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2026/04/26

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 山草類 上卷・羊⻆菜

 

Turuninjin

 

つるにんじん  羊奶科

        合鉢兒

羊⻆菜   細𮈔藤

        過路黃

       【今云弦人參

        又云倭沙參】

[やぶちゃん注:「羊奶科」の「奶」は、原文では、「グリフウィキ」のこの異体字に最も近い(最終画がない「小」)が、表示出来ないので、最も意味が判る「奶」(「乳」の意。本文参照)とした。]

 

本草沙參下陳藏噐曰羊乳根如齋苨而圓大小如拳上

有⻆節折之有白汁人取當齋苨苗作蔓折之有白汁

農政全書云羊⻆菜生田野下濕地𢬘藤蔓而生莖色青

[やぶちゃん注:𢬘」は調べたところ、ある回の検索リスト内のAIが、『𢬘U+22B18)は、CJK統合漢字拡張Bに分類される漢字です。手へん(扌)に色を組み合わせた文字で、構成は「扌色」、総画数は9画です。『岱史』などの古書に用例がある一方、壮語(チワン語)における「洗う」という意味』が示されつつ、別に『漢字字典の多くでは、主に「塞ぐ」や「汚れを落とす」といった、手で扱う動作に関連する文字としてリストされています。』とあった。注目したのは、『禅籍における「拖(ひく)」の俗写(誤記)として言及される場合があります。』という下りであった。そこで、「維基文庫」の「農政全書」(詳しくは後注を見られたい)を調べたところ(縦書のここの「羊⻆菜」)、そこでは、まさに「拖」であった。良安のルビも「ヒキテ」であったから、従って、これは、良安が見た、恐らくは書写本の誤用と断じ、訓読では「拖」とした。

白葉似馬兠鈴葉而長大又似山藥葉亦長大靣青背頗

白皆兩葉對生莖葉折之俱有白汁出葉間出蒴開五瓣

小白花結⻆似羊⻆狀中有白穰其葉味甘微苦

△按羊乳卽沙參之別名也然陳氏所謂羊乳乃羊⻆菜

 而倭沙參也【以有蔓爲蔓人參又名弦人參】和州河州信州𠙚𠙚山中

 有之蔓生其蔓葉共似初生蘿摩及萆薢葉八九月葉

 間開小白花亦有淡紫者形如鈴鐸根莖有白汁伹宿

 根未經歳者則無花九十月採根斜殺之晒乾既乾則

 皮黃皺有橫文理如人參文

 尋常用之換人參最爲沙參入用藥而有功嘗以爲沙

 參之一類故代唐沙參者無異正代人參者不可也

凡用人參也特可擇之如不能得朝鮮美者可使唐參也

 尾人參勝於朝鮮唐參等浮虛者其次可用倭人參

 

   *

 

つるにんじん  羊奶科《やうだいか》

        合鉢兒《がうはつじ》

羊⻆菜   細𮈔藤《さいしとう》

        過路黃《くわろわう》

       【今、云ふ、「弦人參《つるにんじん》」。

        又、云ふ、「倭沙參《わのしやじん》】

 

「本草綱目」の「沙參《しやじん》」の下《した》に、陳藏噐《ちんざうき》が曰《いはく》、『羊乳《やうにゆう》は、根、齋苨《せいねい/ソバナ》のごとくして、圓《まろ》く、大小≪あり≫、拳(こぶし)のごとく、上≪に≫、⻆節《かくしつ》、有り。之《これ》を折《をる》と、白≪き≫汁、有《あり》。人、取《とり》て、齋苨に當《あ》つ[やぶちゃん注:齋苨の代用とする。]。苗《なへ》≪は≫蔓《つる》を作《な》す。之≪を≫折れば、白≪き≫汁、有り。』≪と≫。

「農政全書」に云《いはく》、『羊⻆菜は、田野の下《もと》≪の≫濕地《しつち》に生《しやう》≪ず≫。藤蔓《ふじづる》を𢬘(ひ)きて生《しやう》ず。莖の色、青白し。葉、馬兠鈴《ばとれい/ウマノスズクサ》の葉に似て、長大≪なり≫。又、山藥《さんやく》の葉に似て、亦、長大≪なり≫。靣《おもて》、青、背、頗《すこぶ》る白し。皆、兩葉《りやうやう》、對生し、莖・葉、之を折れば、俱《とも》に白き汁を出《いづ》ること、有り。葉の間《あひだ》に、蒴《さく》を出《いだ》し、五瓣《ごべん》≪の≫小≪さき≫白≪き≫花を開き、⻆《つの》[やぶちゃん注:東洋文庫版では『さや』と意訳している。以下の叙述から、納得出来る。]を結ぶ。羊《ひつじ》≪の≫⻆《つの》の狀《かたち》に似たり。中《なか》に、白《き》穰《さね》、有り。其《その》葉、味、甘、微苦。』≪と≫。

△按ずるに、羊乳は、卽ち、沙參に別名なり。然《しか》るに、陳氏が謂《いふ》所の「羊乳」は、乃《すなは》ち、「羊⻆菜」にして、倭《わ》の「沙參《しやじん》」なり【蔓、有るを以つて、「蔓人參《つるにんじん》」と爲し、又、「弦人參《つるにんじん》」と名づく。】。和州・河州[やぶちゃん注:河内(かわち)を指す。]・信州、𠙚𠙚《ところどころ》の山中、之《これ》、有《あり》。蔓生《つるせい》す。其《その》蔓・葉、共《とも》に初生の蘿摩(がゞいも)、及《および》、萆-薢(ところ)の葉に似たり。八、九月、葉の間《あひだ》に、小≪さき≫白≪き≫花を開く。亦、淡≪き≫紫の者、有り。形《かたち》、鈴鐸《れいたく/すず》のごとく、根・莖、白≪き≫汁、有り。伹《ただし》、宿根(ふるね[やぶちゃん注:原文では読みは「フルセ」であるが、誤刻と断じて訂した。])、未だ歳《とし》を經《へ》ざる者、則《すなはち》、花《はな》、無し、九・十月、根を採り、斜(なゝめ)に、之を殺(そ)ぎて、晒-乾《さらしほ》す。既に、乾《ほする》時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則《すなはち》、皮、黃≪の≫皺(しは)≪にして≫、橫≪に≫、文-理(すぢ)、有《あり》て、人參の文《もん》のごとし。

 尋-常(よのつね)、之を用《もち》ふ。人參に換《か》へ、最も、「沙參《しやじん》」と爲《なし》て、藥《くすり》に入-用《いれもち》ふ。而《しかして》、功、有り。嘗(もとよ)り、沙參の一類≪と≫爲《す》るを以《もつて》、故《ゆゑ》、「唐沙參《たうしやじん》」に代《かは》る者は、異《ことな》ること、無し。正《まさ》しく、人參に代る者≪とするは≫、不可なり。

凡《およそ》、人參を用《もちふ》ることや、特に、之≪れを≫[やぶちゃん注:返り点はないが、脱落と断じて、返した。]擇《えら》ぶべし。如《も》し、朝鮮の美《び》なる者、得ること能はざれば、唐參《たうじん》を使ふべし。

 尾人參《ひげにんじん》は、朝鮮・唐參等《とう》の浮虛《ふきよ》なる者に勝さる。其《その》次は、倭人參を用ふべし。

 

[やぶちゃん注:これは、

キク亜綱キク目キキョウ科ツルニンジン(蔓人参)属ツルニンジン Codonopsis lanceolata

である。当該ウィキを引く(注記号はカットした。太字は私が附した)。蔓『性多年草』本。『地下に太い塊根があり、食用や薬用にされる』。『和名「ツルニンジン」は、根は同科のキキョウやツリガネニンジンと同様に太く、ウコギ科のオタネニンジン(高麗人参)に似るということから、名がつけられた。別名、キキョウカラクサ』(桔梗唐草)。『ジイソブ』(「爺(じい)の雀斑(そばかす)」の意」)『とも』称し、『これは類似種であるバアソブ』 Codonopsis ussuriensis 。こちらは正式種名で、「婆(ばばあ)の雀斑」の意であり、花冠にある斑点に拠る。北海道・本州・四国・九州に分布し、国外では、朝鮮・吉林・黑龍江・ウスリー・アムールに分布する。但し、絶滅危惧Ⅱ類。)、『に似て』、『より大きいことによる。ツルニンジンの中国名は羊乳(ようにゅう)といい、羊奶參』(ようだいじん)『の別名もある』。『東アジア一帯の森林に生育する。日本では北海道、本州、四国、九州の平地から高山に分布する。丘陵地や山地の林内や、林縁のやや湿り気のある場所にまばらに群生する』。『塊根は太く、オタネニンジン(人参)状である』。『春に茎を出し、他物に巻きつきながら伸びる。茎や根を切ると』、『白い粘性のある乳液が出て、異臭を放つ。葉は長楕円形から狭卵形で、側枝に4枚集まってつく』。『花期は晩夏から秋にかけて。側枝の先に淡緑色の花を1個つけ、下向きに開く。萼片は大きく、花冠は釣鐘状で、外側は淡緑色、内側は紫褐の斑紋がある。子房下位で、果実は萼片のついた蒴果となる』。『ツルニンジン属は55種ほどあり、中国を中心に東アジア一帯に分布する』。『地下茎を食用とし、4 - 11月ごろに掘り上げた塊根を適当な大きさに裂き、天ぷらや醤油だれでつけ焼きなどにする。塊根を茹でたものは、白和え、酢の物、酢味噌和えにする。資源保護のため、採取の際は』蔓『のつけ根の部分を残して、土の中に浅く埋めておくとよい。韓国ではトドック』『といい、代表的な山菜である。根をキムチや揚げ物、和え物にし、若芽も食べる。野生品は少ないので栽培もする。沙参とも呼ぶが、これは本来』、『ツリガネニンジン属(シャジン)』(キキョウ科ツリガネニンジン属 Adenophora )『の呼び名である』。『また、塊根は薬用にされ、山海螺(さんかいら)、四葉参(しようじん)と称する生薬になる。8 - 9月ごろに塊根を掘り採って、きざんで天日乾燥して調製される。高麗人参と同じような効能があるといわれ、薬用にもされる。漢方では、ツルニンジン属の他種を含めて党参(トウジン)と呼ぶ』。『民間療法では、痰切りや倦怠疲労時に、1日量で塊根の乾燥品5グラムを400 ccの水で煎じて、3回に分けて服用する用法が知られる。また、容器の半量に分量でホワイトリカーに1か月漬け込んで薬用酒とし、体質を問わず1日量で』、『お猪口1杯ほど飲まれる』。最後の「注意」の項。『ツルニンジンはスズメバチが良く集ることで知られている。観察したり、採取する場合は』、『十分』、『注意したほうが良い』とあった。

『「本草綱目」の「沙參《しやじん》」の下《した》に、陳藏噐《ちんざうき》が曰《いはく》⋯⋯』これは、「漢籍リポジトリ」の「卷十二上」の「草之一【山草類上一十三種】」のガイド・ナンバー[036-26a]の「沙參」の「集解」の五行目からの引用である。「沙參」は、私の前項の「草類 山草類 上卷・沙參」を見られたい。「陳藏噐」(生没年未詳)は唐の玄宗期の本草家で医師。彼の著した「本草拾遺」(序一巻・拾遺六巻・解紛(本文で縺れた記載を注記したパート)三巻・七三九年成立)は「本草綱目」にも、よく引かれている。

「齋苨《せいねい/ソバナ》」キキョウ科ツリガネニンジン属ソバナ Adenophora remotiflora当該ウィキを引く(注記号はカットした)。漢字表記は『岨菜』・『蕎麦菜』・『杣菜』で、『多年生草本』。『和名は「杣菜(そまな)」と漢字で書かれ、杣は』、『木こりのことを指した言葉で、山道に生える菜の意味がある』。『日本では本州、四国、九州に、アジアでは朝鮮半島、中国に分布する。平地沿いの低山から山地の草原や林内、林縁、沢沿いなどの、やや湿った傾斜地などに、大小の集団を作って自生する』。『茎は』、『やや傾斜して直立し、高さは40 - 100センチメートル』『ほどになり、中空で折ると』、『白い乳液が出る。乳液はキキョウほど強くはない。葉は茎に互生し、茎の下部につく葉には葉柄がある。葉柄のつく葉の形は広卵形で、花がつく茎の上部は広披針形になり、いずれも葉の先は尖り基部はほぼ円形、縁ははっきりした鋭い鋸歯状がある。ほとんど無毛で、若葉のときは強い光沢がある』。『花期は夏(8 - 9月ごろ)。枝の先が分かれて青紫色の円錐状に近い鐘形の花をややまばらに咲かせる。大きい株になると枝を数段に互生させ、多数の花をつける。花のがく片は披針状で全縁。雌しべは突出する。花冠の先は5裂し、先端は少し反り返る』。『春の出たばかりの黄色味を帯びている若い芽は、山菜として食用にされる。採取時期は関西以西が4月、関東地方が4 - 5月、東北・中部の寒冷地は5月ごろとされ、根元から摘んで採取する。さっと茹でて水にさらし、おひたし、酢の物、ごま・酢味噌などの和え物などにし、生のまま天ぷら、汁の実にする。クセがほぼないためさまざまな料理に使える。歯切れがよく美味であり、飢饉の時には蕎麦の代用品として主食同様に用いられたと推測される。花』も、『軽く茹でて酢の物にできる』。『近縁種』として以下の二種が挙げられてある。

ツリガネニンジン(釣鐘人参)Adenophora triphylla var. japonica

フクシマシャジン (福島沙参)Adenophora divaricata

「農政全書」明代の暦数学者でダ・ヴィンチばりの碩学徐光啓が編纂した農業書。当該ウィキによれば、『農業のみでなく、製糸・棉業・水利などについても扱っている。当時の明は、イエズス会の宣教師が来訪するなど、西洋世界との交流が盛んになっていたほか、スペイン商人の仲介でアメリカ大陸の物産も流入していた。こうしたことを反映して、農政全書ではアメリカ大陸から伝来したサツマイモについて詳細な記述があるほか、西洋(インド洋の西、オスマン帝国)の技術を踏まえた水利についての言及もなされている。徐光啓の死後の崇禎』十二『年』(一六三九年)『に刊行された』とある。光啓は一六〇三年にポルトガルの宣教師によって洗礼を受け、キリスト教徒(洗礼名パウルス(Paulus))となっている。さても。以下の注で、この引用記載の内容には、私には問題があることが、発覚したので、以下に転写しておく。

   *

  羊角菜 又名羊妳科亦名合鉢兒俗名婆婆針扎兒又名細絲藤一名過路黄生田野下濕地中拖藤蔓而生莖色青白葉似馬兠鈴葉而長大又似山藥葉亦長大面青背頗白皆兩葉相對生莖葉折之俱有白汁出葉間出蒴開五瓣小白花結角似羊角狀中有白穰其葉味甘微苦

  救飢 採嫩葉煠熟換水浸去苦味邪氣淘淨油鹽

  調食

   *

「馬兠鈴《ばとれい/ウマノスズクサ》」コショウ(胡椒)目ウマノスズクサ(馬の鈴草)科ウマノスズクサ亜科ウマノスズクサ属ウマノスズクサ亜属ウマノスズクサ Aristolochia debilis 。葉が似ているだけなので、当該ウィキをリンクするに留める。しかし⋯⋯その画像を見るに、ソバナの葉の画像とは、全然、似てないぞ? 不審! 識者の御教授を乞う!

「山藥《さんやく》」「デジタル大辞泉」に『ヤマノイモ』(ユリ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属 Dioscorea の蔓性多年草の一群を指す。詳しくは、当該ウィキを見られたい。)『・ナガイモの根を、外皮をはぎ乾燥させたもの。漢方で、滋養強壮・止瀉(ししゃ)・止渇・袪痰(きょたん)薬などに用いる。薯蕷(しょよ)。』とある。しかし、これは、本邦での解説である。「山藥」は、本来は中国の古い漢方薬の呼称である。しかも、「本草綱目」であるから、単子葉植物綱ヤマノイモ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属ナガイモ Dioscorea polystachya しか指さない。日本原産のヤマノイモ属ヤマノイモ Dioscorea japonica は厳密には含まない。但し、中国にも現在は非常な広域で分布はしており、その伝播の時期は判らない。)『しかし、これは、本来は漢方薬での呼称であり、しかも、「本草綱目」からの引用であるから、単子葉植物綱ヤマノイモ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属ナガイモ Dioscorea polystachya しか指さない。日本原産のヤマノイモ属ヤマノイモ Dioscorea japonica は厳密には含まない。但し、中国にも現在は非常な広域で分布はしており、その伝播の時期は判らない。謂わずもがなだが、これと「馬兠鈴《ばとれい/ウマノスズクサ》」葉は似てるさ、なあ! 失礼ながら、徐光啓先生、何か間違っているんじゃなかろうか?!?

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