河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(四)乾鮑の說(その2)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの右ページから。]
夫(そ)れ、鮑は、往古、種々の製法ありて、「延喜式」に載する所(とこ)ろ、豐後、筑前、隱岐、阿波、肥前に『御取鮑(おとりあはび)』あり。志摩に、『雜鰒(ざうあはび)』、『烏子鰒(とりこあはび)』、『都々伎鰒(つゞきあはび)』、『放耳鰒(み﹅はなてるあはび)』、『著耳鰒(につきあはび)』、『長鰒(ながあはび)』あり。安房(あは)に『丸鰒(まるあわび[やぶちゃん注:ママ。以下、幾つかあるが、注はしない。])』あり。相摸、隱岐、阿波、伊豫、肥前に『短鰒(みじかあはび)』あり。上總(かづさ)、出雲、常陸、紀伊、佐渡、阿波に『鰒(すしあはび)』あり。出雲、石見、長門、肥前、日向に『薄鮑(うすあはび)』あり。若狹に『鮑耳鮨(あはびのみ﹅すし)』あり。阿波、肥前に『鮨鰒(すしあはび)』あり。豐後、筑前、肥前に『羽割鰒(はわりあはび)あり。豐後に『葛貫鰒(くずぬきあはび)』あり。豐後に『蔭鰒(かげあはび)』、『鞭鰒(むちあはび)』、『腐耳鰒(くたしみ﹅あはび)』あり。肥前に「腹漬鰒(はらづけあはび)」あり。筑前に『陰鰒(かげあはび)』、『火燒鰒(ひやきあはび)』あり。肥前、肥後に『熬海鰒(いりうみあはび)』あり。豐後に『耽羅鰒(たんらあはび)』、『短七鰒(たんしちあわび)』、『堅鰒(かたあはび)』あり。是れ、皆、內膳、大膳、神祇(じんぎ)の三大式に供する所の貴重の食品にて、天智天皇の時、大甞會(だいしやうゑ[やぶちゃん注:清音「し」はママ。])の御饌(ぎよせん)に供したること、「日本書紀」に載せたり。而(しか)して、以上、各種の製法の如きは、「本朝食鑑」に詳かなるを以て、茲に畧す。
[やぶちゃん注:最後は! きたねえゾ! 河原田! 「本朝食鑑」に丸投げカイ!
『「延喜式」に載する所(とこ)ろ、……』「古事類苑全文データベース」の「動物部/介下」の「鰒産地」で「延喜式」から電子化されたもの(二部)があったので、転写(正字不全があるのはママである)する。まず、『〈二十四/主計〉』から。
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相摸國〈◦中略〉中男作物、〈(中略〉短鰒〈◦中略〉
安房國〈◦註略〉調、〈◦中略〉鳥子鰒、都都伎鰒各廿斤、放ㇾ耳鰒亠ハ十亠ハ斤四兩、著(ツケル)ㇾ耳鰒八十斤、長鰒七十二斤、〈◦中略〉
若狹國〈◦註略〉調、絹、薄鰒、〈◦中略〉
佐渡國〈◦中略〉中男作物、布、鰒、〈◦中略〉
出雲國〈◦註略〉調、〈◦註略〉鰒廿四斤〈◦中略〉
石見國〈◦中略〉中男作物、〈◦中略〉薄鰒、〈◦中略〉
隱岐國〈◦註略〉調、御取鰒、短鰒、〈◦中略〉
長門國〈◦中略〉調、〈◦中略〉雜鰒〈◦中略〉中男作物、〈◦中略〉薄鰒、〈◦中略〉
紀伊國〈◦註略〉調、〈◦註略〉鰒〈◦中略〉
阿波國〈◦中略〉調、〈◦中略〉御取鰒二百斤、細割鰒三百卅三斤、横串鰒卅九斤、〈◦中略〉
伊豫國〈◦中略〉調、〈◦中略〉長鰒卅六斤、短鰒三百卅斤、〈◦中略〉
筑前國〈◦註略〉調、〈◦中略〉御取鰒二百亠ハ十斤、羽割鰒六斤、葛貫鰒一百八斤、蔭鰒一百卅五斤、鞭鰒廿四斤、 腐耳鰒一百八十二斤、〈◦中略〉
庸、〈◦中略〉腐耳鰒、鮨鰒腸漬、鰒鮨、〈◦中略〉
肥前國〈◦註略〉調、〈◦中略〉御取鰒三百六十四斤、短鰒五百卅四斤、長鰒廿四斤、羽割鰒廿四斤、〈◦中略〉
肥後國〈◦註略〉調、〈◦中略〉躭羅鰒卅九斤、〈◦中略〉
豐後國〈◦註略〉調、〈◦中略〉御取鰒五十二斤、短鰒七十二斤、蔭鰒卅斤、羽割鰒十二斤、葛貫鰒十二斤、躭羅鰒
十八斤、〈◦中略〉
日向國〈◦註略〉調、〈◦中略〉薄鰒、〈◦中略〉
壹岐島〈◦註略〉調、〈◦中略〉薄鰒、
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次に『〈三十九/内膳〉』から。
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諸國貢進御贄〈中宮准ㇾ此〉
旬料〈◦中略〉志摩國御厨鮮鰒螺起二九月一盡二明年三月一、月別上下旬各二擔、味漬腸漬蒸鰒、玉貫、御取、夏鰒等、月別揔五擔、〈◦中略〉
年料〈◦中略〉
太宰府〈御敗鰒四百五十九斤五裹、短鰒五百十八斤十二裹、薄鰒八百五十五斤十五裹、陰鰒八十六斤三裹、羽割鰒卅九斤一裏、火燒鰒三百卅五斤四裹、已上調物、(中略)鮨鰒一百八斤三缶、腸漬鰒二百九十六斤九缶、甘腐鰒九十八斤二缶、已上中男作物、◦中略〉
右諸國所ㇾ貢、並依二前件一、仍收二贄殿一擬二供御一、〈◦下略〉
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このうち、後者の「志摩國御厨鮮鰒螺起二九月一盡二明年三月一、月別上下旬各二擔、味漬腸漬蒸鰒、玉貫、御取、夏鰒等、月別揔五擔、」が着目される。「本朝食鑑」でも、これ他を引いて(国立国会図書館デジタルコレクションの元禄一〇(一六九七)年板の当該部はここの左丁の四行目下方から)後、最後の六行目で、
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是レ乾醃糟ノ類カ
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と推定している。補正推定訓読すると、
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是れ、乾(ほし)・醃(しほづけ)・糟(かすづけ)の類(たぐひ)か。
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と言っているようである。なお、所持する東洋文庫版「本朝食鑑」(島田勇雄訳注)の訳では、『味漬・腸漬・蒸鰒・玉貫(たまぬき)・御取(みとり)・夏鰒』と部分ルビがある。
「味漬」は「あぢつけ」で、アワビを塩・醬油等で塩蔵・味漬けしたもの
「腸漬」は「わたづけ」で、アワビの腸(わた)と肉を合わせて漬けたもの
「蒸鰒」は「むしあはび」で、「蒸しアザビ」
「夏鰒」は「なつあはび」で、夏場に採取した旬の物(通常のアワビ類は七月から九月。エゾアワビは冬(十一月から三月))
であろうと思われる。「玉貫(たまぬき)」・「御取(みとり)」については、「海士潜女神社(あまかづきめじんじゃ)」(三重県鳥羽市国崎町のここ)公式サイト内の「熨斗鰒(のしあわび)」のページに、この神社から南東直近にある「伊勢神宮調進所」で伊勢神宮へ献上する熨斗鰒が『大身取鰒(おおみとりあわび)・小身取鰒(こみとりあわび)・玉貫鰒(たまぬきあわび)・乾鰒(ほしあわび)・乾栄螺(ほしさざえ)を』『調整』するとあった。多くの作業写真があるが、どれがそれなのかは、指示されていない。少なくとも、本書の食用製品の名ではないことが、これで判ったので、不満は、全く、ない。
『以上、各種の製法の如きは、に詳かなるを以て、茲に畧す。』ムッツとしていてもショウがねえから、見てみたが、以上のアワビを加工した「料(りょう)」(神饌も含まれているの「(食)製品」とはしない)の各呼称は、ただ載っているだけで、それに就いての製法なんぞは、一切、書かれていないぜ! 河原田さんよ!!! なお、二〇二一年に全電子化注した「日本山海名産図会」の中に、「第三巻 目録・伊勢鰒」があり、以上の「志摩」のそれは、そちらの「伊勢鰒【長鮑(のし) 附 真珠】」が、ある程度、援用出来るものとは思う。]
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