和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(6) 相畏
相畏 十九種
官桂與石脂 牙硝與三稜 川鳥頭草烏頭與犀⻆
丁香與欝金 硫黃與朴消 狼毒與密陀𰂬
[やぶちゃん字注:「𰂬」は「僧」の異体字。]
水銀與砒霜 巴豆與牽牛 人參與五靈脂
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相畏(さうい) 十九種
官桂《くわんけい》と石脂《せきし》と。
牙硝《がしやう》と三稜《さんりやう》と。
川烏頭《せんうす》と草烏頭《さうううず》と犀⻆《けいかく》《と》。
丁香《ちやうかう》と欝金《うこん》と。
硫黃《ゆわう》と朴消《ぼくしやう》と。
狼毒《らうどく》と密陀𰂬《みつだそう》と。
水銀(はらや)と砒霜《ひさう》と。
巴豆《はづ》と牽牛《あさがほ》と。
人參《にんじん》と五靈脂《ごれいし》と。
[やぶちゃん注:訓読では、総てを並置した。]
[やぶちゃん注:最初に断っておくと、「硫黃」を「いわう」ではなく、「ゆわう」と読んだことを述べておく。硫黄は現行の日本では、「いおう」と読んでいるが、本邦では、古くは「ゆわう」と読んでいたとされる。これに就いては、高圧洗浄機を始めとした専用工作機械を製作している「株式会社菅製作所」の公式サイト「AGUS」の「元素【硫黄】番号16・記号Sを詳しく知ろう!社会で役立つ化学の基礎知識」の「硫黄の歴史」の項で、『元素記号:S』『英語名:Sulfer』である『硫黄の語源は、二つの説があり、一つはラテン語で硫黄を意味する「sulpur」、もう一つはサンスクリット語で「火の元」を意味する「sulvere」です。発見については、紀元前と言われています』とあり、『ちなみに、日本語での「硫黄」の由来は、「湯黄(ゆおう)」がなまって言い伝えられ、「硫黄(いおう)」になったとされています。』とあるのである。而して、本「和漢三才圖會」の「卷六十一」の「雑石類」に「硫黃」があるのだが、早稲田大学図書館「古典総合データベース」の、私の底本と同じもので示すと、ここで、標題部に(推定訓読した。字配は、読み易くするために手を入れ、読みを一部に添えた)、
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ゆわう 石硫黃《せきいわう》 黃牙《わうが》
黃硇砂《わうどしや》 陽侯《やうこう》
硫黃 將軍
【和名、「由の阿和《ゆのあわ》」。】
リウ ハアン 俗、云ふ、「由王《ゆわう》」。
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とあり、「和名類聚鈔」の「卷一」の「水部第三」「河海類第十」にも(国立国会図書館デジタルコレクションの寛文七(一六六七)年板の当該部で推定訓読した)、
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流黃(ヲアハ/ユワウ[やぶちゃん注:右左のルビ。]) 「本草疏(《ほんざう》しよ)」に云《いは》く、『石流黃《いしいわう》、焚石《ふんせき》の液《しる》なり【和名「由《ゆ》の阿和《あわ》」。俗、云ふ、「由王《ゆわう》」。】』《と》。
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とある。以上から、良安は「硫黃」を「ゆわう」と訓じていると断じた。なお、東洋文庫訳でも、竹島氏も『ゆおう』と振っておられる。
「官桂」肉桂の異名。双子葉植物綱クスノキ目クスノキ科ニッケイ属ニッケイ Cinnamomum sieboldii 。詳しくは先行する「肉桂」を参照されたい。
「石脂」前の「肉桂」で注したが、引いておくと、ハロイ石(HALLOYSITE:ハロイサイト)。粘土鉱物の一種で、火山灰に含まれる硝子質成分より変質して生じたもの。電子顕微鏡下で観察すると、ボール状の形態を成す。本邦では、現在は岐阜県中津川市八幡産のものが知られる。
「牙硝」「馬牙硝」(ばがしょう)の異名。硫曹石を再結晶させて精製した、天然の硫酸ナトリウムの水和物。「芒硝(ぼうしょう)」とも呼ぶ。漢方薬では乾燥させた硫酸ナトリウムが便秘の際の便の軟化に用いられており、また、「おでき」や湿疹による炎症を鎮静させる効果も認められる。「和漢三才図会巻第四十(末) 獸之用 角(つの)」で注したことがある。
「三稜」単子葉植物綱イネ目カヤツリグサ科ウキヤガラ(浮矢幹)属ウキヤガラ Bolboschoenus fluviatilis の塊茎の表皮を剝いで乾燥させたもの。漢方で通経・催乳薬等に用いる。当該ウィキによれば、『北海道から九州までの浅い池の周辺部等に生える。ウキヤガラの名は、浮き矢幹であり、真っすぐに伸びる花茎に由来するものである。その他、朝鮮、中国、北アメリカに分布する』とある。よく見かける野草である。
「川烏頭」「藥品(1)」で既出既注。そのまま移す。「烏頭」は猛毒で知られるモクレン亜綱キンポウゲ(金鳳花)目キンポウゲ科トリカブト(鳥兜・草鳥頭)属 Aconitum を指す。種にもよるが、致命的な毒性を持ち、狩猟や薬用に利用されてきた歴史がある。この「川烏頭」は四川省の栽培品名とされる。
「草烏頭」同じくトリカブト(モクレン亜綱キンポウゲ目キンポウゲ科トリカブト属 Aconitum )のトリカブト類の若い根。猛毒で、殺虫・鎮痛・麻酔などの薬用に用いられる。「そううず」「いぶす」とも言う。
「犀⻆」「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 犀(さい) (サイ)」の私の注を見られたい。
「丁香」先行する「植物部 卷第八十二 木部 香木類 丁子」の私の注を見られたい。
「欝金」ウコン属ウコン Curcuma longa 。熱帯アジア原産であるが、十五世紀初めから十六世紀後半の間に、沖縄に持ち込まれ、九州・沖縄地方や薬草園で薬用(根)及び観葉植物として栽培された。
「朴消」ブログ「細野薬室 細野漢方薬局」の「芒硝について 第31話」に、
《引用開始》
生薬の長い歴史の中で、同名異物・異物同名の物を時折見かけますが、この芒硝もその一つに数えられます。後漢の頃に成立した本草書の「名医別録」には「芒硝」として記載されていましたが、最古の本草書である「神農本草経」には「朴消」と言う生薬名で記載されていました。そして、明代(16世紀)に李時珍が記した「本草綱目」で芒硝と朴消は同一の物とされました。両者の差は純度の問題であるとしたのです。
天然の芒硝を煮て溶かし濾過し、濾液を冷却後析出してきた結晶を芒硝といい、下層に析出してきた物を朴消であるとされています。一般に、朴消は不純物を多く含むので朴消の方が良品であるとされています。
主成分は、硫酸ナトリウムで他に微量の塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムおよび硫酸カルシウムなどの無機塩が含まれています。
奈良の正倉院には芒硝が現存しており、1200年を経た現在も風化せず灰褐色の柱状結晶を保っています。ただ、成分を調べたところ硫酸ナトリウムではなく硫酸マグネシウムであったとのことでありました。
芒硝は、本草学的には鹹(塩からい)・苦で大寒の性質があります。鹹は、固い物を和らげる性質があるとされ、苦は下に引き下ろす、例えば瀉下作用があることを意味します。また、大寒は冷やす作用が非常に強いと言うことを意味します。つまり、芒硝は熱が原因で体内で硬くなった大便を柔らかくし(科学的には大腸内の水分を増す作用があるとされている)、排泄を促していると考えられます。
東洋医学の古典の「傷寒論」には以下の条文があります。「陽明之為病、胃実家是也」。つまり、陽明病は裏位(身体の内部)に熱が充満していると言う病態を意味します。その結果、大腸が極度の乾燥状態になり硬くなるということです。
芒硝は同じく瀉下作用のある大黄と組んで瀉下作用が増強され、その結果、解熱することになります。代表的な処方に「大承気湯」や「調胃承気湯」があげられます。
大承気湯は、大黄・芒硝・枳実・厚朴の4味からなり、非常に強力な瀉下作用があります。細野史郎は、次男の高熱を大承気湯で解熱させました。何日も40度以上の高熱が続き柴葛解肌湯や大青竜湯でも解熱せず、当時師事していた新妻良輔先生に診ていただいて新続命湯と言う薬方を投与したがそれでも解熱しませんでした。そこで、死んでも構わないやと大承気湯をやるとオナラと一緒に大量の黒い大便が出て解熱したと言うことでした。死ぬか生きるかの瀬戸際の様な時に行く様な処方なのでしょう。細野の処方集にはありませんが、ツムラにはある様です。と言うこともあり、個人的には鳥頭湯と並んで非常に怖い薬方と言う印象があります。
《引用終了》
とあった。
「狼毒」「藥品(2) 六陳」の当該注を参照されたい。
「密陀𰂬」しょう氏のブログ「漢方生薬辞典」の「密陀僧」に、『鉛の溶解したところを鉄の棒でかき回し、鉄の棒に付着した鉛を冷水に浸してできる一酸化鉛(リサージ:Litharge)』(PbO)『を密陀僧という。かつては方鉛鉱から銀や鉛を精錬する際に炉の底に沈着した副産物であった』。『橙黄色の不規則な塊状で、くずれやすく、かすかに得意な臭いがある。この粉末は酸にもアルカリにも溶け、空気中に放置しておくと徐々に二酸化炭素を吸収して塩基性炭酸鉛(鉛粉)となる。薬理学的には皮膚真菌に対して抑制作用が知られている』。『漢方では消腫・殺虫・生肌の効能があり、痔、湿疹、腫れ物、潰瘍、腋傷、腋臭の外用薬として用いる。庁瘡、火傷、切傷、梅毒性皮膚病などの治療薬に鉛丹・瀝青などと配合した神力膏がある。』とあった。ウィキの「一酸化鉛」によれば(下線太字は私が附した)、『鉛と酸素の化合物』。『組成比は1:1で、別名は酸化鉛(II)』。『両性酸化物である。赤色・正方晶系で室温で安定なα型と、黄色・斜方晶系で300℃以上で安定なβ型がある。β型への転移温度は587℃だが、酸素分圧に依存する。α型の別称は密陀僧(みつだそう)・リサージ』、『β型の別称は金密陀(きんみつだ)・マシコット』(Massicot)『共に、鉱物としても産出する』。『金属鉛の加熱、硝酸鉛のアルカリ処理、または炭酸鉛の加熱で得られる』。『古代ローマ時代などから顔料として用いられており、中世からマシコットと呼ばれるようになった』。『また、クリスタル・ガラスの製造にも用いられる。 皮蛋(ピータン)の熟成を促進する黄丹粉』(「おうにこ」と読んでおく)『の主成分も一酸化鉛である』。『セラミックス、ゴムの加硫』(かりゅう:硫黄を用いて材料に架橋を起こす製法。加硫を行うと、原材料に架橋反応が起こり、原材料の化学性質が変わる。以上は当該ウィキに拠った)に用いる。現代では、『鉛中毒を起こすので、顔料や皮蛋(ピータン)などでは使われなくなってきている』。『ただし、皮蛋の無鉛製品と命名されて、黄丹粉を使用していないとした製品にも』、その実、『鉛が使われている場合が指摘されている』と注意喚起がなされてある。
「水銀(はらや)」「藥品(1)」の複数の私の注を参照されたい。
「砒霜」猛毒の砒素を含む有毒の鉱物。砒霜石。砒石。同じく、しょう氏のブログ「漢方生薬辞典」の「砒石」に、『ヒ素を含む生薬には雄黄、雌黄、砒石、砒霜、石譽などがある。砒素の「砒」とは天然に産する無水亜ヒ酸(三酸化ヒ素)の砒華鉱石、つまり砒石のことである』。『しかし、現在では硫化物の鶏冠石やヒ化鉱物の石譽(硫砒鉄鉱:FeAsS)などを加工したものが砒石として用いられている。また砒石を昇華させて精製したものは砒霜という。無水亜ヒ酸』(As2O3:三酸化二砒素・三酸化砒素とも呼ばれる)『は単に亜ヒ酸とも呼ばれ、これは細胞を変成、壊死させる細胞毒で、内服すれば胃腸に出血性炎症を生じ、肝障害や腎障害、皮膚にヒ素疹などをひきおこす』。『致死量は約』0.1グラム『であり、急性中毒ではコレラ様の胃腸症状、筋肉痙攣をおこし、昏睡となり、死亡する。慢性中毒では食欲不振、皮膚の色素沈着や白斑、抹消神経障害や頭痛などがみられる。また発癌性物質として取り扱われている』。『かつてヒ素化合物のサルバルサンが水銀に代わる駆梅薬としてよく知られていた。ヒ素をごく微量だけ飲むと体力がつき、女性は肌が美しくなるという説もあり、アジア丸などが強壮薬として用いられたこともあった』。『漢方では性味は辛酸・熱・大毒で、去痰・抗瘧・殺虫・去腐の効能がある。おもに痔や瘰癧(頸部リンパ腺腫)、歯槽膿漏、皮膚潰瘍などの外用薬として利用された。内服では』、『ごく微量を慢性気管支炎やマラリアに用いる』とあった。
「巴豆」「卷第八十三 喬木類 巴豆」の私の注を見られたい。
「牽牛」お馴染みのナス目ヒルガオ科ヒルガオ亜科 Ipomoeeae 連サツマイモ属アサガオ Ipomoea nil の種子の生薬名。黒色を呈するものと、白いものがあり、それぞれ、「黒牽牛子」「白牽牛子」と呼ぶ。両者の効能は変わらないが、古くは「白牽牛子」を尊んだ。今日では黒種子の方がよく用いられている。「譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(14)」の私の「黑牽牛子」の注を見られたい。
「人參」朝鮮人参。セリ目ウコギ(五加木)科トチバニンジン(栃葉人参)属オタネニンジン(御種人蔘) Panax ginseng 。
「五靈脂」中国に棲息する哺乳綱齧歯目リス亜目リス科リス亜科 Pteromyini 族ムササビ属 Petaurista の糞を基原とした生薬。「金澤 中屋彦十郎藥局」公式サイト内のこちらによれば、『成分としてはビタミンA類、その他で』、『炒りながら』、『酢や酒を加え、乾燥したものがよく用いられる』。『かつては解毒薬として蛇、ムカデ、サソリ等に咬まれたときに外用した』とある。]
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