和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(14) 飮食禁忌
[やぶちゃん注:以下、早稲田大学図書館「古典総合データベース」で見て貰うと判る通り、本文は、良安の評言の前の最後「河豚」の一行を除いて、第一部が、二つの項目で一行で空欄を設けて記載されてあるのだが、無駄に空けると、ブラウザの不具合が生じるので、原文の部は引き上げて、独立の一文とした。
本篇は、特定の飲食に際して、同時に合わせて食べてはいけない禁忌となる食物を記したものである。本邦で言うところの、所謂、「食い合わせ」に相当するものである。今までと同様に漢方学的なものは注を附すが、漢字で判る動植物(言うまでもないが、メイン部分は、今までと同じ、基本は「本草綱目」を中心とした中国の本草書からのものである)は、中国と日本で異なるもの場合のみとする。]
飮食禁忌【如牛馬羊犬者本朝人不食故省故不記之】
雞肉 忌蒜葱芥末糯米鯉野雞
沙餹 忌鯽魚笋
[やぶちゃん注:「鯽」は、原本では、「魚」が「𩵋」、(つくり)の中央部の最初の一点が存在せず、下部は「ヒ」ではなく、縦画の中央右に二つの「―」が突き出している。しかし、そのような異体字は存在しないので、「鯽」の字で示した。]
雉肉 忌蕎麥木耳胡桃鯽鮎魚
蕎麥 忌雉𮌇猪𮌇
螃蠏 忌荊芥柿橘軟棗
木耳 忌雉𮌇野鴨
鰕子 忌鷄𮌇猪𮌇
芥子 忌鯽雞鼈兎
綠豆 忌榧子殺人又忌鯉魚鮓
乾笋 忌沙餹鱘魚
胡桃 忌野鴨雉及酒
批杷 忌熱麪
胡蒜 忌魚鱠魚鮓鯽魚雞
桃子 忌鼈𮌇
鼈𮌇 忌莧菜薄荷芥菜桃雞子
銀杏 忌鰻鱺
鯽魚 忌芥末蒜餹雞雉
楊梅 忌生葱
魚鮓 忌豆藿麥醬蒜緑豆
慈姑 忌茱萸
河豚 忌煤炲荊芥防風菊花桔梗甘草烏頭附子
△按今人食鷄𮌇多入葱蒜爲臛呼名南蠻
又有食鯽鱠胡葱蒜和芥醋者
又有食野鴨臛木耳椎茸之類者呼名𤎅鳥
本草所謂鯽與芥菜同食成腫疾雞與生葱同食成蟲
痔然則雖急不有害好食之者甚不可
相傳蕎麥與西瓜同食煩悶多至死又鰻鱺浸醋乃鰻鱺
膨張於腹中故使人煩悶也蓋西瓜似水而速降故先
西瓜後蕎麥則無害乎今人毎炙鰻鱺合蓼醋食之亦
無害多食則必損人至死者有之
*
飮食≪の≫禁忌【牛・馬《むま》・羊・犬のごときは、本朝の人、食≪せ≫ず。故《ゆゑ》、省《はぶき》て、之≪を≫記《しる》さず。】
雞《にはとり》≪の≫肉 蒜《にんにく》・葱《ねぎ》・芥《からし》の末《まつ》[やぶちゃん注:粉末。]・糯米《もちごめ》・鯉《こひ》・野-雞(きじ)を忌《いむ》[やぶちゃん注:以下、全部同じであるが、面倒なので「忌む」で示す。]。
沙餹《さたう》 鯽魚《ふな》・笋《たかんな/たけのこ》を忌む。
雉肉《きじにく》 蕎麥《そば》・木耳《きくらげ》・胡桃《くるみ》・鯽《ふな》・鮎魚《なまづ[やぶちゃん注:要注意! 「あゆ」ではない! 後注参照!]》を忌む。
蕎麥 雉肉・猪肉《ゐのこにく》を忌む。
螃蠏(かに)[やぶちゃん注:広義のカニ。] 荊芥《けいがい》・柿《かき》・橘《いつ》・軟-棗《なつめ》を忌む。
木耳(きくらげ) 雉《きじ》𮌇・野-鴨(かも)を忌む。
鰕子(えび[やぶちゃん注:この場合は「子」は「小」で、中国語で、比較的小さなエビ、或いは、製品としての干しエビを指す。]) 鷄𮌇《けいにく》・猪𮌇《ゐのこにく》を忌む。
芥子(からしのこ) 鯽・雞・鼈《すつぽん》・兎《うさぎ》を忌む。
緑豆(ぶんどう) 榧《かや》の子《み》≪を≫忌む。人≪を≫殺《ころす》。又、鯉-魚-鮓《こひのすし》を忌む。
乾笋《めんま》 沙餹・鱘魚《てふざめ》を忌む。
胡桃(くるみ) 野-鴨《かも》・雉、及《および》、酒を忌む。
批杷《びは》 熱-麪《ねつめん》[やぶちゃん注:汁の熱い麺類物。]を忌む。
胡(にんにく) 魚-鱠(なます)・魚《うを》の鮓《すし》・鯽魚・雞を忌む。
桃の子《み》 鼈《すつぽん》の𮌇を忌む。
鼈-𮌇《すつぽん≪のにく≫》 莧-菜(ひゆ≪な≫)・薄荷《はつか》・芥-菜(からし)・桃・雞子《けいらん》を忌む。
銀杏《ぎんあん[やぶちゃん注:ママ。]》 鰻-鱺(うなぎ)を忌む。
鯽-魚《ふな》 芥《からし》の末《まつ》・蒜《にんにく》・餹《さたう》・雞《にはとり》・雉を忌む。
楊梅(やまもゝのみ) 生《なま》≪の≫葱《ねぎ》を忌む。
魚鮓(《うを》のすし) 豆-藿(まめのは)・麥-醬(しやうゆ)・蒜《にんにく》・緑豆《りよくたう》を忌む。
慈姑(くわい) 茱萸(ぐみ)を忌む。
河豚(ふくとう[やぶちゃん注:江戸時代のフグの呼称の一つ。]) 煤-炲(すす)・荊芥《けいがい》・防風《ばうふう》・菊花《きくくわ》・桔梗《ききやう》・甘草《かんざう》・烏頭《うず》・附子《ぶす》を忌む。
△按ずるに、今≪の≫人、鷄𮌇《けいにく》を食し、多《おほく》、葱《ねぎ》・蒜《にんにく》を入《いれ》て、臛(にもの)と爲《なし》、呼んで、「南蠻煑《なんばんに》」と名《なづ》く。
又、鯽-鱠《ふなのなます》を食≪ふと≫、胡-葱(あさつき)・蒜《にんにく》を芥-醋《からしず》を和《まぜる》者、有《あり》。
又、野-鴨(かも)の臛《あつもの》を食≪ふに≫、木耳《きくらげ》・椎茸の類《たぐゐ》を入《いれる》者、有り、呼《よん》で、「𤎅鳥(いりとり)」と名《なづ》く。
「本草≪綱目≫」に、所謂《いはゆ》る、『鯽《ふな》と芥菜《からしな》を同《おなじく》食へば、腫疾《しゆしつ》を成《しやう》ず』、『雞《にはとり》と生葱《なまのねぎ》を同《おなじく》食へば、蟲痔《ちゆうじ》と成《な》る』と云《いふ》[やぶちゃん注:「云」は送り仮名にある。]。然《しか》れば、則《すなはち》、急に≪は≫、害、有らずと雖も、好んで、之れを食ふは、甚《はなはだ》、不可なり。
相傳《あひつた》ふ、「蕎麥《そば》と西瓜《すいか》と、同食すれば、煩悶して、多《おほく》、死に至る。」≪と≫。又、「鰻鱺《うなぎ》を醋《す》に浸《ひた》せば、乃《すなはち》、鰻鱺、腹≪の≫中に膨張す。」≪と≫。故《ゆゑ》、人をして煩悶せしむなり。蓋し、西瓜は、「水《すい》」[やぶちゃん注:五行の「水」であるので、音で読んだ。]に似て、速《すみや》かに、降《くだ》る。故《ゆゑ》、西瓜を先にし、蕎麥を後にする時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則《すなはち》、害、無きか。今の人毎《ごと》に、鰻鱺に《✕→を》炙《あぶ》り[やぶちゃん注:一・二点はないが、脱落と断じて、返して訓読した。]、蓼醋(たです)を合《あはし》て、之≪れを≫食へども、亦、害、無し。≪但し、≫多《おほく》食へば、則《すなはち》、必《かならず》、人を損ず。死に至《いたる》者、之《これ》、有《あり》。
[やぶちゃん注:「牛・馬《むま》・羊・犬のごときは、本朝の人、食≪せ≫ず。」本邦では、永く、農耕に使うもの、家畜、及び、縄文以降、猟犬としていた犬(縄文人は亡くなった犬を丁重に埋葬している。これを最初に発見したのは、父が石器・土器研究を直接に指導して下さった考古学者酒詰仲男先生である。先生については、私のサイト「鬼火」のホームページに、『落葉籠――昭和22(1947)年群馬県多野郡神流川流域縄文遺跡調査行ドキュメント――日本考古学の「種蒔く人」酒詰仲男先生の思い出に藪野豊昭(画像附word文書 18MB)』があり、先生は、詩人でもあられ、同じ場所に『土岐仲男詩集「人」 附やぶちゃん注』もあるので、是非、読まれたい。)等は、基本、一般人の食の対象ではなかった(古代から野生の鹿・猪は普通に食された。また、武士が台頭してくると、彼らの間で「珍味」として好んで食われた事実はある)。特に仏教伝来以後、殺生戒によって忌避されるようになった。但し、江戸時代まで、「藥食ひ」と称して、一般庶民が獣肉を食うことがあったことは御存知であろう。ウィキの「日本の獣肉食の歴史」は、問題なく、細部も、よく書けている方なので、見られたい。なお、「馬《むま》」の訓は、「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 野馬(やまむま) (モウコノウマ或いはウマ)」の読みを採った。
「鯉」私のサイト版「和漢三才圖會 卷第四十八 魚類 河湖有鱗魚」の冒頭の「鯉」を見られたいが、これは、初版が二〇〇七年で、実は、二〇〇八年に馬渕浩司氏が、論文「mtDNA 解析により暴かれたコイ外来系統の隠れた大規模侵略」によって、日本在来コイと、大陸由来のコイがいることが明らかになった。詳しくは、「国立環境研究所」公式サイト内の馬渕先生の「DNAが語る日本のコイの物語 特集 日本の自然共生とグローバルな視点 【研究ノート】」を見られたい。
「野-雞(きじ)」中国と本邦では、種が異なる。「和漢三才圖會第四十二 原禽類 野鷄(きじ きぎす)」の私の冒頭注を参照されたい。
「沙餹」砂糖に同じ。
「鯽魚」「和漢三才圖會 卷第四十八 魚類 河湖有鱗魚」の「鯉」の次の「鮒 ふな」を見られたい。但し、フナ属の分類は非常に難しいことが知られており、そこでは、総てをリストしていないので、取り敢えず、ウィキの「フナ」をリンクさせておく。日中で同一種ではないかとされる種、日本固有種、及び、中国・日本には自然棲息はしない条鰭綱骨鰾上目コイ目コイ科コイ亜科フナ属ヨーロッパブナ Carassius carassius(但し、中国のフナ養殖では大半が本種である)がいる。
「鮎魚《なまづ》」「和漢三才圖會 卷第五十 魚類 河湖無鱗魚」の冒頭の「鮎 なまづ」、及び、以下に続く各種で、散々ぱら、問題にしたが、知られた「瓢鮎圖」で知られる通り、
中国では――「鮎」及び「鮧」は――ナマズ目ナマズ科 Siluridae のナマズを指す
のである。
「荊芥」「薑芥(きやうがい)」とも。中国の本草書「神農本草経」(「鼠實」)や東洋文庫訳の割注(「めづみ草」)によれば、シソ目シソ科イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifolia のこととなる。ウィキの「ケイガイ」によれば、『薬用植物』とし、『中国原産の草本で花期は初夏から夏』。『花穂は発汗、解熱、鎮痛、止血作用などがあり、日本薬局方に生薬「荊芥(ケイガイ)」として収録されている。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方方剤に配合される。「アリタソウ」という別名がある。ただし、本種はシソ科であり、アカザ科のアリタソウとは全く別の物である』とある。
「橘《いつ》」何度も注してきたが、「卷第八十七 山果類 橘」の注で言った通りで、「橘」は中古・近世までの中国では、双子葉植物綱ムクロジ(無患子)目ミカン科ミカン亜科ミカン連ミカン亜連ミカン属 Citrus 、或いは、その上位のタクソンに含まれる、広義のミカン類を総称するものであって、特定種に限定することは出来ないのである。なお、これを和名の「たちばな」とやらかしたら、一発退場なのだ。ミカン属タチバナ(橘) Citrus tachibanaは日本固有種だからである。
「軟-棗」「卷第八十六 果部 五果類 棗」を見られたい。音の歴史的仮名遣では「カンサウ」ではあるが、如何にも佶屈聱牙なので、特異的に訓じた。
「木耳(きくらげ)」菌界担子菌門真正担子菌綱キクラゲ目キクラゲ科キクラゲ属キクラゲ Auricularia auricula-judae (当該ウィキによれば、学名の『属名はラテン語の「耳介」に由来する。種小名は「ユダの耳」を意味し、ユダが首を吊ったニワトコ』(マツムシソウ目レンプクソウ科ニワトコ属セイヨウニワトコ Sambucus nigra であろう)『の木からこのキノコが生えたという伝承に基づく。英語でも同様に「ユダヤ人の耳」を意味するJew's earという。この伝承もあってヨーロッパではあまり食用にしていない』とある)。既に述べたが、種小名は差別学名の臭いが濃厚で、私は変更すべきものと考えている。
「芥子(からしのこ)」フウチョウソウ(風蝶草)目アブラナ目アブラナ科アブラナ属セイヨウカラシナ変種カラシナ Brassica juncea var. cernua であるが、この良安の「のこ」のは、思うに草体を乾して粉砕した「粉(こ)」の意であろうと思われる。
「緑豆(ぶんどう)」双子葉植物綱マメ目マメ科マメ亜科ササゲ属ヤエナリ Vigna radiata の種子の名である。「維基百科」の同種は「绿豆」である。要は、我々が食べている「もやし」の種だ! 注することが貧しいので、当該ウィキを引いてお茶を濁しておく(注記号はカットした)。『食品および食品原料として利用される。別名は青小豆(あおあずき)、八重生(やえなり)、文豆(ぶんどう)。英名から「ムング豆」とも呼ばれる。アズキ ( V. angularis ) とは同属。 グリーンピースは別属別種のエンドウ』(マメ亜科エンドウ属エンドウ Pisum sativum )『の種子』。『インド原産で、現在はおもに東アジアから南アジア、アフリカ、南アメリカ、オーストラリアで栽培されている。日本では』十七『世紀頃に栽培の記録がある』。これには、注釈があって、『一時』、『日本では縄文時代にすでに渡来していたといわれていたが、現在では』、『この時代の遺跡からの出土種子はアズキ』(マメ亜科ササゲ属アズキ変種アズキ Vigna angularis var. angularis )『の栽培化初期のものとみなされており、リョクトウの縄文時代栽培は否定されている』とあった)。『ヤエナリは一年生草本、葉は複葉で』三『枚の小葉からなる。花は淡黄色。自殖で結実し、さやは』五~十センチメートル、『黄褐色から黒色で、中に』十~十五個『の種子を持つ。種子は長さが』四~五ミリメートル、『幅が』三~四ミリメートル『の長球形で、一般には緑色であるが』、『黄色、褐色、黒いまだらなどの種類もある』。『日本においては、もやしの原料(種子)として利用されることがほとんどで』、『ほぼ全量を中国(内モンゴル)から輸入している』。『中国では、春雨の原料にする』『ほか、月餅などの甘い餡や、粥、天津煎餅のような料理の材料としても食べられる。北京独特の飲料としてリョクトウからデンプンを採る際の上澄みを原料に、これを発酵させた豆汁がある』。中国の『凉粉』(りょうふん:北京の夏のおやつで、緑豆で作った「ところてん」状のものを切って、その上に酢・ニンニク・ゴマのペースト・醬油などをまぶして食べるもの)『の原料にも使われる』。『朝鮮半島では』十六『世紀前半の』韓国最古の調理書「需雲雜方」に、『リョクトウのデンプンを水溶きして加熱し、これを孔をあけたヒョウタンの殻に入れて、孔から熱湯にたらし麺状にして水にさらす食品が記載されている』。一六七〇『年頃の』朝鮮時代の張桂香撰になる料理書「飮食知味方」『では、同様な製法で麻糸のようにした食品を匙麺(サミョン)として記している。また、伝統的にリョクトウデンプンはネンミョンのつなぎとして利用されていた。 咸鏡道ではリョクトウのデンプンのみを使った』「押しだし麺」『がある。中国と同様に餡にするほか、水に漬けた上ですり潰したものを生地としてチヂミの一種ピンデトッにしたり、デンプンを漉しとってムㇰという寄せものにする。リョクトウから作ったムㇰをノクトゥムㇰ(ノクトゥ=緑豆)と呼び、特にクチナシの実で着色したものをファンポムㇰ、着色しないものをチョンポムㇰと呼ぶ。なお、朝鮮語ではこのリョクトウにちなんで、デンプンのことを一般的に「ノンマル」(녹말=綠末、「緑豆粉末」の略)と呼ぶ』。『香港やシンガポール、ベトナムでは、甘く煮て汁粉の様なデザート(広東料理の糖水、ベトナムのチェーなど)にすることが多く、それを冷やし固めたようなアイスキャンディーもある。リョクトウの糖水を緑豆湯または緑豆沙、リョクトウのチェーをチェー・ダウ・サイン(Chè đậu xanh)と呼ぶ』。『緑豆糕(りょくとうこう)と呼ばれる、木型に入れて成形した菓子は、ベトナムのハイズオン』(ここ。グーグル・マップ・データ)『や中国の北京、桂林などの名物となっている』。『インドやネパール、アフガニスタン、パキスタンでは、去皮して二つに割ったリョクトウをダール(豆を煮たペースト)にする。リョクトウと米を炊きあわせた米料理(キチュリなど)は、南アジアから中央アジアにかけて広く食べられている。南インドでは、ドーサに似たクレープ状の軽食ペサラットゥ』『が作られる』。『また、漢方薬のひとつとして、解熱、解毒、消炎作用があるとされる』。『リョクトウには、血糖値の上昇を抑制する効果のあるα-グルコシダーゼ阻害作用がある』とある。糖尿病歴十年になんなんとする私だから、せいぜい、「もやし」、食うかな。
「榧《かや》の子《みを》忌む。人≪を≫殺《ころす》」これは、「卷第八十八 夷果類 榧」にも記されてあるのだが、その時も調べたが、人を殺すまでの有毒性を持っているとする記載は何処にも見当たらなかった。しかし、例えば、貝原益軒の「養生訓」の「巻第一 總論 上」に、『○綠豆(ぶんどう)に榧子(かや)を食し合(あは)すれば人を殺す。』とあり、直ぐ後にも、『○和俗の云(いふ)、蕨粉(わらびこ)を餠とし、綠豆を「あん」にして食へば、人、殺す。』とあるので、よっぽど、「緑豆」には「食い合わせ」の最悪の限定反応性毒性があるものと考えられていたらしいなぁ……わけワカメだけど……。
「鯉-魚-鮓《こひのすし》」これは、強い酢でシメたものである。以下、「鮓」は同じ。老婆心乍ら、ゆめゆめ、日本の寿司を想起されぬように。
「乾笋《めんま》」日中辞典で「干笋」を見て読み振った。所謂、「メンマ」は、ミャンマー(ビルマ)北部から中華人民共和国南部や台湾にかけて分布する単子葉植物綱イネ目イネ科タケ亜科タケ連属マチク(麻竹)属マチクDendrocalamus latiflorus の筍(たけのこ)から作る。
「鱘魚《てふざめ》」東洋文庫訳では『かじき』とルビしてあるが、私は、完全な誤りであると断ずる。確かに、「和漢三才圖會 卷第五十一 魚類 江海無鱗魚」の「鱘 かぢとをし)」では、目録のヘッドでは、『[ハシナガチョウザメ/カジキ]』とは、した。しかし、私は、
『「本草綱目」の著者李時珍は、殆んど海辺に出向いて、海洋性魚類の観察なんぞは、全くしていなんだぞ? しかも、カジキだぞ!?! 俺は海洋生物フリークだけど、カジキの魚体の生体さえ、見たこと、ないんだぞ? おかしかねえか!?! そもそも、中国の圧倒的立地性は内陸なんだ! こいつは、海性魚類じゃねえんじゃないか? そもそも、この巻は「無鱗魚」だぞ? ヘンだべ!!!――鱗あるけど、ないようにも見える淡水魚!――いるぞ! いるぞッツ!――チョウザメだよ!
と気づいたのだ!
以下、私が、そちらの注で述べた決定打を引く。
*
これについては、本ページを読まれた「釜石キャビア株式会社」というところで、チョウザメに係わるお仕事に従事しておられるY氏から、二〇〇八年六月六日、この「かじとうし」の絵は、長江に生息するハシナガチョウザメであると考えらるというメールを頂戴した(リンク先は私のブログ記事)。以下に、メール本文の一部を引用する。
◇〔引用開始〕
「かじとうし」の絵、長江に生息します、ハシナガチョウザメと考えられます。チョウザメの仲間の中では特異な姿をしており、口に歯がはえております(チョウザメ類には歯が無い)。現在、長江でも絶滅したと考えられ、わずかな尾数を中国政府が保護飼育しております。添付図は中国のハシナガチョウザメの切手でございます。
◇〔引用終了〕
私は本ページで「鱣」・「鱘」・「鮪」にチョウザメの影を感じてきてはいたのであったが、メールを頂いた当初は、これは良安がオリジナルに描いたのだから、幾ら何でも当然、海産のスズキ目メカジキ科 Xiphiidae 及びマカジキ科 Istiophoridae の二科に属する魚(カジキマグロとは通称で正式和名ではない)の絵であるだろうと思っていたのだが、そのように言われて、よく見ると、これは時珍の「本草綱目」の「鱘魚」の叙述に従って、頬に星の模様まで入れて描いた想像図、カジキの実見描画ではなかったのである。これは、もう、間違いなく、Y氏の指摘された、英名“ Chinese swordfish ”、硬骨魚綱条鰭亜綱軟質区チョウザメ目ヘラチョウザメ科ハシナガチョウザメ属の異形種であるハシナガチョウザメ(古くはシナヘラチョウザメと呼称した) Psephurus gladius の叙述と考えてよい。Y氏から提供して戴いた中国切手の画像も以下に示す。まさにチョウ! 極似じゃないか!
私は、何時か、このY氏を釜石に訪ねし、親しくお逢いしたく思っていた。しかし、二〇一一年の大震災で被災され、ネットで調べても、「釜石キャビア株式会社」はサイトがなくなっていた。痛恨の極みであった。どこかで、再起され、チョウザメを飼育されておられることを心から祈っている……。
*
この経験は、当時の私にとって、最大の自信となったのだ。実際、私の以上の記載は、後に、さる学術論文に引用されたのである。私がデジタル・クリエーターとしての本当の一歩は、芥川龍之介ではなく、この引用だったのだと、今、思い至ったのであった。
「莧-菜(ひゆ≪な≫)」既注だが再掲すると、「莧」の音は「カン」。これは、
双子葉植物綱ナデシコ目ヒユ科 Amaranthaceae 、及び、その近縁種の総称
である。食用になる。中でもよく知られるものに、私の家の庭にもある、
ナデシコ目スベリヒユ科スベリヒユ属スベリヒユ Portulaca oleracea
がある。夏に全草を採って根を除き、水洗いして日干し乾燥したものは生薬になり、馬歯莧(ばしけん)と称されている。民間薬として、解熱・解毒・利尿や、虫刺されに効用があるとされる。
「楊梅(やまもゝのみ)」「卷第八十七 山果類 楊梅」を見よ。
「豆-藿(まめのは)」この熟語は広く、「豆の葉」の意の他に、「藿」が「藿香」(カッコウ)というシソ科の多年草を基原とする漢方の意味がある。後者は既に「藥品(1)」で詳注してあるが、「豆」と頭につけているので、後者とはうまく合わないから、前者の「食用とするマメ科の葉」の一般通称と採ってよい。
「慈姑(くわい)」これは、一言では言えない。良安が具体な植物体を致命的に同定誤認しているからである。「卷第九十一 水果類 慈姑」の迂遠な私の注を見られたい。
「茱萸(ぐみ)」これも、ちと、厄介。バラ目グミ科グミ属 Elaeagnus のグミ類ではないからである。「第八十九 味果類 蜀椒」の「茱萸《しゆゆ》」の私の注を、必ず、見られたい。
「河豚(ふくとう)」現代中国語ではイルカをも指すが、ここは、フグでよい。
「煤-炲(すす)」中国語で、「煤」(すす)、「煙の中に含まれる黒い微粒子」の意。
「荊芥」「薑芥(きやうがい)」とも。中国の本草書「神農本草経」(「鼠實」)や東洋文庫訳の割注(「めづみ草」)によれば、シソ目シソ科イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifolia のこととなる。ウィキの「ケイガイ」によれば、『薬用植物』とし、『中国原産の草本で花期は初夏から夏』。『花穂は発汗、解熱、鎮痛、止血作用などがあり、日本薬局方に生薬「荊芥(ケイガイ)」として収録されている。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方方剤に配合される。
「防風」セリ目セリ科ボウフウ属ボウフウ Saposhnikovia divaricata の根及び根茎を乾燥させた生薬名。但し、本種は中国原産で本邦には自生はしない。
「烏頭」「烏頭」は猛毒で知られるモクレン亜綱キンポウゲ(金鳳花)目キンポウゲ科トリカブト(鳥兜・草鳥頭)属 Aconitum を指す。種にもよるが、致命的な毒性を持ち、狩猟や薬用に利用されてきた歴史がある。
「附子」何度も注しているが、再掲する。「鳥頭」(うず)と同義。トリカブト(モクレン亜綱キンポウゲ目キンポウゲ科トリカブト属 Aconitum )のトリカブト類の若い根。猛毒であるが、殺虫・鎮痛・麻酔などの薬用に用いられる。「そううず」「いぶす」とも言う。
『「本草≪綱目≫」に、所謂《いはゆ》る、『鯽《ふな》と芥菜《からしな》を同《おなじく》食へば、腫疾《しゆしつ》を成《しやう》ず』、『雞《にはとり》と生葱《なまのねぎ》を同《おなじく》食へば、蟲痔《ちゆうじ》と成《な》る』と云《いふ》』前者は、「維基文庫」の「菜之一」の「芥」の項の「莖葉」の「【氣味】」の最後に、『思邈曰:同兔肉食,成惡邪病。同鯽魚食,發水腫。』とあり、後者は、「維基文庫」の「禽部」の「禽之二」の冒頭の「雞」の「諸雞肉氣味食忌」の最後に、『弘景曰︰小兒五歲以下食雞生蛔蟲。雞肉不可合葫蒜、芥、李食,不可合犬肝、犬腎食,並令人泄痢。同兔食成痢,同魚汁食成心瘕,同鯉魚食成癰癤,同獺肉食成遁尸,同生蔥食成蟲痔,同糯米食生蛔蟲。』とあるのが、それである。]
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