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2026/03/23

河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注上卷(六)寒天の說(その3)

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの右ページから。]

 

 夫(そ)れ、石花菜は、海中の巖石に生ずる藻類(さうるい)にして、一根(いつこん)より、數十本を出(だ)して、多くの枝を分(わか)ち、紅白(こうはく/うすあかいろ)、黃・紫綠(しりよく/むらさきみどり)の數色あれども、槪(おほむ)ね、紫色(ししよく)にして、其(その)長さ、三、四寸より、七、八寸に至る。其品(そのひん)、位數(いすう)等(とう)あり。『大《おほ》ふさ』・『ながまるすぢ』を上品とし、『あらつち』、之に次き[やぶちゃん注:ママ。濁点落ち。]、『姥草(うばくさ)ハ、扁平にて、下品とす。紀伊にて『鬼草』、一《いつ》に『おにもくさ』、又、『ひらもくさ』と唱(となふ)るものは、形、平たくして、堅く、煮て溶(とけ)ること、遲し。故に、最も下等とす。採收季節は、各地、差異ありと雖も、槪(おほむ)ね、三月より十月に至る。早きに失すれば、嫩(もろ)く、晚(をそ[やぶちゃん注:ママ。])きに失すれば、萎(しぼ)むの憂(うれひ)あり。採收方に三《みつつ》あり。一《いつ》は、海に入りて搔採(かきと)り、一は、器具を用ひて、搔き揚げ、一は、波浪の爲(た)め、海岸に打寄せたるを拾ふ。其器具は、『天突(てんつき)』・『じよれん』・『のふと搔(かき)』・『てんとり鎌(かま)』・『がんがりまんぐわ』・『小たけ網』・『木製二股(もくせいふたまた)かき』・『てんとりあみ』等(とう)なり。然(しか)れども、『がんがり』は、木の枠に鐵、又は、竹の櫛齒狀(くしはぜう)のものを着(つけ)たるものなれば、根部(ねぶ)を、悉(ことごと)く、拔き採(とる)より、「蕃殖(はんしよく)を妨(さまたぐ)るの憂(うれい[やぶちゃん注:ママ。]あり。」とて廢(はい)せし地方も、あり。乾燥法も亦、大切のことにて、伊豆產の如きは、品質、志摩產に劣らさる[やぶちゃん注:「ざる」の誤り。]も、採撰(さいせん)の粗(そ)なるのみならず、乾燥不充分にして、雜物(そうぶつ[やぶちゃん注:ママ。「ざふもつ」が正しい。]を交(まじ)ふるの弊習(へいしう)あり。志摩產は、他物(たぶつ)を混(こん)ぜず、精選するを以て、世に名聲を博し、大坂市價(おほざかしか)の基本となせり。

[やぶちゃん注:ここに出る等級として出てくる多くの名は、しかし、どうも、同一種ではないことが、いろいろな寒天に関して纏められた複数の書籍を比較管見した結果、明らかになってきた。参考にしたのは、国立国会図書館デジタルコレクションの下島勇馬著「冬期副業寒天製造法」(『通俗工藝叢書』第三編/大正六(一九一七)年有隣堂書店刊)の「第二章 原料」である。十四ページあるが、部分引用しても意味がないので、時間が掛かるが、全文を起こす。但し、総ルビ(漢数字を除く)であるが、必要と判断したものだけを出す。頭注もあるが、出さない。ポイントの違い・字空け等も殆んど再現していない(太字は再現した)。読点が少なくて読み難いと判断して、増補し、当時の組版の制限から、行末に禁則処理を出来ないため、句読点がない箇所にも句読点を追加した。標本図があるが、手書きであるので、これも省略するが、図指示の部分にリンクをした。但し、生物学的学名は随時、段落後に注する(前掲したものも再掲した。何故なら、「淸國輸出日本水產圖說」の「寒天の說」本文では、現在の細分種名が正確に書かれていないからである。その学名は「BISMaL」のものを採用した。漢字表記は私が所持する複数の海藻書から信頼出来るものを附した。一部、割注も入れた。なお、本書は、「ログインなしで閲覧可能」で、誰もが見ることが出来る。

   *

      第二章 原  料

寒心天(ところてん)製造の原料は、總て海藻類に仰ぐものにして元來是等海藻類は其組織成分として體中(たいちう)に糊質分(こしつぶん)に含有する者多きを以て本性分(ほんせいぶん)あるものは皆總て原料となし得るものにして、現今利用されつゝあるは、テングサ類、ツノマタ、オゴノリ、イギス、エゴノリ、トサカノリ、トリアシ等(とう)を主(おも)なるものとす。

[やぶちゃん注:「テングサ類」広義には、アーケプラスチダ界Archaeplastida紅色植物門紅藻綱テングサ(天草)目テングサ科 Gelidiaceaeの海藻。狭義に一般的に代表種として「テングサ」と呼ぶのは、テングサ属マクサ(真草) Gelidium elegans ではある。しかし、以下で作者が示す三種は、現在では、テングサ属ではないものが含まれる(後注を見よ)。

「ツノマタ」紅色植物門(後は前に出した同タクソンは、以下、略す)スギノリ(杉海苔)目スギノリ科ツノマタ(角叉)属ツノマタChondrus ocellatus

「オゴノリ」オゴノリ(海髮苔・於胡苔)目オゴノリ科オゴノリ属Gracilaria vermiculophylla

「イギス」イギス(海髪)目イギス科イギス属イギス Ceramium kondoi

「エゴノリ」イギス科エゴノリ(恵胡苔)属エゴノリCampylaephora hypnaeoides

「トサカノリ」スギノリ(杉苔)目ミリン(味醂)科トサカノリ(鶏冠苔)属トサカノリ Meristotheca papulosa

「トリアシ」テングサ属ユイキリ(結い切り)Gelidium yoshidae の異名「鶏の足」の縮約異名。

       ()てんぐさ類

一、テングサ第一圖) 別名トコロテングサ(心太草(ところてんぐさ))、カハテン、キヌモグサ、マグサ、ツトグサ、マルブサ、アラツチ、ナガマルスジ、キヌクサ、イソクサ

本草は其名の如く原料として最も多量に使用せられ、漢名を石花菜と稱して古(いにしへ)に於ては主(おも)に本藻より製造せられ今日に於ても原料中最優(さいいう)なるものとして尊重せらる。其(その)生ずるや、干潮線以下の岩石に密生するものにして、海深(かいしん)五尋[やぶちゃん注:約十・九一メートル。]より、九尋[やぶちゃん注:約十六・四メートル。]に至る閒に多く成長し、時には、十四、五尋[やぶちゃん注:約二十五・五~二十三・三メートル。]の深(ふかさ)に繁茂する事あれども、北海道に於ては、四、五尋の深所(しんしよ)に盛(さかん)に成育するを普通とす。蓋し、水溫の相異は。如上の結果を見るに至れるなり。其形狀、基部は福平にして、細く、兩緣より、細繊(さいせん)なる多數の枝を出す事、密にして、羽狀(うじやう)をなす、叉、此枝より、不規則なる羽狀小枝を分岐す。根は、系狀に、莖は一所(いつしよ)に數(すう)十茎(けい)を叢生(そうせい)し、其丈(たけ)、四、五寸[やぶちゃん注:約十二・一~十五・二センチメートル。]より長きは、七、八寸[やぶちゃん注:約二十一・二~二十四・二四センチメートル。]に至る、又、巾は、廣きも、五、六厘[やぶちゃん注:約一・五~一・八センチメートル。]より一分(ぶ)[やぶちゃん注:四センチメートル。]を出(いで)ずして、極めて細く、色は、紅紫色(こうししよく)を普通とすれども、紅紫、黃綠等(とう)あり[やぶちゃん注:ママ。後の「紅紫」はダブるので、以下の記載から、例えば、「薄紅紫」・「暗紅紫」等の誤記か誤植である。]。一般に、テングサは其產地を異にすると共に、其色澤、形狀に差を生ずるものにして、本邦南海に產するものは、細く、且、黃色(こうしよく)なるも、北海道方面に產するものは、紫黑色にして其巾(はゞ)も廣きを見る。又、同一の地にても、生育の位置、時期等により、多夕の差あるを見る。總て、本藻は、空間に、採集して乾燥する時は、深紅紫色となり、光澤を增し、彈力性に富むに至るものなり。而して、通例、製造地にて呼ぶテングサの中には、次の三品種の別あるものにして、植物學上、同一のテングサ科に屬すと雖も、決して、同一のものに非ざるり。今、其名稱、及び、相違の主(おも)なる點を、次に記さん。

二、ヒゲモグサ(第二圖) 至る所の沿海、五、六尺[やぶちゃん注:一・五二~一・八二メートル。]以下の深所に生育し、一名オホブサヒゲグサとも呼ぶ。枝條繊維(しでうせんゐ)、伸長して、比狀、鬚髯(すうぜん[やぶちゃん注:ママ。「すぜん」「しゆぜん(しゅぜん)」が正しい。])の如きより、此名あり。扁壓(へんあつ)して線狀をなし、頂末(ちやうまつ)の小枝(せうし)は對生し、稀に大なる線狀を、なし、長さ、八、九寸より、一尺二寸に至る、[やぶちゃん注:読点はママ。]製造原料として優れるものなり。

[やぶちゃん注:「ヒゲモグサ」これは、国国立国会図書館デジタルコレクションの「大阪工業試印驗所報告 第十一回第十四号 寒天ニ關スル硏究(第二報) 寒天製造用海藻類ノ成分 寒天質ノ試驗法(其一)」(昭和五(一九三〇)年工政會出版部発行)の「寒天製造用海藻類ニ就テ」のここで(学名の種小名が斜体でなく、頭が大文字であり、後で示すのと一部の綴りが違い、命名者名も微妙に違うのはママ)、

   *

4ひげもぐさ 學名 Grelidium Linovides Kütz

  別名 ひげくさ

  てんぐさニ似タル形狀ヲ有シ五乃至十尋ノ深所ニ生ジ全長八寸乃至一尺以上ニ及ブモノナリ。安房、志摩、阿波ニ產出セラル。

   *

とあるのが、本種である。何時もお世話になっている鈴木雅大氏の「生きもの好きの語る自然誌」の「キヌクサ Gelidium linoidesの学名と酷似するので、間違いない。そちらに拠れば、これは(マサゴシバリ亜綱 Rhodymeniophycidae の漢字表記は同サイトのここで確認した))、

紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ(真砂縛り)亜綱テングサ目テングサ科テングサ属キヌクサ(絹草)Gelidium linoides Kützing 1868

で間違いない。

三、ヲニグサ第三圖) 各地至る所の沿海に生じ、其枝條は、甚だ、硬くして末端は左右に枝を分ち、形狀、大にして、中筋(ちうきん)を生じ、枝條の羽狀に分岐すると、互生に生ずるものとありて、七不規則に、色は暗綠叉は暗紫色をなし、質硬く常に淺所の岩上に平臥(へいぐわ)して生育し、直立する事無く、原料としてはテングサ中、劣等なるものなり。

[やぶちゃん注:これは、

テングサ属オニクサ(鬼草)Gelidium japonicum

である。鈴木氏の「生きもの好きの語る自然誌」の「オニクサ Gelidium japonicumのページに、膨大な写真及び動画(撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島):他では同種の動画は見られないので必見!)があるので、是非、見られたい。]

四、ヒラクサ第四圖) 本藻も又、質、硬くして、形狀は扁平に廣く、兩端は、薄く、羽狀に分岐して、主枝(しゆし)は、中央部に筯を生ず。硬質なるより、原料としては、中等品なれども、製造に當り、步留(ぶどま)り多きより、他の優良藻(いうりやうも)と共に混(こん)じて、用ひらる。

[やぶちゃん注:これは、

テングサ科ヒラクサ(平草)属ヒラクサ Ptilophora subcostata

である。私が最も重宝させて戴いている田中次郎先生の著になる「日本の海藻 基本284」(二〇〇四年平凡社刊)に拠れば、種名の『学名の由来』は『準(ある程度)+中肋のある』とあり、キャプションには『マクサに似るが、触るとかなりかたい。もっとも大きくなるテングサ類』とあり、『分布』は『日本沿岸中部・南部』とし、『生育場所』は『潮下帯の深所』、『高さ20~30㎝、枝の幅5㎜』で、『ヒラクサ属Ptilophoraは「やわらかい+持つ」の意。日本には2種が知られる。本種は、深い場所にしばしば生育し、潜水するともっともよく目につく海藻である。平たいからだをもつ。枝の中央部が少し膨らむ場合があることが学名の由来となっている。しかし中肋と判断できるはっきりした構造はない。テングサ類のなかでは。もっとも大型になる種。藻体の質はかたい。付着根はとても太い繊維からなる。』とある。]

五、テングサの産地[やぶちゃん注:「産」が新字なのはママ。] 既述のテングサの產地は本邦海岸至る所にありと雖も、伊豆七島、安房、志摩、日向、能登、越後、北見等に產し、中にも靜岡、三重、千葉、和歌山、島根の諸縣、特に多く、就中(なかんづく)、伊豆神洋島(しんやうじま)[やぶちゃん注:こんな島はない。「神津島」の誤記である。]、三宅島產、及(および)、紀伊產を優良品とす。本藻は原料として最も多く使用せられ、其產額百萬貫[やぶちゃん注:三百七十五キログラム。]に近く、價格、亦、四十萬圓に近し。今、最近の產額を見(みる)に、八十三萬九千八百十六貫[やぶちゃん注:三百十四万九千三百十キロゴラム。]にして、此價格三十八萬一千五百七十一圓なる事、既に揭載せる表の如し[やぶちゃん注:この表は、ここから視認出来る。]。

六、テングサの繁殖法 海藻類の多少は、直接、本業の隆盛如何に關するものなる故、是が繁殖の方法を知るは、叉、餘事に非ずと云ふべし。テングサは無性生殖、有性生殖の二法によりて繁殖を營むものにして、前者は其枝表(しひやう)に四分胞子(《し》ぶんほうし)なる物を生じ、此各個體は枝條より分離して、他物(たぶつ)に適宜寄着して、玆(こゝ)に母體と同樣なる成長を遂ぐるに至るものなり。有性生殖にありては、其精子、成熟するに及ぴて雄(おす)生殖器より出でゝ、波に動搖されつゝ、雌の卵細胞に達し、玆に、受胎作用を起して、新胞子を生ず。次に、是等の胞子は、數多(あまた)相集りて、囊果(のうくわ)と呼ぶ囊狀の器管中に藏(ぞう)せられ、各(かく)胞子は新(あらた)に發芽して、玆に母體となるに至る。而して、此二者の繁殖時期は春期三、四月の候と、秋期八、九月の二期あれども、春季は無性生殖に依るもの多く、秋期は有性生殖に依るもの多きを見る。而して、其春季に蕃殖(はんしよく)せしものは、五、六月頃、老成せしもの、脫落して、幼者(えうしや)、是に換り、此ものは、七、八月頃に至りて、成熟すると共に、幼者、是に換りて、翌年、三、四月の候に成熟するものなり、故に、是が採集に當りては、其成熟、及。脫落の時期を知る事、必要なりとす。

(二)ツノマタ (第五圖) 別名カパノリ、カイソ、タンバ

本藻は、干潮線に近き所の岩上に群生し、少しく波荒き場所を好む。其根は圓盤狀をなして、岩石に固く附着し、形狀、扁平にして、巾、廣く、叉狀に分岐して、其項端(ちやうたん)[やぶちゃん注:漢字は「頂端」の誤植。以下でも、これが続く。]は圓形をなすを見る。長さ、四、五寸、巾、四、五分にして、色は紅綠色を呈し、成長するや、體(たい)の項部(ちやうぶ)、複叉(ふくさ)狀、叉は、不規則なる分岐をなすに至る。其繁殖法も亦、テングサの如く四分胞子(《し》ぶんほうし)、及、囊果(のうくわ)に依るものにして、是等は、葉面(えうめん)に、卵形、叉は、蛇の目狀の斑點となりて表(あらは)れ、成熟するや、是より、胞子は飛散す。通例、ツノマタと總稱すれども、此の海藻には、數多(あまた)の種類ありて、コトヂツノマタ、ギンナンソウ、ヒラコトヂ、ソラキウツノマタ、オホバノツノマタ等(とう)、是なり。是等のツノマタは、總て、糊料(これう)として、左官用(さかんよう)に用ひらるゝ事、多く、地方によりては、蒟蒻狀となして、食用に供する地あり、と、聞く。產地は廣くして、東海道沿岸、及、陸前地方に多く、相模、安房、上總、遠江、伊豆、常陸、磐城の氣仙沼等に產す。原料としては、劣等なるものにして、使用せらるゝ事、少(すこ)し、是、質、粗剛(そがう)にして、容易に煮熟(しやじゆく)して、溶解せられざるが、爲(た)めなり。

[やぶちゃん注:これ以降の種名は太字になっていない。まず、この「ツノマタ」は既注の、

真性紅藻亜綱スギノリ(杉苔)目スギノリ科ツノマタ(角叉)属ツノマタ Chondrus ocellatus

である。前掲の田中先生の「日本の海藻 基本284」に拠れば、種小名は『蛇の目模様の』で、キャプションには『平たいものから鶏冠状のものまで形もさまざまである。』とあり、『分布』は『日本各地』とし、『生育場所』は『潮間帯下部~潮下帯』、『大きさ』は『高さ10~15㎝』で、『潮間帯下部に生育代表的な紅藻である。体色は七変化。緑、青、紫、赤などの色合いのものがある。基本的には広い枝が二叉分岐する。枝はねじれることが多い。高血圧などの民間薬の原藻としても知られる。カラギーナン寒天』(カラギナンは紅藻類から抽出される多糖類の呼称で、カラギナンはその構造の違いから κ(カッパ)カラギナン・ι(イオタ)カラギナン・λ(ラムダ)カラギナンの三種に分かれる。当初は「アイリッシュ・モス(Irish moss)」という紅藻類の海藻のみが、カラギナンの原料に用いられていたが、後の、多様な紅藻類から抽出されるようになった。「カラギナン」という名は、古くからアイリッシュ・モスを利用してきたアイルランドの“Carragheen”という街の名に因んだものようである。現在でも「カラギナン」のことを“Irish moss extract”と呼ぶことがある。カラギーナンは基本的には、ガラクトース(Galactose)基に硫酸基が附いた構造をしており、同じく紅藻類から作られる通常の「寒天」とは、硫酸基の含有量の相違によるものと謂われている。寒天よりもカラギーナンは多量の硫酸基を含有している。以上はサイト「食品開発ラボ」の「カラギナンとは~基礎から徹底解説」に拠った)『としても食されることが多い。』とある。続く以下の種を示す。

「コトヂツノマタ」はツノマタ属コトヂツノマタChondrus elatus

「ギンナンソウ」小学館「日本大百科全書」の「ギンナンソウ ぎんなんそう / 銀杏草」に拠れば、『紅藻植物、スギノリ科の海藻の一群をさす。東北地方、北海道の沿岸に産し、藻体の煮だし液が土壁、漆食(しっくい)などの粘着糊料(こりょう)に使われた。革膜質で、上部が二又に分岐する葉状型となる海藻で、アカバギンナンソウとクロバギンナンソウとがあったが、研究が進み、アカバギンナンソウ(別名ウスバギンナンソウ、ホトケノミミ』(「仏の耳」)『)はRhodoglossum japonicum Mikamiであり、クロバギンナンソウ(別名アツバギンナンソウ)は新しくエゾツノマタChondrus yendoi Yamada et Mikamiとする説が出され、採用されている。糊料としての用途は衰え、食用にされることが多い。』とあった。現在、流通では、単に「銀杏草」(或いは採集地の名前を冠す)として、味噌汁の具等として販売されている。サイト「北海道へ行こう!」の「ほとけのみみ?稚内銀杏草(ぎんなんそう)を美味しくお召し上がりいただくために(レシピ・食べ方)」が採取からリピシまで、写真があるので見られたい。学名は、

スギノリ目スギノリ科アカバギンナンソウ(赤葉銀杏藻)属アカバギンナンソウ Mazzaella japonica

であるが、他に、以上に引用した通り、アカバギンナンソウに非常に似た、属レベルで異なった別種に分離された、

スギノリ科ツノマタ属クロハギンナンソウ(黒葉銀杏藻)Chondrus yendoi

を別に挙げねばならない。別に「エゾツノマタ」の異名がある。後者に就いては、鈴木氏の「生きもの好きの語る自然誌」の「クロハギンナンソウ Chondrus yendoi」のページが画像も豊富で、よい。そこで鈴木氏も、『クロハギンナンソウ( Chondrus yendoi )は,東北地方太平洋沿岸以北で良くみられる海藻ですが,アカバギンナンソウ( Mazzaella japonica )との区別にしばしば頭を悩ませます。アカバギンナンソウとは生殖器官の構造が異なり,分類学上は属のレベルで異なりますが,見た目はとても良く似ています。ツノマタ属の例に漏れず,外部形態が激しく変化するため確実とは言えませんが,アカバギンナンソウと比べて分枝が少ないこと,色が黄色っぽいことなどによって区別しています。色は重要な特徴ですが,押し葉標本にすると褪せてしまうため,生育時の写真を撮影し,残しておく必要があるでしょう。』とあった。流通では、アカバギンナンソウと区別した記載は認められないが、信頼出来る記載に拠れば、『若いものは食用になる』とあったから、大きくなると、硬くなって食用には向かなくなると推定される。

「ヒラコトヂ」これは、

ツノマタ属ヒラコトジ(平琴柱)Chondrus pinnulatus

である(「コトヂ」は歴史的仮名遣である)。前掲の田中先生の「日本の海藻 基本284」に拠れば、種小名は『羽状の』で、キャプションには『細い枝が不規則に出ている。』とあり、『分布』は『日本沿岸北部』とし、『生育場所』は『潮下帯』、『大きさ』は『高さ15~20㎝』で、『分布は日本の北部が中心であるが駿河』『でも生育が見られた。このような分布の例は、瀬戸内海や伊勢湾などの内湾で見られる。冬に水温が低くなるとことが理由のひとつである。からだはかたくしなやかで、二叉分岐して平面的に広がる。太い枝から不規則に細かい枝が多数出る。ツノマタ、マルバツノマタ』(丸葉角叉: Chondrus nipponicus )『に似るが、茎や枝は平たく、枝の先はとがる。』とあった。

「ソラキウツノマタ」✕いろいろ調べたが、国立国会図書館デジタルコレクションでも、この書にしかヒットせず、不詳である。識者の御教授を乞う。

「オホバノツノマタ」(大葉角叉) Chondrus giganteus 。]

) オゴノリ(第六圖) 別名ウゴノリ、オゴ、ウゴ

本藻は靜溫(せいをん)なる內灣、及、河口等の淺所(せんしよ)に生育し、岩石、介殼片(かいこくへん)等(とう)に着生し、其丈(そのたけ)、一尺より長きは、三、四尺に及ぶ。枝條は圓柱狀にして、極めて細く、直徑三厘[やぶちゃん注:二・七センチメートル。]內外にて、不規則なる叉狀線、又は、羽狀線をなし、表面、滑澤(こつたく)に、質は柔軟にして、色は深褐色をなせり。囊果(のうくわ)は、枝の表面に半球狀の疣狀(いうじやう)隆起をなして生じ、是より、胞子の飛散するを見る。又、食用に供し、糊料[やぶちゃん注:底本は「湖料」。誤植と断じ、訂した。]、漉布糊(すきふのり)等(とう)にも用ひらる。產地は東海道沿岸、及、瀨戶內海に多く、モヅサと供ひて產する事、多し。粘力、强くして、製造の步留(ぶどま)り多きを、利ありとすれども、其品質、惡しきより、多く使用する時は、製品を劣惡ならしめ、惡臭を附するの恐れ多き爲め、信州諏訪水產組合にては、使用を禁ず。

[やぶちゃん注:これは、刺身のツマとしてよく知られており、私も好物である、

紅色植物門紅藻綱オゴノリ(於胡海苔・海髪)目オゴノリ科オゴノリ属オゴノリ Gracilaria vermiculophylla に代表されるオゴノリ科Gracilariaceae のオゴノリ類

である。本邦産だけでも、

オオオゴノリ Gracilaria gigas

ミゾオゴノリ Gracilaria incurvata

フシクレオゴノリ Gracilaria salicornia

シラモ Gracilaria bursa-pastoris

カバノリ Gracilaria textorii

シンカイカバノリ Gracilaria sublittoralis 

等、実に二十種が知られている。★なお、生食で、中毒症状を呈し、死亡例も、複数あることは、あまり知られていないので、注意が必要である。★それに就いては、「大和本草卷之八 草之四 ナゴヤ (オゴノリ)」(「ナゴヤ」はオゴノリ類の九州での方言)の私の注で、中毒・死亡例の推定機序を述べてあるので、御存知ない方は、必ず、見られたい。

「漉布糊(すきふのり)」和紙の漉き工程で使用するものであろう。]

)イギス (第七圖) 別名ヱギス、イギリス、オキテン

本藻は干潮線以下に於て生育し、枝條、圓柱狀をなし、質は柔軟にして粘滑に、下方には、小枝(せうし)、輪生し、全體は、不規則なる叉狀に分枝せる枝條、廣まりて不定なる塊狀をなし、先端は尖りて、內曲(ないきよく)するものあり、全體に環紋(くわんもん)あるを見る。他の多くの海藻上に着生し、其色、暗紅紫色を帶(おべ)り。本藻は、味噌、洒精に漬けて、食用となす。又、イギス蒟蒻(こんにやく)なるものは、酢、又は、米泔汁(こめとぎじる)を加へ、煮て、溶解せしめ、是を凝固せしものなり。其外、酢、味噌として食用になす等(とう)、其用途、廣し。本邦に廣く歲出すれども、兵庫縣產を以て、最も優良なり、とす。

[やぶちゃん注:これは、解説から見て、

マサゴシバリ亜綱イギス目イギス科イギス連エゴノリ属イギス(海髪)Ceramium kondoi

である。前掲の田中先生の「日本の海藻 基本284」に拠れば、種小名は『人名にちなむ』とあり、調べたところ、発見者の姓が近藤であったことに拠る(学名規則に姓名が母音で終わる場合は「i」を語尾に追加せねばならない)。『分布』は『日本各地』とし、『生育場所』は『潮下帯』、『大きさ』は『高さ20~30㎝』で、『潮下帯のホンダワラ類などの海藻の上に生育する。エゴノリ』(既注)『やアミクサ』(イギス連エゴノリ属アミクサ(網草)Campylaephora boydenii )『と同様な場所に生育する。類似種とは、枝が三叉状に分岐する特徴で区別される。』(☜重要!)『また、エゴノリのように他の海藻にからみつく鉤状の枝葉できない。山陰』(さんいん)『や瀬戸内海地方で食されるイギス豆腐はとみに有名である。』とある。藻体画像と分類学では、やはり、鈴木氏の「生きもの好きの語る自然誌」の「イギス Campylaephora kondoi」のページが画像も豊富で、よい。そこで鈴木氏が、『分類に関するメモ:イギスは,Ceramium属の1種として記載されました。Barros-Barreto et al. (2023) は,イギスをCeramium属からエゴノリ属(Campylaephora)に移しました』とあるのに注目せねばならない。

 さて、田中先生が最後に述べておられる「イギス豆腐」に就いて、当該ウィキを引く(注記号はカットした)。『いぎす豆腐(いぎすどうふ)とは、愛媛県今治市を中心とした瀬戸内海地方に伝わる郷土料理。愛媛県の越智地方・今治地方で、夏の風物詩としてお盆や法事の際に食される。見た目は高野豆腐に似る』。『紅藻の一種であるいぎす草(Ceramium kondoi Yendo)』(学名に注目! これは正しく、種としての「イギス」である)『と生大豆の粉を出汁で煮溶かし、寒天のように固めた料理である。いぎす豆腐には具入りと具なしがある。具入りはエビや枝豆などを入れ、華やかな見た目になる。家庭によって具とする食材は様々である。具なしは醤油や辛子味噌をつけて食べる』。『長崎県の島原半島の郷土料理である』「いぎりす」の異名は『いぎす豆腐に由来するとされる』とある。「イギス豆腐」に就いては、「農林水産省」公式サイト内の「いぎす豆腐 愛媛県」を見られたい(種名を示さない。なお、私は食したことがない。四国には足を踏んだだけで、高知に至っては、唯一の未踏県である)。なお、この注をするのに際し、私のサイト版「和漢三才圖會 卷第九十七 水草 藻類 苔類」の「いぎす 海髪」の種同定に誤りがあったので、修正した。お暇な方は、ご覧あれかし。]

)ヱゴノリ(第八圖) 別名ヱゴ、オキウト、麒麟菜(漢名)[やぶちゃん注:丸括弧閉じるがないので、補った。]

本藻は四、乃至、五尋の海底の岩石に多く附着して生育し、大なる塊狀をなし、枝條は圓柱狀にして、多枝(たし)を分岐し、互に各枝(かくし)、卷き合ひて、其區別、困難なり。各枝の先端は、卷き、肥大にして、彎曲(わんきよく)せり、而して此部に四分胞子(《し》ぶんはうし)を附着す。食用にも供せらる。產地は九州近海に最も多く、又、陸中以南、及、越後以西の海岸に生じ、肥後、明石、三河、江の島、安房、松島、凾館、釧路の厚岸、出雲、能登、佐渡等(とう)、主(おも)なる產地にして、原料として良品なるを以て、テングサに次ぎて、廣く貴重され、其使用料も從(したがつ)て多額なりとす。

[やぶちゃん注:これは、「おきゅうと」の原料として知られる(ご存知ない方は当該ウィキを見られたい)、

イギス目イギス科イギス連エゴノリ属エゴノリ(恵胡海苔)Campylaephora hypnaeoides

である。田中先生の「日本の海藻 基本284」に拠れば、種小名は『ハイゴケ(蘚類)に似た』とあり(マゴケ(真苔)植物門マゴケ綱ハイゴケ目ハイゴケ科ハイゴケ属ハイゴケ Hypnum plumaeforme 当該ウィキの画像。似てるとは思えないな)、『分布』は『日本各地』とし、『生育場所』は『潮下帯』、『大きさ』は『高さ20~30㎝、枝の直径1mm』で、『類樹種』は『アミクサ、イギス』とあり、『エゴノリ属』の属名『は「曲がったもの+もつ」の意。日本には3種が知られる。本種の和名は九州地方の方言による。細い円柱状のからだをもつ。アミクサ、イギスとともにホンダワラ類などの他の海藻の上に付着することが多い。カギイバラノリ』(スギノリ目イバラノリ(茨苔)科イバラノリ属カギイバラノリ(鉤茨苔)Hypnea japonica )『と同じような鉤状の枝で他の海藻にからみついている。この鉤状の枝を持つことで類似種のイギス、アミクサと区別できる。寒天原藻として重要。イギス類とオゴノリを、糊分の強い順に並べるとエゴノリ、オゴノリ、イギスの順であり、エゴノリが一番かたい。枝はもろい。』とあった。]

)トリアシ(第九圖) 別名スヾクサ、セラサ

本海藻の枝條は瞰軸的(かんじくてき)に成長す。卽ち、海綿質を有せる圓盤體(ゑんばんたい)、相重(あひかさな)りて、一條の中軸に貫(つらぬか)れたる貫錢(くわんせん)狀をなし、其表面は粗糙(そざう)[やぶちゃん注:「ざらざらとして粗いこと」。]にして、長さ、七、八寸より一尺に至る。其色、枝條に紫色の輪を無數に篏(は)めたるが如くにて、其形狀、宛然(さながら)、鳥の足の如くなるより、此名あり。四分胞子は、各圓盤體の緣邊(えんぺん)より生ずる微細(こまか[やぶちゃん注:二字へのルビ。])なる小羽中(せいうちう)にあり。又、其枝條の表面に凸凹(とつあふ)あるにより、土砂、海綿、石灰質の海藻を附着する事、多し。原料としては、其質、剛硬(かたき[やぶちゃん注:二字への略訓的なルビ。])に失するの缺點あり。產地は太平洋に面する國に多く、下總、安房、相模、伊豆、志摩、紀伊、阿波、土佐、日向等(とう)を主產地とす。

[やぶちゃん注:これは、少し手間取った。現代の正式和名が以上と異なっていたためである。国立国会図書館デジタルコレクションの大島勝太郞著「海藻と漁村」(一九四九年目黒書店刊)のここで、「トリノアシ」を正式名とし、学名は『Acanthopeltis japonica』となっている(斜体でないのはママ)。異名に「ユイキリ」「スズクサ」とあった。これは、現在の、

テングサ属ユイキリ(結い切り)Acanthopeltis japonica

である。但し、以上の学名はBISMaL」のものであって、鈴木氏の「生きもの好きの語る自然誌」の同種のページのタイトルは、

ユイキリ Gelidium yoshidae

となっている。以下、正式には、『Gelidium yoshidae G.H.Boo & R.Terada in Boo et al. 2016: 368.』で、以下に『分類に関するメモ』として、『ユイキリは,ユイキリ属(Acanthopeltis)の1種としてテングサ属(Gelidium)と区別されていましたが,Boo et al. (2016)は,遺伝子解析を基にユイキリ属をテングサ属に含めました。ユイキリをテングサ属に移すに当たり,オニクサ(G. japonicum)の後続同名になるのを避けるため,新名G. yoshidaeを提唱しました。』とあったから、最後のものが、ユイキリの最新の学名である。

田中先生の「日本の海藻 基本284」に拠れば、『分布』は『日本中部・南部』で、『生育場所』は『潮下帯』。『大きさ』は『長さ10~20cm』、『解説』に前者の学名について、『 Acanthopeltis は「棘のある+楯」の意。日本特産種で、日本では2種が知られる』とあるが、調べてみても、この二種の違いは判らなかった。『和名は、枝を糸で切り結んでいる様による。別名の「トリノアシ(鳥の足)」は、本種の枝の外形がニワトリの足のすねに似ているから。からだは円柱状、二叉分岐し、老成するにつれてその間に海綿動物が多量に着生するために、体色は白く、円筒状の枝となることが多い。外洋に面した水深2~10mに多く、太平洋沿岸では千葉県から九州までいたる地方に生育する。密生して生育し、大量に浜に打ち上げられることも多い。テングサ類のひとつだが、その寒天原藻としての品質は他のテングサ類に劣る。』とある。]

)トサカノリ(第十圖) 鷄冠菜、紅菜、鳳美菜(はうびさい)(漢名)

本藻は、形狀、扁小にして、叉狀、及、羽狀等に分裂し、又、綠緣邊より、副枝を出(いだ)す事、あり。各節(かくせつ)の表面、及、綠邊には無數の突器(とつき)ありて、子嚢を附着し、其四分胞子は、表面に、散じて附着せり。暖地に生ずる者は、大にして、オヽトサカと呼ばる。日光に曝露(ばくろ)する時は、白色に變ずるより、陰乾(かげぼし)となる。淸國(しんこく)にては、五色菜として珍重せらると云ふ。

[やぶちゃん注:これは、

ミリン(味醂)科トサカノリ(鶏冠海苔)属トサカノリ Meristotheca papulosa

である。但し、以上の学名はBISMaL」のものであって、鈴木氏の「生きもの好きの語る自然誌」の同種のページのタイトルは、

トサカノリ Meristotheca japonica

となっている。そして、以下に、「分類に関するメモ:トサカノリは,"Meristotheca papulosa"に充てられてきましたが,Yang et al. (2023) は,日本産種をM. papulosaとは別種として区別し,M. japonicaに充てました。」とある。前注と同じで、こちらが最新の学名である。田中先生の「日本の海藻 基本284」に拠れば、『分布』は『日本各地』で、『生育場所』は『潮下帯』。『大きさ』は『長さ20~50cm』、『解説』に学名の属名について、『 Meristotheca は「分かれた+莢(さや)」の意。日本では2種が知られる』とあるが、調べてみても、前と同様、この二種の違いは判らなかった。『本種は枝の先端の枝分かれ形が、ニワトリの鶏冠のようなのでこの名がある。平面的に広がる肉質のからだは、成長すると折れやすい。成長すると瘤(こぶ)状の突起がたくさん出る。老成した個体と若い個体では形態がいちじるしく異なることがある。鶏冠を連想させる形態は若い時期のものである。生体は紅色であるが、熱湯を通せば、赤い色素が変成して、葉緑素の色が緑色として残る。さらにそれを水にさらすと、すべての色素が溶け出して白くなる。これらの乾燥させたものを組み合わせて、「赤トサカ」、「青トサカ」、「白トサカ」の海藻サラダ3点セットとして売られている。その食感と味は海藻サラダの絶品といってもよい。』(私も諸手を挙げて賛同する!)『煮出して冷やしてかためたものは、「トサカコンニャク」と呼ばれて食用になっている。』とあった。]

以上の海藻類は、現今、專ら、使用せらるゝものなれども、將來、一層、善良なる原料も發見せらるゝ事もあるべく、主產地なる長野縣下に於ては、大正二年度より、各原料の試驗に從事しつゝあれば、他日、是が成績に就き詳記する事とすべし。

   *

★以上を以って、ほぼ四日と半日をかけて、底本では全くと言っていいほど、示されない「寒天」の材料となる種を、知られたものは、一部を除いて、示すことが出来たと考えている。★

「『大《おほ》ふさ』・『ながまるすぢ』を上品とし、『あらつち』、之に次き、『姥草(うばくさ)』ハ、扁平にて、下品とす。」これはテングサ類の素材の上等物から下等物の呼称のようである。

「紀伊にて『鬼草(おにくさ)』、一《いつ》に『おにもくさ』、又、『ひらもくさ』と唱(となふ)るものは、形、平たくして、堅く、煮て溶(とけ)ること、遲し。故に、最も下等とす」これは、前の引用で注した、テングサ属オニクサ(鬼草)Gelidium japonicum である。

「海に入りて搔採(かきと)り、」これ以降は、先に引用した「冬期副業寒天製造法」の「第二章 原料」に続く、「第三章 原料の採集法」を見られたい。十全に視認でき、特に注を附すもない平易な内容なので、見られたい。「)蜑女(あま)」相当である。また、「()潜水器」も含まれる。

「一は、器具を用ひて、搔き揚げ」当該部は「(二)ドレツヂ(drag)」(英語表記はママ。正しくは“dredge”である。)を見よ。

「一は、波浪の爲(た)め、海岸に打寄せたるを拾ふ」今も普通に行われる海岸での打ち上げられたもの、或いは、岸辺・浜辺直近で浅い所の波に漂流するものを、素手で収穫する方法である。同前の章末の「()漂着藻採集(へうちやくさうさいしふ)」を見られたい。

「天突(てんつき)」不審。これは、寒天原藻を刈り取る道具ではなく、最後に処理した心天(ところてん)の塊を突いて細長く切り出す特殊な道具である「心太突き」だからである。河原田氏が、うっかりと入れてしまったのではあるまいか。福岡県遠賀郡水巻町(みずまきまち:ここ。グーグル・マップ・データ)の「水巻町歴史資料館」の「ところ天突き」を見られたい。私は、どこかの資料館で手にとったことはあるが、実際に突き出したことはない。

「じよれん」「鋤簾」で現代仮名遣では「じょれん」。対象物を掻き寄せる道具。長い柄の先に、浅い歯を刻んだ板・鉄又は竹を、箕()のように編んだものを取り付けたもの。鋤簾鍬(じょれんぐわ)。「コトバンク」のここで図画像が見られる。

「のふと搔(かき)」不詳。「野太搔き」か。前者よりもがっちりとした鋤簾のようなものか。識者の御教授を乞う。

「てんとり鎌(かま)」不詳。「ところてん」の「てん」で原藻を「獲る」「鎌」状の道具か。同前。

「がんがりまんぐわ」不詳。冬の原藻を刈る「寒刈(かんが)り」用に特化した「馬鍬」(まぐわ→(音変化で「まんぐわ」ともなる):牛馬に牽かせて水田の土を掻き馴らす農具。長さ一メートルほどの横の柄に、刃を櫛状に取り付けたもの)か。「第三章 原料の採集法」の「(三)アンガ」に、『此法は北海道に主として行るゝ方法にして、幅五寸內外の刷毛形をなせる板に、長さ五寸幅四五分なる頭部に尖れる釘狀(ていじやう)の扁(ひらた)き柄を附して採取するものなり。通例三四尋の淺所(せんしよ)に行(おこなは)る。蓋し寒冷なる爲め蜑女(あま)に依る事困難なるより、自然本器をしようするものならん。』とあるのは、先に示した私の発想と一致し、「まんぐわ」もぴったりである。

「小たけ網」不詳。「小竹網」か。同前。

「木製二股(もくせいふたまた)かき」不詳。「木製の二股掻き」か。竹で編んだ二股になったものを舟で牽き、そこに原藻を掻き集めるものか。同前。

「てんとりあみ」「ところてん」の原藻を採取する「採り網」か。同前。]

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