立原道造草稿詩篇 (私の 貧しさは⋯⋯)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、本パートの初回のこちらを見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。そこに、『草稿無題。堀辰雄?の「昭和十三年一月」のメモがある。』とあった。
さても、実は、これ、二〇一五年九月に、ここで、電子化注している。しかし、それは、旧角川書店版全集の、ここに基づいたものであり、本底本の物が正しい。ただ、そういう書誌学的な不全が、長く後の詩集・選集に影響を及ぼしている例として、敢えて残すこととした(標題で判るようにしておき、この投稿が正規版であるとするリンクも附した)。カットしたくないのは、私が、最後に注で、この詩篇への感懐も述べているからでもある。]
(私の貧しさは⋯⋯)
私の 貧しさは 暗い淚をたれ
ひつそりと 建物の壁に沿つて 步く
風が 私の髮を かきみだしてゐる
怒つたやうに⋯⋯
不意に 明るい場所へ 出るので
影は 濃く 風が にほひはじめる
日向の色に 私の心は耐へかねない
しづかに 聲を立て むせび泣く
そして どこからか 老いた
母の うたふ聲が 私を立ちどまらせる
眠らせようとでも するやうに
明るい晝なのに 何かしら眠りが
私のうちを ゆきすぎる⋯⋯ああ
この疲れに 私の步みは すでに馴れはじめた

