和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 山草類 上卷・桔梗
[やぶちゃん注:図は三つあり、下方に、土の根元からの生体図があり、右の上方に、掘り出て茎以下の地下の主根を綺麗にしたものが掲げられてあり、左上方に根も付いた生体の全体像が描かれてある。]
き きやう 白藥 梗草
齋苨
桔梗
ありの 【和名阿里乃比布木】
ひふき
キツ ケン 【今呼字音
不曰和名】
本綱桔梗春生苗莖高尺餘葉似杏葉而長隋三四葉對
[やぶちゃん注:「隋」はそのままだが、調べてみると、「漢籍リポジトリ」の「本草綱目」の「卷十二上」の「草之一【山草類上一十三種】」のガイド・ナンバー[036-30a]の五行目の「桔梗」では、確かに「隋」で、附属する原本画像でも『葉似杏葉而長隋四葉相對而生嫩時亦可煑食』で「隋」であった。だが、ここは「長隋」に良安が「ナカホソク」と読みを振っている。しかし「隋」には、そのような意味は全くないのである。そこで、「維基文庫」の当該部を見たところが、「隋」ではなく、『葉似杏葉而長橢,四葉相對而生,嫩時亦可煮食。』となっていた。この「橢」(音「ダ・タ」)には、「丸くて細長い」の意があるので、ここは特異的に、訓読文では「橢」に変えて訓読した。なお、良安の最後の附言では、割注を挿入して、この字を誤りとして、正しく「橢」の字を使用している。]
生又有差互者嫩時亦可煑食夏開小花紫碧色頗似牽
牛花秋後結子其根如指大黃白色
本草本經桔梗與齋苨爲一物至別録始出齋苨條分爲
二物然其性味功用皆不同根有心者桔梗無心者齋苨
又苗苦者桔梗甜者齋苨
氣味【苦辛平味厚氣輕】 陽中之陰升也入手太陰肺經氣分及
足少陰腎經【凡使須去頭上尖硬二三分已來】清肺氣利咽喉與甘草
同行爲舟楫之劑如大黃苦泄峻下之藥欲引至胷中
至高之分成功須用辛甘之劑升之譬如鐵石入江非
舟楫不載所以諸藥有此一味不能下沉也
古今 あきちかう埜はなりにけり白露のをける草葉も 友則
色替り行
[やぶちゃん注:「古今和歌集」では、確かにこの和歌の下の句のそれは、「をける」となっているが、歴史的仮名遣では「おける」が正しい。面倒なので、訓読では、訂しておいた。]
△按桔梗山野及人家多種之苗叢生無枝椏其葉似杏
[やぶちゃん注:「叢」は、原本では「叢」異体字の「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。]
葉而橢【橢狹長也又圜而長也本草綱目作隋字誤】背淡白有微毛自本至
末差互生葉間開碧花凡以紫碧者爲桔梗之正色又
有白花者有紫白相間者有單葉有八重皆變於子種
初無枝椏剪折莖則生枝椏其葉對生者亦有
*
き きやう 白藥《ハクヤク/ビヤクヤク》
梗草《かうさう》
齋苨《せいねい》
桔梗
ありの 【和名、「阿里乃比布木《ありのひふき》。】
ひふき
キツ ケン 【今は、字の音《おん》を呼んで、
和名を曰《いは》ず。】
「本草綱目」に曰はく、『桔梗、春、苗《なへ》・莖《くき》を生《しやう》≪ず≫。高さ、尺餘《よ》。葉は、杏《あんず》の葉に似て、長橢(ながほそ)く、三、四葉、對生す。又、差互《さご》なる者[やぶちゃん注:葉が複雑に入り交じる個体。]、有り。嫩《わか》き時、亦、煑て食ふべし。夏、小≪き≫花を開く。紫碧色《しへきしよく》。頗《すこぶる》、牽-牛(あさがほ)の花に似て、秋の後《のち》、子《み》を結ぶ。其根《そのね》、指の大《おほい》さのごとく、黃白色。』≪と≫。
『本草の「本經」[やぶちゃん注:「神農本草經」を指す。]に、『桔梗と齋苨と、一物と爲《なす》。』。「別録」に至《いたり》て、始《はじめ》て、「齋苨」の條《でう》を出《いだ》して、分《わけ》て、二物《にぶつ》と爲《なす》。然れども、其性《せい》、味、功用、皆、同からず。根に心《しん》[やぶちゃん注:芯。]ある者は桔梗、心無き者は、齋苨≪なり≫。又、苗、苦《にが》き者は、桔梗、甜《あま》き者は、齋苨なり。』≪と≫。
『氣味【苦、辛、平。味、厚《あつ》く、氣、輕《かろ》し。】 陽中の陰、升《のぼ》る≪や≫、手の太陰肺經氣分、及《および》、足の少陰腎經に入る【凡そ、使《つか》ふに、須《すべか》らく、頭《かしら》の上の尖りて硬きを、二、三分《ぶ》、已來《いらい》≪の所≫を去る。】。肺氣を清《きよ》≪く≫し、咽喉を利《り》し、甘草《かんざう》と同《おなじ》く、行《おこ》な≪は≫ば、舟楫《ふなかぢ》の劑《ざい》と爲《な》る。大黃《だいわう》の苦泄峻下《くせつしゆんげ》の藥ごとき≪を≫、胷中《きやうちゆう》の至高の分に引至《ひきいたらせ》て、功を成《なさ》んと欲《ほつ》せば、須《すべからく》、辛・甘の劑を用《もちひ》て、之を升《のぼ》すべし。譬《たと》へば、鐵石、江《こう》に入《いれ》て《✕→入れんとせば》、舟楫に非《あら》ざれば、載《のせ》ざるがごとし。諸藥、此《この》一味、有《あり》て、下沉《げちん》≪する≫こと、能《あた》はざる所以《ゆゑん》なり。
「古今」 あきちかう 友則
埜《の》はなりにけり
白露《しらつゆ》の
おける草葉《くさば》も
色替り行《ゆく》
△按ずるに、桔梗、山野、及《および》、人家に多≪く≫、之を種《うう》。苗、叢生《さうせい》して、枝椏《えだわかれ》、無く、其≪の≫葉、杏葉(あんず《のは》)に似て、橢(ほそなが)し【「橢《ダ》」は「狹長《さなが》」なり。又、「圜《まろ》くして長し」なり。「本草綱目」、「隋」の字に作るは、誤《あやまり》なり。】。背、淡白、微毛、有り。本《もと》より末《すゑ》に至るまで、差-互(たがひたがひ)に生ず。葉の間《あひだ》に、碧《みどり》の花を開く。凡《およそ》、紫碧《しへき》の者を以《もつて》、桔梗の正色と爲《なす》。又、白花の者有り、紫・白≪の≫相間(《あひ》まじ)る者、有り。單葉《ひとへ》有《あり》、八重《やへ》、有り。皆、子種(みばへ[やぶちゃん注:ママ。「みばえ」でよい。])より變ず。初《はじめ》、枝椏《えだまた》、無く、莖を剪-折《きりを》れば、則《すなはち》、枝椏を生ず。其《その》葉、對生の者、亦、有り。
[やぶちゃん注:これは、
キク目キキョウ科キキョウ亜科キキョウ属キキョウ Platycodon grandiflorus
でよい。当該ウィキに拠れば(注記記号はカットした。また、「文化」の項は、冒頭のみに限った)、『キキョウ科』Campanulaceae『の多年生草本植物。山野の日当たりの良い所に育つ。日本のほぼ全国、朝鮮半島、中国、東シベリアに分布する。秋の七草の一つで、七草の朝顔をキキョウとする説のほかに、ムクゲやアサガオを当てる説もある』。『根は太く、黄白色。草丈は50-100cm程度。葉は一般には互生で先は尖っており縁に鋸歯がある。下面はやや白みがかっている』。『秋の季語であるが、実際の開花時期は六月中旬の梅雨頃から始まり、夏を通じて初秋の九月頃までである。つぼみが徐々に緑から青紫にかわり裂けて星型の花を咲かせる。雌雄同花だ』、『が雄性先熟であり、まず』、『雄しべが成熟して花粉が出て(雄花期)、その後に雌しべが開き』、『柱頭が受粉可能になる(雌花期)。これは他家受粉の可能性を高めるための仕組みで、キキョウは雄性先熟の特徴を観察しやすい植物である。花冠は広鐘形で五裂、径4-5cm、雄しべ・雌しべ・花びら(花弁)はそれぞれ5つである』。『なお、園芸品種には』、『白色や桃色の花をつけるものや、鉢植え向きの草丈が低いもの、二重咲きになる品種や』蕾『の状態のまま』、『ほとんど開かないものなどがある』。『属名のPlatycodon は「広い釣鐘」を意味する。種小名のgrandiflorus は「大きな花の」という意味である』。『なお、つぼみが風船のような形状であるため "balloon flower" という英名を持つ』。『園芸種としては、アポイギキョウ』(アポイ桔梗:小型選抜種。北海道の日高山脈にあるアポイ岳(ここ:グーグル・マップ)に因んだ和名。「アポイ岳」はサイト「日本ジオパークネットワーク」のここに拠れば、アイヌ語の「アペ(火)・オイ(多い所)・ヌプリ(山)」が略されたもので、「大火を焚いた山」の意。アイヌの人々が、この山で火を焚き、鹿の豊猟をカムイ(神)に祈ったという伝説に由来している。)、『ウズキキョウ』(矮性園芸種)、『早生の「五月雨」』「小町」『などが流通している』。『風通しのよい日なたで育てる。日陰では栽培できない。種蒔きは、2月から3月頃に行う。順調に育てば、蒔いた年に開花する。また、植え替えを行う時期も2月から3月頃で、芽出し直前に植え替えを行う。よく増えてすぐに根詰まりを起こすので、鉢植えの場合は』、『毎年』、『植え替えが必要になる。庭植えの場合は特に植え替えの必要はないが、3年に1回は掘り上げて株分けして植え直す。桔梗は宿根草なので、冬は地上部分が無くなる。秋以降は自然に枯れていくので、冬前に地際で切り詰める』。『増やし方としては、種蒔き、株分け、さし芽』(「キッズネット」の当該解説に(読みはカットした)『植物の茎や枝など芽のついた部分をさして繁殖させる方法。芽ざしともいう。さし木とほぼ同じ意味であるが,茎や枝の先端の芽をつけてさす場合をいう。また,樹木よりも草本の場合にさし芽ということが多い。キクはさし芽で繁殖させることが多い。またサツマイモの苗を植えるのもさし芽めである。◇さし木や取り木と同様に,遺伝的に親と同じ形質の苗を短期間に得えられる利点がある。』とあった。)『を利用する。株分けの時期は2月から3月頃で、芽出し直前に株を分ける。さし芽の時期は5月から6月頃で、新芽の先端をさす』。『植物体再生の研究が進む。また漢方薬の素材として栽培される』。以下、「生薬」の項。『キキョウの一種Platycodi Radix』(異なる学名であるが、「大杉製薬株式会社」の『キキョウ[桔梗根 PLATYCODI RADIX]』に拠れば、「基原」を『キキョウPlatycodon grandiflorus A. De Candolle(Campanulaceae)の根である.』(斜体になっていないのはママ)とし、「主な産地」を『安徽、河北、湖南、湖北、四川、浙江、日本、韓国』とあり、ネット上の諸記載を見るに、別種ではない)『は根にサポニン(オレアナン型トリテルペンサポニン)を多く含み、生薬として利用される。日本薬局方では桔梗根、キキョウと表記する。生薬は根が太く内部が充実し、えぐ味の強いものが良品とされる。主な産地は韓国、北朝鮮、中国である』。『鎮咳、去痰、排膿作用があるとされる。代表的な漢方処方に桔梗湯(キキョウ+カンゾウ)がある。炎症が強い場合には』、『石膏と桔梗の組み合わせがよいとされ、処方例として「小柴胡湯加桔梗石膏」(しょうさいこかききょうせっこう)がある(桔梗石膏も参照)』。『処方薬に鎮咳去痰の清肺湯、竹筎温胆湯、参蘇飲などの漢方方剤がある。1980年代末に抗腫瘍作用の考察があった。また1990年代末には耐糖能』(=耐糖因子。グルコース・トレランス・ファクター(glucose tolerance factor, GTF)。 このGTFを構成する主な物質クロモデュリン(オリゴペプチドとクロムが結合したもの)がインスリン受容体に結合し、インスリンの刺激伝達に関与すると言われている。以上は当該ウィキに拠った)『の研究がある』。『日本では、万葉の時代から人々から観賞されてきていた。貝原益軒の『花譜』(1694年)には、「紫白二色あり。(中略)八重もあり」と紹介されている。また、1年後に刊行された『花壇地錦抄』(1695年)には、絞り咲きや各種の八重咲き、「扇子桔梗(おうぎききょう)」と名づけられた帯化茎(たいかけい)のものなどがあげられている』とある。
「齋苨」前項「齋苨」を見よ。
「太陰肺經」「足の少陰腎經」先行する「第八十九 味果類 呉茱萸」の私の注の「『足の「太陰經」の血分、及び、「少陰經厥陰經」』を見よ。
「舟楫の劑と爲る」東洋文庫訳では、『舟楫(ふね)の役割を演じる』とある。
「大黃」タデ目タデ科ダイオウ属 Rheum の根茎の外皮をり去って乾燥したもので、健胃剤・潟下剤とする。「唐大黄」と「朝鮮大黄」との種別がある。
「苦泄峻下」東洋文庫訳では、『(苦にしてはげしく下に行く)』と割注をする。
「譬へば、鐵石、江に入て《✕→入れんとせば》、舟楫に非ざれば、載ざるがごとし。」東洋文庫訳では、『例』(たと)『えば、鉄石が江に入』(い)『るには舟楫(ふね)でなければ浮び載せられないようなものである。』とあるが、あまり親切な訳ではない。『喩えれば、鉄の塊りを江河に運ぼうとするならば、相応の船舶でなければ、載せることは出来ないのと同じである。』という意味である。所謂、「使薬」の効果的な用法を比喩しているのである。
「下沉」漢方で「嘔吐や気の逆上を鎮(しず)め、水分代謝を促し、興奮を鎮める作用(「安神(あんしん)」と言う)を指す。
なお、ここまでの「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「卷十二上」の「草之一【山草類上一十三種】」のガイド・ナンバー[036-30a]の「桔梗」の項のパッチワークである。
「古今」「あきちかう埜はなりにけり白露のおける草葉も色替り行」「友則」は「古今和歌集」の「卷第十 物名」の紀友則の歌(四四〇番。「新日本古典文学大系」版(小島憲之・新井栄蔵校注・一九八九年刊)を使用したが、歴史的仮名遣を誤っている「をける」は恣意的に訂した)。
*
桔梗(きちかう)の花(はな)
秋(あき)近(ちか)う
野(の)はなりにけり
しらつゆの
おける草葉(くさば)も
色(いろ)かはり行(ゆく)
*
である。底本の訳を示すと、『野はもう秋が近くなったなあ。白露』(しらつゆ)『が置いている草葉も秋めいて色が変わって行く。』とある。注では、そのままでは、私のような短歌嫌いには判り難いので、勝手に解説すると、詞書の「桔梗(きちかう)の花(はな)」は、上句の内の「秋近(あきちか)う野(の)はなり」の部分に「きちかうのはな」を読み込んでいることを、作者の技巧として指摘してある。この遊びは、「物名(もののな/ぶつめい)」(隠し題)と言う。
「杏」双子葉植物綱バラ目バラ科サクラ亜科サクラ属杏子節 Armeniaca アンズ変種アンズ Prunus armeniaca var. ansu 。]
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