立原道造草稿詩篇 食料品店で
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。その注記には、『原記には』『消去された第二聯がある(現第二聯は第三聯である)。』として、消去された文章が記されているので、まず、それを【初稿】として復元し、最後に【決定稿】を示すこととした。]
【初稿】
食料品店で
壜の肩のところに扇風機が映つて、しづかにそれはまはつてゐた。僕はぼんやりと見てゐた、壜のなかにも風が吹いて、葡萄酒の波が立つのだと。
子供たちは日本の饅頭の山のまはりを、遊んでゐた。ぬすみぎいて、僕は、その子たちがお饅頭の插話を澤山知つてゐるのに感心した。幾つもの知らない花束を過ぎて行つた葬列。空腹の時刻。……
僕は鑵詰の名を讀みながら、ポケツトのなかに銅貨を算へた。それから、美しい鑵詰の城を眺めてゐた。このなかには鰯の死骸があつてそれが銀色に光る美しい工たちなのだらうと。
[やぶちゃん注:「ぬすみぎいて」「竊(盗)み聴いて」。
「插話」「さうわ」。饅頭を素材にした昔話・民話のようなものを指していよう。
「幾つもの知らない花束を過ぎて行つた葬列」この一文は修飾関係が上手くない。]
【決定稿】
食料品店で
壜の肩のところに扇風機が映つて、しづかにそれはまはつてゐた。僕はぼんやりと見てゐた、壜のなかにも風が吹いて、葡萄酒の波が立つのだと。
僕は鑵詰の名を讀みながら、ポケツトのなかに銅貨を算へた。それから、美しい鑵詰の城を眺めてゐた。このなかには鰯の死骸があつてそれが銀色に光る美しい工たちなのだらうと。
[やぶちゃん注:二篇を比べてみると、結果的に原第二聯を総て削除したのは、取り敢えずは、前の注で述べたように、使用語・表現にやや難があるから、正解では、あろう。しかし、「子供たち」を登場させなかった決定稿は、何か、やや暗いモノクロームの映像に道造が立って眺めるシークエンスに終始してしまっていて、残念な気もしてくる。なお、「扇風機」から、このロケーションは軽井沢と断じてよかろう。]
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