河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(四)乾鮑の說(その15) 【図版8】 / 「乾鮑の說」~了
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの左ページ。画像は、底本の国立国会図書館デジタルコレクションの「印刷」で高解像度のものをダウンロードし、例によって、精密に汚損を清拭した。詳しい図版処理の仕儀は「(その8) 【図版1】」の冒頭注を参照されたい。なお、前回分と同じく、この図版でも、黒い貝殻表面の一部に、印刷スレの縦の白い筋が甚だしく目立つケースがあったため、特異的に、その部分を黒く潰して違和感を緩和しておいた。
これを以って、本書の「乾鮑の說」を、一ヶ月かかって、終わった。私は、幼少期からの貝類フリークであることから、拘りが、強く働いた。種同定等で誤りがある場合は、お知らせ下されば、幸いである。]
【図版8】
■「和泉《いづみ》」
[やぶちゃん注:クロアワビ比定。
「和泉」現在の大阪府南西部相当。クロアワビは、瀬戸内海にも分布する。]
■「志摩國《しまのくに》」
[やぶちゃん注:クロアワビ比定。]
■「伊勢國《いせのくに》産」
[やぶちゃん注:クロアワビ比定。]
■「常陸國《ひたちのくに》」
[やぶちゃん注:現在の茨城県。クロアワビ比定。]
■「磐城國《いはきのくに》
十名濱村産」
「めかい」
「七寸七分」
[やぶちゃん注:最後の「七寸七分」(二十三・三センチメートル)は、特異的に、貝殻の表面の上方の白い部分に記されてある。字体が全く以ってキャプションと同じであるから、スケッチした貝殻の上に書かれていたものではなく、図版作成者が書き込んだものである。考えてみると、本「乾鮑の說」では、先行する諸説パートと異なり、図のスケール(縮尺比)の記載が全くなかった。或いは、この時、図作成者(今まで見た限り、河原田氏本人ではない可能性が高いように感じている。既に述べた通り、一人ではない可能性が極めて高い)が、せめても、この貝殻部に於いて、大きなこれの、頭頂部から螺塔までの長半径を示してみようと考えたもの、と推定される。しかし、描いた殻の上に描き込んだ点で、この作図者は、タッチが非常に達者であるものの、ボタニカルの専門家ではない、と思う。そうした人なら、絵を汚さずにキャプションで附すはずだからである。
なお、これは形状から見て、
真正のメガイアワビである
が、通常の同種の殻長は、十六から二十センチメートルであるから、この個体は異様に大きい老成個体であることになる。その大きさが特異的であったからこそ、作成者は、思わず、それを記載したくなったのだ、という気が、するのである。
「十名濱村」どう見ても、「十」であるが、これは「小」の誤字と思われる。これは、間違いなく、現在の福島県いわき市小名浜(おなはま)である。但し、そうなると、大きな疑問が生ずる。現在、
メガイアワビの北限は、千葉県銚子、或いは、茨城県とされているから
である。しかし、本書の刊行が明治一九(一八八六)年で、この前に、黒潮の大蛇行が発生していれば、福島でメガイアワビで漁獲されたとしても、おかしくないと私は考えている。調べてみたところ、海洋研究開発機構(JAMSTEC)アプリケーションラボ(APL)が実施している日本沿海予測可能性実験(JCOPE)による予測実験と、関係する様々な話題を提供している「黒潮・親潮ウォッチ」の美山透氏の「黒潮大蛇行の歴史」を見ると、冒頭で、『ある程度まとまった黒潮の観測があるのは1960年代以降にな』るとされ、『1960年代以前の黒潮については、はっきりした観測がありません。しかし、限られた観測や、串本・浦神の潮位、漁師の体験談などから、黒潮大蛇行期間が推測されています』とあり、不確かなものだが、安政元(一八五四)年の、ペリー艦隊による観測として、あったことが推定され、さらに、明治三(一八七〇)年から明治八(一八七五)年の六年間、大蛇行があったとある。この時、メカイアワビが北上し、福島附近まで達していたことは、十分にあることだと、私には、思われるのである。なお、元資料を確認出来なかったものの、AIが、『福島県では、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後、長らく休止していたアワビ漁(メガイアワビ含む)が試験操業を経て再開されており、漁獲されています。』ともあった。私に出来るディグは、ここまでである。確かな資料を御存知の方は、是非、お教え下さい。]
■「越後國《えちごのくに》
岩船郡《いはふねのこほり》
粟生島《あはしま》産」
[やぶちゃん注:ここは、現在の新潟県の北部の、日本海に浮かぶ粟島(あわしま)で、現在は、新潟県岩船郡(いわふねぐん)粟島浦村(あわしまうらむら)で、一島一村を形成する自治体(基礎自治体)である。クロアワビである。クロアワビは、日本海側では、北海道南部から九州にかけての外洋性岩礁域に広く分布する。]
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