[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。表題は「しよしゆう」と読んでおく。底本全集で横断して調べたが、読みを附したものは見当たらなかった。]
初秋
夜、窓をひらくと、あたらしい油繪具のにほひがぷんとした。近所に繪描きのアトリエなどある筈もないので不思議に思ふと、明るい月が隣の家の屋根に繪を描いてゐるのだ。仕事を邪魔してはわるからうと、窓をとぢてゐたら、やがて一なすりばかり、こつちの窓のガラスにも、水銀色を塗つて行つてくれた。それが、夜が更けて來ると、どうもレモンのやうなにほひがする。僕は頰に掌をあて、しづかな顏で嗅いでゐる。
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