立原道造草稿詩篇 曇天
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。それに拠れば、昭和九(一九三四)年の『制作時付記を持つ』(月は表示なし)とある。]
曇天
雨降るな
風吹くな
旅であらうに
龜よ 汝(おまへ)の脊に手をおきつ
道は遙かに白かろき
[やぶちゃん注:「おきつ」の「つ」は、古語の完了の助動詞の終止形で、所謂、通常、「⋯⋯つ、⋯⋯つ」の形で、「⋯⋯したり、⋯⋯したり」という複数の動作が並立的に行われるそれであるが、ここでは、後の動作が存在しない全くの破格法である。或いは、古語・現代語共通の「つつ」の後の「つ」を脱字してしまったものかも知れない。しかし、最終行の末文のフレーズ「白かろき」は明らかに擬古文であるから、詩人の亀に言いかけた一連のものであると読む以外にはおかしいから、前のこの「つ」も、古語の破格のそれであると読むのが、自然である。しかし、表現としては、ぎくしゃくしていて、全くのアウトである。
さて。これと、直前の「天の誘ひ」の二篇は、道造としては、詩的実験を試みたものと思われる。「天の誘ひ」の漢文と最終行末尾の「歸らず」の擬古的手法といい、本篇の「つ」と「白かろき」の使用で、通性が強い。しかし、正直、この二篇は、道造の詩としては、異様で、失敗であると思う。]

