河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注中卷(六)寒天の說(その2)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの左ページから。書名は、既に本電子化注で出たものは書名注を再掲しないつもりだったが、大分、時間が経過しているので、一部は再掲した。]
「本草綱目」「閩書(みんしよ)」「廣東新語(カントンしんご)」其他の本草書、府縣志等(とう)にも、『石花菜(せつくわさい)』、一名、『瓊枝(けいし)』は沙石(させき)の間(あいひだ)に生じ、高(たかさ)二、三寸、珊瑚の如く紅白の二色(ふたいろ)ありて、枝上(えだのさき)に細齒(さいし)あり。一種、畧(ほゞ)、大にして、面(おもて)、鷄爪(けいさう)に似たるを『鷄脚菜(けいきやくさい)』といひ、白色(はくしよく)なるを『瓊枝(けいし)』といひ、紅色(こうしよく)なるを『草珊瑚(さうさんご)』と稱し、煮て、凝結(こゞら)せ、食する等(とう)を載せたるは、我が『ところてん』に疑ふ可らざるを以て、先哲は、之に充てたるなるへし[やぶちゃん注:ママ。]。而して、今、淸國產の『石花菜』を見るに、本邦の『つのまた』にて、『牛毛菜(ぎうもうさい)』が、本邦の『ところてんくさ』なり。茲(こゝ)に於て、又、疑(うたがひ)を生し[やぶちゃん注:ママ。]たりしが、「本草綱目拾遺」に、『麒麟菜(きりんさい)は瓊枝菜の類(るい)なり。一種、石花菜あり。又、細く、牛毛の如きものを牛毛(ぎうもう)とす。』。而して、淸國より來(きた)る『騏菜(きさい)』を見るに、『琉球角股(りうきうつのまた)』にして、三種を混稱することあるが如し。本草書・府縣志等(とう)各書に、夏月(かげつ)、煮沸(にわか)して、凝結せしめ、或は、膠凍(りやうとう[やぶちゃん注:ママ。「こうとう」が正しい。])となす、といひ、或は、『瓊脂(けいし)』と稱し、「本草綱目拾遺」には、『石花膏(せつくわこう)』等の製法ありて、薑酢(しやうがす)等(とう)を以て、廣く、食用に供することを載せたり。面して、現今、藻(くさ)のまゝ、本邦よりも輸出し、之を賣買するには、皆、『石花菜』の稱を以てせり。
[やぶちゃん注:「本草綱目」今年正月からアクセス不具合であった「漢籍リポジトリ」が回復したので、それで示すと、ここの「卷二十八」の「菜之三【蓏菜類一十一種 內附一種】」で、ガイド・ナンバー[071-22b]の五行目以下。一部に手を加えた。
*
石花菜【食鑑】
釋名璚枝【時珍曰並以形名也】
集解【時珍曰石花菜生南海沙石間高二三寸狀如珊瑚有紅白二色枝上有細齒以沸湯泡去砂屑沃以薑醋食之甚脆其根埋沙中可再生枝也一種稍粗而似雞爪者謂之雞脚菜味更佳二物久浸皆化成膠凍也郭璞海賦所謂水物則玉珧海月土肉石華卽此物也】
氣味甘鹹大寒滑無毒主治去上焦浮熱發下部虛
寒【寗原】
*
「閩書」明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南產志」(みん(「びん」とも読む)しょなんざんし)。一六〇八年成立。「中國哲學書電子化計劃」の「閩書」で「明府」で検索すると、結果して、「石介屬判」に、
*
石花菜生海礁上性寒夏月煮之成凍
*
とあった。
「廣東新語」全二十八巻。広東地方の百科全書。これは、「中國哲學書電子化計劃」で「卷五 石語」にあるのだが、これ、ちゃんと読めたわけではないが、このパート、どうも珊瑚類、或いは、類似した石灰質を含んだ海藻類に就いて述べているように思われ、当該部は、そのまま示すと、
*
青花明顯,如石花菜者,石工稱為芊紋,品中中◦
*
とあるだけで、これは当該対象の性質の比喩として述べているに過ぎず、「石花菜」そのものを記載しているのではないから、資料になり得ないものと判断した。
「鷄爪(けいさう)」ニワトリの蹴爪(けづめ)。
「つのまた」紅藻植物門紅藻綱真性紅藻亜綱スギノリ目スギノリ科ツノマタ属ツノマタ Chondrus ocellatus 。「大和本草卷之八 草之四 鹿角菜(ツノマタ)及び海藻総論後記」の私の「鹿角菜(ツノマタ)」の注を参照されたい。
「『牛毛菜(ぎうもうさい)』が、本邦の『ところてんくさ』なり」「百度百科」の「牛毛菜」に学名を
『石花菜( Gelidium amansii(Lamouroux Lamouroux,1813))』
とするが、これは、本邦の、
紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ(真砂縛り)亜綱テングサ目テングサ科テングサ属マクサ(真草)Gelidium elegans Kützing 1868
のシノニムである(鈴木雅大氏のサイト「生きもの好きの語る自然誌」の「マクサ Gelidium elegans 」で確認した)。
「本草綱目拾遺」淸の本草家趙学敏が、一八〇〇年頃に「本草綱目」の誤りを正したもの。当該部は、「維基文庫」のここで、以下のように出る。一部の漢字に手を入れ、半角字空けを詰めた。
*
諸蔬部
麒麟菜
出海濱石上,亦如枝菜之類,瓊州府海濱亦產。周海山煌琉璃國志載:雞脚菜、麒麟菜,皆生海邊沙地上,又名鹿角菜。今人蔬食中多用之,煮食亦酥脆,又可煮化爲膏,切片食。綱目鹿角菜云:甘大寒滑。陳芝山食物宜忌云:微鹹性平,大有消痰功用。瀕湖反引孟洗一說,以爲有微毒,不可久食,能發痼疾;且其主治,只載下食風氣,小兒骨蒸,治丹石熱結,解面毒,何昧其功用乃爾耶,兹特表之;朱排山《柑園小識》:石花菜生海中沙石間,高二、三寸,狀如珊瑚,有紅、白二種,洗去沙土,煮化凝成膏,糟醬俱佳。又有細如牛毛者,呼牛毛石花,味稍劣。郭璞海賦所謂土肉石華是也。味鹹性平,消痰如神,能化一切痰結痞積痔毒。敏按:盛京志龍須菜生于東南海濱石上,叢生,狀如柳根,長者至尺余,白色,以醋浸食,亦佳蔬也,土人呼爲麒麟菜,出金州海邊。鹿角菜生東南海中,大如鐵線,分丫如鹿角,紫黃色,乾之爲海錯,水洗醋拌,則如新味,今金州海邊有之,據志則似一類二種也。石花膏毛世洪養生集:治辛苦勞碌之人,或嗜酒多欲,忽生外痔,發作疼痛,步履難移。服此,或大便瀉一遍,或不瀉,亦卽止痛,可以行走;再用搽洗等藥,自能斷根。用麒麟菜洗去灰一兩,用天泉水煮烊,和白糖五錢食之。此方乃李治運臬司傳靈隱寺僧。杭人蕭成子患此症,僧往候,授以此方,服之隨愈。予記之,後治數人多效。
*
「琉球角股(りうきうつのまた)」これは、
スギノリ目ミリン(漢字表記は「味醂」のようである)科キリンサイ(麒麟菜)属キリンサイ Eucheuma denticulatum
の異名である。平凡社「世界大百科事典」に拠れば、『熱帯および亜熱帯に多く生育する海藻で,10~20cmの大きさの軟骨質のミリン科の紅藻。体は初め』、『円柱状であるが,後に不規則に分枝し,あたかも潮間帯の岩上にうずくまるような形状を呈し,また体の周囲には多数のいぼ状突起をもつ。世界各地の熱帯および亜熱帯海域に分布する。日本では太平洋沿岸の四国以南に知られる。近縁の種にカタメンキリンサイE.gelatinae J.Ag.,オオキリンサイE.striatum Schmitz,トゲキリンサイE.serra J.Ag.などがある。いずれも暖海に生育し,寒天の原藻となる。潮間帯に網を水平に張った施設をつくり,ここにキリンサイ類を生育させて養殖が行われる。養殖はフィリピンでとくに盛んである。』とある。
「膠凍」これは中国語で、対象物を水で煮、ペースト状にし、自然冷却してゼリー状にすることを言う。浙江省の製法であるようだ(「維基百科」の「膠凍(浙江食品)」を参照した)。]

