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« 迎春 | トップページ | 河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(五)鱶鰭の說(その3) »

2026/01/01

河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(五)鱶鰭の說(その2)――本年の「書初め」――

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの左ページから。]

 

「新撰字鏡(しんせんじきやう)」は『鮐(たい)』・『𩺬(つい)』・『鮰(ゑん[やぶちゃん注:ママ。音は「カイ」である。])の三字を『佐女(さめ)』と訓じ、「本艸倭名(ほんざうわみやう)」は『鮫(こう)、一名(いちみやう)、䱜魚(さくぎよ)』、又、『魦(しや)』を『佐女(さめ)』と訓ず。而して、二書ともに「ふか」を載せず。「延喜式」には、『鮫楚割(さめのすはり)』・『鮫皮(さめかわ[やぶちゃん注:ママ。])』・『鮫䐹、(さめのほじヽ)』・『沙魚皮(さめのかは)』・「鮐魚皮(さめのかは)」等を載せて、是亦、『ふか』を載せず。「倭名鈔」に始めて、「辨色立成(べんしきりつせい)」の『鮝魚(しやうぎよ)』を和名(わみやう)『布可(ふか)』と訓じ、別に『佐女』を載せたり。然(しか)れども。古(いにしへ)は、「さめ」と「ふか」との區別、分明ならず。而(しかう)して「塵添壒嚢抄(ぢんてんがいのうせう)」に『鰧(しやう)』を「ふか」とし、「本朝食鑑」は『鱶(やう)』を『ふか』と訓ず。「康煕字典」によれば、『鱶』は『鮝(しやう)』と同じとし、又、『鮝は乾魚(かんぎよ)なり』とありて、『ふか』の名にあらず。「本艸綱目」には『鮫(さめ)一名(《いち》みやう)錯魚(さくぎよ)』とし、「本艸綱目拾遺」に『鮫(さめ)、一名は鯊魚(しやぎよ)、亦、魦(さめ)に作る』とあり。「閩書」にハ『魦魚(さぎよ)一名鰒(ふく)、一名䱜(さく)、一名鯧(さく[やぶちゃん注:ママ。音は「シヤウ(ショウ)」。])、一名鰡(りう)とし、黃鯊(こうしや/はたざめ)、犁頭(れいとうしや/かいめぶか)、雙髻鯊(さうけいしや/しゆもくざめ)等(とう)の種類を載(の)するも、鱶(ふか)の字を、見ず。然(しか)れども、邦俗、從來、「鱶(やう)」の字を用ひ來(きた)るにより、其鰭(そのひれ)を鱶鰭(ふかひれ)と稱せり。而(しかう)して、淸俗は「魚翅(ぎよし)」と稱し、「英華字典」には『鯊翅(しやし)』とし、又、『白魚翅(はくぎよし)』、『黑魚翅(こくぎよし)』の二類に分(わか)ち、「支那貿易品解說」は『魦翅(さし)』とし、『白魚翅』・『黑魚翅』の二類に分ちしこと、前(ぜん)に同じ。

[やぶちゃん注:「新撰字鏡」「鮑」で一度、特定フレーズの注の中でしているが、かなり前のパートでやった書籍も多いので、この際、総て、再掲することとする。平安時代の漢和字書。全十二巻。僧の昌住(しょうじゅう)著とされるが、事績は不詳。昌泰年間(八九八年~九〇一年)に成立。漢字二万余字を偏・旁などによって百六十部に分け、字音・字義・和訓を付したもので、現存する最古の漢和字書である。一説に寛平四(八九二)年に三巻本が完成したとされるが、原本や写本は伝わっていない。その三巻本を元に増補した十二巻本が同年間に完成したとされ、写本が現存する。この十二巻本には約二万千字を収録する。

「鮐(たい)」平安時代漢字字書総合データベース編纂委員会編の「HDIC Viewer」のここで、『魚部第八十七』に『同字。勅丈反。壽也、老也。佐女。』とあったのを確認した。但し、次の注を見よ。なお、「廣漢和辭典」では、この漢字は、音「タイ・イ」で、第一義は『ふぐ』(=魚のフグ)で、第二義は『おいる【おゆ】。としより。』とあるだけで、サメの意味はない。

「𩺬(つい)」同前(部門も同じ)で、『鮐𩺬』『同字。勅丈反。壽也、老也。佐女。』とある。但し、「国書データベース」の画像で調べたところが、ここ(左丁上段後ろから四行目)に、

   *

𩺬【同勑文  反壽也老也佐女】[やぶちゃん注:「佐」は「グリフゥキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。]

   *

で、こちらが正しい。なお、「𩺬」の漢語は、中文サイト「漢典」では『一种鳝鱼』とあり、これは中国で好まれる、お馴染みのタウナギ(田鰻・鱓・鱔・鱔魚:条鰭綱タウナギ目タウナギ科タウナギ属タウナギ Monopterus albus )の一種という意味だろう。従って、漢語にはサメの意味は、やはり、ない。なお、当該ウィキに拠れば(注記記号はカットした)、『ミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく研究によれば、タウナギは少なくとも中国および(九州以北の)日本に分布するもの、南西諸島に分布するもの、そして東南アジアに分布するもの、という3つの集団に分けられ、それぞれは互いに遺伝的に異なっていることから、独立した「種」であると考えられる。これらの内訳をみると、日本に分布するものは中国に分布するものと同じ系統に含まれるため、中国大陸から人為的に移入されたものである可能性が高いとされる。実際、1900年前後に朝鮮半島から奈良県に持ち込まれたという記録もある。なお、台湾には東南アジアの系統のものと中国・日本の系統のものがともに分布しており、いずれも人為的移入によるものかは定かでない』。『南西諸島に分布する個体群は、東南アジアのものとも』、『中国・日本のものとも異なる系統に属している。このため、中国・日本の系統からは570万年以上前に分岐したと推定される。したがって人為的移入は考えにくく、琉球には固有の在来タウナギ類が生息しているということになる ため、保護の必要性が指摘されている』とあるから、これらは、独立した種に分類される可能性が大である。

「鮰(ゑん[やぶちゃん注:ママ。音は「カイ」である。])」前のデータベースでは、掛かってこなかったので、「国書データベース」の画像で調べたところ、ここ(左丁下段後ろから二行目に、『※』(「※」は「𮫬」+(「グリフウィキ」のこれの中の部分のみを右90°回転させたような字体)として『左女』と確認した。而して、この漢字も調べてみたところ、「百度百科」に『鮠鱼的别称 [ Leiocassis longirostris ]』(学名は斜体に変更した)とあった。この学名は、何時もお世話になる鈴木雅大氏の「生きもの好きの語る自然誌」の本種のページで、『条鰭綱(Class Actinopteri),新鰭亜綱(Subclass Neopterygii),真骨下綱(Infraclass Teleostei),アロワナ巨区(Megacohort Osteoglossocephalai),ニシン上区(Supercohort Clupeocephala),骨鰾区(Cohort Otocephala),骨鰾亜区(Subcohort Ostariophysi),骨鰾節(Section Otophysa),ナマズ上目(Superorder Siluriphysae),ナマズ目(Order Siluriformes),ナマズ亜目(Suborder Siluroidei),ギギ上科(Superfamily Bagroidea),ギギ科(Family Bagridae),レイオカシス属(Genus Leiocassis)』の『イノシシギギ(猪義義,猪鱨,英名:Chinese longsnout catfishLeiocassis longirostris (Bleeker, 1864)』であることが判った。『中国北部と韓国の河川に分布しています』とあった。やはり、この漢語もサメの意味はないことが判明した。

「本艸倭名」深根輔仁(ふかねのすけひと)の撰になる日本現存最古の薬物辞典(本草書)。「輔仁本草」(ほにんほんぞう)などの異名がある。当該ウィキによれば、『本書は醍醐天皇に侍医・権医博士として仕えた深根輔仁により』、『延喜』一八(九一八)年に『に編纂された。唐の』「新修本草」(高宗が蘇敬らに書かせた中国最古の勅撰本本草書。陶弘景の「神農本草經集注」(しんのうほんぞうきょうしっちゅう)を増訂したもの)を『範に取り、その他漢籍医学・薬学書に書かれた薬物に倭名を当てはめ、日本での産出の有無及び産地を記している。当時の学問水準』の限界のため、『比定の誤りなどが見られるが、平安初期以前の薬物の和名を』、『ことごとく記載しており』、且つ、『来歴も明らかで、本拠地である中国にも無い』所謂、『逸文が大量に含まれ、散逸医学文献の旧態を知る上で』も、『また』、『中国伝統医学の源を探る上でも貴重な資料である』。本書は、後の『丹波康頼の』知られた「医心方」にも『引用されるなど』、『後世の医学・博物学に影響を与えた。また、平安時代前期の国語学史の研究の上でも貴重な資料である』。後、永らく、『不明になっていたが、江戸幕府の医家多紀元簡が紅葉山文庫より上下』二『巻全』十八『編の古写本を発見し』、『再び世に伝えられるようになった。多紀元簡により発見された古写本の現時点の所在は不明であるが、多紀が寛政』八(一七九六)年に『校訂を行って刊行し』、六『年後に民間にも出された版本が存在する他、古写本を影写した森立之の蔵本が台湾の国立故宮博物院に現存する』とある。

「䱜魚(さくぎよ)」この漢語は、「廣漢和辭典」で、『さめ』としてあるので、日中通意である。

「魦(しや)」同前で、第二義に『さめ。ふかざめ。』とあり、日中ともにサメである。

『而して、二書ともに「ふか」を載せず』私は「サメ」と「フカ」は同義と考えている。それを支持する内容は、例えば、幾つかの真摯な考証によれば、「有限会社 環境産業」公式サイトの「スタッフブログ」の「鮫(サメ)と鱶(フカ)の違いとは?」である。他にもそれを支持する内容のものは散見する。しかし、decodecochibita氏のブログの「釣り人語源考 フカ」は、なかなかに含蓄のある歴史的考証をされており、白眉である。引用したいが、かなり長いので控えるが、是非、一読されんことをお薦めする。

『「倭名鈔」に始めて、「辨色立成(べんしきりつせい)」の『鮝魚(しやうぎよ)』を和名(わみやう)『布可(ふか)』と訓じ、別に『佐女』を載せたり』国立国会図書館デジタルコレクションの寛文七(一六六七)年板本を元に推定訓読する。まず、「卷十九」の「鱗介部第三十・竜魚類第二百三十六」のここの「鮝魚」。

   *

鮝魚(フカ) 「辨色立成」に云はく、『鮝魚は【「布可(ふか)」。「居」「媛」の反。今、案ずるに、未だ詳(つまびらか)ならず。】』≪と≫。

   *

次に、ここの、「佐女」相当の「鮫」。

   *

鮫  「陸詞切韻」に云はく、『鮫【音「交」。和名「佐米」。】]魚皮に文(もん)有り、以つて、刀劔(たうけん)を飾(かざ)る者なり。』≪と≫。「兼名苑」に云はく、『一名、𩶅𩸹【「低」「迷」の二音。】。』≪と≫。「本草」に云はく、『一名は䱜魚【上は「食」「各」の反。】。』≪と≫。「拾遺」に云はく、『一名は「鯊魚(さぎよ)【上の音「沙」。字、亦、「魦」に作る。】」』≪と≫。

   *

「𩸹」は「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。この「辨色立成」は、「倭名抄」の中にしか見えないことから、奈良時代(八世紀)の成立とされる和訓を有する本邦の漢和辞書とされるものである。

「塵添壒嚢抄」単に「壒囊抄(鈔)」とも呼ぶ。十五世紀の室町時代に行誉らによって撰せられた百科辞書・古辞書。同書の記載は、国立国会図書館デジタルコレクションのこちらの活字本の、巻一の「五十九」条の、ここの右ページ六行目の中央部に『鰧(ふか)』とある。

「本朝食鑑」私の『博物学古記録翻刻訳注■12「本朝食鑑第十二巻」に現われたる海鼠の記載』の私の冒頭注を見られたい。ブログ・カテゴリ『人見必大「本朝食鑑」より水族の部』もあるのだが、二〇一五年でペンディングしたまま、放置状態である(字起こしが、恐ろしく大変なため)。国立国会図書館デジタルコレクションの元禄一〇 (一六九七)年板本の「鱶」の項の割注に『訓布加』とある。

「康煕字典」中国の代表的字典。一七一六年に、清の張玉書(一六四二年~一七一一年)らが、康煕帝の勅を奉じて編纂したもの。「說文解字」「玉篇」を底本とし、諸書を校合し、十二集に分け、集ごとに三子巻(上・中・下)に細分し、全部で百十九部に分けてある。巻首に総目・検字・弁似・等韻が各一巻、巻末に補遺と備考各一巻を付す。親字四万七千三十五字、古代の異体字千九百九十五字を収める(以上は平凡社「百科事典マイペディア」に拠った)。

「鮝は乾魚(かんぎよ)なり」「鮝」は魚種を指すのではなく、「乾した魚」である、の意。

『「本艸綱目」には『鮫(さめ)一名(《いち》みやう)錯魚(さくぎよ)』とし』これは、河原田の誤記である。「漢籍リポジトリ」の「卷四十四」の「鱗之三魚類三十一種」の、ガイド・ナンバー[104-42b] の「鮫魚【唐本草】」の冒頭の「釋名」の始めから二つ目に、『䱜魚【鵲錯二音】』とあるからである。

「本艸綱目拾遺」清の一八〇〇年頃に趙学敏が撰した「本草綱目」の誤りを正し、そこに漏れていた薬物を追加したもの。

「閩書」明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南產志」。一六〇八年成立。

「黃鯊(こうしや/はたざめ)」軟骨魚綱カスザメ目カスザメ科カスザメ属カスザメ Squatina japonica のこと。当該ウィキに拠れば、『本州東岸から台湾、日本海南部・黄海・東シナ海・台湾海峡で見られる』とある。

「犁頭(れいとうしや/かいめぶか)」「雙髻鯊(さうけいしや/しゆもくざめ)」孰れも、メジロザメ目シュモクザメ科 Sphyrnidaeのシュモクザメの総称である。孰れも、漢字表記から、ピンとくる。

「英華字典」ウィリアム・ロプシャイド(William Lobscheid)が編した‘ English and Chinese dictionary ’(一八四七年~一八四八年)かと思われる。「Internet archive」で、後の版(1856-1944)だが、見つけた。ここの左丁の右の中央上方。

   *

Shark, n. A common shark, carchrias,沙魚,,

 魦; another species, 烏翼鯊 ; another species,

 齊頭鯊 ; cestracion zebra ,  貓兒鯊; rhinobatus,

 犁頭鯊 ; the hammer-headed shark, sphyrna zygena,

 公子帽鯊 ; shark’s fins, 鯊翅; white shark’s fins,

 白魚翅 ; black shark’s fine, 黑魚翅 ; shark’s skin,

 used for shagreen, 鯊魚皮 ; a greedy, artful fellow,

 貪猾嘅人.

   *

・この一行目の“ carchrias ”は、狭義には、典型的でミズワニ科唯一の現生種である軟骨魚綱板鰓亜綱ネズミザメ目ミズワニ科 Pseudocarchariidaeミズワニ属ミズワニ Pseudocarcharias kamoharai を指し、英名“Crocodile shark”(辞書では「サンド・シャーク」とある。詳しくは当該ウィキを見られたいが、そこに『世界中の暖かい海の表層から水深590 mまで生息する』とある)とある。但し、ネズミザメ科ホホジロザメ属ホホジロザメ Carcharodon carcharias の種小名とも一致するので、ここでは、後者「ホホジロザメ」の意を採るのが正しいと思われる。

・三行目の“ cestracion zebra ”は、ネコザメ目ネコザメ科ネコザメ属シマネコザメ(縞猫鮫)Heterodontus zebra 指す。当該ウィキを見られたい。なお、「維基百科」の同種のページでは、現行の中文名は「狭鯊」で、異名を「斑紋異齒鮫」・「斑紋異齒鯊」、俗名に「角鯊」・「虎沙」があるとする。

・三行目の“ rhinobatus ”は、サメではなく、ノコギリエイ目 Rhinopristiformes サカタザメ科サカタザメ属 Rhinobatos を指す。体盤がエイのように縦に扁するものの、有意に左右に大きくは突き出ず、スマートな三角形のギターのような形をするので、サメの仲間と間違えても、違和感はない。

・最後の「貪猾嘅人」は「貪婪な人」の意の換喩。

「『白魚翅(はくぎよし)』、『黑魚翅(こくぎよし)』の二類に分ち」「熊谷茂 丸光製麺・社長ブログ」の「フカヒレに使うサメの種類」の「(3)フカヒレに使われるサメの種類とは?」で、『「フカヒレ」と一言で言っても、サメの種類、色や形、産地によっても実に様々。その数は40種類以上にも細かく分類されていて、値段も細かく決まっています』。『中華料理ではよく使用される魚翅(ユイチー)と呼ばれる乾燥させたフカのヒレは、色によって「白いフカヒレ」と「黒いフカヒレ」に大別されますが、「白いフカヒレ」の方が珍重されます』。『「白」のヒレは「白魚翅(パイチー)」と呼ばれ、メジロザメ、ツマグロ、ヒラガシラ、シュモクザメ、オナガザメなどのフカヒレが原料となります』。『一方』、『「黒」のヒレは「黒魚翅(ヘイチー)」と呼ばれ、ネズミザメ、アオザメ、ヨシキリザメ、ネコザメなどのフカヒレが主な原料です。このようにフカヒレは種類ごとに名前を付けて区別されますが、最も高価なフカヒレは「メジロザメのフカヒレ」で、ヨシキリザメの何倍もの価格で取引されます。』とあった。

「支那貿易品解說」国立国会図書館デジタルコレクションのここにある、竹内成章編訳・ 中川喜重/校・明治一八(一八八五)年序の、それであろう。]

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