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2026/03/09

立原道造草稿詩篇 雨

[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。]

 

  雨

 

 軒先を拾つて步いた。麺麭屋では熱い竃のにほひが頰を打つた。僕の息にはこみあげる血がかすかな心配をまぜてゐた。麺麭屋では⋯⋯。

 

 洋燈に頰よせて、僕の脣は乾いてゐた。指を觸れると白く剝がれた。讀みさしの頁の上に散つた脣。

 

 雨は小止みなかつた。

 僕は耳をすました。人が泣いてゐた。母だつたのだらうか。

 

 しきりに泉が戀しかつた。額に暗い熱があつた。

 

 

[やぶちゃん注:「小止みなかつた」「小止み無い」は歴史的仮名遣では「をやみない」で、形容詞で、「少しの間もやむことなく続くさま・間断(かんだん)ない」の意。平安時代からあった古語である。今の若い年代の諸君は、あまり使わないであろうから、敢えて注した。]

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