和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 目録・山草類 上卷・尾人參
ひげにんじん 髭人參【俗稱】
小人參【俗稱】
尾人參
自此一種也俗
以爲大人參之
髭細根者非也
△按尾人參朝鮮中華共有之蔓生而與人參一類異種
者也高一二寸葉似人參而小蔓出於莖布地至𠙚生
根如草石蠺樣取其蔓根爲藥纖者似萆薢髭故名髭
[やぶちゃん注:「蠶」は、原本では「グリフウィキ」のこれ(上部の「天天」が「夫夫」)だが、表示出来ないので、正字で示した。]
人參毎唐船皆將來之稱小人參性堅實其功勝於大
人參之浮虛者
*
ひげにんじん 髭人參【俗稱。】
小人參《しやうにんじん》【俗稱。】
尾人參
自《おのづか》ら、此れ、一種なり。俗、
以《もつて》、「大人參の髭細根」と爲るは、
非なり。
△按ずるに、尾人參は、朝鮮・中華、共に、之れ、有り。蔓生《つるせい》して、人參と一類異種なる者なり。高さ、一、二寸。葉、人參に似て、小《ちさ》く、蔓(つる)。莖より出《いで》て、地に布《し》き、至る𠙚に、根≪を≫生ず。「草石蠺(ちやうろぎ)」の樣《さま》のごとし。其蔓根《つるね》を取《とり》て、藥と爲《なす》。纖(ほそ)き者は、「萆薢(ところ)」の髭(ひげ)に似《にる》。故《ゆゑ》、「髭人參」と名《なづ》く。毎《まい》、唐船《たうせん》、皆、之《これ》、將《も》ち[やぶちゃん注:「將」の字には「持ち送る」の意がある。]來《きた》る。「小人參」と稱す。性、堅實にして、其功、「大人參」の浮虛《ふきよ》なる者に勝(《ま》さ)る。
[やぶちゃん注:本稿は、「本草綱目」に引用がない。そして、前回の「卷第九十二之本 山草類 上卷・人參」で予告した通り、良安が言っているような一類異種では、ない。
「金澤 中屋彦十郞藥局」の「●髭人参(ひげにんじん、ヒゲニンジン)、毛人参(けにんじん、ケニンジン)」に拠れば(一部を太字にした)、『健康食品、髭人参は神農本草経の上品に収載され、古くからもっとも珍重された補剤です。その根が人の形ににているからつけられたといわれています』とあり、基原を前項と同じ『ウコギ科のオタネニンジン』=セリ目ウコギ科トチバニンジン(栃葉人参)属オタネニンジン(御種人蔘)Panax ginseng 『の細根を除いた根(白参、生干人参)。または』、『これを軽く湯通しして(御種人参、雲州仕立て)乾燥したもの。人参はその調整法により「白参」と「紅参」に大別できる。もっとも雲州仕立てのような中間型もある。白参は直参、半曲参、曲参にわけられる。日本産、開城人参などは直参、豊基人参は半曲参、錦山人参は曲参で、そのほか生産地により数種の形の人参がある。紅参は細根をつけたまま蒸しあげ乾燥したもの(日本産紅参)と、細根を除去し』、『圧力をかけて乾燥したもの(北鮮、韓国産紅参)とがある』。「産地」の項には、『日本(長野、福島、島根;栽培)、韓国、北朝鮮、中国、ロシア(栽培、野生品はきわめてすくない。)』とする。「成分」の項に、『精油0.05%(β-エレメン、パナキシノール、パナキシドール、ヘプタデカー1-エンー46ジインー39ジオール、サポニン配糖体約4%(ギンセノシドなど)、糖類約5%を含む)』とある。「処方例」として、『白虎加人参湯、生姜瀉心湯、小柴胡湯、人参養栄湯、理中丸など。』が挙げられてあり、「用法・用量」に『煎剤、丸剤、散剤。1日0.5~3.0グラム。』とする。そして、「同類生薬」として、『広東人参:アメリカニンジンの根を乾燥したもので、カナダ、北アメリカに産する。別名を「西洋参」「花旗参」などともいう、成分としてサポニン配糖体 5%、を含み、用途は人参と同様に用いる。』とし、さらに、『三七人参:サンシチニンジンの根を乾燥したもので、「田七人参」「田三七」などともいう。中国雲南省、広西壮族自治区およびベトナム北部に産する。成分としてサポニン配糖体3~8%を含み、その主成分はギンセノシドである。』とある。
さて、この最後の二種については、前者が、
トチバニンジン属アメリカニンジン Panax quinquefolius
であるが、これは、当該ウィキに拠れば、『北アメリカ原産であ』るとあり、この種は「広東人参」の異名があるものの、これは、近代に『広州や香港を経由して』アメリカから『輸出されていたことに因む』ものである。同種の「維基百科」の「花旗参」の記載を見ても、近代以前に中国に持ち込まれたとする記載はないから、これは、良安がここで言っている「尾人參」では、あり得ない。
しかし、後者は、
トチバニンジン属サンシチニンジン(三七人参)Panax notoginseng
という同属(=同属種)の別種である。「維基百科」の同種のページは単に「三七」である。本邦の当該ウィキに拠れば、『中国南部原産』とし、「別名」として、『田七人参(でんしちにんじん)』は『広西省の田陽』(ここ。グーグル・マップ・データ。次も同じ)や『田東』(ここ)『で産することから、「田」の字が冠される』とし、また、『金不換(きんふかん)』という別異名に就いては、『金に替えられないほど価値が高いという意味』とある。しかし、「歴史」の項に、『おそらく、原産地では古くからその薬効が知られていたものと思われるが、中国の医学に組み入れられた歴史は浅く、16世紀に李時珍が著した薬学書』「本草綱目」『が初出』とし、『別名「金不換」の通り、中国では長らく国外輸出が禁止されていたが、近年、日本をはじめ、世界各国に輸出されている』とあった。
さても、「本草綱目」初出というのは、実に「草之一 卷十二上【山草類上三十一種】」の末尾に置かれていた。「維基文庫」のここである。以下に示すが、「維基文庫」版は正字では電子化されていない(誤字も多くある)ので、以下に、それを加工データにして、国立国会図書館デジタルコレクションの万曆一八(一五九〇)年序板の当該部で校訂して示すこととする。一部の表示出来ない異体字は、同字であることを確認の上、「維基文庫」の字を採用した。句読点は意味を採るのに有効なので、やはり採用した。なお、後者のデジコレの方には、追加部分がある。
*
三七【綱目】
(釋名)山𣾰【綱目】金不換【時珍曰、彼人言其葉左三右四、故名三七、盖恐不然。或云本名山𣾰、謂其能合金瘡、如𣾰黏粘物也、此說近之。金不換、貴重之稱也。】
(集觧)時珍曰、生廣西、南丹諸州畨峒深山中、采根暴乾、黄黒色。團結者、狀畧似白及、長者、如老乾地黄、有節。味微甘而苦、頗似人參之味。或云、試法、以末糝豬血中、血化爲水者乃真。近傳一種草、春生苗、夏高三、四尺。葉佀[やぶちゃん注:「似」の異体字。]菊艾而勁厚、有龜岐尖。莖有赤稜。夏秋開黄花、蕊如金絲、盤紐可愛、而氣不香。花乾則吐絮如苦絮。根葉味甘。治金瘡折傷出血、及上下血病、甚效。云是三七、而根大如牛蒡根、與南中來者不類、恐是劉𭔃[やぶちゃん注:「寄」の異体字。]奴之属、甚易繁衍。
根(氣味)甘、微苦、温、無毒。(主治)止血散血定痛、金刃箭傷、跌撲杖瘡、血出不止者、嚼爛塗、或爲末摻之、其血卽止。亦主吐血衄血、下血血痢、崩中經水不止、産後惡血不下、血運血痛、赤目癰腫、虎咬蛇傷諸病(時珍)。
(發明)時珍曰、此藥近時始出、南人軍中用為金瘡要藥、云有竒[やぶちゃん注:「奇」の異体字。]功。又云、凡杖撲傷損、瘀血淋漓者、隨即嚼爛、罨之即止、靑腫者、即消散。若受杖時、先服一、二錢、則血不衝心、杖後、尤宜服之。産後服、亦良。大抵此薬氣温、味甘微苦、乃陽明、厥陰血分之薬、故能治一切血病、與麒麟竭、紫𨥑[やぶちゃん注:「礦」の異体字。]相同。
(附方)【新八】吐血衄血【山𣾰一錢、自嚼、米湯送下。或以五分、加入八核湯。 瀕湖集簡方】赤痢血痢【三七三銭、硏末、米泔水調服。卽愈。 同上。】大腸下血【三七硏末、同淡白酒調一、二銭服、三服可愈。加五分入四物湯、亦可。 同上。】婦人血崩【方同上。】產後血多【山𣾰硏末、米湯服一銭。 同上。】男婦赤眼【十分重者、以山𣾰根磨汁、塗四圍。甚妙。 同上。】無名癰腫【疼痛不止、山𣾰磨米醋調、塗即散。已破者、硏末乾塗。】虎咬蛇傷【山𣾰硏末、米飮服三銭、仍嚼塗之。 並同上。】。
葉(主治)折傷跌撲出血、傅之卽止、靑腫、經夜卽散、餘功同根【時珍。】。
*
★則ち、良安は自身の持つ「本草綱目」で、これを見たはずなのだが、「和漢三才圖會」には、全文で「三七」を国立国会図書館デジタルコレクションの中近堂版を★全文検索しても、
――影も形も――ない――
のである。この事実は、取りも直さず、
★✕以上の引用の如く――江戸中期に――このサンシチニンジンが本邦に輸出された可能性は――ない――✕★
と考えてよい、ということになる、と私は断定するものである。
而して、ということは、
◎良安が言っている朝鮮・中華から齎されたそれは、オタネニンジン(チョウセンニンジン)の成長不全個体の製品である
と断定するものである。
「草石蠺(ちやうろぎ)」シソ目シソ科オドリコソウ亜科イヌゴマ属チョロギ Stachys sieboldii 。詳しくは、当該ウィキを見られたい。私は、秋田県の温泉で、同種の塊茎を塩漬けにしたものを食べて以来、好物となった。
「萆薢(ところ)」本邦では「野老」で「ところ」と読ませる。これは、ユリ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属 Dioscorea の蔓性多年草の一群を指す。詳しくは、当該ウィキを見られたい。]
« 立原道造草稿詩篇 春風の歌 / 【私の独断でカップリングした同全集「下書き草稿篇」に配されてある詩篇】(海には波には⋯⋯) | トップページ | 立原道造草稿詩篇 夏へ »


