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2026/04/04

立原道造草稿詩篇  優しき歌 / 優しき歌 (添え題:「旅のをはりに」) (カップリング電子化)

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、本パートの初回のこちらを見られたい。本篇はここと、ここから、底本の注記はここから視認出来る。それに拠れば、『以上二篇については『優しき歌Ⅱ』の編註を見よ。』とある。それは、ここの左丁の下段中ほどからで、実に二コマ続く長いものである(同じく堀內氏に拠るもの)。この二篇に就いては、終り近くのアスタリスク二個の前にリストされてある。注記に戻ると、先の『「夜の歌」』(ここ。「後期草稿詩篇」の七番目)『以下これまでにのものの筆蹟は、すべて他の草稿にに例を見ない走り書きに近い同じ特徴を持ち、昭和13年9月15日より1018日に至る盛岡への旅の中で、または直後の制作と推定される。』とある。

 この草稿は、以前に一九八八年岩波文庫刊「立原道造詩集」(杉浦明平編)の「後期草稿詩篇」を元に、恣意的に漢字を正字化して「優しき歌   立原道造」(杉浦氏による読みが加えられてある)と、「優しき歌――旅のをはりに   立原道造」とで、電子化したが、ここでは、正規表現の底本をもとに、ここで、親和性が極めて高いことから、差別化するために、カップリングして電子化注した。「※」は私が打った。

 

  優しき歌

 

それを 私は おもひうかべる

暑いまでに あたたかかつた 六月の叢に 私たちの

はじめての會話が 用意されてゐたことと

白銀色に光つた 靑空の下のことを

 

そして

物音も絕えた しかし

にぎやかだつた あのひとときに

あのひとことが 不意に 私の唇にのぼつたことを

 

おまへは 拒まなかつた⋯⋯

私は いま おまへを抱きながら

閉ぢられたおまへのうすい瞼に あの日を讀むやうにおもひうかべる

 

それはあやまちではなかつたらうか いまもなほ悔ゐではなかつたらうか

だが しかし ゆるやかに 私たちの眼ざしの底から

熱い夢のやうな しあはせが 舞ひのぼる 陽炎のやうに

 

 

[やぶちゃん注:「悔ゐ」はママ。]

 

 

   ※

 

 

  優しき歌

    旅のをはりに

 

かへつて來たのが

いけなかつた?⋯⋯私らは

曇り日の秋の眞晝に 池のほとりの

丘の上では いつかのやうな話が出來ない

 

黃ばんだあちらの森のあたりに

明るい陽ざしが あればいいのに!

⋯⋯なぜ こんなに はやく 私らの

きづいたよろこびは 消えるのか

 

手にあまる 重い荷のやうに

昨日のしあはせは 役に立たない

 

私の見て來た 美しい風景らが

おまへの眼には とほくみなとざされた⋯⋯

 

私らは 見知らない人たちのやうに お互ひの

足音に 耳をすませ 最初の言葉を待つてゐる

 

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