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2026/06/25

河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 中卷(八)乾貝並貝柱の說(その10) 蛭貝[注意!!! この標題及び本文冒頭の「蛭貝」は「姥貝」の大誤記である!!!]

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの右ページから。★而して、既に、「乾貝並貝柱の說(その1)」の注で示した通り、『標題は「蛭貝」になってしまっている――のである!⋯⋯しかも!⋯⋯ご丁寧にも!――★その解説の冒頭部分でも、主語を『蛭貝』とヤラかしてしまっているのである! ★無論、この『蛭貝』は、トンデモ大誤植で、二箇所とも、孰れも「姥貝」とするのが正しいのである! 私も色々な誤植を見てきたが、これほど致命的なミスは、全く以って初体験である!!! 『河原田!――レッド・カード!!!』』なのである!!!

 

   蛭貝《うばかひ》[やぶちゃん注:「姥貝《うばかひ》」の誤記。]

蛭貝(うばかひ)[やぶちゃん注:「姥貝(うばかひ)」の誤記。]は【九州の「うバかひ」といふハ、「汐吹貝《しほふきがひ》」にて、是と、異《ことな》る。】、一《ひとつ》に、「ほつきかひ」とも、いひて、東海、及び、北海道の各地に產するものにて、從來、これを、乾製して、販賣するものなるか[やぶちゃん注:ママ。「が」。]、近年、折々、淸國に輸出すること、あり。古(いに)しへ、常陸國には、此もの、なかりしに、水戶黃門の移殖(うつしふや)せしめられたること、「西山遺事(せいさんいじ[やぶちゃん注:ママ。「せいざんいじ」が正しい。])」に見えたり。又、上總(かつさ[やぶちゃん注:ママ。])九十九里にて、數年前(すねんぜん)に、多額の收獲ありしも、其後(そののち)、大(おほい)に減少して、此一兩年、再(ふたヽ)ひ[やぶちゃん注:ママ。]、又、增殖せり、といふ。乾製法は、殼を放(はな)して、竹串(たけくし)を貫(つらぬ)き、糸(いと)にて、簀(す)を編む如く、くヽりて、太陽に乾燥すること、六、七日、能(よ)く乾きたるを、貯ふべし。

[やぶちゃん注:これは、

異歯亜綱バカガイ科ウバガイ属ウバガイ Pseudocardium sachalinense

である。現行では、漢字表記は本説の冒頭に出た通り、「姥貝」である。但し、私のような貝類愛好家でものなければ、この和名学名は判らない。しかし、大抵の一人は、知っているのだ。但し――「ホッキガイ」――という異名で――である。例によって、小学館「日本大百科全書」の奥谷喬司先生の記事を、まず、引く。『通称をホッキガイ(北寄貝)という。常磐』『地方以北の太平洋側、オホーツク海、日本海北部などの、外洋に面した浅海の砂底にすむ。殻長95ミリメートル、殻高75ミリメートル、殻幅45ミリメートルに達する卵形で、殻は厚くて重い。殻表は灰黄色で、その上に厚い藁』『色の殻皮をかぶっている。殻皮は、殻頂から後腹端にかけての線上で両側からあわさるため』、『稜(りょう)状となる。殻頂下には厚く大きい鉸歯(こうし)と弾帯がある。弾帯は大きい三角形の弾帯受けというくぼみにはまっている。軟体はバカガイに似るが、色は』、『まったく異なり、足は紫灰色である。美味なため、刺身や酢の物として生食されるほか、干物、缶詰となる。産卵期は6~8月、殻は5年で長さ70ミリメートル、10年で83ミリメートル、20年でようやく94ミリメートルに達する。30年以上長生きする個体もあるといわれる』。次いで、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページから部分引用する。『殻長15cm、殻高12cm、重さ600gを超える。黒っぽい殻皮があり、膨らみが非常に高く三角お握り型。前後の側歯は強く大きい。[14cm SL』(Standard Length:標準体長)『・600g]』。「漢字・学名由来」の項。『漢字 姥貝、雨波』。「由来・語源」は 武蔵石寿の『「目八譜」から。「ウバガイ」は』、『もとは福島から銚子当たりまでの呼び名』で、『石寿は明らかに千葉県から福島県、茨城県水戸市あたりの個体を見て名付けたのだと考えられる。貝殻が薄汚れて見え、姥(老婆)を思わせるため』である。但し、明治・大正時代の貝類学者『岩川友太郎はホッキガイとしている。アイヌ語のポキセイ』(下方の「歴史・ことわざ・雑学など」で、『母恋』を漢字表記され、『北海道室蘭市。駅名にもある。アイヌの語「ポクセイ・オ・イ」。ホッキガイ(ウバガイ)がたくさんとれるところ、という意味から』とある。)『からとったもので、こちらの方が流通上も小売店などでも一般的である』とある。最後に当該ウィキを引く(注記記号はカットした。ここでは不要と考えた項目は、指示なくして省略した)、『標準和名はウバガイであるが、水産上の名称はホッキガイ(北寄貝)である。単にホッキともいう。アイヌ語ではポクセイ、ツウツウレップ、ニシホッケなどの呼び名がある。季語、三冬』。『鹿島灘(および富山県)以北から北海道にかけて、朝鮮半島北部から沿海地方、さらに千島列島やサハリン沿岸に分布する』。『殻は三角形に近い卵形である。殻表は稚貝では白色、幼貝では黄色、成貝では黄褐色あるいは黒褐色の殻皮に覆われる』。『幼貝のうちは、同科のシオフキ』(バカガイ科バカガイ属シオフキMactra veneriformis 前記事を見られたい))『に似るが、これは内湾性で生息環境から区別できる。一方、ヒメバカガイ(学名:  Mactra crossei )は成貝では全く異なるが、1 cm以下の幼貝は区別が難しい』。『殻頂に残る初期稚貝の殻を高倍率で観察すると、全く色彩のないものがウバガイで、褐色から帯紅色が点状に見られるのがヒメバカガイ』である。『同科のミルクイ』(バカガイ科オオトリガイ(鳳貝・大鳥貝)亜科ミルクイ(海松食・水松食)属ミルクイ Tresus keenae )『にも似るが、殻長や水管、殻の後端の隙間が』、『それほど大きくなく、殻を閉じると完全に内部に収納され、ほとんど隙間がなくなる点で区別が可能』である。『潮間帯から水深20mにかけての細砂底に棲息する。5月下旬から8月中旬に産卵期を迎える。ふ化した幼生は20 - 30日間の浮遊期をプランクトンとして過ごしたのち、成貝の生息域よりやや深い場所に着底する。その後』、『1歳にかけて成貝の生息域に移る。漁獲対象(7 - 8 cm)になるまで4 - 6年を要する。また、寿命は30年以上に達する』。『主に底曳網の一種の桁曳網で漁獲され』、現在では『水を海底に噴射して掘り起こしながら』、『網で捕獲する』。『地域によっては、稚貝の放流による増殖や大きさによる漁獲制限による保護が行われる(例:青森県では7 cm以下のウバガイは漁獲禁止)。苫小牧では、ウバガイの生育上競合関係となるハスノハカシパン』(棘皮動物門ウニ綱タコノマクラ目ヨウミャクカシパン科ハスノハカシパン属ハスノハカシパン Scaphechinus mirabilis 。私の『毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 海盤車 / ハスノハカシパン』を見られたい)『の駆除も試みられている』。『活貝の殻付き流通が多いが、鮮度の良い殻付きホッキガイをむく作業は』、『慣れない人には容易でない』。『そのため』、『殻付きのまま貝重量の10倍量の湯で』、『2分間』、『ボイルし、冷却後殻をむく方法が推奨されている』。『なお、日本国内で流通する冷凍品の場合、その大部分は』。『カナダ東岸産の近縁種のナガウバガイ』(長姥貝:バカガイ科ナガウバガイ属ナガウバガイ Mactromeris polynyma )『のボイル加工品である』とある。

『九州の「うバかひ」といふハ、「汐吹貝《しほふきがひ》」にて、是と、異《ことな》る。』、「汐吹貝」は、前項の斧足綱異歯亜綱バカガイ科バカガイ属シオフキあるが、幾ら調べても、九州広域で、シオフキが「ウバガイ」と呼ばれている事実が見当らない但し、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のシオフキのページの「地方名・市場名」で見たところでは、「ババアガイ」があるものの、これは『静岡県浜松市・浜名湖』でダメ、「ジージ」があるが、『愛知県知多郡』でアウトであった。一件だけ、「バーガイ」が『福岡県有明海』で一致するように見えるが、そもそも、この「バーガイ」は「ババアガイ」と言うより、「バカガイ」の変形であるとする方が、しっくりくるから、違うと見た。そこで、九州で「ウバガイ」と呼ばれている種を調べてみると、まさに「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のバカガイのページの異名に、「ウバガイ」があり、そこは、まさに『熊本県熊本市 九州中央魚類』とあり、その下の『文献より』とする多数の異名を並べた中にも『ウバガイ』があった。されば、

ここで言っているのは、「シオフキ」ではなく、「バカガイ」(バカガイ属バカガイ Mactra chinensis )の九州での異名とすべきもの

であろうと私は思うものである。

「西山遺事」水戸藩二代藩主徳川光圀の言行録。光圀に仕えた三木之幹・宮田清貞・牧野和高の三人が,光圀の没した翌元禄一四(一七〇一)年に編集した。全五巻。一名「桃源遺事」。逸話を豊富に盛り込んでいるだけでなく、本書だけが伝える事跡も多く,光圀の伝記史料として、すこぶる価値が高い。和文で書かれているため、光圀の伝記中では、最も広く流布し、後世の光圀像の形成に大きな影響を及ぼした点でも重要である。以上は、所持する平凡社「改訂新版 世界大百科事典」に拠った。

 最後に附記すると、河原田氏が誤った「蛭貝」であるが、探してみても、漢字表記の「蛭貝」は見当たらない。国立国会図書館デジタルコレクションでも、本書、及び、それと関係の深い同時期の海産物関連のデータでしか、ヒットせず、後者は、本書の誤記を無批判に用いた記述としか思われず、その実体を見出すことが出来なかった。しかし、GoogleAIは、確信犯で、「蛭貝」の表記を出していた。ここのところ、複数のプロジェクトに就いて頻繁に会話をしている関係上、『これは、AIの誤認ではないぞ!』と直感的に感応したことから、テッテ的に調べてみた。最も信頼出来るのは、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の『「ヒルガイ」の呼び名検索結果』で、

○「イガイ」=イガイ(貽貝)目イガイ科イガイ属イガイ Mytilus coruscus 一件)

○「エゾイガイ」=イガイ属エゾイガイ(蝦夷貽貝)Mytilus (Crenomytilus) grayanus (二件)(同種は「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページの「生息域」に『東北から北海道の水深50メートルまでの岩礁域』とする)

○「エゾヒバリガイ」=イガイ科ヒバリガイ(雲雀貝)亜科ヒバリガイ属エゾヒバリガイ(蝦夷雲雀貝)Modiolus kurilensis (一件)

○「ミルクイ」=バカガイ科オオトリガイ(鳳貝・大鳥貝)亜科ミルクイ(海松食・水松食)属ミルクイ Tresus keenae (一件)

とあった。一方、正直、気持ち悪いニュアンスのある「ひる貝」「ひるがい」「ヒルガイ」の孰れかでヒットする記事のうち、信頼出来るものを掲げると、

●「文化庁」公式サイト内「100年フードデータベース」の「ひる貝カレー」PDF)で、「主な伝統地域」を『北海道日本海沿岸地域・余市町』(ここ)とし、解説で、『余市町では昔から沿岸で良く獲れるひる貝(和名:イガイ)をカレーに入れて食べていました。昔は「肉は高いから代わりにひる貝を入れて食べた」と言われていたようですが、実際にひる貝の出汁の味は他の貝に比べても強く、カレールーに負けない印象的なうま味を残すのでとても美味しいシーフードカレーとして食べられるようになりました。そのようにして、ひる貝カレーは単なる肉の代用品ではなく、ひる貝自体を楽しむ家庭の味として愛され続け現在に至っています。』とする。「食材」でも『ひる貝(和名:イガイ)』とし、これは、イガイ Mytilus coruscus としか思えないのであるが、文化庁には悪いが、★これが、エゾイガイ(蝦夷貽貝)Mytilus (Crenomytilus) grayanus でないとは、私には思えないのである。例えば、サイト「手稲」(ていね)「燻製工房&ボーイスカウト札幌第22団」の「ムール貝」の燻製過程(写真附)の冒頭で、筆者は『日本名は「い貝」、むらさきい貝を「ムール貝」と呼んでいるようです。日本全国で採取されるようで、外洋に面した内湾の潮間帯から水深10m位までの岩礁や岸壁などに、強い足糸でびっしりと付着しています。三重県などでは養殖も行われています』。『北海道では「ひる貝(えぞい貝)」と呼ばれています。』とあった。この筆者は、「イガイ=ムール貝=エゾイガイ」と認識しておられるが、この三つの記載、全く異なるものである。「ムール貝」は、タクソンであるイガイ科Mytilidaeの二枚貝全体を指す。同科は世界中の温帯海域の低潮間帯及び中潮間帯に棲息する海洋性ムールガイが主体であるが、淡水性のムールガイもいる英文ウィキの「Musselを見よ)。なお、ウィキの「ひる貝カレー」があるが、そこでも『ヒル貝(イガイ)を入れたカレーライスである』と記している。これも、全く同様の疑義がある。

●個人サイト「ましけコラム」(「ましけ」は増毛町。ここ)で、『バーベキューの準備をしていたところ漁業者が持ってきてくれたのは、ひる貝』。『正式には、エゾイガイ。ひる貝という呼び名もイメージが良くありませんね』。『北海ムール貝など名称を変えることともっと一般的に食されることが必要だと思っています』とあり、この方が、明らかに「蛭貝」と認識していることが明らかである。

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