河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 中卷(七)乾鰕の說(その10) 図版4
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの右ページから。この図版類は、特に思いがあって、清拭に渾身の努力をかけた。それに就いては、「その7」の図版初回の冒頭注を、必ず見られたい。]
【図版4】
■「さやまきゑび」
「紀州産。」
[やぶちゃん注:根鰓(クルマエビ)亜目クルマエビ上科クルマエビ科クルマエビ属クルマエビ Marsupenaeus japonicus である。「さやまきゑび」は「鞘卷蝦」で、私には記憶があった。四年前に公開した『毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 車ヱビ(クルマヱビ)・泥蝦(ノロマヱビ)の二種/ 前者「クルマエビ」・後者「ヌマエビ」の一種或いは「ヤマトヌマエビ」』の「車ヱビ」についての私の注で、
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『小なるものを「さゑまき」と云ふ』既に以前に注したが、再掲すると、上田泰久氏のサイト「食材事典」の「車海老(くるまえび)」のページに「サイマキ」の項があり、業者や調理人は十五センチメートル以上を「車海老」、十~十五センチメートルのものを「マキ」、それ以下を「サイマキ(鞘巻)」と呼び、 特に大きい二十センチメートル以上のものを「大車(おおぐるま)」と呼ぶとあって、『サイマキという言葉の由来ですが、昔、武士の腰刀の鞘(さや)に刻み目が付いていて、車海老の縞模様がこれに似ていたので、車海老の略称を鞘巻き(さやまき)と言った』のが、『なまって、サエマキ、サイマキとなり、これが小さな車海老の呼び方になった、という話です』とある。
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と注していた。今回、国立国会図書館デジタルコレクションの「動物自然分科綱要」(秋山蓮三編・出版/秋山蓮三/明治四四(一九一一)年刊)の「第二門 節足動物 一名 節肢動物」の「第四綱 甲殼類」の「第二亞目 長尾類 一名 蝦類」の中の、「斑節蝦(クルマエビ)科」の条(ここ)の冒頭に、
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クルマエビ 一名マダエビ 一名サヤマキエビ
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とあるので、再度、確認出来た。]
■「しまゑび」 「北海道根室産。」
[やぶちゃん注:これは、深海性の十脚目コエビ(小海老)下目タラバエビ(鱈場海老)科モロトゲアカエビ(諸棘赤海老)属モロトゲアカエビ Pandalopsis japonica である。但し、この生式和名で呼ばれることは少なく、専ら、流通では「シマエビ」の通りがよい(私自身、この正式和名を初めて知った)。ネットには詳しい記載がなく、複数、管見したが、日本海のエビ類の専門論文には、同種について『生物学的情報は少ない』と記されていた。されば、まず、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページを示す。それに拠れば、『体長13cm前後になる。濃い赤色で、体に白い縞模様がある。額角はわずかに上向き、上縁に20-27の可動棘、下縁に10-15の歯がある。[雌 全長13cm・21g]』とし、日本和名は、『額角(がっかく)の上下に棘のあるエビの意味(?)。』とある。「生息域」には、『海水生。水深180〜530メートル』。『日本海側、島根県〜北海道。サハリン、朝鮮半島東部。』とし、「生態」に『雄性先熟。』で、『水深180メートルから530メートルの砂泥地に生息』するが、『産卵数が少ない。』とある。「基本情報」に、『島根県以北の日本海で水揚げがあるが、流通する多くが』、『北海道産である。一般にはシマエビ(縞えび)と呼ばれ、標準和名は』、『ほとんど知られていない。「ぼたねび(トヤマエビ)」、「甘えび(ホッコクアカエビ)」などと比べると』、『量が少ない。輸送に強いため、首都圏に来ても生きていることがあり、活けものもある。』とあり、『味がとてもよく、剥いても縞模様が残るので握りにして映える。また刺身なども非常においしい』。同種は『流通量が少なく、一般的な小売店では見つけることができない。高級魚を扱う店などで探せば』、『手に入る』とある。「市場での評価」の項。『北海道西部からの入荷が多い。入荷量の少ないもので、高値で安定している』。『漁法』は『カゴ漁、底曳き網』で、『産地』は『北海道、日本海東北から山陰』とあり、活けものは『比較的活での流通を見かける機会が多い。』とある。「歴史・ことわざ・雑学など」の項を引く。
《引用開始》
■ 甘エビと呼ばれるホッコクアカエビなどのタラバエビ科のエビで比較的よく市場で見かけるのは、ホッコクアカエビ(甘エビ)、トヤマエビ(ボタンエビ)、そして本種である。この3種の中ではもっとも入荷量が少ない。それはホッコクアカエビ、トヤマエビがタラバエビ属であり、産卵数が多く再生産性が高いのに対して、本種のモロトゲアカエビ属のエビは産卵数が少なく再生産能力が低いためと思われる。
■ ホッコクアカエビ、トヤマエビなどに混ざってとれる。
■ 主な産地は北海道西部。増毛、留萌、積丹半島や檜山支庁にかけてである。北海道以外の日本海側のものは量的には少ない。
■ 生命力が強いのか東京の市場でも活けのものや、発泡の箱の中で生きているのが見られる。
《引用終了》
なお、本種は性転換することが知られている。これは、サイト「東京ズーネット」の「性転換するエビ、モロトゲアカエビ」が一見の価値がある。葛西臨海水族園飼育展示係の加茂耕太朗氏の執筆になる。ネット記事としては貴重なものであるので、引用させて戴く(生体画像二葉有り)。
《引用開始》
モロトゲアカエビは「世界の海」エリアの「深海II」の水槽に展示しています。このエビは日本海沿岸から北海道、樺太にかけての水深180〜370メートルに生息する深海性のエビです。頭の先にある額角(がっかく)と呼ばれるとげの上下に細かいとげが並んでおり、この特徴から「双方の」という意味を持つ「諸」の字が当てられ、「諸棘赤海老」(もろとげあかえび)と名付けられたといわれています。
さてこのモロトゲアカエビは、オスからメスに性転換をする「雄性先熟」(ゆうせいせんじゅく)という形をとります。性転換には他にも種類がありますが、これらは「どうすればより自分の子どもを残せるか」で決まります。
モロトゲアカエビの繁殖は、なわばりなどを持たず、繁殖する準備が整ったオスとメスが偶然出会ったときにおこなわれます。このとき、オスは大きかろうと小さかろうと子どもの数はメスの卵の数しだいですが、メスの場合は大きければ大きいほど多くの卵を産むことができます。そのため、小さいうちはオスとして過ごし、大きく成長したらメスになります。
また、このことから性転換する時期はみずからの体長によって決まり、モロトゲアカエビは頭胸甲長(眼の後ろのくぼみから甲の後ろまでの長さ)が2.5〜3.2センチまで成長するとオスからメスに性転換をすると報告されています。
では、展示されている個体はオスとメス、どちらになるのでしょうか。観察してみると、見た目では頭胸甲長は2〜3センチぐらいに見え、性別の判定がむずかしい大きさです。もしかしたら、今まさに性転換をしている個体がいるかもしれません。
《引用終了》
本図は、額角が小さい以外は、よく本種を描いていることが判る。]
■「沼海老」
「陸前國《りくぜんのくに》
仙䑓《せんだい》靑葉沼《あをばぬま》産。」
[やぶちゃん注:先に、産地を確認すると、「仙䑓靑葉沼」は、現在の仙台市青葉区川内(かわうち)の仙台城跡(青葉城址)にある五色沼(ごしきぬま)と長沼(ともに旧仙台城の堀跡)を指している(グーグル・マップ・データ)。そこで、『伊豆沼・内沼研究報告』九号(二〇一五年発行・PDF)所載の長谷川政智・池田実・藤本泰文三氏による「宮城県に侵入した淡水エビ:カワリヌマエビ属 Neocaridina spp. の 分布拡大とヌカエビ Paratya compressa improvisa への影響」を参考にしたが、それでも、種同定の決定打とするには、本書が百六十年前であることから、不安が残ったので、信頼しているGoogleのAI君に数度の質問を行ったところ、納得出来る回答――正解答――を得られたので、以下に示す。リンク(総て確認済み)もそのまま転写してある。
《引用開始》
仙台の青葉城(仙台城)の堀(現在の五色沼など)に棲息していた、在来種で「沼エビ」と呼ばれ串に刺して食用(主に地域の伝統料理である「えび餅」などの具材)とされていた日本在来種のエビは、以下の3種が同定・該当します。 [1, 2, 3, 4]
仙台平野および宮城県内の淡水域における歴史的な食文化や生息調査に基づくと、地域で「沼エビ」と総称されてきたのは主に以下の在来種です。 [1, 2]
- ヌカエビ(ヌマエビ科) [1]
・特徴: 体長2〜3cmと小型でずんぐりとした体形をしています。
・同定の背景: 東北地方(仙台平野や伊豆沼など)で古くから伝わる伝統的な「えび餅」に最も適し、本来使われてきたのがこのヌカエビです。火を通すと非常に美しい赤色に染まり、食べた時に殻が柔らかく「ぷりぷり」とした食感があるため、丸ごと炒ったり串に刺して食べる沼エビ料理の主役とされてきました。 [1, 2, 4]
- スジエビ(テナガエビ科)
・特徴: 体長3〜5cmで、体に黒い「逆ハの字」の縞模様があるのが特徴です。
・同定の背景: 日本全国の池や城の堀、川に極めて普遍的に棲息する在来種です。現在でも仙台平野の水辺や池沼で最も多く見られるエビの一つであり、ヌカエビなどと共に「沼エビ」「川エビ」として一括りに漁獲され、かき揚げや串焼き、餅の具材として食用にされてきました。 [1, 2, 3]
- テナガエビ(テナガエビ科)
・特徴: オスは非常に長いハサミ脚を持ち、体長は8〜9cm(あるいはそれ以上)に成長します。
・同定の背景: 厳密にはヌマエビ科ではありませんが、佃煮や串焼き、流通市場において古くから「沼エビ」という商品名で混入・代用されてきた歴史があります。大型のものはそのまま串に刺して焼きやすく、城の堀やため池のような止水環境を好むため、青葉城の堀にも古くから棲息していました。 [1, 2, 3, 4]
まとめ
かつての青葉城の堀に棲息し、伝統的に串刺しや料理の具材として親しまれた在来の「沼エビ」は、分類学的にはヌカエビ を筆頭に、同じ環境に混生していたスジエビ、およびテナガエビ の3種と同定することができます。 [1, 2]
《引用終了》
このうち、決定的な記事は、「登米市」公式サイト内の「とめ生きもの多様性プラン~イヌワシやマガン、アカトンボが舞うふるさとをめざして~」の「第1章策定にあたって」(PDF:1,559KB:2015年3月発行)の中の、12ページの「(2)人と自然、人と生きものの関わり方の変化による危機」の以下の第二・三段落、及び、二つの古い画像の前の「長沼に添えられたキャプションである。
登米市は仙台市の東北部の地続きでない場所であり、その「長沼」は、青葉城の「長沼」とは異なる沼(ここ:グーグル・マップ・データ)で、その距離は直線で約五十三キロメートルも離れているが、以上でAIが同定した淡水エビが、この青葉城の長沼にも百六十年前に棲息していた(一部は現在も棲息していることは、前掲の学術論文で確認済み)ことは、誰も異論を挟み得ないものと私は断言してよいと考えるものである(「そんな種は五色沼・長沼には当時はいなかった」と反論される方は、それを立証する記録を用意された上で、私に反論されたい)。当該記事の内容は、まさに仙台市の長沼の過去の内容が以下のように記されているのであって、読者に疑問を持つ余地は全くない。当該段落を太字とした。
《引用開始》
(2)人と自然、人と生きものの関わり方の変化による危機
昭和30~40年代頃まで市内の北上山地の森は、木材や薪炭(しんたん)、山菜などを得る場として、適度に人手が入ることで生きものと共存する環境(里山)が維持されてきました。しかし、燃料が薪や木炭、石炭から石油へと変わり、安価な輸入木材が普及するなど、生活様式や社会情勢の変化によって、生活の糧を得る場としての里山の価値が失われていきました。その結果、手入れが行われずに放置されて荒廃した里山や、開発などによって伐採された里山も見られ、人工林でも、木材の値段が下がったため、間伐が行われなくなったり、伐採が先延ばしされるなど、森林管理活動が低下しています。こうした変化により、里山の生物が減少したといわれています。例えば、イヌワシなどは、狩場として使っていた伐採跡地や草地が減少して繁殖率が落ちているといわれています。
また、かつてはエビ類やジュンサイなどを得る場として利用されてきた伊豆沼や長沼、平筒沼などの沼では、農地や宅地から流れ込む養分に富んだ水や、繁茂したハスの堆積(たいせき)などを原因とする水質汚濁によって水辺の環境が大きく変化し、エビ類やジュンサイが減少しています。
このように、生業の場として維持されてきた身近な森や水辺などの自然が損なわれつつあります。また、里山等の自然を維持する担い手であった、農家や林家(りんか)等の高齢化によって、以前のように十分に手入れが行き届かない里山が増加傾向にあることも指摘されています。 [やぶちゃん注:以下は二つの過去の画像へのキャプション。左から右で転写した。改行部は読み難くなるだけなので、繋げ、右インデントになっている出典部も左に寄せた。]
長沼での漁の風景(昭和40年代)
昭和 50 年頃までは市内の沼では、タナゴやエビ類(ヌカエビ、スジエビ、テナガエビなど)などが収穫されていましたが、水質の汚濁などの影響で漁業資源は減少し、いまでは漁は殆ど行われていません。
出典:登米市歴史博物館
津山町の炭焼き小屋 昭和 40 年頃までは薪や木炭は重要な収入源でした。北上山地一帯には写真のような炭焼き小屋が見られました。
出典:「語りつぎたい津山のくらし」 宮城県本吉農業改良普及所
《引用終了》
以上と、淡水エビの広域(宮城県内)分布、及び、諸専門論文等を勘案し、本図「沼海老」の種候補は、
ホンエビ上目十脚目抱卵(エビ)亜目コエビ下目ヌマエビ(沼蝦)上科ヌマエビ科ヌマエビ亜科ヌマエビ属ヌカエビ(糠蝦) Paratya improvisa(「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページをリンクしておく。以下同じ)
十脚目テナガエビ(手長蝦)科テナガエビ亜科スジエビ(筋蝦)属スジエビ Palaemon paucidens (「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページ)
テナガエビ科スジエビ属テナガエビ Macrobrachium nipponense (「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページ)
である。個人的には、食いでがあるのは、大きなテナガエビとなるが、この図のスケールが判らないこと、さらに、テナガエビだとすれば、、第二脚(しっかりした突出して長い鋏脚)をカットして串刺しにしている考えねばならない。しかし、この串の上下を見るとえらく太く見えるのだが、実際には、拡大して描いたと考えた方が、自然な図であるからして、小振りのヌカエビを第一候補、スジエビを第二候補とし、殿(しんがり)にテナガエビとする。]
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