立原道造草稿詩篇 夜
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。そこに、『ノートの』昭和七(一九三二)年の『7月28日の頁の「夜」(異文)を原型に持つ。』とあり、それは同全集「第二卷 詩集II」のこれである。それを【初稿】として示すこととした。]
【初稿】
夜
睡眠者は彼のまはりにZを撒き散らす。
(昔の頃の活動の漫畫。)そして、彼の夢のなかで、坂が傾いて、陽があたつてゐる。
夜は、まるく刳り拔かれ、そこに、蛾や、蜻蛉が集まつてゐる。そのあたりに、別の夢がひろい海と貝殼をひろげてゐる。
がやがやとはなし聲が聞えてゐる。
【決定草稿】
夜
眠りと夢がしづかに嚙み合つてゐる。齒車のやうに。
銅の坂が傾いて、陽があたつてゐる。
その傍に、牢屋がひろげられ、貝殼たちが海の深みへ滑つて行く。
がやがやと人の聲がする、薔薇の茂みのかげからのやうに。
[やぶちゃん注:初稿について。
「睡眠者は彼のまはりにZを撒き散らす。」は「(昔の頃の活動の漫畫。)」で判る通り、舶来のアニメーションの中で、英語の鼾(いびき)を指す擬音表現“ Z-Z-Z! Z-Z-Z!…… ”を指している。
「蜻蛉」は、若い読者や、ネイティヴでない読者の方のために附しておくと、この場合の読みは、「とんぼ」ではなく、「かげらふ(かげろう)」と読み、昆虫綱有翅亜綱旧翅下綱 Ephemeropteroidea上目カゲロウ(蜉蝣)目Ephemeroptera に属する多くの種群を指す。生物学的に、より細かい記載は、私の「生物學講話 丘淺次郞 第十九章 個體の死(4) 三 壽 命」の私の注を見られたい。]

