河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(三)煎海鼠の說(その10)~図版・注・分離公開(そのⅠ)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回は、ここの左ページ。
以下、全図七枚を今まで通り、キャプションを、総て、字起こしし、注が必要と考えた箇所では附記する。凡例・使用記号その他は、以前の仕儀に準ずる。★但し、余りにも興味深い図が多く、一方、河原田氏のキャプションの地名等に、甚だ、誤記が多いこともあり、今回は、各図版ごとに公開することとした。
国立国会図書館デジタルコレクションの画像を最品質・最大でダウンロードし、念入りに汚れを清拭した。極めて小さな黒いドットであっても、製品としての煎海鼠、或いは、生体らしき物の本体から明らかに離れているものは、一部を除いて、全図七枚の九十五%以上は、総て、手動で消した(但し、製品に縦に入っている直線の白ノイズは、全く手を入れていない。これを黒く潰すと、本来の図の中にあった白点を消してしまうことになるからである)。実際の国立国会図書館デジタルコレクションの画像と比較して貰えば、目が覚めるような清澄な、見易いものに変じていることが納得されるであろう。今まで、画像の清拭を、多数、手掛けてきたが、これほどの出来栄えのものは、過去にはなかったと思う。実際、全図のその作業には、実に九時間ばかりかかったのである。
★さて、但し、今までのようには、図だけから、種を特定することは、殆んど出来ない。所謂、乾燥させて収縮した製品のモノクロームの煎海鼠の、特徴のない絵図のみからは、種を同定することは、私には、出来ないから、である。いや、図のみで、種まで即座に名指す人は、正直、今も昔も、そうそういない、と私は思う。ただ、キャプションの特異名や、産地で絞ることが出来る人は、いるであろう。後者の産地データでは、私は、そこに分布しない種を排除することは出来るものの、かと言って、同定までは、覚束ない。そういう意味で、「鰑」・「昆布」のようには出来ないのである。但し、その産地による種探索は、可能な限り、行うが、そもそも、本邦の現行では、
★シカクナマコ科 Stichopodidae、及び、クロナマコ科 Holothuriidae
が、食用ナマコの殆どを占めているのである。されば、実際には、
★楯手亜綱楯手目シカクナマコ科 Stichopodidae
或いは、その下位の、一般人に知られた
★マナマコ属 Apostichopus (同属は、本邦では、樺太から北海道を経て、鹿児島県種子島までが、分布域である)
或いは、
★クロナマコ科 Holothuriidae(同科は、本邦では、中部以南の浅海が分布域である)
が、素人の私の限界であろうと考えている。
されば、私が種同定していないものの中で、それが特定出来る方があれば、是非、御教授あられたい。それは、私のためではない。今回の生物学書ではない、明治時代の本書の本文に対して行ったナマコ類の種同定は、恐らく、私の酔狂なものに過ぎず、向後、誰もやらないであろうと思うからである。未来の本書の一般の読者の方々に、より正しい情報を遺したいと私は、不遜乍ら、思うのである。]
[やぶちゃん注:罫線が引かれてある【図版7】を除き、図の形状、及び、叙述から見て、最初の二行分は、上段から下段であるが、三行目以降は、大きさで右から左に並べて、下の三段に順に移っているので、その順で電子化する。但し、一製品個体の背側と腹側を右左に配したケースではセットになっているので、注意されたい。]
「煎海鼠の圖第一」(上罫外の標題)
■「刺參《しじん》」
「膽振國《いぶりのくに》
室蘭郡《むろらんのこほり》産」
「背」
「腹」
[やぶちゃん注:「背」「腹」は右左の二図に対するキャプション。以下、これがあるものには、この注は示さない。
「刺參」は、(その8)で述べた通り、これは、ナマコ綱 Holothuroidea 楯手亜綱 Aspidochirotacea 楯手目 Aspidochirotida シカクナマコ科 Stichopodidaeを指す中国語である。而して、筆者が冒頭に持ってきていることからも、まず、
シカクナマコ科マナマコ属マナマコ Apostichopus armata
でよかろう。そもそも、北海道の公的な漁業関連のちゃんとしたサイト記事を見ても、単に「ナマコ」としか書かなかったり、丁寧な場合でも、「ナマコ(マナマコ)」としているほどであるからである。但し、一見した際、辺縁の背部の刺状の疣足が、細く異様に多く管のようになってツンツンしているのは、かなり、気にはなった。煮た際の温度が高かったか、乾燥が長かったものか。腹面も、管足列が全く見えないのも、同様に、内側に収縮してしまっていて、見た目、閉じてしまって見える。]
■「海參《かいじん/なまこ》」
「福岡縣志摩郡船越村産」
「二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「海參」は本文でも、以上の二様の読みを附している。形状(辺縁の背部の刺状の疣足)から見て、マナマコ Apostichopus armata でよいか。
「福岡縣志摩郡船越村」(その9)で既注済み。
「二分の一」図の実際の大きさの縮小スケールを示している。この断りは、先行する「河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 上卷(一)鰑の說(その5)――総て図版画像附・全キャプション電子化注附」の最終図版の上に、罫外に『縮寫減數ハ体長直經を以てす以下倣之』とある。]
■「光參《くわうじん》ノ一種 金海鼠(キンコ)」
「宮城縣下産」
「二分の一」
「背」
「同」
「腹」
[やぶちゃん注:「光參」は、形状からも、明らかなのであるが、本文の(その8)で述べた通り、茨城県以北・北海道・サハリンに分布するナマコ綱樹手亜綱樹手目キンコ(金古・金海鼠)科キンコ属 Orange-footed sea cucumber(英名:和名なし) 亜種 Cucumaria frondosa japonica の異名である。
「同」これは、単に、右の図と「同品」の意である。]
■「上等 海參」
「福岡縣志摩志摩郡船越村」
「四分《しぶ》。」
[やぶちゃん注:この図は、縦方向二行目の真ん中にある一個体なので、注意されたい。
「四分」は一・二センチメートル。右下方に、胴を横切りにした小さな見取り図があり、そこの断面図の縦方向の内径を示す直線に対する小さな図内キャプションである。]
「目方七匁四分。長サ、三寸五分。」
[やぶちゃん注:マナマコであろう。]
■「十番」 「凡《およそ》、二分ノ一。」
「北海道産」
[やぶちゃん注:図の上方の離れた位置に、くっきりとした「💧」型を引っ繰り返した、中抜け白の記号のようなものが、はっきりと見えるが、取り敢えず、汚損と採っておく(消さずに残しておいた)。
「十番」これは番付ではなく、(その9)に出た寸法で、そこに『四寸五分內外』とあるから、十三・六センチメートル内外。以下、同じ。実際に、以下の図では、大きさが小さくなっている。以下、本図の最後まで総て、マナマコ比定で採る。]
■「同」[やぶちゃん注:右横の図の「十番」を指す。]
「凡、二分ノ一。」
「諸國産。」
■「九番」 「凡、二分ノ一。」
「凡、二分ノ一。」
[やぶちゃん注:これ以下、本図の最後まで産地を示さない。
「九番」は同じく(その9)に『四寸內外』とあるので、十二・一センチメートル内外。]
■「八番」 「凡、二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「八番」は同じく『三寸五分內外』とある。十・六センチメートル内外。]
■「七番」 「二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「七番」は同じく『三寸內外』で、九センチメートル内外。]
■「小七番」 「二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「小七番」は(その9)にはない。『七番【三寸內外。】、六番【二寸五分內外。】』であったから、凡そ、七・九から八・七五センチメートル辺りか。]
■「六番」 「二分ノ一。」
[やぶちゃん注:以上から、七・五六センチメートル内外。]
■「五番」 「凡、二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「五番」は『二寸內外』で、六・〇六センチメートル内外。]
■「四番」 「二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「四番」は『一寸五分內外。』で、四・五五センチメートル内外。]
■「三番」 「二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「三番は『一寸餘』で、四・四から三・一センチメートル以下か。]
■「二番」 「二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「二番」は『一寸』であるから、三・〇三センチメートル。]
■「一番」 「二分ノ一。」
[やぶちゃん注:「一番」は一寸以内で、三・〇二センチメートル以下。]
■「無番」「疵付《きずつき》。」
[やぶちゃん注:描かれた製品個体は「七番」ほどの大きさであるが、頭部と後部で波型に捩じれている上、頭部の背面に匙状の白線が描かれている。これは、恐らく背部の表面が剝がれて内臓空間まで穴が開(あ)いているのであろう。更に、後部の左部分に「コ」の字型の大きな有意に欠損もある。個人的には、安い値段で売られるのだろうが、大きさから見て、多分、旨いはず。私なら、ホクホク顔で、買うね!]
■「同」 「ヨレコ」
[やぶちゃん注:前のものより、一回り、小さく、前の図とほぼ同じような捩じりがある。この「ヨレコ」は「撚熬海鼠(よれこ)」で、そうした、捩じれの生じた不良品を、かく、呼称しているものと見える。僕なら、これも「買い」だね!]
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