立原道造草稿詩篇 啞蟬の歌
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。それに附言の三好達治について、『月刊詩誌「四季」代表者の一人。立原が昭和9年10月「四季」創刊に参劃したのは、堀辰雄と、「未成年」を読んで感銘した三好の水推輓によるものである(三好達治「立原道造君」昭和14・5『文藝』)。』とある。標題中の「啞蟬」は「おしぜみ」と読み、「雌のセミ」を指す。]
啞蟬の歌
――三好達治氏に
僕は もう歌はなくなつてゐた
物のよろこびとかなしみを見わけることがなくなつてから
明るい空ばかりを美しい色で描いて
ああして 幾日が經つたらう
僕は もう歌はなくなつてゐた
杉の梢も 楡の木も 學校歸りの子供らも 消えてばかりゐる雲も
たつた一つのいのちのためには
どれだけのかげが投げられたのだらう

