立原道造草稿詩篇 歸りの電車を待つ間
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。]
歸りの電車を待つ間
町外れの停車場で立つてゐると
そばを通つて行くものがあり それが呟いた
僕はその言葉をきかなかつたけれど
あれは多分は雨風だつたらう
あれの聲は低かつた それにあはてゝ立ち去つた
言葉をすつかり忘れたけれど
あれは僕に敎へたのだらう
お前は人に裏切られたのだと
お前はそれに氣がつかないと
僕は濡れて立つてゐた(電車はなかなか來なかつた)
僕は脣を嚙みながら 誰も憎まない歌をうたつてゐた
雨風はまた僕のそばに來ないやうに
雨風は心に怒りを沸かせないやうに
あゝ 卑怯者
靑い電車は見事であつた
[やぶちゃん注:この詩、立川道造の詩として、多くの人に読んで貰いたい一篇として、ここにちゃんと電子化し得たことを幸いに思うものである。]

