立原道造草稿詩篇 夏の旅
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、本パートの初回のこちらを見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。それに拠れば、『「工藝史槪說ノート」の書入れ』で、『副題により「民謠」(昭和10年10月発表)とつながり、同時に拾遺詩「夏の旅」(昭和10年11月発表)のヴァリェーションと考え、制作は同年秋と想定する。』とある。既に、「民謠」はここで、「夏の旅」はここで、電子化注しているが、孰れも、本底本の当該詩篇を視認したところ(「民謠」はここ、「夏の旅」はここ)、どちらも問題があったので、今回は、二つとも、全面的に仕切り直した。但し、注の中のリンク先のものは、一部、検証し切れていないので、注意されたい。
なお、添え題中の「エリザ」については、「民謠」の私の注で、『「エリザ」』『中村氏の注によれば、これは「SONATINE No.1」冒頭の「はじめてのものに」の「エリーザベト」で中村氏が注している『ドイツの作家』『シュトルム』『の小説「みずうみ」の女主人公の名、めぐりあった少女をなぞらえたもの』の『エリザベートか?』と注する。』としてある。]
夏の旅
――エリザの記念(かたみ)に――
1
砂ほこりの道だつた 暑い日であつた
僕はときどき 道の傍の石にやすまなくてはならなかつた
とほくまで景色は澄んでゐる
僕が おまへといつしよにのこして來た
あの活火山の煙が見えてゐた とほかつた
しづかな雲が捲いて來たがすぐに消えてしまつた
あの山の爆發するのが不意によく見えた
2
湖には舟が浮いてゐる
誰をのせて?
さざなみだけ それつきり
おまへひとりで
何しに來たか
靑い空が 八ケ岳が
僕を叱つてゐるやうだ
底がをはつたらおまへに告げよう
湖の水は黑くつめたかつた
夜になつて 宿のあかり
いくつか點をつらねて ゆらいでゐた
3
その小さい湖のほとりでも
僕が考へてゐたのはおまへのことばかりだつた
水面(みづ)に搖れてゐた
おまへの方に向つてうたつてゐた
[やぶちゃん注:言うまでもないと思うが、最終の第三聯の「水面」の二字へのルビが「みづ」なのである。私のミス・タイプではない。]
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