立原道造草稿詩篇 (それは雨の⋯⋯)
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。そこに、『消去された』『第三聯がある。』としてそれが記されてあったので、それで【初稿】を復元した。]
【初稿】
(それは雨の⋯⋯)
それは雨のはげしい夜だつた
私たちは火鉢のそばでその物音に
もう話のなくなつた耳を借してゐた
一つも聞き洩らすことのないやうに
雨が何を語つたか 私たちが何を語つたか
誰もがそれを忘れてゐた ふだんのやうに
長い長いしづかさだつた
おそらくあの夜 空に消えた千の雨粒
私たちは光りながら死ぬのだらうと
誰が誰に小聲で語つたのだらうか
【決定草稿】
(それは雨の⋯⋯)
それは雨のはげしい夜だつた
私たちは火鉢のそばでその物音に
もう話のなくなつた耳を借してゐた
一つも聞き洩らすことのないやうに
雨が何を語つたか 私たちが何を語つたか
誰もがそれを忘れてゐた ふだんのやうに
長い長いしづかさだつた
おそらくあの夜 空に消えた千の雨粒
私たちは光りながら死ぬのだらうと
誰が誰に小聲で語つたのだらうか
[やぶちゃん注:恐らく、初稿に第三聯は削除線が三行に亙ってあり、新たに書き直したものなのであろうが、結果して、最初の一行の「おそらくあの夜」を「おそらく あの夜」としただけであったということになる。]

