河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 中卷(八)乾貝並貝柱の說(その4) 乾馬刀
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの左ページから。]
乾馬刀《ほしまて》
馬刀貝(まてがひ)は「和名鈔」に『馬蛤』を『萬天(まて)』と訓じ、又,『「唐韻」に云《いふ》、『蟶(まて)は「辨色立成(べんしきりつせい)」に云(いふ)、萬天なり』。』とす。而して、漢名は『竹蟶(ちくてい)』にして『蟶(てい)』と同科のものなり。「閩書」、『蟶』の條に曰く、『竹蟶あり。圓く、小竹節(せうちくせつ)に類(るい[やぶちゃん注:ママ。])す。』、『其《それ》、殼紋(かくもん)あり。』とあるものハ、『まてがひ』なり。「本朝食鑑」には、『蟶(てい)は「まて」と訓じ、殼、圓(まろ)く、小竹管(せうちくわん)の如く、兩巾(りやうひん)、殼外(かくぐわい)に出づ。此(これ)を「袴(はかま)」と謂ふ。其味、甘美なり。』とす。
[やぶちゃん注:「馬刀」は、
斧足(二枚貝)綱異歯亜綱Heterodontaマルスダレガイ(丸簾貝)目マテガイ(馬刀貝)上科マテガイ上科マテガイ科マテガイ属マテガイ Solen strictus
である。当該ウィキに拠れば(注記記号はカットした)、漢字表記は『馬刀貝、馬蛤貝、蟶貝』で、『鞘に収めた馬手差(刺刀』(「さすが」と読む。芥川龍之介の「藪の中」を思い出すね。小説では「小刀(さすが)」と漢字を当てている。)『)に近い形状から』、『この名がついた。筒状の殻を持ち、砂泥に垂直に潜る』。『日本列島・朝鮮半島・台湾・中国大陸沿岸に分布して生息する』。『日本では、北海道南部以南の』、『波のおだやかな内海の砂浜に見られ、特に西日本で多く食用とされる。いたがい、かみそりがいとも呼ばれる』。『マテガイ上科』Solenoidea『に特徴的な細長い形の薄い殻を持ち、成貝は10センチメートル程度になる。殻を2枚合わせると』、『筒状で、外側は帯緑褐色、内側は白色である』。『砂を掘り、数十センチメートルから1メートル程度の深さに住み、プランクトンを食べるための水管を水中に出すこともある。イシガレイ』(石鰈: 条鰭綱アジ目カレイ科ヌマガレイ(沼鰈)属イシガレイ(石鰈) Platichthys bicoloratus )『の稚魚など、水管を好んで食べる魚もいる。また、同じマテガイ上科のアゲマキガイ』(前記事を見よ)『と似ている為、混称されている』。『マテガイは塩分濃度に敏感であり、急激な変化があると巣穴から飛び出す性質を利用した漁法が一般的である』。『マテガイのいそうな砂地の表土を1センチメートル程度掻くと』、『マテガイの巣穴が見える。マテガイの他にも、カニ類やゴカイ類も砂浜に巣穴を作るが、やや菱形をした穴がマテガイの穴である。ここに塩を振り込んでしばらく待つと、マテガイが』、『数センチメートルほど飛び出してくるので、それをしっかりと押さえ、ゆっくりと抜き出す。急激に抜き出すと』、『足が切れてしまうことがある』。『長崎県五島列島において、マテ掘(マテガイ掘)の熟練者は、砂浜の表面をトンガ(唐鍬)でコツコツと叩くことでマテガイの巣穴を見分け、既に食したあとのマテガイの殻をスプーンとして巣穴に塩を入れ、さらにマテガイが飛び出す速度に合わせて抜き出すことで、素早く効率的に採取することができる。また、叩いた反応がマテガイ以外の貝類(例えばカガミガイ』(鏡貝:マルスダレガイ(丸簾貝)科カガミガイ亜科カガミガイ属カガミガイ Phacosoma japonicum )『)であった場合は唐鍬で掻き出し、採取する』。『欧米でもRazor Clam(スペイン語: Navajas)と呼ばれて、多くの砂浜で漁獲され、食用に供される。スペインでは養殖もされる』。『その形状から』、『大ぶりの身になりやすい一方、砂を吐かせるのは容易である。また殻から取り出すのも容易。バケツに海水を汲んでその中に入れておけば』、『帰る頃には砂を吐き終わっているほどである』。『バター焼きや塩茹で、煮付けなどにして食べることができる』。『多くの国で食用に供される。北米では塩茹でにして溶かしたバターに漬ける。スペインでは、ニンニクとオリーブ油をかけて鉄板焼きにしたり、中身を取り出して衣をつけて揚げるのが最も典型的な食べ方である。 また、クッキングパパでも料理されている』とある。「BISMaL」では、他に以下の本邦の近縁種十種を挙げてある。
Solen brevissimus (和名なし。ダイバーが見かける程度の稀種のようである)
Solen canaliculatus ヒナマテガイ(恐らく「雛馬刀貝」)
Solen gordonisアカマテガイ(赤馬刀貝)
Solen grandisオオマテガイ(大馬刀貝)
Solen kikuchii チゴマテ(恐らく「稚児馬刀貝」。但し、この種は一九七〇年代の発見であり、異常に増加したか、移入も疑われている種である)
Solen krusensterniエゾマテガイ(蝦夷馬刀貝)
Solen kurodaiダンダラマテガイ(「段斑馬刀貝」か。絶滅の可能性が非常に高い種である)
Solen roseomaculatusバラフマテガイ(恐らく「散斑馬刀貝」か)
Solen sloaniiリュウキュウマテガイ(琉球馬刀貝)
Solen soleneaeジャングサマテガイ(産地は沖縄)
「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の「マテガイ」のページをリンクさせておく。また、同サイトの『「マテガイ」と呼ばれる水産物一覧』(但し、マテガイでないものも含む)もリンクさせておく。
『「和名鈔」に『馬蛤』を『萬天(まて)』と訓じ、又,⋯⋯』前の「乾揚卷」で既出既注。
『「本朝食鑑」には、『蟶(てい)は「まて」と訓じ、⋯⋯』国立国会図書館デジタルコレクションの元禄一〇(一六九七)年板の当該部をリンクしておく。]
『あけまき』と『まて』とは、其生活するの有樣ハ、異(こと)ならざれども、『あげまき』ハ、泥濘(でいねい)を好み、『まて』ハ、砂地(しやち)を好めり。而して、此(この)竹蟶(まて)乾製法も蟶(あげまき)に同(おな)し。
(蟶(あげまき)、竹蟶(まて)、兩品乾製改良法) 此(この)兩品を乾製するや、第一の困難とするは、雨天なれども、乾燥器を以てすれば、亦、憂(うれふ)るに足らず。山口縣下、紺箭彥平が發明せし竹蟶乾燥器の如きは、已(すで)に實用に適し、簡便(かんべん)のものとす。其器械は、重(おも)に雨天の際、之を使用せり。其法たる、取揚(とりあげ)たる竹蟶(まて)を、殼付のまヽ、熱湯中に入れ、肉と殼と離るヽを度(ど)として、掬(すく)ひ揚げ、淸水(せいすい)に洗ひ、之を、女竹(めだけ)にて製したる、長さ四尺、巾(はヾ)三尺の釘(くぎ)にて打付(うちつけ)たる竹架(たけそだ)を作り、之に散布し、温室の前後より、三枚宛(づヽ)六枚を三段に重ね入れて、下より、炭火にて、乾(かはか)すなり。溫室の蒸氣を發散せしむる爲に、上部に窓を開く。此乾燥法を以てすれば、其形狀・風味等(とう)、一切(いつさい)、日乾(ひほし)と異(ことな)る所なく、實に至便(しべん)の裝置といふべきなり。
[やぶちゃん注:「紺箭彥平」「こんやひこへい」と読むか。一つだけ、国立国会図書館デジタルコレクションの昭和六三(一九八八)年刊の「府県史料 山口県 三」(山口県文書館編)の「山口県史料 巻五」「政治之部褒賞第八」の明治一五(一八八二)年の被褒賞者のリストの中に、「道路修繕費」として寄付金を人として、ここに「紺箭彦平」の名を見出せた(読みはない)。本書の刊行は明治一九(一八八六)年であるから、この人物と考えてよいように思われる。
「竹架(たけそだ)」「株式会社 竹市場」の「竹粗朶(そだ)」を見よ。]
數年以來、輸出の量、日に月に增額(そうがく[やぶちゃん注:ママ。])すと雖ども、從來の日光乾(につこうほし[やぶちゃん注:ママ。])は、一時(いちじ)、降雨あれば、忽(たちま)ち、腐敗の品(しな)となり、損耗を來(きた)すこと、尠(すくな)からず。乾燥械を使用し、更に腐敗・損耗の憂(うれい[やぶちゃん注:ママ。])を免(まぬ)かるべし。良工に囑し、其(その)機(き)を作り、其竃(かまど)を改良し、此(これ)か[やぶちゃん注:ママ。「が」。]、精密を加へ、溫熱と發射(はつしや)[やぶちゃん注:ここは「放出するようにする」の意。湿気を短時間で取り去ることである。]を熾(さかん)にせば、一日《いちにち》乾燥の量數、拾石《じふこく》[やぶちゃん注:一・八〇三キロリットル。]に至るべし。機械の大小は、事業の大小に依り、適意(てきい)に造るべしと雖ども、大(だい)なるものは、乾燥、速(すみやか)にして、小なるものは、遲し。大なるものを便(べん)なりとす。

