立原道造草稿詩篇 (荒物屋の軒先で⋯⋯) / 底本「後期草稿詩篇」電子化注始動
[やぶちゃん注:底本は、今まで通りの、国立国会図書館デジタルコレクションであるが、「後期草稿詩篇」パートは、一九七一年角川書店刊「立原道造全集 第一卷 詩集I」(本登録をしないと閲覧出来ない『送信サービスで閲覧可能』である)のここからである。
本篇は底本の『後期草稿詩篇』パート(推定で昭和九(一九三四)年九月から昭和一三(一九三八)年九月から十月、或いは、その直後に至る草稿で、全四十三篇である。道造は翌昭和十四年三月十九日、結核で逝去した)を視認して電子化注する。
但し、私は二〇一六年に、所持する昭和四三(一九六八)年新潮社刊「日本詩人全集」第二十八巻の「立原道造」(中村真一郎編)所収のもの、及び、一九八八年岩波文庫刊「立原道造詩集」(杉浦明平編:杉浦氏は本底本の編集者の一人であるが、全集の前期及び後期草稿詩篇の編者は彼ではなく、堀內達夫氏(彼は正確には「編集」者ではなく「資料擔當」者である)である。この草稿の前期・後期の問題に就いては、「立原道造草稿詩篇 傳說」の冒頭注で私の推理を述べてある)の「後期草稿詩篇」三十三篇を、孰れも、恣意的に漢字を正字化して、本ブログ・カテゴリ「立原道造」で公開している。しかし、Unicode導入以前であり、正字不全もある。しかし、それらを総て削除して仕切り直すのは、忍びない(それらは私の忘れ難い昔のそれぞれ感性と微妙にリンクしているからである)。されば、それらは、逐一、対照検証して、修正して、残すこととする。無論、検証確認を新たに示し、以上の旧記事のリンクを張って、順に読めるようにするので、お許しあれ。
凡例は「前期草稿詩篇」起動の際に示したものと同じである。
本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。それに拠れば、解説の冒頭に『*草稿無題。』とあるが、早速、話しが違う! これ、「前期草稿詩篇」の解説の表記法が違うのだ。そちらでは、詩篇の柱の下方に無題の場合は、一マス空けて『無題』と記してあるが、それがなく、こちらは、柱から改行した各詩篇解説の頭にあるのである。全集として、こういうのは、非常に困る!
引用に戻る。『「村ぐらし」「八月の歌」の原型であり、政策は昭和9年9月頃と想定する。』とある。「村ぐらし」はこちら(先ほど、全集で再校正し、大幅に修正した)、後者の「八月の歌」は次の草稿詩篇である。]
(荒物屋の軒先で⋯⋯)
荒物屋の軒先でお化粧してゐないこの村のポスト 手紙をいれに日傘をさしてお孃さんが來ると ポストは怠け者らしく口をひらく お孃さんは急にかなしくなつて ひつそりした街道を歸つて行く
☆
三時過ぎると
咲く花がある
これは黃い花だつたので
人がゆふすげと呼んだ
☆
この村にお孃さんたちはすこしゐて 夕方 黃いろな帶を占めてゐる
☆
水車小屋がひとつだけある村
その小屋のそばには 靑い葡萄棚の下で 鷄の家族があそんでゐる
だれも半月ばかり氣がつかない
☆
石尊に近よれば石尊は大きな山
麓から見れば石尊はちつぽけな山
淺間は ぽかんと煙を吐く山
☆
落葉松の散步道の終りはいつも小さな墓地だつた お女郞の墓はかなしげに身を屈め 子供のあげた花を持つてゐる
☆
空の靑い日はしづかな道
☆
秋 袖口につめたい風がじやれ
このさびしい追分け道で
每日 山羊が啼いてゐます
每日 人が通ります 古びた次の村にまで
☆
手紙をこんな風に書く 郵便配達は自轉車でパンや本を運んでくれる代りに 午睡の夢にこんな手紙を讀んでしまふ あくる日 僕は それに氣づいて うちからの返事を貰ひながらどぎまぎする
☆
上り列車は三日月ぐらゐの小さな明りを一列につないでゐる
あれはくたびれた足どりで一しよう懸命 下り列車はもう暗くなつてからキラキラと走つしまふ 上り列車は僕たちをすこしだけかなしくしたり心配させたりする
☆
この村で 村はづれは落葉松の林に消え もひとつの村はづれでいつも赤いパラソルをさしておいらん草がゐる その間を行つたり來たりするうちに日が暮れる
[やぶちゃん注:「ゆふすげ」道造の好きな花で、私も好き。「ゆふすげ」は「夕菅」で、単子葉植物綱キジカクシ(雉隠)目ワスレグサ(忘れ草=カンゾウ(萱草))科ワスレグサ亜科ワスレグサ属ウコンカンゾウ(鬱金萱草)変種ユウスゲ Hemerocallis citrina var. vespertina 。学名画像検索をリンクさせておく。
「石尊山」「せきそんさん」。標高千六百六十七メートル。浅間山の南に位置する。ここ(グーグル・マップ・データ)。
「おいらん草」「おいらんさう」と読む。ツツジ目ハナシノブ(花忍)科フロックス属クサキョウチクトウ Phlox paniculata 。漢字表記は「草夾竹桃」であるが、リンドウ目キョウチクトウ科 Apocynaceaとは全く関係はない。北アメリカ原産。詳しくは、当該ウィキを見られたい。学名と「赤い」のフレーズ画像検索をリンクさせておく。]
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