和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 山草類 上卷・齋苨
せいねい 茋苨 杏参
杏葉沙參
齋苨 白麪根
甜桔梗
ツイ ニイ 苗名隱忍
本綱其苗似桔梗根似沙參故往往以沙參齋苨通亂人
參伹齋苨春生苗苗高一二尺莖色青白葉似杏葉而小
微尖而背白邊有又牙杪間開五瓣白盌子花根形如野
[やぶちゃん注:「邊」は原文では「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。「瓣」は原文では中央が「爪」であるが、このような異体字はないので、かく、した。]
胡蘿葡頗肥皮色灰黝中間白毛又有開碧花者
凡齋苨桔梗一類而甜苦二種也齋苨嫩苗味甘𤉬熟可
[やぶちゃん注:「𤉬」は原文では(つくり)の頭に(くさかんむり)が附くが、このような異体字はないので、「煠」の近い「𤉬」を当てた。「煠」は「茹でる」の意である。]
食桔梗苗苦不可食此其異也
氣味【甘寒】能解百藥毒乃良品也而世不知用惜哉與諸
毒藥共𠙚毒皆自然解也虎中藥箭食清泥而解野猪
中藥箭豗蒼芭而食物猶知解毒何况人乎
△按齋苨【和名佐木久佐奈一名美乃波】出於河州金剛山者良紀州若山次之藝州廣島又次之岵峐及淺山中有之
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せいねい 茋苨《ていでい》 杏参《きやうじん》
杏葉沙參《きやうえふ》
齋苨 白麪根《はくめんこん》
甜桔梗《てんききやう》
ツイ ニイ 苗を「隱忍《いんにん》」と名《なづ》く。
「本綱」に曰はく、『其《その》苗《なへ》、桔梗に似て、根、沙參《さじん》に似たる故《ゆゑ》に、往往《わうわう》、沙參・齋苨を以《もつ》て、通《つう》して、人參を亂《みだす》[やぶちゃん注:「人参と偽(いつわ)る」の意。]。伹《ただし》、齋苨≪も≫、春、苗を生ず。苗の高さ、一、二尺。莖≪の≫色、青白。葉、杏《あんず》の葉に似て、而≪れども≫、小《ちさ》く、微《やや》、尖《とがり》て、背、白≪し≫。邊《まはり》に、又牙《またぎざ》[やぶちゃん注:股状になった鋸歯。]、有り。杪《こづえ》の間《あひだ》に、五瓣の白≪き≫盌子《わんす》[やぶちゃん注:「椀」と同義。]≪の≫花を開く。根の形、野胡蘿葡《ヤコラフク/ながじらみ/やぶにんじん》のごとく、頗《すこぶ》る、肥《こえ》て、皮の色、灰黝(《はひぐろ》うる)み、中間≪に≫、白毛あり。又、碧《みどり》≪の≫花を開く者、有り。凡《すべ》て、齋苨と桔梗≪は≫、一類にして、甜《あまき》・苦《にがき》の二種なり。齋苨の嫩苗《わかなへ》は、味、甘≪く≫、𤉬-熟《ゆでじゆく》して、食ふべし。桔梗≪の≫苗は、苦《にがく》して、食すべからず。此れ、其の異《ことなり》なり[やぶちゃん注:両者の違いである。]。』≪と≫。
『氣味【甘、寒。】能《よ》く、百藥の毒を解《かい》す。乃《すなはち》、良品なり。而≪れども≫、世、用《もちひることを》知らず。惜《をしき》かな。諸毒藥と共《とも》に、𠙚(を[やぶちゃん注:ママ。])けば[やぶちゃん注:「一緒にして置いておくと」。]、毒、皆、自然に解すなり。虎《とら》、藥箭《セン/どくや[やぶちゃん注:「毒矢」。]》に中《あた》れば、清(すめ)る泥(どろ)を食《くらひ》て、解《かい》す。野猪《ゐのしゝ》、藥箭に中れば、蒼芭を豗(ほ)りて食ふ。物(けだもの)、猶を[やぶちゃん注:ママ。]毒を解《かいする》ことを知る。何《なん》ぞ、况《いはん》や。人をや。』≪と≫。
△按ずるに、齋苨【和名、「佐木久佐奈《ささくさな》」。一名。「美乃波《みのは》」。】≪は≫、河州《かしふ》金剛山《こんがうざん》より出《いだす》者、良し。紀州若山[やぶちゃん注:現在の和歌山県。]、之≪に≫次《つ》ぐ。藝州《げいしう》廣島、又、之≪に≫次《つぐ》。岵峐(はげやま)[やぶちゃん注:一般名詞の禿山(はげやま)。]、及《および》淺山《あさやま》[やぶちゃん注:「村里近くの山」の意。]の中に、之、有り。
[やぶちゃん注:この「齋苨(せいねい)」は、「和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 山草類 上卷・羊⻆菜」の注で示した、
キク亜綱キキョウ目キキョウ科ツリガネニンジン属ソバナ Adenophora remotiflora
である。そこで当該ウィキを引いてある(注記号はカットした)が、検証して、必要と考えた附言を加えて、再度、示しておく(太字部は私が追加したそれである)。漢字表記は『岨菜』・『蕎麦菜』・『杣菜』で、他に「薺苨」で「さきくさな」「みのは」の異名を持つ。『多年生草本』である。『和名は「杣菜(そまな)」と漢字で書かれ、』「杣」は会意的発想から本邦で作られた国字である。「萬葉集」に既に使用が見られ、「和漢類聚鈔」「聖德太子繪傳」に、第一義的には「材木を採る山」(杣山)及び「伐り出した材木」の意であり、そこから伐り出す「樵(きこり)」の意に転じた。「杣菜」は『山道に生える菜の意味がある』。他に漢語である「薺苨」(「維基百科」の同種のページでは、現行では「薄叶荠苨」と漢字表記するが、中文辞書でも「薺苨」を「ソバナ」に同定している)『日本では本州、四国、九州に、アジアでは朝鮮半島、中国に分布する。平地沿いの低山から山地の草原や林内、林縁、沢沿いなどの、やや湿った傾斜地などに、大小の集団を作って自生する』。『茎は』、『やや傾斜して直立し、高さは40 - 100センチメートル』『ほどになり、中空で折ると』、『白い乳液が出る。乳液はキキョウ』(キキョウ亜科キキョウ属キキョウ Platycodon grandifloras :絶滅危惧II類(VU)。あまり理解されていないと思われるので、添えておくと、キキョウの自生株は、近年、減少傾向にあり、絶滅が危惧されている)『ほど強くはない。葉は茎に互生し、茎の下部につく葉には』、『葉柄がある。葉柄のつく葉の形は広卵形で、花がつく茎の上部は広披針形になり、いずれも葉の先は尖り基部は』、『ほぼ円形、縁ははっきりした鋭い鋸歯状がある。ほとんど無毛で、若葉のときは強い光沢がある』。『花期は夏(8 - 9月ごろ)。枝の先が分かれて青紫色の円錐状に近い鐘形の花を』、『ややまばらに咲かせる。大きい株になると』、『枝を数段に互生させ、多数の花をつける。花の』萼『片は披針状で全縁。雌しべは突出する。花冠の先は5裂し、先端は少し反り返る』。『春の出たばかりの黄色味を帯びている若い芽は、山菜として食用にされる。採取時期は関西以西が4月、関東地方が4 - 5月、東北・中部の寒冷地は5月ごろとされ、根元から摘んで採取する。さっと茹でて水にさらし、おひたし、酢の物、ごま・酢味噌などの和え物などにし、生のまま天ぷら、汁の実にする。クセがほぼないため』、『さまざまな料理に使える。歯切れがよく』、『美味であり、飢饉の時には』、『蕎麦の代用品として主食同様に用いられたと推測され』てい『る。花』も、『軽く茹でて酢の物にできる』。『近縁種』として以下の二種が挙げられてある。
ツリガネニンジン(釣鐘人参)Adenophora triphylla var. japonica
フクシマシャジン (福島沙参)Adenophora divaricata
思うに、以上の二種の近縁種が本邦にあるのであるから、中国でももっとあるのではないか? と思われたのだが、「維基百科」には記載がなく、英語のウィキも存在しないため、その辺りは、判らなかった。頼みの綱である「跡見群芳譜」の「そばな(岨菜)」にも載っていなかった。但し、そこでは、『北海道・本州・四国・九州・朝鮮・遼寧・吉林・黑龍江・ロシア沿海地方に分布』するとあり、さらに、しっかりと『中国では、根を薬用にする。』とあった。また、「株式会社 ウチダ和漢薬」の「薬草写真展示室」の「ソバナ」には、『若芽を摘んで食用にし、胃病に効果があるという。また、根茎の煎汁は中毒に効果があるという。』とあった。
★なお、良安は「齋苨」に「せいねい」の読みを附しているのだが、これには大いに疑問がある。異名の「茋苨《ていでい》」で示した通り、この「苨」には「ねい」の音はないのである。「廣漢和辭典」でも音は『デイ』と『ナイ』の二音のみである。検索を掛けても、「ネイ」音は、なかった。この疑問を説明出来る方は、お教え下さい。
「沙參」キキョウ科ツリガネニンジン(釣鐘人参)属サイヨウシャジン(細葉沙参)変種ツリガネニンジン Adenophora triphylla var. japonica 。先行する「沙參」を見よ。
「人參」ずっと私の本プロジェクトを読まれている方には、釈迦に説法だが、無論、これはニンジンではなく、
セリ目ウコギ科トチバニンジン(栃葉人参)属オタネニンジン(御種人蔘)Panax ginseng
である。先行する「人參」を見よ。
「杏」双子葉植物綱バラ目バラ科サクラ亜科サクラ属杏子節 Armeniaca アンズ変種アンズ Prunus armeniaca var. ansu 。「和漢三才圖會卷第八十六 果部 五果類 杏」を見よ。
「野胡蘿葡《ヤコラフク/ながじらみ/やぶにんじん》」セリ目セリ科セリ亜科ヤブニンジン属ヤブニンジン Osmorhiza aristata 。当該ウィキを見られたい。
以上は「漢籍リポジトリ」の「本草綱目卷十二上」の「草之一【山草類上一十三種】」のガイド・ナンバー[036-27b]の二行目以下の「薺苨」のパッチワークである。
「河州金剛山」現在の奈良県御所市と大阪府南河内郡千早赤阪村(ちはやあかさかむら)との境目にある金剛山(こんごうさん/こんごうざん)、別名葛城嶺(かづらきのみね)のこと。ここ(グーグル・マップ)。]
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