立原道造草稿詩篇 電話の口笛
[やぶちゃん注:底本は初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記はここから視認出来る。その注記には、最終行に消去された文章が記されているので、まず、それを【初稿】として復元し、最後に【決定稿】を示すこととした。]
【初稿】
電話の口笛
僕はむちやくちやに自動電話のなかにはいり、受話器を外し口笛を吹いてゐた。交換手が何度も然るのが聞えた。僕は平氣であつた。
ある日、僕が用事があつて電話をかけた。なかなか出て來ない相手を待つてゐると、口笛がしよつちゆう聞えてゐた。僕は、僕が向うの電話口でまた出たらめにうたつてゐのだと思ひ出した。すると電話口で人を待つてゐる方のこちら側の僕がだんだん消えはじめた。やがて手に持つてゐたコーモリ傘と風爐敷包だけがそこに殘つた。
【決定稿】
電話の口笛
僕はむちやくちやに自動電話のなかにはいり、受話器を外し口笛を吹いてゐた。交換手が何度も然るのが聞えた。僕は平氣であつた。
ある日、僕が用事があつて電話をかけた。なかなか出て來ない相手を待つてゐると、口笛がしよつちゆう聞えてゐた。僕は、僕が向うの電話口でまた出たらめにうたつてゐのだと思ひ出した。

