立原道造草稿詩篇 (一人の人を⋯⋯)
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここで視認出来る。それに拠れば、最終聯に抹消した行があるとして、それを起こしてある。されば、【初稿】として復元した。]
【初稿】
(一人の人を⋯⋯)
一人の人を蝶のやうな姿で見つけることが易しかつた。町ではどんなこともそのやうであつた。だが、蝶といつても白い蝶なのだ。その人は僕からとほく行つても光ることが出來た。
*
もう何度おなじ道を步いたのだらう
あかりの數はいくつあるのだらう
僕の頭のなかには小さな時計があつて
ゼンマイをかけるのを待遠しがつてゐるのだらう
*
燃えさしの焚火のあたりで
誰か意地惡な人のやうに
僕は風に出遇つた 風は遠い寒さをさがしてゐる
*
眠ると たそがれがあつた
硝子のやぶれに似てゐる空よ
おまへの向うに夜がともつた
【決定草稿】
(一人の人を⋯⋯)
一人の人を蝶のやうな姿で見つけることが易しかつた。町ではどんなこともそのやうであつた。だが、蝶といつても白い蝶なのだ。その人は僕からとほく行つても光ることが出來た。
*
もう何度おなじ道を步いたのだらう
あかりの數はいくつあるのだらう
僕の頭のなかには小さな時計があつて
ゼンマイをかけるのを待遠しがつてゐるのだらう
*
燃えさしの焚火のあたりで
誰か意地惡な人のやうに
僕は風に出遇つた 風は遠い寒さをさがしてゐる
*
眠ると たそがれがあつた
おまへの向うに夜がともつた

