔人参と甘草、知母(ちも)と黄栢薬の類のようなもの〕。

 相使とはこちらの効力を昂(たか)めるために相手を補助として用いることである〔半夏(はんげ)(毒草類)は柴胡(さいこ)を使(引薬)とし、黄芪(おうぎ)(山草類)は茯苓(ぶくりょう)を使とする〕。

 相悪とはこちらの能力を奪うもののことである〔黄芪は亀甲・白鮮皮(はくせんび)(山草類)を悪(い)み、人参は皀莢(そうきょう)(喬木類サイカシ)・黒豆を悪む〕。

 相畏とは相手から判圧されることである〔附子(ぶし)(毒草類)は人参・甘草を畏(おそ)れ、半夏(はんげ)(毒草類)は生薑(しょうきょう)を畏れる。制圧されると毒性はなくなってしまう〕。

 相反とは両者ともに敵対しあい、絶対に和合しないことである〔人参は藜蘆(りろ)(毒草類)と反し、半夏は烏頭(うず)(毒草類)と反する〕。

 相殺とは相手の毒を制圧することである。

 相反する場合の害は相悪の場合より深い〔今、画家が雌黄(しおう)を用いるが、これが胡粉(ごふん)と合うとくろずむ。嫉妬(しっと)する証拠である〕。

 けれども古方では相悪・相反のものを用いたものが多くある〔仙方の甘草丸に防已(蔓草類)・細辛(さいしん)(山草類)を用い、玉石散に括楼(かろう)(トウカラスウリ)・乾薑(かんきょう)を用い、交泰丸に人參・皂莢(そうきょう)(喬木類)を用いるといった類〕。これらの作用はみな精微妙奥なものなので、微妙な釣合い加減をよく会得したものでなければ、どうこういうことはできない。

   《引用終了》

訳者の竹島淳夫氏は、専門が東洋史で、中医学の専門家ではない。訳以外には、簡単な割注はあるものの、後注などもない。されば、私には以上の訳で、納得は出来ない。そこで鍼灸・漢方薬・薬膳等、東洋医学を通して社会に貢献している「東洋遊人会」公式サイト内の「中薬学・生薬用語」の瀬戸郁保(せといくやす)氏の解説になる「相須・相使・相畏・相殺・相悪・相反」を引用して補助することとする(一部はポイントが上げてあるが、同ポイントとし、途中にあるショート・コードは省略した。なお、「配伍」は「配合」のことである。例示されている漢方生剤は、いちいち説明すると、時間を食うばかりなので省略する)。

   《引用開始》

生薬を配伍した時に生じる関係性を、相須・相使・相畏・相殺・相悪・相反という6つに分類する。

 

相須・相使

効果が増強される組み合わせ

◦相須

2種類以上の生薬の効果が類似しており、配伍することで生薬の効果がさらに増強される組み合わせ。

たとえば、知母と黄柏の配伍は滋陰降火の作用を強める。乳香と没薬の配伍は理気活血作用を高める。

◦相使

主薬に対して臣薬(輔薬)が配伍されると主薬の効果が高まる組み合わせ。

たとえば、黄耆に茯苓を配伍すると黄耆の補気利水作用が増す。

 

相畏・相殺

毒性が減少する組み合わせ

◦相畏

ある生薬がもっている毒性や強烈な作用が、別の生薬との配伍によって軽減されたり、消除されたりすること。

たとえば半夏や天南星の毒性が、生姜によって制限される。

◦相殺

ある生薬が、他の生薬がもっている毒性や副作用を軽減したり、消除したりすること。

たとえば緑豆は巴豆の毒を除く。

 

相悪・相反

やってはいけない禁忌の組み合わせ

◦相悪

ある生薬が、他の生薬の効能を弱めたり、甚だしく喪失させてしまうこと。

たとえば莱菔子は人参の補気効果を失わせてしまう。

◦相反

2種類以上の薬物を同時に用いた場合に、強烈な毒性を産み出したり、毒性の副作用を発生させること。十八反はこの例である。

   《引用終了》

 以下、通常通り、語注をする。

「人參」「朝鮮人參」。セリ目ウコギ科トチバニンジン属オタネニンジン Panax ginseng

「甘草」マメ目マメ科マメ亜科カンゾウ属 Glycyrrhiza当該ウィキによれば、『漢方薬に広範囲にわたって用いられる生薬であり、日本国内で発売されている漢方薬の約』七『割に用いられている』とある。

「知母」単子葉植物綱キジカクシ目キジカクシ科リュウゼツラン亜科ハナスゲ属ハナスゲ Anemarrhena asphodeloides の根茎の生薬名。当該ウィキによれば、『中国東北部・河北などに自生する多年生草本』『で』、五~六『月頃に』、『白黄色から淡青紫色の花を咲かせる』。『根茎は知母(チモ)という生薬で日本薬局方に収録されている』。『消炎・解熱作用、鎮静作用、利尿作用などがある』。「消風散」・「桂芍知母湯」(けいしゃくちもとう)・「酸棗仁湯」(さんそうにんとう)『などの漢方方剤に配合される』とある。

「黃栢」「卷第八十三 喬木類 目録・黃蘗」を見られたい。

「半夏」単子葉植物綱ヤシ亜綱サトイモ目サトイモ科ハンゲ属カラスビシャク(烏柄杓)Pinellia ternata のコルク層を除いた塊茎。嘔気や嘔吐によく使われる生薬である。私の「耳囊 卷之七 咳の藥の事」も参照されたい。

「柴胡」セリ目セリ科ミシマサイコ(三島柴胡)属(或いはホタルサイコ属)ミシマサイコ Bupleurum stenophyllum の根。解熱・鎮痛作用があり、多くの著名な漢方方剤に配合されている。ウィキの「ミシマサイコ」によれば、『和名は、静岡県の三島市付近の柴胡が生薬の産地として優れていたことに由来する(現在の産地は、宮崎県、鹿児島県、中国、韓国など)。』とある。

「黃芪」マメ目マメ科ゲンゲ属キバナオウギ(黄花黄耆) Astragalus membranaceus 、或いは、同属のナイモウオウギ(内蒙黄耆: A. mongholicus )の根を基原とする生薬。当該ウィキによれば、『止汗、強壮、利尿作用、血圧降下等の作用がある』とある。

「茯苓」「卷第八十五 目録(寓木類・苞木(竹之類)・樹竹之用)・茯苓」を見よ。

「龜甲」「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 |亀板と鼈甲(キバンとベッコウ)」に拠れば、基原は、『亀板はクサガメChinemys reevesii Gray(カメ科 Emydidae)などの腹甲。鼈甲はシナスッポンAmyda sinensis Wiegmann(スッポン科 Trionychidae)の背甲または腹甲。』とあり、

   《引用開始》

 「鶴は千年,亀は万年」。他の動物に比して齢(よわい)が長いといわれる鶴と亀は,ともに古来めでたい動物として尊ばれてきました。中でもカメの仲間は薬用にも利用され,その滋陰の作用はまさに長寿を望むものにふさわしい薬物と言えます。

 カメの仲間は背面と腹面に甲羅があり,頭,四肢,尾のみを外に出した特異な体形をもつ動物で,脊椎動物爬虫綱カメ目に属し,生薬としては,「亀板」「鼈甲」「玳瑁」などが知られています。中でも,「亀板」と「鼈甲」は『神農本草経』のそれぞれ上品と中品に収載されている薬物です。

 亀板は「亀甲」の原名で収載され,「漏下赤白を主治し,体内の腫れ物やしこりなどを破り,五痔,陰蝕,湿痺,四肢の重弱,小児の頭骨の接合しないものを治す。久しく服すれば身を軽くし,飢えることはない。一名神屋。」とあります。「亀甲」という名称からは背甲が薬用に供されたように考えられますが,歴代の本草書中にはとくに背甲が使用されたという記載は見られません。陶弘景は「水中の神亀を用い,長さ一尺二寸の者がまさに善い。(甲羅は)卜占に用いるにもよく,薬用にもよい。また仙方に入れるにはこれを用いる。用時は醋で炒る。生亀で羹を作れば大補する。」などと記しています。『中華人民共和国葯典』では,1985年版までは「亀板」の名称で亀の腹甲のみを収載していましたが,1990年版からは名称を古来の「亀甲」に変え,腹甲に加えて背甲をも規定しています。市場の実情を反映した結果であると思われますが,昨今の主たる中国市場を見る限りは,亀板の名称で腹甲のみが利用されているようです。仮に背甲と腹甲に薬効的な差があるとすればいずれかの本草書に記されているはずであり,そうした記載がないということは,最近の『中華人民共和国葯典』が規定するようにいずれを用いてもよいものと思われます。一方の鼈甲については,『神農本草経』には「心腹の腫れ物やしこり,寒熱を主治し,痞,息肉,陰蝕,痔,悪肉を去る。」と記載されました。また陶弘景は「生の甲を取って肉をはぎ去ったものを良しとする。煮脱したものは用いない。」と記し,薬用には生体から得た甲羅を用いるとしています。なお,『名医別録』には肉の薬効について「味甘。消化吸収機能が傷ついたものを主治し,気を益し,不足を補う」とあり,昨今同様,スッポンは古来肉も強壮薬としてに[やぶちゃん注:ママ。衍字であろう。]食されてきました。カメには肉の薬効に関する記載は見られません。

 ちなみに,現世のカメ目動物は約220種類が知られ,10科に分類され,イシガメやクサガメはヌマガメ科に属し,スッポンはスッポン科に属します。中でもスッポン科は特異的で,背甲と腹甲が固着せずに離れていること,また表面に甲板(表皮が変形した角質物質)を欠くことなどが特徴です。また,陸生種と水生種がおり,薬用には専ら水生種が利用されてきました。亀板,鼈甲ともに,性味は鹹・平です。カメは古来神聖視され,カメとヘビの合体像である玄武(黒)は北を守り,水(腎)を司る役割を与えられてきたことは,薬用(鹹)に水生種が利用されたことと関係しているのかも知れません。

 品質的には生のものからできるだけきれいに肉を取り去ったものが良品であるとされ,加熱処理したものは劣品とされます。市販品にはしばしば肉片などが付着して汚れていますが,こうしたものが却って良質品の目安とされている所以です。現代中医学では,ともに肺胃,肝腎,心脾の陰虚や津虚を改善する滋陰薬に分類され,同様な目的で使用されますが,亀板は,滋陰補腎の力が強く,鼈甲は,退熱と軟堅散結の効力に勝るとされます。また,煮出して製した亀板膠の効果がより強いとされ,鹿角膠とともに製した「亀鹿二仙膠」が補腎薬としてよく知られています。また,亀板と鼈甲が同時に処方されたものとして「三甲復脈湯」が知られます。

 カメは以前は何処にでも普通に見られました.気がついてみると昨今は野外ではほとんど見られなくなってしまいました。我が国では動物性生薬の利用は比較的少ないのですが,生薬の資源確保を目した環境問題への取り組みは,実は動物性生薬ほど深刻に考えなければならない問題なのかも知れません。

   《引用終了》

とあった。

「白鮮皮」ムクロジ目ミカン科ハクセン属ハクセン Dictamnus albus の根皮を基原とする生薬で、当該ウィキによれば、『唐以降の書物に見られ』、『解毒や痒み止めなどに用いられていたが、現在は』殆んど『用いられない。ヨーロッパでは、皮膚病の薬や堕胎薬として用いられていた』とある。

「皀莢」「卷第八十三 喬木類 皂莢」を見よ。

「黒豆」言わずと知れた、マメ目マメ科マメ亜科ダイズ属ダイズGlycine max の品種「黒大豆」・「ぶどう豆」とも呼ぶ。漢方としてのデータは、サイト「薬読(やくよみ) 薬剤師のエナジーチャージ」の『第80回 「黒豆」の効能&かんたんレシピ!ありがたい効能が盛りだくさんな生薬』が詳しいので、見られたい。

「附子」後に出る「鳥頭」(うず)と同義。トリカブト(モクレン亜綱キンポウゲ目キンポウゲ科トリカブト属 Aconitum )のトリカブト類の若い根。猛毒であるが、殺虫・鎮痛・麻酔などの薬用に用いられる。「そううず」「いぶす」とも言う。

「生薑」お馴染みの単子葉植物綱ショウガ目ショウガ科ショウガ属ショウガ Zingiber officinale の根茎を乾燥したもの、時に周皮を除いたものを基原とする。詳しくは、サイト「日本漢方生薬製剤協会」の「ショウキョウ (生姜)」を見られたい。

「藜蘆」サイト「イアトリズム」の「知っておきたい『漢方生薬』」の「藜芦」(りろ)のページによれば、基原を『ユリ科シュロソウ属シュロソウなどの根および根茎』とある。シュロソウは「棕櫚草」で、単子葉植物綱ユリ目シュロソウ科シュロソウ属シュロソウ Veratrum maackii 。以上の学名は、Katou氏のサイト「三河の植物観察」の「シュロソウ 棕櫚草」のページのものを採用したが、そこには、『日本(北海道、本州)、朝鮮、中国、ロシア原産。中国名は毛穗藜芦 mao sui li lu。』とされ、『シュロソウの変異は多く、中間型も見られ、多数の変種などに分類され、異説も多いが、シュロソウ、ホソバシュロソウ、オオシュロソウ、アオヤギソウ、タカネアオヤギソウを Veratrum maackii の変種とするYlistの分類に従った。World Flora Onlineではvar. japonicum var. reymondianumを含める)とvar. parviflorumVeratrum coreanumを含む)2変種としている。Kewscienceではvar. maackii , var. parviflorum , var. longebracteatum3変種にまとめている。』とあり(学名は私が斜体にした)、ネットで「藜蘆」で検索すると、「イアトリズム」で『など』としているように、多数の種が基原であり、或いは、別な種も含まれているではないか? という疑義を附す記載もあった。因みに、「イアトリズム」の「適応疾患および対象症状」に、『脳血管障害、てんかん、毒物の誤飲、疥癬、頭部白癬症、咽喉炎など』とし、「薬理作用」には、『止痒作用、催吐作用、血行改善、意識回復、殺虫作用、解毒作用、消炎作用、発毛作用、創傷回復など』とあった。

「雌黃」(しおう(現代仮名遣):orpiment)は第一義的には砒素の硫化鉱物で「雄黄」「石黄」とも呼び、中世ごろまでは画材の黄色顔料として広く利用されたが、毒性があるため近現代では使用されなくなったのでこれは違う。されば、これはやはり黄色顔料として画材として用いられたガンボージ(gamboge)の別名としてのそれである。インド原産のキントラノオ目フクギ科フクギ属ガルシニア・モレラ Garcinia morella からとった黄色の樹脂である(辞書類ではキントラノオ目オトギリソウ科 Hypericaceae に属する植物であるとするが、紀井利臣著「新版 黄金テンペラ技法:イタリア古典絵画の研究と制作」(二〇一三年誠文堂新光社刊)の「題二章 工程と製作」に載る記載(グーグルブックスを使用)に従った)。黄色絵の具として日本画などで用いられ、「草雌黄」「藤黄(とうおう)」などと呼ばれ、東アジアでは数百年以上も昔から絵具として使用された歴史がある。主としてインド、中国、タイ等に自生するから採取される。ヨーロッパでは古くから商品として伝えられており、初期フランドル絵画に使用されたとも言われ、日本画にも盛んに使用された。主として水性絵具・揮発性ニス・金属ラッカーの用途がある。紀井氏の解説によれば、『有毒で、非常に辛い苛烈な味がすると言われ、古くから漢方薬として』も使用されたとあり、さらに、『水練りにして使用しますが、練る指先に傷がないように注意して下さい』とある。他のネット記載では、現在は毒性はないとするものもあるが、強い成分があることは確かである。なお、現在、通常の黄色絵具は化学顔料にとって代わられつつある。

「胡粉」小学館「日本大百科全書」に拠れば、『東洋画の白色顔料の一種。貝殻を焼いて粉末にしたもので、炭酸カルシウムを主成分とする。絵の地塗りや建築物の彩色に多く用いられ、また桃山時代の障屏画(しょうへいが)などでは、桜や菊などを胡粉の盛り上げ彩色で効果的に表現している。ただし材質上剥落(はくらく)しやすく、胡粉で彩色された作品は取扱いに注意が肝要。胡粉の語は、すでに早く奈良時代の文献にみえるが、実際に胡粉が顔料として使われるようになるのは室町時代以後のことで、それ以前は白土などが用いられた。これを含めて白色顔料を胡粉ということもある。また他の顔料に胡粉を混ぜたものを、具墨(ぐずみ)、朱(しゅ)の具、具まじりと称すように、具とよぶ。』とあった。

「仙方」本来は、中国の仙人が、不老不死・羽化登仙に到達するのを理想にして行なう古くからの方術の処方を指す。

「甘草丸」マメ目マメ科マメ亜科カンゾウ属 Glycyrrhiza は、当該ウィキによれば、『漢方薬に広範囲にわたって用いられる生薬であり、日本国内で発売されている漢方薬の約』七『割に用いられている』とある。多くの漢方処方に使われている。

「防已」本篇の冒頭の「卷第九十二之本 目録 草類 藥品(1)」の私の注を見られたい。

「細辛」は、双子葉植物綱コショウ目ウマノスズクサ(馬の鈴草)科カンアオイ(寒葵)属ウスバサイシン(薄葉細辛)Asarum sieboldii 、又は、オクエゾサイシン(奥蝦夷細辛)変種ケイリンサイシン(鶏林細辛)Asarum heterotropoides var. mandshuricum (後者は中国には分布しない)の根及び根茎を基原とするもので、漢方薬品メーカー「つむら」の公式サイト「Kampo View」の「細辛」に拠れば、『主として、胸部、横隔膜のあたりに病邪のとどまっているもの、水毒(水分の偏在)を治す』とある。

「玉石散」不詳だが、これは、まさに仙薬の古名であろう。鉱物由来と思われる。

「括樓《からう》」基原は、皆さんお馴染みの、私の好きな双子葉植物綱スミレ目ウリ科カラスウリ属カラスウリ Trichosanthes cucumeroides の仲間であるトウカラスウリ Trichosanthes kirilowii 、キカラスウリ Tkirilowii var. japonicum 、 又は、オオカラスウリ Tbracteata の皮層を除いた根。詳細は、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 括楼根(カロコン)」を見られたい。なお、本文での読みは、この記事に従った。

「乾薑」「卷第九十二之本 目録 草類 藥品(1)」の私の注を見られたい。

「泰交丸」「イアトリズム」の「交泰丸」を見られたい。

「精微」詳しく緻密であること。

「妙奧」奥深く、優れて、量り難いこと。「深遠」に同じ。

「權衡」「均衡」に同じ。]

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