立原道造「詩集 優しき歌」再起動版 詩集 優しき歌 Ⅰ ひとり林に⋯⋯ Ⅰ ひとり林に⋯⋯
[やぶちゃん注:この再起動版に就いては、初回の冒頭注(詳細なプロジェクトの経緯及びオリジナルな特徴を述べているため、かなり長い)を見られたい。過去にランダムに電子化注したものは、『カテゴリ「立原道造」創始 /「ひとり林に‥‥」(草稿) 及び その決定稿「眞冬のかたみに」 並びに 別篇「ひとり林に‥‥」』である。
今回の底本は、国立国会図書館デジタルコレクションの「立原道造全集 第一卷 詩集I」(一九七一年角川書店刊)を用いる。総表題ページはここで『優しき歌 I 風信子叢書 第四篇』(下方の二つの附属表記は底本ではポイント落ち。「風信子」は「ヒアシンス」と読む)とあり、中パート表題はここ、本篇はここで、編註はここである。それに拠れば、『「コギト」第38号 昭和12年3月号(3月1日刊)』で、その後に、『*「火山灰ノート」に同題詩三篇があり、その一つが本篇の異文である。』とある。
しかし、底本全集の「第四卷 評論・ノート・翻譯」の「火山灰ノート」(同巻の堀內氏の註に拠れば、『原ノート消失・山本書店版第三巻(昭和18年7月1日付刊)』とあり、『*テキストは次のような特徴を持つ。』として、『イ、冒頭に「火山灰」の大文字がある』。『その命名は、この』昭和一〇(一九三五)年『夏』、『はじめてみた火の山(浅間山噴火)からの感動にちなむものでろう。』とあり、ノートの推定時期が示されてあり、二篇とも、『昭和11年秋―12年3月』相当とある。)を見ると、同題詩は、二つしかない。同ノート全体を何度も見たが、「同題詩」は他になく、無題の同内容の詩も見当たらない。されば、これは『三篇』ではなく、「二篇」の誤記か、誤植と思われる。ノート順に画像を示すと、ここと、ここである。
而して、本決定稿に酷似するのは、その内の、前者である。
そこで、私は、まず、【初稿】として、前者を示し、次に採用しなかった別の後者を【別稿】として掲げ(前者よりノートの後にあるのであるから問題ない)、最後に【決定稿】として本詩篇を置くこととした。]
【初稿】
ひとり林に⋯⋯
だれも 見てゐないのに
咲いてゐる 花と花
だれも きいてゐないのに
啼いてゐる 鳥と鳥
通りおくれた雲が 梢の
空たかく ながされて行く
靑い靑いあそこには 風が
さやさや 過ぎるのだらう
草の葉には 草の葉のかげ
うごかないそれの ふかみには
てんたうむしが ねむつてゐる
歌ふやうな沈默(しじま)にひたり
私の胸は 溢れる泉! 高く
脈打つひびきが 時をすすめる
【別稿】
ひとり林に⋯⋯
山のみねの いただきの ぎざぎざの上に
あるのは 靑く淡い色 あれは空⋯⋯
空のかげに かがやく日 空のおくに
ながれる雲⋯⋯私はおもふ 空のあちらを
夏の日に咲いてゐた 百合の花も ゆふすげも
薊の花も 堅い雪の底に かくれてゐる
みどりの草も いまはなく 梢の影が
葵色の こまかい線を 編んでゐる
ふと過ぎる⋯⋯あれは頰白 あれは鶸
透いた林のあちらには 山のみねのぎざぎざが
ながめてゐる 私を 私たちを 村を――
すべてに 休みがある ふかい息をつきながら
耳からとほく 風と風とが ささやきかはしてゐる
――ああ この眞白い野に 蝶を飛ばせよ!⋯⋯
[やぶちゃん注:私は、よく理解もしないで、『カテゴリ「立原道造」創始 /「ひとり林に‥‥」(草稿) 及び その決定稿「眞冬のかたみに」 並びに 別篇「ひとり林に‥‥」』で、これを採録していたのであった。なお、底本が違うので、表記に異同がある。それは、比較されたいが、決定テキストはこれとなる。⋯⋯それにしても⋯⋯ああ! 五十八歳の私をちょっと褒めてやりたくなった気は、した⋯⋯。]
【決定稿】
Ⅰ ひとり林に⋯⋯
だれも 見てゐないのに
咲いてゐる 花と花
だれも きいてゐないのに
啼いてゐる 鳥と鳥
通りおくれた雲が 梢の
空たかく ながされて行く
靑い靑いあそこには 風が
さやさや すぎるのだらう
草の葉には 草の葉のかげ
うごかないそれの ふかみには
てんたうむしが ねむつてゐる
うたふやうな沈默(しじま)に ひたり
私の胸は 溢れる泉! かたく
脈打つひびきが時を すすめる
[やぶちゃん注:【初稿】との異同は(表題上の「Ⅰ」は除く)、
第二聯最終行目の「過ぎる」が「すぎる」に、
第四聯第一行目の「歌ふ」が「うたふ」になり、
同第四聯第一行目下部の「ひたり」の前に一字空けを置き、
第四聯第二行目の末尾を「高く」から「かたく」に変えて、
最終行が「脈打つひびきが 時をすすめる」から「脈打つひびきが時を すすめる」と字空けを変えている
の五点である。]
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