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2026/05/16

河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 中卷(七)乾鰕の說(その6) / 本文~了

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの右ページから。]

 

 凡そ、鰕類(かるい[やぶちゃん注:ママ。])の、煑て、曝乾(さらしほし)して、殼(から)・尾(しり)。鬚(ひげ)。足(あし)、蛻去(たつきよ[やぶちゃん注:ママ。「蛻」の音は呉音で「エチ・セ・タイ」、漢音で「エツ・セイ・タイ」、慣用音で「ゼイ」で孰れも当てはまらない。])したるを、『はだかゑび』『むきゑび』『ほしゑび』とも云ひ、淸國にて『鰕米(かべい)』と稱し、從來より、長崎來舶の淸商は、廣東產(カントンさん)の鰕米を攜來(たづさへきた)りて、食せり。卽ち、長(ながさ)七、八分のものにて、其中(そのなか)に、『大扁(たいへん)』と、『圓身(ゑんしん)』との、二(に)あり。時珍「食物本草」の『銀鈎鰕(ぎんかうか)』ハ、『大扁』、『鷹爪鰕(ようさうか)』は、『圓身』にして、皆、味(あぢはひ)の鮮美(せんび)を珍賞せり。「珠璣藪(しやきざう[やぶちゃん注:ママ。「藪」は音は「そう」でよい。])」といふ書に、『鷹爪(ようさう)は大鰕米。』とも云へり。「泉州府志」に『銀鈎鰕米』とあるは、白き者を撰び、曝乾(ばうかん)して、其殼を揉去(もみさり)し、肉、堅く、白鈎(はくかう)[やぶちゃん注:白い鉤(かぎ)。]の如きを云(いへ)り。又、『黃鰕(わうか)』なる者、あり。則ち、『金鈎』と名(なづ)く。『あみ』は、泥海(でいかい)に多く、鱁鮧(しほから)とし、又、乾(ほし)ても、佳(か)なり。「本朝食鑑」に『淺紫帶黑色』と『潔白兩端純紅色』との、二種、あり。是、「閔書」の『苗鰕(びうか[やぶちゃん注:ママ。「べうか」が正しい。])』なり。『廣東新語(カントンしんご)』に、『銀鰕は、狀(かた)ち、繍鍼(しふしん[やぶちゃん注:ママ。「しうしん」が正しい。])の如し。銅鼓(どうこ)と名け、鹽藏(しほづけ)したるを鰕醬(かしやう)といひ、味、また、美にして、香山(こうざん[やぶちゃん注:ママ。「かうざん」が正しい。])といふ所にて造るものを、美なり、とし、香山鰕とも、いふ。』とぞ。元來、淸國人は、古來より、鰕醬を嗜好(たしみこのむ[やぶちゃん注:ママ。「たしなみこのむ」の脱字。])といへども、本邦、末だ、此製なし。目今、輸出する者は、『手長鰕』・『芝鰕』にて製したる皮剝ぎ製、又、常陸產の『櫻海老』等(とう)なり。此『櫻海老』は、橫濱市場にては、頗ぶる名聲ありて、明治十四年の輸出額は三萬四千七百六拾壹(さんまんしせんしちひやくろくじふいち)圓に至れり。

[やぶちゃん注:「食物本草」各種食品の薬効と料理方法などが記載された中国の本草書であるが、この書は成立に不審な点があり、一つには、古く、元の李杲(りこう:号は東垣(とうえん))著とされるものの、名を借りた別人である汪頴なる人物が明の一六二〇年に刊行したものともされる。全七巻。

「香山」現在の広東省中山市(ちゅうざんし:グーグル・マップ・データ)の旧称。]

 

 摺鰕(すりゑび)【卽《すなはち》、『鰕米』。】の製法は、水五斗に、鹽一升(いつしよう)を加へて、釜に入れ、沸騰せしめ、鰕、壹升を入れて、程能(ほどよ)く煮ヘ[やぶちゃん注:ママ。]たる時、揚げて、汁を、能く滴(たら)し、菰上(むしろのうへ)に散らし、晴天、二週間程、乾燥したる後ち、桶に入れ、かき囘して、皮を、すりむくべし。其摺方(そのすりかた)は、摺板(すりいた)と稱する、長さ四尺(ししやく)、巾壹尺(いつしやく)の板に、中央まで、繩を纏(まとい[やぶちゃん注:ママ。])、卷(まき)たるもの、又は、竹を又(また)に作りて、繩を卷きたるもの等(とう)を、桶の中に差入(さしい)れ、兩手にて、かきまはす時は、其殼、悉(ことごと)く、脫け離るヽなり。是を、桶、又は、箱に收め、蓋をなし、空氣の入(い)らざる所に、貯ふるものとす。而して、其(その)尾殼(びこく)の付(つき)たるものを、尤も、淸國人は、嗜(たしな)み好めり。常陸にて製する櫻鰕は、皮を脫離するに、臼(うす)に入れ、杵(きね)にて搗(つ)く。故に、尾殼、脫して、價額(かかく)を低(ひくヽ)せり。又、近時、奸商輩(かんしやうはい)、之を賣るに、量目を增し、其色を美(び)ならしめんが爲め、水を散布するの弊、あり。斯(かく)の如くせし品(しな)は、永く貯(たくはる)るに耐(たえ)ず[やぶちゃん注:濁点がないが、誤植と断じて訂した。]して、腐敗するが故に、甚だ、信用を失ふこと、あり。

 

※(あみ)[やぶちゃん注:「※」は(へん)「魚」+(つくり)「並」の異体字で「グリフウィキ」のこれであるが、表示出来ない。以下、「」で示す。]は、生乾(きぼし)・煮乾(にぼし)・鹽漬(しほつけ)等(とう)とも、なすべく、煮乾※(にほしあみ)は、大釜(おほかま)に入れ、暫時、沸騰せしめ、「竹しよをけ」[やぶちゃん注:この鍵括弧は底本のママ。](籠(かご))にて、すくひ揚げ、汁を滴(したら)し去(さり)、莚(むしろ)の上に、厚薄(かうはく)なく散布し、晴天に、一日、乾せば、良品となるべし。煮方のあしきものは、五、六月頃(ごろ)に至り、黃色の黴(かび)を帶び、隨(したがひ)て、味(あぢは)ひ、劣り、久しく貯藏しかたし[やぶちゃん注:ママ。「がたし」。]。近來(きんらい)、漸(やうや)く、發明する所ありて、湯の沸騰するの度(ど)を、六分時間(ろくぶんじかん)程(ほど)とせり。かくすれば、乾上(ほしあが)りも、速(すみやか)にして、數月(すうじつ)を經(ふ)るも、變色の患(うれひ)なし。漬※(つけあみ)は、九月頃のもの、形、細(こま)かにして、柔かく(あぢわひ[やぶちゃん注:ママ。])、味、美なりと雖ども、數目(すじつ)を經(ふ)るに及んで、腐敗を催し、永く保存しかたし。十月以後のものは、佳味(かみ)にして、貯ふるに、よろし。又、※壹升に付きて、加ふる䀋(しほ)は、三合より、四合位を、よろし、とす。

 

 前條各種の鰕類(かるい[やぶちゃん注:ママ。])中(ちう)、方今(はうこん)、淸國輸出の品類は、僅々(きんきん)、三、四種に過(すぎ)ずと雖ども、製造を精良ならしめ、彼れの需用に適せしめば、他種のものをも、輸出せしむるを得可(うべ)く、又、淸國の販路は(湖北省)には、扁(へん)・圓(ゑん)共に、需用あり。湖南省・江西省・河南省・陝西省・四川省等(とう)には扁形(へんけい)の需用、甚だ、多し。

 

 本邦の海河(かいか)には、鰕屬(かぞく)の繁殖、甚だ、多きも、製法、未熟にして、能く其需用を充たす能はず。去る十七年度の調査によれば、一ケ年の輸出額は、三十八萬二千八百七十二斤、此價(このあたひ)、四萬四千八百十五圓に過(すぎ)ず。然(しか)れども、既往に逆上(さかのぼ)りて見れは[やぶちゃん注:ママ。「ば」。]、明治二年には、僅(わすか)に一萬九千四百九十八斤、其價、五千三百三十八圓の少數にして、爾來(じらい)、年々に增加して、斯(かくのごとく[やぶちゃん注:意訓。])の數(すう)に昇りたり。之に徵して見れば、將來、必らず、增進すること、疑ひなし。

[やぶちゃん注:「十七年度」本書の刊行は明治一九(一八八六)年である。]

 

 夫(それ)、鰕類は、淸國、及び、東亞細亞(ひがしあじや[やぶちゃん注:ママ。])の海濱・河岸(かがん)に繁殖するものにて、就中(なかんづく)、本邦を富(と)めり、とす。淸國には、暹羅(シヤム)より、乾製を輸入するも、少數にして、本邦より輸入するものを、多數なり、とす。淸國にては、寧波(ねいは)の產、著名にして、品位、佳良なり、とす。

[やぶちゃん注:「暹羅(シヤム)」現在のタイ王国の古称。]

 

 夫れ、鰕類は、關節蟲部(かんせつちうぶ)の下等動物にして、其產殖、甚だ、速(すみや)かなるものなれば、能(よ)く、捕季(ほき)を定め、產卵塲(さんらんじよう[やぶちゃん注:ママ。])を設けて、繁殖を圖るに於ては、夥(おびたヽ[やぶちゃん注:ママ。「ヾ」。])しく增殖すべく、而して、製方を良好にして、需用者の信を得るときは、其販路、擴まり、將來、益(ますます)、增進するに至るべし。

[やぶちゃん注:「關節蟲部」現行のエビ・カニ類他を包括する「節足動物門甲殻門Crustacea」相当の古分類を指す。

   *

最後は、オリジナルな記載だが、本書の中で、「本草綱目啓蒙」を、丸ごと使って、あたかも自分が述べているように書いた部分は、初めて筆者河原田盛美氏に、激しい失望を感じた。

 当該本文は終わったが、この後に、まだ、八枚の図版がある。

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