立原道造草稿詩篇 (昨夜は おそく……)
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。それに拠れば、『原記は表題代りに☆印を置く。』とし、『第一詩は後出「鉛筆のマドリガル」の第四詩の初稿。』とある。この「鉛筆のマドリガル」は、五コマ後のここから、視認出来る。]
(昨夜は おそく……)
昨夜は おそく
步いて町を步いて歸つたが
あかりは僕のそばにゐた
あかりは僕からとほかつた
ひとつの窓はとぢられて
あまりおそいこの時刻には
誰も顏を出してゐなかつた
誰にも歌をうたはせないために
だけれど僕はすこしうたつてみた
それはたいへんまずかつた
僕はあはてて歸つて行つた
昨夜は おそく步いたが
あれはたしかにわるかつた
僕の脊中はだいぶくらかつた
☆
窓には雲が 次から次へと
僕には歌が……
それから今日は日がくれた
それから夜はでかけよう
もし中世の城であるならば
葡萄の葉かげで月かげで
僕はもつとうたふにちがひないが
僕はひとり步くきりだ
[やぶちゃん注:「まずい」はママ。歴史的仮名遣は「まづい」。
個人的には第一聯の二行目「步いて町を步いて歸つたが」の一行が躓く。私なら、「步いて 町を步いて歸つたが」とする。「步いて」のリフレインを自然なスラーとするには、それしかない、と、私は感ずるのである。いや、或いは、『道造は、そのように字空けをしているのではないか?』という編者の判読の誤りが、強く感じられるのである。]

