和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(13) 服藥食忌
[やぶちゃん注:以下、早稲田大学図書館「古典総合データベース」で見て貰うと判る通り、原本標題の割注は一字空白で、本文は、最後の一行を除いて、第一部が二段、第二段が四段体裁で、その間が有意に空いて下方の一部は横に並べてあるのであるが、無駄に空けると、ブラウザの不具合が生じるので、実際には、内容は続いていることからも一字空けとし、訓読では引き上げて、独立の一文とした。
本篇は、特定の服薬をするに際し、患者が食べてはいけない禁忌となる食物を記したものである。]
服藥食忌【如羊犬狸𮌇者本朝人嘗不食故忌之藥省不記之】
[やぶちゃん注:「羊」は「グリフウィキ」のこの異体字の、上部が「ハ」の字形のものだが、表示出来ないので、通用字を用いた。「𮌇」は「肉」の異体字。]
有白朮蒼朮 勿食桃李雀𮌇胡荽大蒜青魚鮓等物
[やぶちゃん注:実は、原本では「白术蒼木」となっているのだが、これは、以上の通り、「白朮蒼朮」の誤りである。恐らく良安の誤りではなく、版元の誤刻である。特異的に訂した。]
有荊芥 勿食河豚及一切無鱗魚蟹
有天門冬紫蘓丹砂龍骨 忌鯉魚
[やぶちゃん注:「蘓」の字は「グリフウィキ」のこの異体字であるが、表示出来ないので、通用字を用いた。同じく、「鯉」の(へん)の「魚」が「𩵋」であるが、表示出来ないので通用字を用いた。]
有黃連桔梗鳥梅胡黃連 忌猪𮌇
有土荻苓威靈仙 忌麪及茶
有茯苓茯神丹參 忌醋及一切酸
有地黃何首烏 忌蘿蔔葱
有常山 勿食生葱生菜
有甘草 勿食菘菜海藻
有巴豆 勿食野猪𮌇
有半夏菖蒲 勿食飴糖
有牡丹 勿食蒜胡荽
有厚朴蓖麻 勿食炒豆
有當歸 勿食濕麪
有薄荷 勿食鼈𮌇
有鼈甲 勿食莧菜
有檳榔 勿食橙橘
凡服藥不可多食生蒜胡菜生葱諸果油膩物
*
服藥《ふくやく》≪の≫食忌《しよくき》【羊・犬・狸≪の≫𮌇ごときは、本朝《ほんてう》の人、嘗(もとよ)り、食はず。故《ゆゑ》、之を忌《い》む藥は、省(はぶ)きて。之を記《しる》さず。】
白朮《びやくじゆつ》・蒼朮《さうじゆつ》、有らば、桃李《たうり》・雀≪の≫𮌇・胡荽《こずい》・大蒜《おほひる》・青魚《さば》≪の≫鮓《すし》等の物を食ふ勿《なか》れ。
荊芥《けいがい》、有らば、河豚《ふぐ》、及《および》、一切≪の≫無鱗魚・蟹《かに》を食ふ勿れ。
天門冬《てんもんどう》・紫蘓《しそ》・丹砂《たんしや》・龍骨《りゆうこつ》、有らば、 鯉魚《こい》を忌《い》む。
黃連《わうれん》・桔梗《ききやう》・烏梅《うばい》・胡黃連《こわうれん》、有らば、 猪《ゐのしし》の𮌇を忌む。
土茯苓《どぶくりやう》・威靈仙《いれいせん》、有らば、麪《めん》、及≪び≫、茶を忌む。
茯苓・茯神《ぶくじん》・丹參《たんじん》、有らば、醋《す》、及《および》、一切の酸《さん》を忌む。
地黃《ぢわう》・何首烏《かしゆう》、有らば、蘿蔔《すずしろ/だいこん》・葱《ひともじ/ねぎ》を忌む。
常山《じやうざん》、有らば、生葱《なまねぎ》・生菜《なまな》を食ふ勿れ。
甘草《かんざう》、有らば、菘菜・海藻を食ふ勿れ。
巴豆《はづ》、有らば、野-猪(ゐのしゝ)の𮌇を食ふ勿れ。
半夏《はんげ》・菖蒲《しやうぶ》、有らば、飴-糖(あめ)を食ふ勿れ。
牡丹、有らば、蒜《にんいく》・胡荽《こずい》を食ふ勿れ。
厚朴《こうぼく》・蓖麻(たうごま)、有れば、炒豆《いりまめ》を食ふ勿れ。
當歸《たうき》、有れば、濕《しめ》≪れる≫麪《めん》を食ふ勿れ。
薄荷《はつか》、有れば、鼈-𮌇(すつぽんの《にく》)を食ふ勿れ。
鼈甲《べつかう》、有れば、莧-菜(ひゆ)を食ふ勿れ。
檳榔《びんらう》、有れば、橙(だいだい)・橘(みかん)を食ふ勿れ。
凡《およそ》、服藥≪せる時は≫、生蒜《なまにんいく》・胡菜《こさい》・生葱《なまねぎ》・諸果・油膩物(あぶらけ《もの》)を多食《おほくくら》ふべからず。
[やぶちゃん注:「白朮」キク目キク科オケラ属オケラ Atractylodes japonica 、或いは、オオバオケラ Atractylodes ovataの根茎を基原植物とし、一般には、健胃・利尿効果があるとされるが、実際には、これらの根茎を、作用させる異なる器官(無論、漢方の)の疾患に、臨機応変に用いているようである。
「蒼朮」「日本漢方生薬製剤協会」の「ソウジュツ (蒼朮)」に、基原は、中国産のホソバオケラ Atractylodes lancea 、又は、それらの雑種 (キク科 Compositae) の根茎で、健胃消化薬・止瀉整腸薬・利尿薬・鎮暈薬・滋養強壮保健薬・鎮痛薬と見做される処方、及び、その他の処方に、比較的、高頻度で配合されている、とあった。
「桃李」良安は「和漢三才圖會卷第八十六 果部 五果類 李」で文末に出る「桃李」に「ツハイモモ」とルビを振っている。双子葉植物綱バラ目バラ科サクラ亜科モモ属モモ変種(突然変異)ズバイモモ Amygdalus persica var. nectarina で、ネクタリンの標準和名であり、日中共通である。
「胡荽」「卷第八十四 灌木類 牡荊」の「胡妥子《こすいし》」を見られたい。これは「本草綱目」でもこの漢字になっているが、これは、原書自体の誤りで「胡荽子(コスイシ)」が正しい。今や、食材・香辛料として英語の「コリアンダー」(coriander)ですっかりメジャーになった、セリ目セリ科コエンドロ属コエンドロ Coriandrum sativum の成熟果実である。「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 胡荽子(コズイシ)」に拠れば、『『嘉祐本草』には全草の薬効として「穀物を消化し、五臓を治し、不足を補い、大小腸を利し、小腹の気を通じ、四肢の熱を抜き、頭痛を止め、痧疹(発疹の類)を療ず。豌豆瘡の出ぬものは酒にして飲めばたちどころに出る。心竅に通ずるものだ。久しく食すれば人をして多くを忘れさす」と記載されています。『本草綱目』では果実、すなわち胡荽子の薬効として「痘疹を発し、魚腥を殺す」と記載されています。実際、胡荽子は健胃、発表薬として消化不良、麻疹が発透せず不快なときなどに用いるようです。また歯痛には煎じ液で含嗽したり、痔瘡脱肛には焼いて患部を燻すとされています。』と薬効を記す。
「大蒜」ニンニク。
「青魚」本邦では単に「さば」と呼ぶ場合は、スズキ目サバ科サバサバ亜科属マサバ Scomber japonicus、或いは、サバ属ゴマサバ Scomber australasicus を指す。私の「大和本草卷之十三 魚之下 鯖(さば)」を見られたい。
「荊芥」「薑芥(きやうがい)」とも。中国の本草書「神農本草経」(「鼠實」)や東洋文庫訳の割注(「めづみ草」)によれば、シソ目シソ科イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifolia のこととなる。ウィキの「ケイガイ」によれば、『薬用植物』とし、『中国原産の草本で花期は初夏から夏』。『花穂は発汗、解熱、鎮痛、止血作用などがあり、日本薬局方に生薬「荊芥(ケイガイ)」として収録されている。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方方剤に配合される。「アリタソウ」という別名がある。ただし、本種はシソ科であり、アカザ科のアリタソウとは全く別の物である』とある。
「天門冬」「藥品(11) 製法毋輕忽」の「「天≪門冬《てんもんどう》≫」の私の注を見られたい。
「紫蘓《しそ》」シソ目シソ科シソ属エゴマ(荏胡麻)変種シソ Perilla frutescens var. crispa 。サイト「脂育研究所」の「しそが漢方に用いられる理由。どんな漢方に配合されているかを解説」に拠れば、『漢方での生薬名は、「蘇葉(そよう)」、もしくは「紫蘇葉(しそよう)」です。また、しその種を用いた生薬を「紫蘇子(しそし)」といいます』とし、『蘇葉、または紫蘇葉、紫蘇子には、発汗作用や解熱作用、胃液の分泌を良くして胃腸の働きを整える作用、魚介類による食中毒時の解毒・予防などが期待されています』。『そのため、風邪の症状や胃腸の不調などの症状に良いとされる漢方薬に広く用いられています』とあった。
「丹砂」「辰砂」「朱砂」に同じ。水銀と硫黄とからなる鉱物。深紅色又は褐赤色で、塊状・粒状で産出する。水銀製造の原料、また、赤色顔料の主要材料とされる。漢方では、消炎・鎮静薬などに用いる。
「龍骨」「藥品(1)」の、私の「死龍骨」の注を見られたい。
「鯉魚」私のサイト版「和漢三才圖會 卷第四十八 魚類 河湖有鱗魚」の冒頭の「鯉」を見られたい。
「黃連」キンポウゲ目キンポウゲ科オウレン属オウレン Coptis japonica の髭根を殆んど除いた根茎を乾燥させたもの。
「桔梗」「きちかう(きちこう)」とも読む。ここは生薬名で「桔梗根」とも称する。キク目キキョウ科キキョウ属キキョウ Platycodon grandiflorus の根でサポニン(saponin)を多く含み、去痰・鎮咳・鎮痛・鎮静・解熱作用があるとされる。
「烏梅」これは、梅の木ではなく、梅の実を加工した漢方生薬名である。「卷第八十六 果部 五果類 梅」の私の注を見られたい。
「胡黃連」高山性多年草の、シソ目ゴマノハグサ科コオウレン属コオウレン Picrorhiza kurrooa(ヒマラヤ西部からカシミールに分布)及びPicrorhiza scrophulariiflora(ネパール・チベット・雲南省・四川省に分布)の根茎を乾かしたもの。古代インドからの生薬で、健胃・解熱薬として用い、正倉院の薬物中にも見いだされる。根茎に苦味があり、配糖体ピクロリジン(picrorhizin)を含むものの、薬理効果は不明である。なお、「黃連」があるが、これは小型の多年生草本である、キンポウゲ目キンポウゲ科オウレン属オウレン Coptis japonica 及び同属のトウオウレン Coptis chinensis・Coptis deltoidea の根茎を乾燥させたもので、全く異なるものである。
「猪」私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 野豬(ゐのしし) (イノシシ)」を見られたい。
「土茯苓」中国南部・台湾に自生する多年生草本である単子葉植物綱ユリ目サルトリイバラ科シオデ属ドブクリョウ(土茯苓) Smilax glabra 。但し、その塊茎を乾したものを基原とする漢方生薬は「山帰来」(さんきらい)と言う。私の「譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(21)」の「山歸來」の注を見よ。
「威靈仙」「藥品(3) 名義」の私の「威靈仙《イレイセン》」の注を見られたい。
「茯苓」「卷第八十五 目録(寓木類・苞木(竹之類)・樹竹之用)・茯苓」を見よ。
「茯神」同前を見よ。
「丹參」「藥品(5) 相反」の私の「五參」の注を見よ。
「地黃」先の「藥品(10) 忌銅鐵」で既出既注。
「何首烏」既出だが、再掲する。基原は、タデ目タデ科ツルドクダミ(蕺・蕺草・蕺菜)属ツルドクダミ Reynoutria multiflora の根である。詳しくは、先行する「藥品(4) 有南北土地之異」の「夜合草《よるあひぐさ》」の私の注を見られたい。
「常山」「藥品(3) 名義」で既出既注。
「甘草」既注だが、再掲する。マメ目マメ科マメ亜科カンゾウ属 Glycyrrhiza。当該ウィキによれば、『漢方薬に広範囲にわたって用いられる生薬であり、日本国内で発売されている漢方薬の約』七『割に用いられている』とある。
「菘菜」東洋文庫では、『とうな』とルビする。実は、「卷第八十四 灌木類 南天燭」(2024年9月8日公開)の注では、未詳としていたのだが、そこで候補として掲げた種が、誤っていたので、全面削除し、先ほど、新たに調べ、書き変えた。「漢字ペディア」の「菘」に、『①すずな。カブ(蕪)の古名。春の七草の一つ。 ②とうな(唐菜)。野菜の名。つけな。』とあった。さても、この場合は、植物体ではなく、禁忌食品と採れるので、②の義を採用する。
「巴豆」「卷第八十三 喬木類 巴豆」の私の注を見られたい。
「半夏」単子葉植物綱ヤシ亜綱サトイモ目サトイモ科ハンゲ属カラスビシャク(烏柄杓)Pinellia ternata のコルク層を除いた塊茎。嘔気や嘔吐によく使われる生薬である。私の「耳囊 卷之七 咳の藥の事」も参照されたい。
「菖蒲」「藥品(8) 忌鐵」を見られたい。
「飴-糖(あめ)」飴。
「牡丹」中国の花の王、ユキノシタ目ボタン科ボタン属ボタン Paeonia suffruticosa 。基原は同種の根皮で、漢方では「牡丹皮」(ボタンピ)と称する。後の「第九十三」で注することになるので、ここでは、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 牡丹皮(ボタンピ)」をリンクするに留める。
「厚朴」」「卷第八十三 喬木類 厚朴」を見よ。
「蓖麻(たうごま)」トウダイグサ目トウダイグサ科トウゴマ(唐胡麻)Ricinus communis 。詳しくは、「卷第八十三 喬木類 相思子」の私の注を参照されたい。
「當歸」知られた生薬名。基原は、被子植物門双子葉植物綱セリ目セリ科シシウド属トウキ Angelica acutiloba の根、或いは、ホッカイトウキ Angelica acutiloba var. sugiyamae の根を、通例では、湯通しし、乾燥したものである。
「薄荷」シソ目シソ科ハッカ属 Mentha の類。種は多い。当該ウィキ「ミント」を見られたい。
「鼈」私のサイト版「和漢三才圖會 卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類」の「鼈(すつほん) かはかめ [シナスッポン/ニホンスッポン]」を見られたい。
「鼈甲」「藥品(5) 藥七情」の「龜甲」の私の注の引用の中で、明らかにされている。
「莧-菜(ひゆ)」「莧」の音は「カン」。これは、
双子葉植物綱ナデシコ目ヒユ科 Amaranthaceae 、及び、その近縁種の総称
である。食用になる。中でもよく知られるものに、私の家の庭にもある、
ナデシコ目スベリヒユ科スベリヒユ属スベリヒユ Portulaca oleracea
がある。夏に全草を採って根を除き、水洗いして日干し乾燥したものは生薬になり、馬歯莧(ばしけん)と称されている。民間薬として、解熱・解毒・利尿や、虫刺されに効用があるとされる。
「檳榔」「卷第八十八 夷果類 檳榔子」を参照されたい。]

