立原道造草稿詩篇 春風の歌 / 【私の独断でカップリングした同全集「下書き草稿篇」に配されてある詩篇】(海には波には⋯⋯)
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから、次のコマで視認出来る。この原稿群は『一部の作品は』昭和九(一九三四)年『9、10月の制作時付記を持』つとする。この「春風の歌」は、この年の春の情景を謳っているが、まずは、この年の春の海浜での体験を詠んだものと採っておく。注記には、第二聯の初稿が記されているので、それを、【初稿】して電子化した。なお、私は「春風」は「はるかぜ」と読みたい。
次に、注記には、この詩稿「春風」の草稿が書かれている原稿の『裏面に次の「夏へ」の鉛筆書き初稿「旅装――K停車場で」および無題詩断片(海には波は…第六巻所収)がある。』とあった。そこで、そちらを見たところ、それは「第六卷 雜纂」の「下書き草稿篇」のパートに入っていた。ここである。しかし、それは私には、この「春風の歌」と強い親和性があるものと読めた。そこで、私の独断で、この後に、それを、「春風の歌」とカップリングして、「(海には波は⋯⋯)」として掲げることとした。恐らく、私の読者は、この詩を、何故、「下書き草稿篇」に入れたのだろうと、訝る方もあろうと思う。私もそう思った。だから、ここに配することとした。取り敢えず、編者が最終巻の「下書き草稿篇」で前解説をしている箇所をリンクさせておく(下段に当該詩の解説がある)。]
【初稿】
春風の歌
私はいつか流れて行つた
繪のやうな綠のなかを
たつたひとつのの人の言葉を
運んで行くと 人は誰でも受け取つた
ありがたうとほほ笑みながら
夢から晝へ きらめく枝のなかを
私は 每日のやうに靑い空を
駈けてゐた 晝から夜へ
沈丁が咲いてゐた 麥がのびてゐた
私はいつかひとりだつた
【決定稿】
春風の歌
私はいつか流れて行つた
繪のやうな綠のなかを
たつたひとつのの人の言葉を
運んで行くと 人は誰でも受け取つた
ありがたうとほほ笑みながら
夢から晝へ 駈けてゐた
私は 每日のやうに靑い空を
菜が咲いてゐた 川が溢れてゐた
私はいつかひとりだつた
[やぶちゃん注:個人的で恐縮だが、私は菜の花が頗る好きだ(もっと好きなのは紫雲英(ゲンゲ)だ)。だから、決定稿が好きだ。]
☆
【私の独断でカップリングした同全集「下書き草稿篇」に配されてある詩篇】
(海には波は⋯⋯)
海には波は白く炎のやうに散つてゐた
すばやい虹の雲が走りすぎた
鷗が追つてゐた――
艪はあはただしく波を切り
舟は濡れた水脈をひいてゐた
[やぶちゃん注:「水脈」は、断然、「みを」と読む。]
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