立原道造草稿詩篇 晩夏
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。]
晩夏
つめたい風が袖口をめぐつてゐた。僞はるために詩を書いた。秋とは何だつたらう。秋が來て、何をするのだつたらう。霧のふかい日がつづいた。明日ばかり算へてゐた。ギリシヤ神話をよんでゐた。門口で郵便配達に會釋をした。稀に旅人のやうに、道を瞶めてゐた。夢を見た。燈のまはりを蛾が羽ばたいてゐた。
[やぶちゃん注:妙に、漢字の読みが気になってしまった。「明日」は「あす」か? 「あした」か?……「瞶めて」は「みつめて」で良かろう……「燈」は「ひ」だろうな、「ともしび」では音数律に停滞が起きるからな……――「明日」を国立国会図書館デジタルコレクションで底本の全集を横断して検索したが、どこにも道造はルビを振っていなかった。結論としては、「今日」は「けふ(きょう)」であるから、想定されるのは対応する「あす」だろうが、「霧のふかい日がつづいた。明日ばかり算へてゐた。」というフレーズを音声にしてみると、実は「あすばかりかぞえていた」という音律は――如何にも――微妙に――よろしくないことが判る。「あしたばかりかぞえていた」で初めてリズムが合うのである。私は詩語音声として「あした」を採るものである。]
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