立原道造草稿詩篇 (林のなかに⋯⋯)
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。]
(林のなかに⋯⋯)
林のなかにぎぼうしゆが眞白い花を咲いたとか
冬のさなかに きたけれども
夢みる心に疲れてゐたのか その鼻さへも目には浮ばず
なにかこせこせ悲しい顏つきの白茶けたあの鼠ばかりが
壁をやぶいて すきとほつた眼でぢつと見てゐた
こんな僕ではなかつたとぢつと考へてみるけれども
ああ その花さへも目には浮ばず
[やぶちゃん注:昭和十年、及び、それ以前でも冬に軽井沢に行った形跡は年譜上は、ないので、不審。
「ぎぼうしゆ」単子葉植物綱キジカクシ(雉隠)目キジカクシ科リュウゼツラン(竜舌蘭)亜科ギボウシ(擬宝珠)属 Hosta の複数の種を指すが、恐らくは、オオバギボウシ変種オオバギボウシ Hosta sieboldiana var. sieboldiana であろう。山岳部の顧問をしていた頃は、よく見た。詳しくは当該ウィキを見られたい。しかし、開花は夏で、冬に咲くのは、トンデモない狂い咲きである。
「なにかこせこせ悲しい顏つきの白茶けたあの鼠ばかりが」「壁をやぶいて すきとほつた眼でぢつと見てゐた」これは、家鼠の内の、哺乳綱ネズミ目ネズミ上科ネズミ科ハツカネズミ属ハツカネズミ Mus musculus である。]

