立原道造草稿詩篇 曙
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。]
曙
パンザの家にゐたが或る日疲れて僕は夢を見た
らんかんに
やんまがとまり
耳の海鳴り
山鳩の脊に
水車ひねもす糸を紡ぎ⋯⋯
夜が崩れた(膝までしか合はない寸法)窓のすべては僞りの花で飾られた
ぼんやり歪んだ地平線に 誰かはしやがんでゐた 人はまちがひをして その景色を眺めるだらうか それとも彼は知らなかつたのだらうか
風が吹いて王となつた 果して僕は夢を見た
[やぶちゃん注:「パンザ」不詳。国立国会図書館デジタルコレクションの底本の全集全巻で検索したが、この詩篇の七十四篇後の無題の「(やつと欲しいものが⋯⋯)」の最後に「パンザよ」と呼び掛けるのが見出せただけであった。思うに、これは、ドン・キホーテの従士で、無学ではあるが、諺を得意とする世故に長けた農民サンチョパンザを捩った綽名であろうとは思う。]

