立原道造草稿詩篇 鄕愁
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。]
鄕愁
A
南國のとある百姓家の庭に祭があつた 賑やかな一刻のその思ひ出を 燕が 海をこえ運んで來た 窓で燕はうたひ 私はをとめたちのロンドの列に姿を知らない夢を見た 燕は空高く歸るとも 傷ついた窗にロンドの歌は おそらく 思ひ出よ おまヘを待つことだらう
B
明るい時の向うから 搖れて來る 風 一枚の海を お前の遠い帆を 風よ
僕に持つて來い 僕は虹と雲のなか お前のうたふ 歌の調に身をまかす
C
朝日は緣の壁に窓を切つてゐた 細いきづなをからませて 甍は空移る雲にすばやくかげをかへてゐた 林のなかのその一軒は 思ひ出よ 雪が降り積み蔽ひかくしたのだらうか 一すぢの淡い煙を色どつたきり 浮び來るまま 窓に凭る人の心を知らせない
[やぶちゃん注:「A」と「C」パートは改行はない。しかし、「B」パートの一行目は、底本を見るに、下方が、三字分、空いていることが判る。従って、次の二行目が改行していると認識出来るのである。]

