立原道造下書き草稿篇 (とほくの空で⋯⋯)
[やぶちゃん注:底本・凡例等は「草稿詩篇」の起動の初回、及び、「下書き草稿篇」の初回を見られたい。本篇はここから、底本の注記は、ここで視認出来る。それに拠れば、『草稿無題。草稿詩「詩抄」』(先行する「立原道造草稿詩篇 詩抄」を指す)『の「1」の下にブルー・ブラック・インクの同じ筆蹟で走り書きしている(表には「風立ちぬ」の異文断片がある)。』とあるが、これに就いては、「立原道造草稿詩篇 詩抄」の冒頭注で私が解説してあるので、そちらを見られたい。続いて、『第四聯が消去され、替りに〈夜が かへつて來た あはれな夢の眠りよ〉の一行が置かれている。ここでは消去の第四聯を起こし、一四行詩として示した。』とある。しかし、この表示された十四行詩の第四聯は、抹消されている以上、道造の最終判断は、この第四聯はカットした十三行からなるものこそが正しい詩であるのだから、【初稿】として第四聯を生かした十三行詩のものを示し、次に【決定稿】として第四聯を抹消して書き換えたものに換えたのものを示し、最後に【参考(底本本文に拠る十四行詩)】として、堀內氏に拠る復元(?)/恣意的決定版のものを最後に配した。なお、二行目の「燈火」は私は「ともしび」と読み、【初稿】と【参考(底本本文に拠る十四行詩)】の最後の「途」は「みち」と読む。]
【初稿】
(とほくの空で⋯⋯)
とほくの空で きらめきはじめた
あの燈火を 僕はむなしいものとは見ない
くらく 野をおほひはじめたうすやみも
僕はよそよそしいものとはおもはない
しかしなぜ 僕には何かが拒まれてゐる?
このやうに 美しくみたされながら
このやうに胸ははげしく脉打ちながら
僕は いま ひとつの渇きに 渇いてゐる
僕の部屋に僕は待つてゐる
孤獨な靑い燈火よ
僕の一步はおまへの方にのみ向いてゐる
僕の呼ぶ たつたひとつの名よ
影繪ばかりが 意味ふかげに
夜の途によこたはつて
【決定稿】
(とほくの空で⋯⋯)
とほくの空で きらめきはじめた
あの燈火を 僕はむなしいものとは見ない
くらく 野をおほひはじめたうすやみも
僕はよそよそしいものとはおもはない
しかしなぜ 僕には何かが拒まれてゐる?
このやうに 美しくみたされながら
このやうに胸ははげしく脉打ちながら
僕は いま ひとつの渇きに 渇いてゐる
僕の部屋に僕は待つてゐる
孤獨な靑い燈火よ
僕の一步はおまへの方にのみ向いてゐる
夜が かへつて來た あはれな夢の眠りよ
【参考(底本本文に拠る十四行詩)】
(とほくの空で⋯⋯)
とほくの空で きらめきはじめた
あの燈火を 僕はむなしいものとは見ない
くらく 野をおほひはじめたうすやみも
僕はよそよそしいものとはおもはない
しかしなぜ 僕には何かが拒まれてゐる?
このやうに 美しくみたされながら
このやうに胸ははげしく脉打ちながら
僕は いま ひとつの渇きに 渇いてゐる
僕の部屋に僕は待つてゐる
孤獨な靑い燈火よ
僕の一步はおまへの方にのみ向いてゐる
僕の呼ぶ たつたひとつの名よ
影繪ばかりが 意味ふかげに
夜の途によこたはつて
« 立原道造下書き草稿篇 (この美しさに⋯⋯) | トップページ | 立原道造下書き草稿篇 (夕映えばかりをのこして⋯⋯) /立原道造下書き草稿篇~了 »

