立原道造草稿詩篇 (僕に まだしあはせも⋯⋯)
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。それに拠れば、第三聯目が大きく削除されて、決定稿では一行だけが残っていることが示されている。されば、【初稿】として全篇を復元した。]
【初稿】
(僕に まだしあはせも⋯⋯)
僕に まだしあはせも不幸もなかつた頃
(まちがへてはいけない それでもすべてはあつたのだ)
僕は 每晩出かけて行つた 町のあかりを算へるために
夜は方々からひろがり 空のてつぺんまでくらくなり
あのはてないなかで 一體いくつ燈がともつたらう
僕はとうとう知らないまゝに
むだに算へた
それから僕はあのなかにやつとひとつのかなしみを見つけた
だがもう一度 いはなくてはならぬだらう そのかなしみもうそだつた
☆
おまへはブリキの光るのを見たことがあるか
夜だ あかりの下で
人は あれをまでかなしいものだといつた
ほんとだらうか
☆
町に沿つて たとへば古いかなしみのやうに 足音は
規則正しく踏までてゐた このつかれた響のみ算へるために僕は每晩出かけたか
[やぶちゃん注:「とうとう」注記では、後の「とう」は踊り字「〱」であるが、ママである。歴史的仮名遣では「到頭」であるから「たうとう」でないとおかしい。]
【決定草稿】
(僕に まだしあはせも⋯⋯)
僕に まだしあはせも不幸もなかつた頃
(まちがへてはいけない それでもすべてはあつたのだ)
僕は 每晩出かけて行つた 町のあかりを算へるために
夜は方々からひろがり 空のてつぺんまでくらくなり
あのはてないなかで 一體いくつ燈がともつたらう
それから僕はあのなかにやつとひとつのかなしみを見つけた
☆
おまへはブリキの光るのを見たことがあるか
夜だ あかりの下で
人は あれをまでかなしいものだといつた
ほんとだらうか
☆
町に沿つて たとへば古いかなしみのやうに 足音は
規則正しく踏までてゐた このつかれた響のみ算へるために僕は每晩出かけたか
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