立原道造草稿詩篇 秋
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここ、底本の注記はここから視認出来る。そこに、『原型はノートの』昭和七(一九三二)年の『9月5日のページの「秋」。』とし、同全集「第六卷 雜纂」のここからである。初稿は「☆」を入れた二パートになっている。]
【初稿】
秋
パン屋の店先に
黑犬とパン屋の主人がゐる
ポストがある ポストは赤い
僕は身輕に町に浮かんでゐた
蜃氣樓のなかの人のやうに――
魔術は四つ角がしてくれる
冬へ電報を打たねばならない
そろそろ靑空がこはれはじめると
☆
硝子屋が町を通りますから
靜かに眠つていらつしやい
【決定草稿】
秋
パン屋の店先に黑犬とパン屋の主人がゐる。ポストがある。ポストは赤い。
僕は、間ちがへて身輕に町に浮かんでゐた――蜃氣樓のなかの人のやうに。ありありと時間が見える。⦅冬へ電報を打たねばならない⦆町の靑い空を硝子屋が町を通りすぎる。この手品はそのせゐだ。

